31話:ミッドガル防衛戦②
ゴーレムに光が灯る。数は三千体を超える。身長は二・一メートル。外骨格は黒灰色のチタン・セラミック複合材で覆われ、マット仕上げが光を吸収する。
頭部は鋭角的なヘルメット形状で、青色光学センサーが点灯していた。髪状繊維束は風に揺れ、電磁場を計測する。
右上肢は爪状エンドエフェクターで、左下肢は尾状延長部へ移行し、終端に刃状プロトゥーバランスを備える。
青色ライニングが筋肉模倣の経路を走り、エネルギー伝導を示す。
『世界封鎖機構汎用輸送型航空戦闘空母底部ハッチ開放! ケーブル降下開始! 三千体全機確認! 風速八メートル、降下誤差ゼロ! 敵影なし!』
着地と同時に、ゴーレムは四方へ散開した。
瓦礫の山は、かつてのミッドガル帝国中央塔の残骸だった。
ミッドガルの中央部にあった現造物は基部は直径百メートルのコンクリート塊となり、周囲に八本のメインストリートが放射状に崩れ落ちている。
石材は粉砕され、鉄骨がねじ曲がって露出していた。
『司令部! 着地完了! 外周千体配置完了! 内部二千体侵入開始! 瓦礫除去作業開始! 時間厳守! 敵襲警報なし!』
先頭の一体が瓦礫を爪で掴み、持ち上げた。質量は推定三トン。尾部刃で鉄骨を切断し、瓦礫を整地する。
後続が並行して作業を開始。
千体が外周を囲み、残りが内部へ侵入する。
外周部隊は瓦礫を運び出し、平坦面を形成。内部部隊は鉄骨を溶接し、骨組みを組み上げる。
『瓦礫除去率20%! 外周整地進行中! 内部鉄骨溶接開始! 溶接温度三千度確認! 異常なし! 時間切迫!』
『外周整地率50%! 瓦礫運搬量五千トン突破! 平坦面形成中! 崩落リスクエリア回避! 敵機動部隊接近なし!』
突然、赤い警報が鳴り響いた。外周の北西、崩落したメインストリート跡からロイヤルダークソサエティのダークソルジャー部隊が現れた。
機体数は三十。重装甲型、身長五メートル。両腕にプラズマキャノン、背部にミサイルランチャー。
『敵襲! ロイヤルダークソサエティのダークソルジャー部隊三十機、北西より接近! 距離二キロ! 即時迎撃態勢!』
ゴーレム五百体が即座に戦闘モードへ移行。青色ライニングが赤へ変色。右上肢の爪が展開し、長さ一メートルのプラズマ刃へ変形。
尾部刃が振動開始、周波数毎秒一万回へ達する。
『戦闘型ゴーレム五百体展開! プラズマ刃起動! 尾部振動刃稼働! 迎撃開始!』
ロイヤルダークソサエティのダークソルジャー部隊がプラズマキャノンを発射。青白いビームが直径一メートル、岩盤を溶かす。最初の十体が直撃を受け、装甲が溶け、青色ライニングが爆発。しかし残存四百九十体は散開し、時速百キロで突進。
『被害十体! 残存四百九十体突進! 敵プラズマキャノン射程内! 回避行動!』
ゴーレムは尾部刃で地面を蹴り、跳躍。高さ十五メートル。空中で右上肢のプラズマ刃を振り下ろし、ダークソルジャー一体の頭部を両断。装甲が裂け、内部回路が露出。火花が散り、機体が倒れる。
『敵一体撃破! プラズマ刃有効! 尾部刃で装甲貫通確認!』
ダークソルジャー部隊がミサイルランチャー発射。弾頭は百発、空中で分裂し、千発の小型爆弾へ。
ゴーレムは髪状繊維束で電磁場を感知、爆発位置を予測。爆発半径五メートル内に回避移動。爆風で瓦礫が舞うが、被害は三体。
『ミサイル回避成功! 被害三体! 残存四百八十七体! 距離五百メートル! 接近戦移行!』
ゴーレムは岩盤を蹴り、時速二百キロで突進。尾部刃を振り回し、ダークソルジャーの脚部を切断。機体が傾き、プラズマキャノンが空へ向かう。ゴーレムは右上肢で胸部装甲を貫通。内部のモンスターコアを破壊。爆発が連鎖し、周囲の三機が巻き込まれる。
『敵五機撃破! 連鎖爆発確認! 残存二十五機! 戦況優勢!』
残るダークソルジャーが後退しつつ、プラズマキャノン連射。ゴーレムは尾部刃でビームを弾き、跳躍で接近。距離十メートル。プラズマ刃で装甲を縦に裂き、尾部刃でコアを貫く。二十五機が次々に倒れ、黒煙が立ち上る。
