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作者: 甲斐てつろう
#6
『ヒーローに、ならなきゃ。』
ベルゼブブⅡの羽根を千切りゼノメサイアを救ったものの火花を散らしながら落下していくマッハ・ピジョン。

「うわぁぁぁぁっ……!!」

機体が大きく回転してしまっているため体勢を立て直す事もままならない。

「瀬川ぁ!!」

せっかく上手くやってくれ見直したというのにこのままでは死んでしまう。
焦るTWELVEの一同だったがここからでは何も出来ない。

「クソッ、快ぃっ……!!」

全くコントロールが効かない。
万事休すか。
そう思った時。

『ゼアアァァァァッ!!!!』

なんとゼノメサイアがこちらに向かって飛んで来ているのだ。
回転しながら落下する機体に手を伸ばしている。

『オォォォッ!!』

そして何とかマッハ・ピジョンを空中でキャッチした。
コックピットに座る瀬川とゼノメサイアの目がバッチリと合う。

「はぁ、はぁ……」

お互いしばらく見つめ合っておりそのままゆっくりと地面に着地する。

『グッ、オォォ……』

しかし力が抜けたのかゼノメサイアはその場に仰向けになって倒れてしまった。

『ゼェッ、ハァッ……』

手を離されてゆっくりと地面に置かれるマッハ・ピジョン。
ゼノメサイアと共に地面に横たわっているような体勢。
それはまるで純希から快を助けた時にボコボコにされた後、共に寝転がりながら笑った時のようだった。

「はは、あはははっ……」

それを思い出しあの時のように笑い出す瀬川。
今自分は再び親友を支えられる土俵に立ったのだ。

「あの時のまんまだこれ……っ!」

状況が重なる事にも笑えて来る。
その笑い声を無線から聞いていた一同は何が何だか分かっていなかったがTWELVEの隊員だけは瀬川の気持ちが晴れた事を喜んでいた。

「よかった、瀬川くん笑ってる……!」

アモンの鏡に写る陽が嬉しそうにしていた。
そして名倉隊長は直接声をかける。

「もう大丈夫だな?」

するとマッハ・ピジョンはゆっくりと浮遊しゼノメサイアもゆっくりと立ち上がる。

「はい、戦う理由が見つかりました」

その言葉を聞いた名倉隊長はやはり瀬川と自分たちを重ねる。

「(やはり彼も我々の仲間だ……!)」

すると立ち上がったゼノメサイアの背後でベルゼブブⅡが起き上がった。

「グギギギ……ッ」

何という生命力だろうか、ここまでダメージを受けて死なないとは。

「すぅぅぅ、よぉし!!」

そこで名倉隊長が声を上げる。

「あと一息だ!先程と同様非行型二機は両サイドから攻めろ!」

すると無線にとある声が。

「俺の仕事は無いんすか隊長~?」

聞き覚えのある声と共に現れたのはライド・スネークだった。
瓦礫の隙間から飛び出し正面から敵に一撃をお見舞いする。

「はぁ⁈何やってんの⁈」

ここ数日で一番の大声を出して驚く蘭子。
持参したコーヒーを吹き出しそうになった。

「いやぁ新入りが心配でさ、でもその必要なかったっぽいな」

全身に包帯などを巻きながら無理をしてやってきた竜司。
既に息を切らしているがテンションは高い、アドレナリンが溢れているのだろう。

「ほんっっと困った奴、後でメディックに謝っといてよ」

「それは勿論承知!」

自分がケガをさせてしまった相手が自分を心配して無理をしてくれている。
そんな状況に瀬川は胸が痛くなった。
しかしそれ以上に温かくなったのだ。

「瀬川、俺の事は気にすんな!全力出して戦う理由が出来たんだろ?一歩前進だな!」

激励をしてくれる竜司に感謝の気持ちが溢れる。
瀬川は強く頷いた。

「……はいっ!」

そして蘭子も二人のやり取りを聞いていて感じるものがあった。
先程まで見下していた瀬川が今はこんなにも頼もしく見える。
それを導き出した一人はいつも馬鹿にしていた竜司なのだ。

