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作者: 甲斐てつろう
#5
『ヒーローに、ならなきゃ。』
現場に到着すると既にゼノメサイアが現れておりベルゼブブⅡと戦闘を始めていた。

「キュォォォンッ」

『グゥッ……⁈』

先程よりもパワーアップしているようで一人では苦戦しているゼノメサイア。

「(快っ……!)」

親友の危機を察した瀬川。
キャリー・マザーから切り離された後、いち早く攻撃を仕掛けようとする。

「ダメだ待て!」

「っ⁈」

すると名倉隊長の声が聞こえる。
思わず手を止めてしまう瀬川。

「焦ってはダメだ、前回と同じ事になるぞ!」

しかしその言い方はとても怒っているようには思えなかった。
寧ろ瀬川を心から心配してくれている様子だ。

「へへっ、そうだぜ新入りぃ!」

すると隣をウィング・クロウで飛んでいるアモンが言う。

「俺たちを信じろ!必ずお前のモヤモヤ晴らさせてやっから、今は従え!」

力強いがとても優しい仲間たちの声に少し心が安堵した気がする。
深呼吸をしてしっかりと応えた。

「……はいっ!」

ここから作戦通りに瀬川は動く事を決める。

「ウィング・クロウ、マッハ・ピジョンはヤツを挟み込め!その隙は俺が作るっ!!」

そう言いながら名倉隊長のタンク・タイタンは多連装ミサイルを放った。
その爆発の勢いでベルゼブブⅡはゼノメサイアから離れる。

「よし今だ、着いてこいよ!」

アモンの合図と共に二機は敵を挟み込む体勢に入る。
そして引き金を引いた。

「撃てぇ!!」

両サイドからのビーム攻撃を受けたベルゼブブⅡは思い切りのけ反ってしまう。
確かなダメージが通った証拠だ。

「キュォォォンッ……!!」

「よしっ!」

その様子を見た瀬川。
ゼノメサイアも窮地から助けられたようでマッハ・ピジョンを見つめていた。

「俺、上手くやった……⁈」

「そうだ、お前がゼノメサイアを助けた!」

その言葉が何よりも励みになった。
少しずつ自信を取り戻していく。

「(快、俺上手く出来た……!)」

仲間に従った事で自分の目的に一歩近づけた。
そこで時止主任の言葉を思い出す。

「そうか、この人達が俺を理解し歩み寄ってくれる仲間……!」

その言葉に反応したのか時止主任が無線で話しかけて来る。

『やっと分かってくれたか!君と同じ彼らならきっと居場所になれる、戦う理由も尊重してくれると思ってね!』

完全に波に乗るTWELVEとゼノメサイア。
しかしこれだけでやられるベルゼブブⅡでは無かった。
より強化されているのである。

「グギュゥゥゥ、オォォォッ!!」

突如として巨大な両翼を広げ大空へ羽ばたく。
そのスピードは凄まじかった。

「うわ速ええ!!」

猛スピードで飛び回るベルゼブブを目で追えない。
その間も小さな攻撃を少しずつ食らってしまうゼノメサイア。

『グッ、ガハッ……』

そしてそのままゼノメサイアの両肩を掴み遥か上空へ飛び立ったのだ。

「ギュィィィッ!!」

『ドワァァァッ……!!』

遥か上空へ連れ去られるゼノメサイア。

「速すぎるだろ……っ!!」

ウィング・クロウのスピードでは物足りなかった。
全く追いつく所か距離が離されて行く。

「っ……」

その様子を見ていた瀬川。
またも時止主任の言葉を思い出す。

「(マッハ・ピジョンはスピードならピカイチって言ってたよな……)」

そして準備を始める。

「快、今助けるぞ……っ!」

そのままいきなり最大出力で飛び上がりベルゼブブⅡを追いかけたのだ。





『グゥゥゥ……ッ⁈』

とてつもないスピードで連れ去られているため空気抵抗が強く上手く体を動かせないゼノメサイア。
そこへ迫るのはマッハ・ピジョン。

「何してんの⁈一人で行くな!!」

猛スピードで上空へ昇って行く瀬川に無線で怒る蘭子。
しかし名倉隊長は瀬川を尊重した。

「いや、そのまま行け瀬川!君の機体なら恐らく……!!」

隊長の声を聞き安心して直行して行く。
その中で瀬川は風を切りながら快への想いを思い出して行く。

「何でそんなにお前の支えになる事に拘るのか分かるか……?俺の夢よりお前の夢に……!」

風の抵抗、そして猛スピードの中で走馬灯のように記憶が蘇る。
それは小学生の時、快と仲良くなり始めた時の事だった。



快と出会ったきっかけは両親の離婚で転校した事だった。
母さんは親父の宗教観に着いていけず出て行く事を決意。
その際に俺を引き取ろうとしたが親父が断固拒否したらしい。
それが罷り通ったのはこの時から組織の手が回っていたからだろう。