『敵全機撃破! 戦闘終了! ゴーレム残存四百八十五体! 作業再開!』
三時間後、外周に五角形の基盤が完成した。辺の長さは三百メートル。基盤はコンクリートと鉄骨で固められ、表面はゴーレムの尾部刃で平滑に削られた。
基盤中央に、五本の主柱が垂直に立てられる。高さは五十メートル。柱間は鉄骨トラスで連結され、屋根枠を形成する。
『五角形基盤完成! 辺長三百メートル厳守! 主柱五本垂直設置完了! 高さ五十メートル! トラス連結開始! 耐震補強進行中! 敵影なし!』
『基盤表面平滑度誤差±5mm以内! 主柱垂直誤差0.1度! 屋根枠形成率30%! 構造安定! 時間残り九時間!』
六時間後、壁面が立ち上がった。厚さは二メートル。外壁は瓦礫から回収した石材を積層し、内側に鉄骨補強を施す。壁面には射撃用のスリットが等間隔で開口され、幅は三十センチ。屋根は鉄骨トラス上に鋼板を敷き詰め、固定する。
『壁面構築率70%! 厚さ二メートル確認! 石材積層完了! 鉄骨補強進行中! 耐弾性確保! 敵偵察機接近なし!』
『射撃スリット設置完了! 間隔十メートル、幅三十センチ! 屋根鋼板敷設率50%! 固定ボルトトルク規定値! 構造強度100%! 時間残り六時間!』
十二時間後、内部区画が分割された。中央に直径百メートルの円形広場。広場周囲に五つの棟が配置される。
各棟は長さ百メートル、幅五十メートル。棟間は通路で接続され、幅は十メートル。通路には鉄骨ゲートが設置され、開閉機構を備える。
『内部区画分割完了! 中央広場直径百メートル! 五棟配置完了! 通路幅十メートル! ゲート開閉機構テスト正常! 防衛ライン確立! 時間残り十二時間!』
『棟間通路ゲート耐荷重試験終了! 最大負荷五十トン耐久確認! 緊急封鎖対応可能! 敵部隊接近なし!』
二十四時間後、仕上げ作業に移行した。ゴーレムは外壁に迷彩塗料を塗布。塗料は黒灰色で、周囲の瓦礫と同化する。
屋根には電波吸収材を貼り付け、レーダー反射を低減。内部には電源ケーブルが敷設され、モンスターコア発電機が設置される。
発電機は直径二メートルの円筒で、青色ライニングが点灯し、稼働を開始する。
『迷彩塗布完了! 塗料厚さ0.5mm、乾燥時間十分! 電波吸収材貼り付け率100%! レーダー反射率0.8%以下! 完全ステルス! 時間残り一時間!』
『電源ケーブル敷設完了! 全長五キロメートル! 絶縁抵抗試験合格! モンスターコア発電機五基設置! 出力安定! 青色ライニング点灯確認! 最終チェック開始!』
『発電機稼働率100%! 基地全域電源供給開始! 照明・換気システムオンライン! 生命維持機能完全! 最終フェーズ突入!』
前線基地は完成した。
五角形の外壁、内部五棟、中央広場。構造はアメリカのペンタゴンを模倣し、規模は縮小版。 瓦礫の山は消え、軍事基地が残った。
ゴーレムは整列し、青色光学センサーを点灯させたまま、待機状態に入る。
『全ゴーレム整列完了! 待機態勢移行! エネルギー残量98%以上! 即応可能! 敵襲警報なし!』
『ペンタゴン基地完全機能! 防衛システム待機! 外部脅威スキャン開始! 異常なし! 戦闘準備完了! 最終確認!』
『ペンタゴン基地完成! 全作業終了! 世界封鎖機構汎用輸送型航空戦闘空母、退去開始! 高度一万メートルへ上昇中! 作戦区域離脱! 任務完了!』
世界封鎖機構汎用輸送型航空戦闘空母は高度を上げ、雲の上へ退去した。
ラスティは岩盤を蹴り、崩落した壁面を跳躍で越える。
「さぁ、狩りの始まりだ」
五十メートル先、ロイヤルダークソサエティの人類狩り部隊が展開していた。輸送しているカプセルの表面に凍結液が張り付いている。
周囲を囲むのはダークソルジャー部隊。
機体数は六体。両手にガトリング砲、両肩に分裂ミサイルランチャー。装甲は黒灰色で、頭部に赤色光学センサーが点灯。