「(本当あたし、見る目ないね)」

こんなに素晴らしい仲間がいる。
挫折して巡り合えた同じ気持ちの仲間たち、今その心が一つに。

『お、おぉぉぉ……⁈』

時止主任が機体に流れるライフ・シュトロームの変化を見て驚きの声を上げる。

『みんなのライフ・シュトロームが調和してる、まさかこんなに早く……!!』

慌ててキーボートを叩き全機体にあるデータを送信した。

『みんな!今転送したデータを開いてくれ!』

突然そう言われた一同は訳も分からずそのデータを開く。
そこには何と“合体シークエンス”と書かれていた。

「合体⁈」

『あぁ、君たちの心が一つになった事でようやく機動できるよ!!』

時止主任にとっては待ち望んだ時だ。
自分の研究の集大成が現れる。

『高いインディゴ濃度で満たしたライフ・シュトロームが五人分合わされば無敵だ、やれみんなぁ!!』

相変わらず訳の分からないままだったが時止主任の言葉にはこれまでにない厚みがあった。
覚悟を決めて一同はその合体シークエンスを起動する。

「「「っ……!!?」」」

突如として全身に凄まじい力が流れたと思えばその感覚は一気に優しく、そして温かくなった。

「(この温もりは何だ……?)」

非常に心地いい感覚に身を委ねて行く。
すると機体が大きく動き始めた。

『さぁ仔羊たちよ、今こそ愛に身を委ねる時だ』

新生長官も一人で何かを言っている。
両手を大きく広げたその姿はまるで神を崇めているかのようだった。

『酷く傷付いた時、同じ境遇の仲間と巡り合い共に歩み寄る事こそ尊き愛っ!!!』

そして機体は一つになろうとしていた。





まずウィング・クロウ、ライド・スネーク、タンク・タイタン、マッハ・ピジョンの四つの機体が並び立ち巨大なOの字を模る。
そこへキャリー・マザーがやって来た。

キャリー・マザーは並び立つ四機に合わせてその機体を分離させ四つに分かれる。
それと同時に変型した他の四機とそれぞれ接合された。

「うへっ、どうなってんの⁈」

「こんな機能あったんだ⁈」

驚くパイロット達を置いてけぼりにしながらも合体シークエンスは続く。

ライド・スネークは二つに分離に腕となる。
タンク・タイタンは両脚に。
ウィング・クロウとマッハ・ピジョンはそれぞれ前面と背面を繋ぎ胴体となった。

最後にキャリー・マザーがその上から覆いかぶさり包み込むように他全てを接合した。
それが終わるとマッハ・ピジョンの先端と合わさり頭部が出現する。

非常に凛々しい出立ちの翼が生えた巨大人型ロボットの完成だ。

『これぞ我らが仔羊……!!』

新生長官はモニター越しに眺めながら相変わらず両手を広げている。


『ゴッド・オービス!!!』


五人の心が合わさり完成された最強の兵器。
その名は"ゴッド・オービス"である。





完成した最強の兵器ゴッド・オービス。
まだ駆け出しの瀬川とそれを見守る先輩たちの心の結晶である。

「何だこの感覚、全員の意思が伝わる……!」

心が一つになっているため同じ動きを考えるようだ。
そのためスムーズに立ち回れるのである。

「よし、TWELVE出動だ!!」

「「「応っ!!!」」」

ゴッド・オービスの初陣である。
ゼノメサイアと力比べをしているベルゼブブⅡの顔面を思い切り殴り飛ばした。

「グギョッ……!」

押され気味だったゼノメサイアもこれで解放される。

『ハッ……!』

そして解放されたゼノメサイアとゴッド・オービスは隣同士で並び立った。
初めて隣に対等な仲間が現れたゼノメサイア。
この感情は何なのだろうか。

「おぉ、並んでる……!」

竜司は自分たちとゼノメサイアが対等に並び立っている様子に興奮している。
そうこうしている間にベルゼブブⅡは起き上がった。

「ギュルルル……ッ」

一気にこちらに向かって走って来る。
しかしもう恐れる事はない、最大級のコンビネーションを見せる時である。

『デアッ!』

ゼノメサイアが攻撃を防ぎその上からゴッド・オービスがベルゼブブⅡの頭部に拳を叩きつける。

『オォォラッ!!』

そして更に下からゼノメサイアはベルゼブブⅡを蹴り上げ相手は上空へ舞う。

「今だ行くぞ蘭子ちゃん!」

「指図すんな、分かってるから!!」

ジェットを噴射し思い切り飛び上がるゴッド・オービス。
そして両腕を振り上げて拳を連打した。

「『ダ ダ ダ ダ ダ ダ ッ ! ! !』」

猛スピードで繰り出される拳になす術がないベルゼブブⅡ。
そのまま勢いよく地面に落下していった。

「決まったぜ、俺たち腕コンビの"連拳ダダダ"!!」

「名前ダサっ!」

蘭子が文句を言いながらも着地しエネルギーを溜める。
機体の全身に流れる莫大なライフ・シュトロームが増幅された。

「よし、準備はいいな!」

ドシっと構えて全エネルギーを発射する体勢に入る。
両腕を前に突き出して放つ生命の力。


『ライフ・ブラスター!!!』


翡翠に輝く生命の波動が一直線にベルゼブブⅡへ向かって行く。
そして勢いよく命中、その体を凄まじいエネルギーが駆け巡る。

「グギギギッ……!!」

そのままベルゼブブⅡは爆散。
完全に消滅した。
ゼノメサイアとゴッド・オービス、二者の勝利である。

『ハァ、ハァ……ッ』

フラフラとよろけているゼノメサイア。
思わず倒れそうになってしまうがゴッド・オービスの腕が支える。

『瀬川……』

「快……」

快は正体が知られているとは知らぬままお互い親友の名を呟くのであった。





その後、Connect ONEは会見を放送しTWELVEの隊員が揃ったという事を報告した。
その映像では隊員たちが並んでおり瀬川の姿も当然晒された。

ネットではその新メンバーの姿を見た事でConnect ONEの組織としての在り方に疑問を持つ声も多くあった。

隊員たちのかつての知り合い等、彼らを知る者が素性をリークした事で素人である事が明らかとなってしまったのだ。


《地球防衛に素人を起用する理由とは⁈》

《一般人に運命握られてるの心配でしかない》

《ゼノメサイアの秘密も何か隠してんじゃね?》


多くの心無い声が飛び交う中、快は学校の渡り廊下の端の方で瀬川と電話をしていた。
瀬川と二人で昼食を取っていたあの渡り廊下である。

「みんな騒いでるよ、クラスメイトが罪獣と戦うんだって」

『ちょっとネットの意見みて気分よくないな……』

「確かにクラスでも賛否両論だな、素直に喜んでるヤツと組織として心配してるやつがいる」

『こっちも事情はあるんだよ、機密だからいえないだけで……』

瀬川もこれからが少し心配そうな声をしている。
しかし彼には心の支えがあった。

『でも俺たちは大丈夫だよ、戦う理由がちゃんとあるんだ』

「凄いな、それで何なの?瀬川の戦う理由は」

実際にゼノメサイアの正体が自分だと知られているとは思いもしない快。
まさか戦う理由が自分にあるとは思わなかった。

『……秘密だ』

少し寂しそうに、しかし誇らしげに言う瀬川を快は何処となく不思議に感じるのだった。





つづく
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