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作者: 甲斐てつろう
#4
『ヒーローに、ならなきゃ。』
ようやく胸の内を話す気になった瀬川。
溢れる感情を少し抑えながら語って行く。

「……最初はこの組織に憧れてました、でも親父に無理やり連れられて思ってた所と違って……親父の言いなりになる事が辛かったんです」

「うんうん」

「だから親友の快に相談しました、でもアイツは信じてくれなくて……そこで俺も前にアイツがゼノメサイアだって相談して来た時に同じ事したって気付いて……っ」

少しずつ瀬川の瞳には涙が滲んでいく。

「ようやくアイツの気持ちが分かった。俺は支えてやりたかったのにこんな辛い気持ちにさせてたんだって……っ、自分の存在に意味はあるんですか……っ?」

遂に一筋の涙が頬を伝った。
その涙を新生長官は優しく拭い瀬川に助言をする。

「君には今、その罪を償う機会が与えられたんだ」

「え……?」

「罪悪感が君の心を蝕むのならその罪を償えば良い、戦友として彼を支える気は無いかい?」

それは完全にTWELVEへの勧誘だった。
また少し瀬川は顔を落とす。

「……そうやってまた戦わせようとするんですか?」

「そうだね。我々には君が必要だ、そのための説得でもある」

「やっぱり俺の力が欲しいだけなんですね……」

そのままガッカリしてベッドに横たわってしまう瀬川。
背中を向けて完全に目を背けている。

「……君のためにもなると思うけどね」

ウィンウィンな関係とでも言いたいのだろうが瀬川はもう耳を貸さない。
結局彼らも父親と同じで自分を都合の良い道具として見ているのだろう。

「仕方ないか……」

そう言って立ち上がる新生長官。
部屋を出て行こうとする。

「継一っ……」

そして取り残された時止主任は最後に瀬川にある言葉を残した。

「確かに俺たちは君を兵器として見てしまっている節がある、でもちゃんと心を見てくれている仲間も組織にいる事を分かって欲しい」

瀬川はそう言われてある人々を思い浮かべた。
時止主任はまるで瀬川の心を読んだかのように彼らの名前を挙げる。

「TWELVEの皆んなは君を理解してあげられる」

そう言って時止主任も去って行った。
一人残された瀬川は布団にくるまりうずくまった。

「……本当にあの人たちが?」

まだ理解し切れない。
ただTWELVEの隊員たちには他の職員たちと違う何かを感じているのは事実だった。





一方ここはConnect ONEの医務室。
TWELVEの隊員たちが一つのベッドを囲んでいた。

「いやー、心配してくれて嬉しいよ蘭子ちゃーん!」

「うっさいっ、こんな早く目覚めるとか聞いてないんだけど!!」

なんとそのベッドには目を覚ました竜司が横たわっていた。
怪我こそしているものの案外元気そうだ。

「蘭子ちゃん、一番心配してたもんね」

茶化すように言う陽のスネを蘭子は蹴る。
その顔は真っ赤だった。

「言わなくて良いからっ!」

「痛ったぁ!」

その様子を眺めている名倉隊長。
少し距離は縮まったがまだこのような雑談には混ざれずにいた。

「(何を話せば良い……?)」

必死に思考を巡らせ何か話題は無いかと考える。
そこで遂に口を開くがその言葉が場を冷たくしてしまう。

「元気な竜司の姿を見れば瀬川も罪悪感を薄れるか……」

何とか絞り出した話題だったがこの場で瀬川の名前を出すのはあまり良い判断では無かったようだ、蘭子が思い出したかのようにイライラを募らせる。

「そうだ!アイツにしっかり謝らせないと!何処にいる、呼び出そう!」

慌てて瀬川を呼び出そうとする蘭子だったが他の隊員たちは冷静だった。

「いや、今は急かすべきじゃないと思うよ」

口を開いたのは陽。
蘭子はもちろん反発する。

「はぁ?何言ってんのあんた!」

しかし陽はもう恐れる事はなく蘭子に自分の意見を伝えた。

「確かにいつかはしっかり謝らなきゃいけない、でも今は自分で整理する時間が必要だと思うんだ」

陽はかつて自分がアモンとの問題で皆に迷惑をかけてしまった時の事を思い出す。

「僕もアモンの件で迷惑かけた時、自分で反省してようやく道が拓けた。ここでまた責めても余計に追い詰めるだけだよ」

かつて自分が同じ経験をしたからこそ言える事であった。
すると竜司も口を開く。

「あぁ、だからポジティブに"俺は元気だ!"ってだけ伝えてやりゃ良いさ。そしたらアイツも俺たちが味方だって気付いてくれるよ」

段々と不貞腐れていく蘭子。

「でも実際に被害は受けてる訳で……っ!この気持ちはどうしたら良いの?被害者は無視?」

すると一同は少し考える。

「確かにそこは難しい問題だよな……」

被害を受けた竜司が自分なりの答えを出した。

「でも俺たちならアイツの事わかってやれるじゃんか、いきなりこんな訳分からん所に連れて来られて命賭けろって言われてさ……」

今までの戦いを振り返る。

「何回も迷惑かけたよなぁ、今のアイツは前の俺たちだ。気持ち分かるだろ?」

職員たちに嫌われた経験やそれに反発した経験が彼らにもあった。