ラスティは岩盤を蹴り、崩落地帯を疾走した。足裏に伝わる振動は、地面が砕ける微細な音だった。
頭部センサーは赤色単眼で、ラスティを捕捉。
シャルトルーズの声が途切れなく流れる。
『敵部隊戦闘態勢移行。ガトリング回転開始。ミサイルロックオンされてます。三秒後にミサイルが到達します』
ラスティは魔力の聖剣を抜いた。剣身に雷霆が奔り、青白い放電が空気を焦がす。距離百メートル。最初の二体が射撃開始。
ガトリングが回転、毎分六千発の12.7mm徹甲弾が火線を引く。
弾道は直線、間隔は十センチ。ラスティは剣を横薙ぎ。雷の障壁が展開、直径五メートルの半円。 弾丸は障壁に衝突し、火花と溶けた鉛が散る。
障壁表面に亀裂が入るが、雷が補修。同時、残る四体がミサイル発射。
肩部ポッドから弾頭が飛び出し、空中で十二分割。各機体二十四発、合計九十六発。弾頭は赤色トレーサー付きで、螺旋軌道を描く。
「なるほど、合理的だ」
ラスティは障壁を維持しつつ前進。距離五十メートル。ミサイルが障壁に到達。爆発は連続、衝撃波が岩盤を削る。
障壁が崩壊。ラスティは剣を振り上げ、雷の渦を生成。直径十メートルの竜巻状放電。残存ミサイルが渦に吸い込まれ、自爆。
爆風がラスティのマントをはためかせる。最初の二体のガトリングが再回転。ラスティは岩盤を蹴り、跳躍。高さ十メートル。
空中で剣を逆手に持ち、雷を集中。着地と同時に一体目へ突進。
『距離十メートル』
ガトリングが至近距離で連射。ラスティは剣を突き出し、雷を剣先から放出。青白い雷が機体胸部を貫通。装甲が溶け、内部回路が露出。火花が飛び、機体が硬直。
二体目が横からガトリングを掃射。ラスティは雷の残滓を盾にし、弾丸を逸らす。
『距離五メートルです』
剣を振り下ろし、雷の刃が機体右腕を切断。ガトリングが地面に落ち、回転を止める。続けて剣を突き、雷を頭部センサーに注入。
赤色単眼が爆発し、機体が倒れる。
残る四体が後退しつつ射撃。三体目がミサイル四発発射。ラスティは剣を回転させ、雷の渦を再生成。ミサイルが渦に吸い込まれ、爆発。
四体目がガトリング連射。弾丸が渦の外周を削る。ラスティは渦を投擲。雷の渦が二十メートル移動し、三体目を直撃。装甲が剥がれ、内部が焼ける。
『距離三十メートル。敵機体がミサイルとガトリングを同時発射しています。回避してください』
「了解」
ラスティは岩盤を蹴り、側転。弾丸が岩盤を削り、ミサイルが着地地点で爆発。衝撃波でラスティが浮く。
空中で剣を構え、雷を剣身全体に纏う。着地と同時に四体目へ突進。距離十メートル。ガトリングが至近射撃。
ラスティは雷を剣先から延伸。雷の槍が二十メートル伸び、四体目の胸部を貫通。機体が爆発。残る二体が並走し、ミサイル八発とガトリング連射。
ラスティは剣を振り、雷の壁を展開。高さ十メートル、幅十五メートル。弾丸とミサイルが壁に衝突。壁が崩れかけるが、ラスティは剣を地面に突き刺し、雷を岩盤に流す。
岩盤が導体となり、雷が二体へ伝播。装甲が溶け、回路が焼け、二体が同時停止。
『報告。周囲に敵影無し。センサーもダークソルジャーの反応はありません。戦闘終了です。所要時間四分十二秒でした。さすがですマスター』
「シャルトルーズの情報処理があればこそ、だよ」
六体のダークソルジャーは全機破壊。残骸は黒煙を上げ、装甲片が岩盤に散乱。ラスティは息を整え、カプセルへ向かった。
シャルトルーズが言う。
『敵勢力接近中』
「了解した」
聖剣を振るう。雷の斬撃砲撃が発射された。
ラスティは崩落地帯の瓦礫を踏みしめ、足元でコンクリート片が砕けた。
視界には、かつてのミッドガル帝国の残骸が広がる。中央塔の基部は直径百メートルの瓦礫の山となり、鉄骨がねじ曲がって突き出ていた。瓦礫の下からは、人々の腕や足が露出。
指先は動かず、血が乾いて黒く変色していた。五十メートル先、崩れた住宅街の跡。壁面が倒れ、内部にいた人々が押し潰されている。
