二章:エピローグ②
ラスティは基本的に無能である。
優秀な人間の数百倍の経験と努力を積み重ねて、他の人間と同じようなステータスを維持している。
多くの人間は『面倒くさい』『明日やろう』『辛いのは嫌だ』と投げ出してしまうところを、誠実にコツコツとやっている。
だからこそ、当然のごとく『勝てる側』にいる。
人間はだいたい総合力勝負だ。
自分の能力を鍛え上げて、練り上げて、更にそこに運が絡み合ったところで勝利できる。そして今度は勝利した者同士での戦いが待っている。
勝利からは逃れられない。
困難に対して何とか勝利しても、また次から新たな困難がやってくる。更に難易度はアップしていてどうしようもない。それに勝たなければ今まで頑張ったものが無駄となってしまうから、立ち向かわないわけにはいかない。
「少し、疲れたな」
「あら、なら私と一緒に休憩しましょう」
エクシアがやってきて、隣に座る。
「随分、疲れた顔しているわね。どうしたの?」
「やることが多いなって」
「それは……そうね」
「私は凡人だからさ、こういうの向いてないなって思った」
「貴方が凡人? 嘘でしょう? 現実改変を使えるじゃない」
「地道にコツコツやるのはできるし、難題に対して立ち向かうのも得意だ。だけど、全体像が見えない中で、どう頑張れば良いか整理するのはすごい苦手だ。わけが分からなくなる」
ラスティは、自分のことを極端な人間であると考えている。何か問題が起きていたり、何かの能力が足りないのならば準備と計画を立てて、あとは完遂に向かって飛翔する。
それならば得意だし、やってきたことだ。
できる確信がある。しかし問題を見つける探知能力は低い。だからこそエクシア達を頼っているわけではあるのだが。
「なら、そこは私たちが支えるわ。人間は一人でできることは限られている。だからこそ私たちが貴方を助けて、貴方も私たちを助けて欲しいの。悪い人間に狙われている私たちを守ってほしい」
「ああ、そうしよう。私は君たちを守る。この全霊を持って守護しよう」
「ありがとう。なら、貴方にはお礼をしなくちゃね」
アルファはラスティにキスをする。
◆
湯上がりの湿った空気が部屋に漂い、薄暗い照明がエクシアの姿を柔らかく照らしていた。彼女は白いタオルを首にかけ、濡れた髪から滴る水滴が床に小さく音を立てる。頬は湯気でほのかに赤く染まり、普段の鋭い眼差しはどこかぼんやりと霞んでいた。
その無防備な姿に、ラスティの心は激しく波打つ。見ているだけで胸が締め付けられ、息苦しくなるほどの衝動が込み上げる。
ラスティはソファに座ったまま、エクシアを凝視していた。視線が絡まるたび、心臓が喉元で跳ね、抑えきれぬ熱が体を駆け巡る。エクシアの濡れた髪が肩に貼りつき、タオルの隙間から覗く鎖骨があまりに鮮明で、触れたいという欲望が指先を震わせる。普段のエクシアは凛として近寄りがたく、どこか遠い存在に感じられるのに、今はあまりに柔らかく、壊れそうに儚い。
そのギャップがラスティの理性を溶かし、彼女を強く引き寄せる。
「エクシア」
声が漏れた瞬間、ラスティは自分の掠れた声に驚いた。低く甘く、まるで自分ではない誰かが囁いたかのようだ。彼女は立ち上がり、衝動に突き動かされるようにエクシアに近づく。足音が床に響き、静寂を破るたび、心の中で何かが弾ける。エクシアの瞳が揺れ、ラスティの動きを追うが、逃げようとはしない。
ただそこに佇む姿が、ラスティの胸を締め付け、疼かせる。
「ちょっとこっち来て」
ラスティは柔らかな笑みを浮かべ、祥子の手をそっと引いた。指先が触れた瞬間、湯上がりの温もりが伝わり、ラスティの心は一瞬で熱に包まれる。エクシアは戸惑ったように眉を寄せ、わずかに抵抗する素振りを見せるが、ラスティの穏やかで誘うような眼差しに引き込まれ、従う。ソファに腰を下ろした二人の距離が縮まるたび、ラスティの胸は甘い疼きと不安で満たされていく。
この距離が愛おしくもあり、壊してしまう恐怖もある。
「エクシア、お風呂上がりはなお綺麗だ」
ラスティは囁くように言うと、エクシアの濡れた髪に指を這わせた。冷たい水滴が指先に触れ、その感触が心地よくもあり、どこか切ない。エクシアの肩が小さく震え、恥ずかしそうに視線を逸らす姿に、ラスティの心は疼きを抑えきれなくなる。