「それなら拒絶するより歩み寄った方が良いだろ、せっかく理解できるのに勿体ねぇよ!」

全力の笑顔を作った竜司に蘭子はこれ以上何も言えなかった。
そこで名倉隊長が一言。

「蘭子、これから戦いを共にする仲間だ。少しずつで良いから認めてやってくれないか?」

更に陽も続く。

「彼も変わってくれるよきっと」

他の仲間たちに説得され考える蘭子。
そして渋々了承をした。

「でもアイツの出方次第だからね」

「それで良いさ」

大切なのはお互いに歩み寄る事。
瀬川次第だと蘭子は考える事となるのだった。





一方ここはベルゼブブが倒された現場。
Connect ONEの職員による後処理が行われていた。

「デカい死骸残ったままかよ……」

ベルゼブブの死骸はその巨大な形を残したままだった。
今にも再び動き出しそうで恐ろしい。
するとある職員が声を上げる。

「えっ⁈死骸の中から強力なエネルギー反応!」

モニターにはベルゼブブの死骸の内部にエネルギーが発生している様子が映っている。

「グゴゴゴ……」

そしてモゾモゾと動き出すベルゼブブの死骸。
まるで蛹から成虫になるように内側から何かが出現しようとしているようだった。

「退避っ、退避ーー!!」

逃げ惑う一同。
その間もベルゼブブの死骸は動き続ける。

「グギッ、ブボボボッ……」

そして遂にその表皮を破り中身が姿を現した。
その姿は以前のベルゼブブとは違い細身の虫と人間のハイブリッドのようであった。

「キュルルィィィッ!!!」

こうして"ベルゼブブⅡ"が誕生した。





Connect ONE本部。
けたたましいサイレンが鳴り響いた。

ヴーッ!ヴーッ!

これは罪獣が出現した合図でありTWELVEが出動するための合図でもある。

「(またか……っ!)」

自室のベッドに横たわっていた瀬川は重たい身体を起こすのに時間がかかった。
しかし新生長官のある言葉を思い出す。

『君には今、その罪を償う機会が与えられたんだ』

自分を利用しているように感じたその言葉、しかしどうしても引っかかる事があった。
快の支えになる事は確かに出来るのだ、ただ利用されるのが嫌なだけである。

「(快を支える事より自分が利用されるのが嫌か、それじゃ結局自分勝手なままじゃねーか……)」

そう自分に言い聞かせ何とか身体を起こし格納庫へ向かう。
何とか戦う決意を固めたのだ。



兵器格納庫では既に他のTWELVE隊員たちが集まっていた。
パイロットスーツに身を包んでいるがまだ怪我をしている竜司はそこにはいない。

「来るかな瀬川くん……?」

陽が蘭子に尋ねる。
しかし蘭子は彼の方を見ずに答えた。

「知らない、来た所で変わるの?」

すると名倉隊長も口を開いた。

「アタッカーが二人だけでは心許ない、もう一人いた方が良いだろう」

そんな名倉隊長に蘭子は反発した。

「でも足引っ張ったじゃん、そんなすぐに人は変われない……っ!!」

まだあれから瀬川を見ていないので信用はし切れていない蘭子。
するとそこへ彼が到着した。

「あ……」

しっかり隊服に身を包んだ瀬川が気まずそうにやって来る。

「すみませんでした、どうか参加させて下さい……」

気まずいまま頭を下げる瀬川。
反応したのは蘭子だった。

「まだあんたを信用してないからね、必要だから参加させる方針らしいけど」

隣に立っている新生長官の方を見て言う。
すると前に出て来た新生長官が瀬川に言った。

「さっきの言葉、分かってくれたのかな?」

しかし瀬川は顔を下に向けたまま答えた。

「利用される辛さより親友を支える事を大事にしたいと思ったんです、まぁどっちも俺のエゴですが」

今の瀬川の言葉を聞いた名倉隊長は思った。

「(自分のエゴか、俺たちと同じだ……)」

自分たちも初めは自分のエゴのために戦っていた、そこから同じ境遇の仲間を知ったのだ。
つまり瀬川はかつての自分たちであると再認識したのだ。

「安心しなさい、初めはみんな同じだった。きっと君の事を理解してくれると思うよ」

流石の新生長官の言葉でもまだ蘭子は納得いかなかった。

「……っ」

しかしもう瀬川は出動する事が決まっている。
今更蘭子は否定できなかった。



そして出動するためコックピットに向かう瀬川。
そこに参謀である父親が現れた。

「抗矢、決して先程のような恥は晒さぬ事だ」

厳しく接して来る父親に嫌な顔をする瀬川。
続けて父親は言う。

「だが出撃する気になってくれたのは素直に喜ぼう、使命を全うするんだ」

「…………」

その父親の言葉を無視して瀬川はコックピットへ向かった。

「(もう親父の言いなりにはならない、自分の意思でやるんだ……!)」

父親のためではない。
親友の快のため、そう望む自分のためであると言い聞かせ瀬川はマッハ・ピジョンに乗り込んだ。
そのままライド・スネークは抜きでキャリー・マザーに運ばれ一同は出撃したのだった。





つづく
つづきます
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