▼詳細検索を開く
作者: 泗水 眞刀
4-4



 ザンガリオス鉄血騎士団本隊が動いたことにより、戦況は一気に緊迫して行く。
 先方はすでに両軍ともに陣形は完全に崩れ、左右の陣に吸収され互いに乱戦となっていた。

 新たに投入された三千騎によって、右陣でなんとか変則的な個人攻撃を展開していた義勇兵は、次々と駆逐されてゆく。
 リッパ―騎士団はもはや尖槍陣を維持するのがやっととなっていた所へ、活きのいい新手が現れたことにより、陣形は完全に崩れてしまっていた。

 数的に劣るトールン守護軍は、すでに左陣へは聖龍騎士団第六大隊を、右陣へは第三大隊を投入しており、本隊として残っている兵数は一万九千騎にまで減少していた。
 一方相手の本隊は一部を左陣へ回してはいるものの二万六千騎を擁しており、その全数が総懸かりとなり津波のように押し寄せて来る。

「最強の鉄血騎士団よいまこそ勝負の時だ、一気に揉んでもんで揉み潰せ。敵兵どもに明日の陽の光を見せるでないぞ」
 ザンガリオス六勇将の一人巨体のレリウス騎士長が、雷鳴のような大声で檄を飛ばす。

「応っ! 陣形を崩さず数で踏み潰せ、われらこそがサイレン最強の騎士団ぞ。見掛けや格式だけの聖龍騎士団なぞ蹴散らしてしまえ、中央貴族の子弟どもに鉄血騎士団の恐ろしさを見せつけてやるのだ」
 同じく六勇将のカルロが、がっちりとした体を震わせて雄叫びを挙げる。

「押し返せ、大義はわれらにある相手は叛乱軍ぞ。サイレンを大公独裁の国にしてはならん、伝統を守るのはわれら聖龍騎士団の務め、一歩も引くなここで引けばクローネさまに顔向けできんぞ」
 聖龍騎士団の副将でもある第一大隊指令のオリヴァー侯爵が、ひと際目立つ雅な甲冑に身を包み、自慢の愛馬に跨り騎士団旗を高々と掲げる。

 両陣営ともここが勝負時だということで、互いに一歩も引かぬ総力戦を展開する。
 重厚なザンガリオス鉄血騎士団の数に任せた津波のような攻撃に、聖龍騎士団も一丸となって迎え撃つ。

 中でもアームフェル率いる第三大隊は、持ち堪えるどころか烈火のごとき猛攻で逆に相手を押し返してゆく。

 サイレンを代表する武門貴族アイガー家の若き嫡男で、総司令イアン、副将オリヴァーに次ぐ猛将で戦場での実力は、彼こそが聖龍騎士団最強とも言われている程である。

 伝統的に聖龍騎士団の最精鋭は、第三大隊とされている。
 その最精鋭を指揮するのが、アームフェル・ヘム=アイガー三十五歳である。

 アイガー家子飼いの騎士で編成されている〝アイガー紅炎隊〟といわれる、全身紅の甲冑で固めた五百騎は、その名の通り赤き炎のように猛り狂い相手を槍の穂先でなめ尽くしてゆく。
 勿論棟梁であるアームフェルも、真紅の甲冑を身に纏っている。

 暗黒大陸に生息する赤き大鳥〝オーファルコン〟の長い羽根を兜の両側に挿し、愛馬までも紅の鎧で覆っている。
 彼の率いる一団が駆け行くところ、その鎧より赤い敵の血が流れる。

 弟である三男のデオナルドは弱冠二十六歳ながら、この春に大抜擢され第六大隊の指令となっていた。
「アームフェルに負けるな、鉄血騎士団なにするものぞ。トールンの守護神はわが聖龍騎士団だ、押し戻せ、攻め返せ、トールン貴族の意地を見せよ」
 第八大隊の指令、エネジェルスが自分の部下を叱咤する。

 エネジェルスとアームフェルは同じ齢の幼馴染同士でもあり、その声には自分も負けてなるかという気迫がこもっている。
 アームフェルの奮闘に勇気づけられたように、数に劣りながらも聖龍騎士団が気力で徐々に相手を押し戻してゆく。

読んで下さったみんなに感謝致します。
ありがとうございます。
よろしかったら応援、ブックマークよろしくお願いします。
ご意見・ご感想・批判お待ちしています。
Twitter