彼女は愛おしさと独占欲に駆られ、もっと近づきたい、もっと感じたいと願う。
「そんな……大げさよ」
ラスティの呟きは小さく、普段の強気な彼女とは別人のように弱々しい。その声がラスティの心に刺さり、彼女をさらに煽る。ラスティはエクシアの隙を見逃さず、そっと顔を近づけた。鼻先が触れそうな距離で、彼女の吐息が甘くエクシアの肌に触れる。
エクシアの瞳が揺れ、戸惑いと好奇心が交錯するのを見て、ラスティの胸は期待と緊張で高鳴る。
「ねえ、ラスティ。私のこと、もっと感じて」
エクシアの手がラスティの頬に伸び、親指でそっと唇をなぞる。その柔らかさに心が震え、抑えきれぬ衝動が指先に宿る。ラスティの唇がわずかに震え、エクシアの触れる指に反応するたび、彼女の心は熱く締め付けられる。
エクシアはそのまま自分の指を差し出し、柔らかくも命令するような口調で続けた。
「舐めてみて。私の指……ラスティに感じてほしいから」
その言葉に、エクシアは一瞬固まった。瞳に浮かぶ戸惑いと羞恥が、エクシアの心をさらに掻き乱す。だが、ラスティの誘うような眼差しと甘い声に抗えず、ラスティはゆっくりと唇を開く。彼女の舌がラスティの指先に触れた瞬間、温かく湿った感触が初華を貫き、心が震えた。
エクシアの頬がさらに赤く染まり、恥じらいながらも従う姿に、ラスティは愛おしさと支配感が入り混じった感情に飲み込まれる。
指を優しく動かすたび、エクシアの息が乱れ、その小さな変化がラスティの心を狂わせる。彼女はエクシアの表情を逃さず見つめ、羞恥と戸惑いに染まる瞳に自分の存在を刻み込みたいと願う。二人の間に流れる空気は甘く濃密で、時間が溶けていくような錯覚に陥る。
湯上がりのエクシアの熱と、ラスティの誘う仕草が混ざり合い、静かな夜を二人だけの世界に変えていく。ラスティの心は満たされながらも、もっと欲しいという渇望に苛まれていた。
湯気で火照った頬は紅潮し、普段の鋭い眼差しは湿った睫毛に隠れて甘く霞んでいる。その姿はあまりに無防備で、禁断の果実のようにラスティの欲望を掻き立てる。
ラスティはソファに腰を沈めたまま、エクシアの姿に目を奪われていた。視線が絡むたび、彼女の喉が渇き、心臓が熱く脈打つ。エクシアの首筋を伝う水滴が光に反射し、まるで誘うように輝く。触れたい、味わいたいという衝動が指先を疼かせ、ラスティの息は浅く乱れる。
だが今、エクシアの瞳には冷ややかな光が宿り、ラスティを見下ろすその眼差しは、苛立ちと秘めた情熱が絡み合った危険な色を帯びていた。
「酷い人ね。ラスティ」
エクシアの声は低く響き、抑えた感情が言葉の端に鋭く滲む。
エクシアに翻弄された己への苛立ちと、彼女を支配したいという暗い欲望が、エクシアの胸を熱く締め付ける。
ラスティは息を呑み、エクシアの言葉に心が震えた。冷ややかな声に刺されながらも、その奥に潜む熱を感じ、彼女の体は期待に疼く。
ラスティが一歩近づくたび、エクシアの肌が敏感に反応し、首筋に滴る水滴が視界に焼き付いて離れない。そして次の瞬間、祥子が身を屈め、ラスティの首筋に顔を寄せたとき、時間が止まったかのように感じられた。
エクシアの吐息が初華の肌に触れ、熱く湿った空気が首筋を撫でる。そして、彼女の唇がそっと触れた瞬間、柔らかく熱い舌がラスティの肌を這った。
ラスティの体がびくりと跳ね、全身が電流に打たれたように震える。エクシアの舌はためらいがちに動きながらも、確かな意志を持って首筋をなぞり、濡れた髪の冷たさと火照った肌の熱が交錯する。
舌先が滑るたび、ラスティの喉から甘い吐息が漏れ、彼女の指がソファの布を掴んで締め付ける。
「……っ」
ラスティの声は掠れ、官能的な響きを帯びて部屋に溶けた。彼女の首筋を這うエクシアの舌は、ゆっくりと円を描き、熱い唾液が肌に残るたび、ラスティの体は熱く蕩ける。冷たい水滴とエクシアの舌の熱が混ざり合い、甘い疼きが彼女の全身を支配する。
目を閉じ、その感覚に溺れながらも、ラスティの心はエクシアの意図に翻弄され、理性が薄れていく。