幸せそうに暮らしてる全てに嫌味を感じて関わるのを避けてた、今も若干そーゆー節はあるが。
でもその頃は快に対しても同じだった。
両親がいるのにあんな辛そうな顔して、絶対俺の方が辛いのに。
だから関わろうなんて思わなかったよ。
でもそれからすぐに快の両親が殺害された、その現場に快もいたって話を聞いた。
他人事のはずなのに背筋がゾワってしたのを覚えてる、自分の辛さが小さく思えた。

そこから快は目に見えて荒れていったんだ、クラスのヤツをボコボコにして生徒指導室に呼び出されたのを見た時は思わず同情しちまった。
みんな口を揃えて両親が殺されたからって言ったけど俺は違うように思えた。
何故なら嫌味を感じてた時と伝わる悲しみは全く一緒だったから。

アイツは何も変わってなかった、初めから世界に絶望してたんだ。
その上に更なる絶望が乗っかるなんて想像も出来ない辛さだろう。
俺と同じく与えられた現状に満足出来ずにより大きな幸せを求めて足掻いてる、だから声を掛ける事にしたんだ。
最初は緊張して無理に明るくなっちまったけどな。

「二組のやつだよな?どーした一人で?」

「お前だって一人だろ……」

「あぁ、だから友達になろう!」

「はぁ?」

「いいだろ?一人もの同士」

「……嫌だ」

俺も世界を避けてたからこそ快の似た境遇を知って近づこうと思えたんだよな。
だから断られても諦めずに俺は何度も話しかけたんだ。
その度に断られたけど三日後、快がボコボコにしたヤツの純希が再登校してきたんだ。

「やめろーーっ!!!」

同じ目に遭わされそうになった快を庇って俺も殴られた。

「何でお前……」

「何でって、友達だからだろ……!」

そして一緒に純希に立ち向かって結果ボコボコにされたんだっけ。
二人でボロボロになって床に倒れたまましばらく経ったんだけど何か笑えて来たんだよな。
友達のためになる事がこんなに素晴らしい事なんだって思えた。
ここから快も俺に心を開いてくれて自分の境遇を話してくれた。
話によると両親がいても仲良く出来ない場合もあったのだ。

「父さん母さんが最期に言いかけた事、それが何なのか気になるんだ……」

「それで余計にヒーローに縛られてんのか」

「ヒーローに関する何かだってのは間違いない、だから目指し続ければ何か分かるんじゃないかって思うんだ。でも……」

「でも?」

「何より俺は愛されたいよ、両親も見直すようなヒーローになって愛してもらいたかった……」

その言葉を聞いた俺は胸が痛くなった。
確かに俺も今は辛い、でも以前は確かに愛されていた自覚があった。
つまり愛というものを知ってはいる。
でもコイツは何も知らないんだ、それが憐れで。

「……っ!」

そこで俺は心から思った。
"コイツに愛を知って欲しい"って。
純希から助けた時に友のためになれる事の素晴らしさを知った、それをまたやりたいと思ったんだ。
そのために俺は生きるんだって。

親父はいつも一人に出来る事には限りがあると言った。
確かに今の快には難しそうだ、だから俺が支えてやるんだ。
そして見事に快がヒーローになって愛される事を叶えれば快は愛を知れる。
俺は友のためになれて更に親父にも反抗できるって分かった。

そう夢を抱くと途端に自分の辛さが怖くなくなった。
いくらでも親父に反抗する勇気が得られたんだ。
見ていろ親父。
俺は神のためじゃない、快のために生きる。
そして快の夢を叶えるために戦うんだ。


「お前はヒーローになれ!それが俺の夢にもなった!!」


そう言われた快はキョトンとしてたけど俺の心は満たされてたんだ。



風を切りベルゼブブⅡに迫るマッハ・ピジョン。
瀬川はこの時、純希から快を助けた状況に今を重ねていた。

「親父、俺は親友のために戦う」

無線で覚悟を参謀である父親に向けて言い放った。

「アンタの言う事なんか聞かない、神のためにも生きない」

照準を合わせてベルゼブブⅡを狙う。

「親友に愛を教える、俺の夢を叶えさせてくれ……!!」

そう言って思い切り引き金を引いた。
ビーム弾が真っ直ぐ放たれる。
それはベルゼブブⅡの片翼の付け根に見事命中しその羽根を千切った。

「ギャオォォォッ……!!」

その様子を見て瀬川はガッツポーズをする。
他の一同も喜んでいた。

「やった、快のために……!」

痛みに叫びながらゼノメサイアを離してしまうベルゼブブⅡ。
そのまま高所から落下していく。
最後の抵抗を見せた。

「グギャッ!!」

すれ違い様にマッハ・ピジョンの機体を思い切り引っ掻く。

「ぅぐっ⁈」

機体から火花が散りマッハ・ピジョンも落下して行ってしまった。





つづく
つづきます
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