子供の胴体が半分埋まり、頭部だけが露出。目は開いたまま、口から血が流れていた。隣では大人の女性が瓦礫に挟まれ、片腕を失い、残った手で地面を掻く。叫び声は途切れ、喉が潰れたような嗄れ声に変わる。
「生存者がいる。ゴーレムはどうだ? あれなら救助も迅速だろう」
『……ゴーレムは現在、セーフエリアのペンタゴン基地を中心に活動していますが、負傷者が多く治療が優先されています。それに加えてロイヤルダークソサエティの人類狩り部隊と衝突し、リソース不足です』
「それだと数が足りなくても無理はないか。それにロイヤルダークソサエティの人類狩り部隊がいるならば無理もない」
『感想。こんな地獄のような光景を作ったロイヤルダークソサエティを許せない人は多いでしょう』
百メートル先、暴れる男と殴られている男がいた。殴られている男の作業服にはロイヤルダークソサエティのロゴがあり、この事態を引き起こした元凶の一人だと扱われていた。
殴られている男は瓦礫をどかし、埋まった家族を探す作業服の男の背中に向けて、叫びながら鉄骨を突き刺していた。
別の場所では、少女が膝を抱え、泣き叫ぶ。声は次第に小さくなるが震えが止まらない。
ロイヤルダークソサエティのダークソルジャー部隊が展開していた。
機体数は二十。身長三メートル、灰色装甲。右腕はスタンガン、左腕は把持クランプ。機体は負傷者を捕捉し、スタンガンで気絶させる。
電撃が青白く閃き、少女や男が倒れる。クランプで体を掴み、多目的コンテナへ放り込む。コンテナは長さ十メートル、幅五メートル。
内部は仕切りなし、負傷者が積み重なる。
コンテナはケーブルで吊り上げられて、どこかへ運ばれようとしている。
ラスティは聖剣を抜いた。雷霆が剣身を走る。
『支援。近くのゴーレムを随行させます。数は十体』
ゴーレムの青色ライニングが点灯。
ラスティは最初の一体へ突進。距離二十メートル。ダークソルジャーがスタンガンを構える。 ラスティは剣を振り、雷の刃を放つ。刃は十メートル延伸し、機体を両断。装甲が裂け、火花が散る。
二体目がコンテナを吊り上げようとする。 ラスティは岩盤を蹴り、跳躍。
高さ十五メートル。剣を逆手に持ち、雷を集中。着地と同時に剣を突き、雷が機体頭部を貫通。単眼センサーが爆発し、機体が倒れる。
コンテナが地面に落下、負傷者が転がり出る。ゴーレムが展開し、治療モードに移行。負傷者の傷口にナノマシンを注入。出血が止まり、骨折部が固定される。
『ゴーレムを撤退モードに切り替えて、中継陣地を構築させ、最終的にセーフエリアへ誘導します』
中継陣地は瓦礫を除去した平坦地、直径五十メートル。鉄骨で柵を組み、周囲にモンスターコア発電機を設置し、最低限の居住地状況と自己防御システムを稼働させる。
ラスティは残るダークソルジャーを破壊。
ガトリング装備の三体が射撃開始。弾丸が岩盤を削る。ラスティは雷の障壁を展開した。
弾丸が障壁に衝突し、溶ける。四体目がミサイル発射。ラスティは剣を回転、雷の渦を生成。ミサイルが渦に吸い込まれ、自爆。衝撃波で瓦礫が舞う。
平和を脅かすダンジョン。
人類を狩るロイヤルダークソサエティ。
それらを破壊する。
ラスティはセーフエリアの柵を点検していた。直径五十メートルの平坦地、周囲に鉄骨柵が二重に立てられ、モンスターコア発電機が青白く稼働。負傷者が横たわり、ゴーレムが傷口にナノマシンを注入する。
空気は血と焦土の臭いで重い。前方百メートル、岩盤の隙間からロイヤルダークソサエティのダークソルジャーが現れた。
機体は軽量二脚型、身長四メートル。灰色装甲に赤いライン。左手にパルスブレードとハンドガンを二丁携行、両肩に四連ミサイルポッド。
頭部センサーが緑色に点灯。
拡声器から声が響く。
「やっほー、新しい玩具で登場だよ」
「トリスタンか……! この忙しい時に」
シャルトルーズの声が流れる。
『報告。敵のトリスタンが装備するダークソルジャーは軽量二脚型です。左手にパルスブレードとハンドガン、4連ミサイルを両肩に装備しています』
