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作者: 泗水 眞刀
5-1



「あんた誰だ、たった一騎でここまで来たのかい。聖龍騎士団は都育ちの貴族の子弟ばかりで、見掛けだけの軟弱者揃いだと聞いていたが、ビンセント殿といいあんたといい、中々に骨のある男がいるようだな」
 ガームが槍を大きく一振りする。
 いまの一騎打ちで付着した血が、飛沫となって飛び散る。

「お褒めに預かりなんだかこそばゆい気がするな、一騎で来たと見栄を張りたいが、わたしのために十三人もの騎士が命を落とした。みな一軍を指揮できるほどの能を持った者たちだ、こんなわたしの我儘に付き合って散っていった」
「噂に聞くのと現実とじゃ随分話が違うな。トールンの騎士も漢揃いじゃねえか」

「いい教訓を教えてあげよう。これからは噂など信じぬことだ、自分の目で見たことだけが真実、人の言葉などあてにならぬものよ。まあその教訓も無駄になってしまうな、ここで貴男はわたしの槍に架かって死ぬのだから」
 血に染まった顔に、凄絶な微笑を浮かべる。
 ここまで来るのに、一体なん人の兵を斃してきたのであろうか。

「大口を叩くじゃないか、ここまで来たあんたの漢気は認めるが、気持ちだけじゃ勝てねえぜ。俺は難しいことは分からねえ猪武者だが、腕にだけは自信があるんだ。きっちりと返り討ちにしてやるよ、名前を名乗りなよ聞いといてやる」
「聖龍騎士団第八大隊指令エネジェルス・アル=ペリシリオス。ここで貴公を止める、アームフェルには矢の一本も射掛けさせはせん」

「聖龍騎士団の指令殿が一騎駈けとは驚いた、俺に勝ったところであんたは生きちゃ還れないぜ。なぜそこまでする、アームフェルにはそこまでの価値があると言うのか」

「あいつとは幼馴染でな、物心ついた時から棒っ切れを振って遊んでいた。齢も同じ、聖龍騎士団に入隊したのも同じ十八の時、大隊指令に昇格したのも同時だった。だがどうあがいてもわたしにはあいつほどの力はない、わたしの死と引き換えに友を守れるのならば悔いはない。ここを凌ぎ切りあいつが生き残れば、われらの勝ちの目も出て来る、命など惜しんではおれん」

「ふふん、泣かせるねえ。命を賭して友を助けようとは男じゃねえか、でも俺が一騎打ちを受けなかったらどうする。あんたはここで犬死にだ、本当に残念だよ」
「だったらしょうがない、わたしが貴公を見損なっただけの話し。さっさと部下に突き込むように命じればいい。どうせ死ぬ覚悟をして来たんだ遅いか早いかだけのこと、とうに命は捨てておる」
 ガーム配下の玄象騎士隊が、さっと槍を構える。

「エネジェルスさまをお守りしろ」
 ビンセントと共に駆け入っていた騎馬武者が、エネジェルスの周りを固める。
 たかだか五十騎程度では、抵抗する間もなく全滅させられるのは分かり切っていた。
 それでも必死の防御態勢をとる。

「うおおーっ! 畜生め、相手になってやるよ。ここまでの心意気を見せられちゃ引くわけにはいかねえだろ、まったく俺も損な性質たちだな」
 ガームが忌々しそうに、天を見上げ吠えた。
 陽は沖天をとうに過ぎ、かなり西に傾いている。

「野郎ども、たとえ俺が敗けても手出しはするな、そのまま無傷で返すんだぞ。同じサイレンの武人同士だ、お偉いさん方は知らねえが、俺たちは恨みつらみで遣り合うわけじゃねえ。いまは喧嘩してるがやがては共に戦う仲間だ、約束を違えて俺に恥をかかせるんじゃねえぞ」
 これから一騎打ちだというのに、静かな表情で部下を睨みまわす。

「いいなオズテラス、俺がもし斃されたらお前が指揮をとれ。間違ってもエネジェルス殿に手出しするんじゃねえぞ、男と男の勝負だ後腐れを残したくねえ」
 そういって手を広げ、兵たちを退がらせる。

「分かりました隊長──」
 オズテラスが、煮え切らない表情で返事を返す。
 隊長であるガームは、郷士ながら貴族以上の領地及び権勢を振るう、テームス地方の名士の出身である。

 部下たちもほとんどが若い頃から共に戦って来た、同志といってもよかった。
 それに対しオズテラスはヴィンロッドのバランディ家に代々仕える、地方貴族リドルゴ家の次男で爵位も男爵位を授かっている。
 郷士や準爵中心に構成されている玄象騎士隊へ、ヴィンロッドの旗本隊からお目付け役のような形で、特別に配属されているのだ。

 爵位を持っているものが、無位無官の者の下に付くなど異例の人事配置である。

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