エクシアの胸は激しく揺れていた。ラスティへの報復として始めた行為だったが、首筋に舌を這わせるたび、彼女自身の欲望が疼きを増す。ラスティの肌の滑らかさと微かな震えが舌先に伝わり、彼女を支配したいという衝動が熱い波となって体を駆け巡る。
唇を離した瞬間、エクシアはラスティの瞳を見下ろし、そこに映る動揺と淫靡な光に自分の心が絡め取られるのを感じた。
彼女の指がエクシアの顎を掴み、強引に顔を上げさせると、首筋に残る唾液の跡が照明に濡れて光る。
「……気分が良い」
ラスティは声は震え、自嘲と情欲が混じった笑みが唇に浮かぶ。彼女の吐息は熱く、ラスティの肌に触れるたび、二人の間に濃密な空気が渦巻く。初華は言葉を失い、ただエクシアの瞳を見つめ返す。
その視線の中で、欲望と感情が絡み合い、静かな夜を淫らで深いものへと変えていく。エクシアの舌が残した熱は冷めることなく、ラスティの首筋に刻まれた甘い痕跡として疼き続けていた。
湿った空気が、二人の間に濃密な熱を孕んでいた。エクシアは、首筋に残るラスティの唾液の熱をまだ感じながら、ラスティを見下ろしていた。
彼女の瞳には冷ややかな光と燃えるような情欲が交錯し、唇の端に微かな笑みが浮かんでいる。ラスティの首筋を這ったばかりの舌が残した甘い余韻が、エクシアの心をさらに掻き乱し、彼女を支配したいという衝動を抑えきれなくさせていた。
エクシアはゆっくりと身を進めた。彼女の手のラスティの肩に触れ、そのままソファに押し倒すように力を加える。ラスティの体が柔らかく沈み、背中がクッションに埋まる瞬間、彼女の息が小さく乱れた。
エクシアの動きは緩慢で、まるで獲物を味わう獣のように計算されている。ラスティの瞳が揺れ、驚きと抗えない感情が混じり合うが、逃げる術を知らない。
「エクシア?」
ラスティの声は掠れ、不安と期待が入り混じった響きを帯びていた。だが、エクシアは答えず、ただ冷たくも熱い眼差しでラスティを見据える。そして、彼女の膝がラスティの腰を跨ぎ、滑らかな足がラスティの太ももに絡みつくように動いた。エクシアの足が初華の体を押さえつけ、逃げられないようにしっかりと固定する。
その重みと熱がラスティの肌に伝わり、彼女の全身が微かに震えた。
ラスティの体がソファに沈むたび、エクシアの足がさらに深く食い込み、柔らかな肉と布の感触が交錯する。エクシアの手が無意識にラスティの腕を掴もうとするが、エクシアはそれを許さず、片手でラスティの両手首を掴んで頭上に押し付けた。彼女の指がラスティの肌に食い込み、痛みと熱が混じり合った感覚がラスティの神経を刺激する。
「私が良いと言うまで、逃げては駄目よ、ラスティ」
エクシアの声は低く甘く、命令と誘惑が絡み合った響きで初華の耳に流れ込む。唇がラスティの耳元に近づき、熱い吐息が首筋を撫でるたび、エクシアの体がびくりと反応する。エクシアの髪がラフの頬に触れ、濡れた髪の冷たさと彼女の肌の熱が混ざり合い、官能的なコントラストを生み出す。
ラスティの心は混乱と熱に支配されていた。エクシアの足に押さえつけられ、逃げられない状況に追い込まれた恐怖と、彼女の支配的な眼差しに飲み込まれる悦びが交錯する。
彼女の肌がエクシアの足の圧迫で疼き、息が浅く速くなる。首筋に残る唾液の跡がまだ熱を持ち、エクシアの存在が全身に刻み込まれていくような感覚に溺れていた。
エクシアはラスティの反応を見逃さない。彼女の瞳が揺れ、唇が震えるたび、支配する悦びがエクシアの胸を満たす。だが同時に、ラスティの柔らかな肌に触れる足先や、彼女の吐息が耳に届くたび、エクシア自身の欲望が疼きを増す。
彼女は初華を押さえつけたまま、唇を首筋に近づけ、再び舌を這わせる衝動を抑えきれなかった。舌先がラスティの肌に触れた瞬間、熱い唾液が滑り、ラスティの喉から甘い喘ぎが漏れる。
「逃げられないわ、ラスティ……貴方は……私の王なのだから」
エクシアの声はさらに低く、独占欲と情熱が溢れていた。彼女の足がラスティの体をさらに強く押さえつけ、二人の間に流れる空気は熱く淫靡に渦巻く。ラスティの瞳に映るエクシアの姿は、冷たくも熱い支配者そのもので、彼はその視線に絡め取られ、逃げることも抗うことも忘れていた