ラスティは剣身に雷霆を纏う。
「高機動型で翻弄しつつ、ミサイルとハンドガンでダメージを蓄積し、ブレードで始末する気かな」
『肯定。高機動をするために軽量にしているため耐久力と防御力は低いです』
「推奨する戦法は?」
『提案。被弾前提のカウンターや、超高速で接近して一撃必殺。あるいは遠距離から躱しきれない範囲で高出力攻撃です』
「愚策は、ちまちま戦うことか。了解した」
トリスタンの操るダークソルジャーが二脚を曲げ、ブースター噴射。速度時速百キロで突進。両肩ポッドが開き、四連ミサイル八発を発射。弾頭は赤色トレーサー付き、直線軌道。
ラスティは岩盤を蹴り、左へ側転。ミサイルが着弾地点で爆発、衝撃波が土煙を上げる。距離五十メートル。 トリスタンのダークソルジャーが旋回し、ハンドガンを連射。
9mm弾が毎秒五十発、火線を引く。
ラスティは剣を構え、雷の障壁を展開。直径三メートル。弾丸が障壁に衝突し、溶けた鉛が滴る。障壁に亀裂が入る。
トリスタンのダークソルジャーが接近、左手のブレードを展開。刃長二メートル、青白いパルスが周囲を切断。距離十メートル。ラスティは障壁を解除、超高速で前進。
ブースター音が空気を裂く。
トリスタンのブレードが振り下ろされる。ラスティは剣を横に払い、雷を剣身に纏う。刃同士が激突、パルスと雷が爆発。
「ははっ、派手派手」
「楽しそうだな」
「楽しいよ、祭りじゃん。楽しんでいこうぜぇぇ!! お兄ちゃん!!」
衝撃でトリスタンの左腕装甲が剥がれ、ハンドガンが地面に落ちる。トリスタンは後退し、ミサイル再発射。四発が弧を描く。
ラスティは跳躍、高さ八メートル。空中で剣を回転、雷の渦を生成。直径五メートル。ミサイルが渦に吸い込まれ、自爆。爆風でラスティが着地を早める。
トリスタンがブースター全開、横移動で翻弄。速度時速百五十キロ。残ったハンドガンを片手で連射。 ラスティは雷を足元に放ち、岩盤を導体化。電流が地面を伝い、トリスタンの二脚を直撃。関節部が焼け、機体が傾く。
距離五メートル。
ラスティは一閃。聖剣から雷の剣先が二十メートル延伸、トリスタンの胸部装甲を貫通。内部回路が露出、火花が散る。
頭部センサーが緑から色を失う。機体が倒れる。ブースターが爆発、黒煙が上がった。
「あー、壊れちゃったか。残念。もう終わりかな。さよなら〜」
ダークソルジャーが壊れるとトリスタンは姿を鳥に変えて逃げていく。
戦闘終了。所要時間二十八秒。ラスティは剣を収め、端末に報告。
ミッドガル帝国の世界最大の都市は、今や完全に死んだ。空を覆っていた巨大な底板──オラリオの街そのものが載っていたコンクリートと鉄の天蓋は、巨大な爪で引き裂かれたように崩落し、無数の鉄骨が逆さの槍となって地を刺している。
そこに射す光は、赤い魔粒子の結晶が放つ不気味な燐光だけだ。空気は血と焦げた肉、そして溶けた金属の臭いで満たされ、息をするたびに肺が焼けるような痛みを覚える。
ラスティは、崩れた残骸が積み重なった丘の頂に立っていた。青いマントの裾が、魔粒子の風にゆっくりと靡く。
聖剣の柄に置いた右手は、まだ震えていない。
だが、彼の瞳は、怒りと哀しみで静かに燃えていた。
「……これが、ロイヤルダークソサエティのやったことか」
声は低く、掠れていた。
それは単なる怒りではない。
これまで見てきた全ての惨劇──焼け落ちた街、踏み潰された命、奪われた未来──それら全てが、今ここに凝縮されている。
風が、血の臭いを運んできた。ラスティは一歩踏み出す。瓦礫の下から伸びる小さな手を、彼は決して見逃さない。その手を取るために。
この地獄を終わらせるために。
彼は、再び走り出した。雷を纏った青い影が、赤い廃墟を切り裂いて進む。まだ、終わらない。まだ、救うべき命がある。だから、ラスティは走る。
誰よりも速く。
誰よりも強く。この崩壊した世界で、希望の欠片を掴むために。