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作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
Connect ONE本部の自室に戻った瀬川。
まだ自室だと感じる事は出来ず馴染めないが思い切りベッドに身を委ねる。
すると置いて来ていたスマホに着信が入っている事が分かった。

「また快から……」

何件も快からの通話履歴がある。
こちらから折り返す気には到底なれないがこのタイミングでまた快からの着信が入った。

「……はぁ」

気乗りしないが仕方なく通話ボタンを押す。
すると案の定聞き慣れた声が聞こえるが少し震えているのが分かった。

『瀬川、今大丈夫か……?』

「あぁ……」

全てを悟っているような快の声。
いっそのこと瀬川は何でも話してしまおうかとさえ思った。

『とりあえずごめん、謝っとく……』

「何の事だよ……」

『お前の言うこと信じる事にした、ニュースで見たけどTWELVEの機体が増えてた。アレお前なんだろ……?』

少し濁して話をしてくる快。
その理由を瀬川は察していた。
コックピットから瀬川の顔を確認できたのはゼノメサイアだ、直接言及してしまうと正体がバレてしまうからだろう。
向こうは自分の正体がバレてるなど思いもしないだろうから。

「何で分かった、そう思う根拠は……?」

しかし瀬川はどうしても卑屈になってしまいこのような事を言ってしまった。
すると案の定快は慌ててしまう。

『いやえっと……戦ってる間に電話しても出なかったし今も辛そうだし、言ってたこと本当なのかなって……っ』

その場で考えたような嘘を言う快。
瀬川は知っている、戦っている間はそこに快もいたのだ。

「なるほどな……そうだよ、俺の言った事は本当だ」

『そっか……』

快の言葉を一度受け止めその上で話を進めようとする。
すると快は瀬川に先日の非礼を謝った。

『ごめん、歩み寄るって約束したばっかなのに……突っぱねちまって』

そして瀬川に聞こえないほどの小声で呟く。

『同じ気持ち、わかってたはずなのに……』

しかし瀬川にはその声が聞こえていた。
というより事情は分かっているので何と言ったかある程度想像がついたのだ。
それを踏まえて瀬川はまた新たな悩みを見つける。

「でも良かったな、謝れる相手がいて……」

『え、どういう意味……?』

「俺にはそれが出来ない、罪悪感が溜まる一方だ……」

快の正体を知っているとは言わないほうが良いだろう。
そのため以前の非礼を謝る事が瀬川には出来ないのだ。
今回身をもってゼノメサイアが背負ったであろう重圧を体感した、しかしそれを共感という形で伝える事が出来ず真に快を傷つけた事への責任が果たせないのである。

「正直、お前が思ってる以上にしんどいよ……」

『そんなこっ……』

そのタイミングで電話を切る瀬川。
失礼な事をたくさん言ってしまった、しかし今は自分の辛さで精一杯なのだ。

「あ……」

そこでまたある事に気付く。
瀬川は以前快にこう言った。


『辛いのはお前だけじゃない』


今だから分かる。
本当に辛い時は他人の辛さなど考えている余裕はないのだ。
また一つ、快を突っぱねてしまった過去を自覚し余計に落ち込む瀬川であった。





Connect ONE本部、会議室で。
新生長官を筆頭とし参謀たちが会議を行っていた。
議題は新入隊員の瀬川抗矢について。

「さてどうしようか、僕としては予め決められた撰ばれし者を信じたい」

新生長官は相変わらず優しく微笑みながら意見を出す。
その様子を見た参謀の一人が口を開いた。

「どのみち様子見でしょう?彼以上の適任はいないとの事ですからねぇ」

もう一人の参謀である瀬川の父を横目で見て意見を求める。

「そうだ。抗矢はインディゴ濃度も能力も完璧な人材だ。反抗的な態度は目立つがな……」

「貴方がそうさせたと言うのに……」

すると参謀が新生長官へ詰め寄る。

「我々日本軍があなた方に協力するのは罪獣から市民を守るためです、だから専門的な知識を必要としたというのを忘れないで頂きたい」

彼は完全に軍人側の人間のようだ。
ここでも軍人側と宗教側での対立が起こっている。

「正直こちらとしては神の心や世界の創造などどうでも良いのです、ゼノメサイアだって排除を望んでいます」

すると瀬川の父が少し憤慨したような表情を見せた。

「ゼノメサイアを排除してはならない、彼こそ最も必要な存在だ」

その焦ったような言葉を聞いて参謀は呆れたような声を出す。

「それは分かっていますよ、ただあのような存在を容認していると市民の不安が高まるという事です」

そして手元に置かれた資料を少し前に出し強調した。
そこには兵器の情報が書かれている。

「マッハ・ピジョンが動きだした事でようやく“ゴッド・オービス”が完成すると誰もが期待しました。しかし新人の身勝手で引き延ばし、こちらからすれば失望もいいところですよ」

資料の一番最後のページにはある巨大な人型の兵器が書かれていた。
その話題が出た事で時止主任が口を開いた。

「ゴッド・オービスは全員のライフ・シュトロームを繋げる必要があります、心がバラバラでは起動しないんです……」

参謀は目線を落としている。

「えぇ、素人の心のケアが優先される事態を軽んじてはいけません。元軍人たちもそんな事のためにここに移った訳ではありませんので……」

そして新生長官を鋭い目で睨んで踏み込んだ発言をした。

「貴方の母親は何という物質を兵器のエネルギーに採用してしまったんですか……」

新生長官の母親の話がここで出た。
その名を聞いた途端、その場にいた一同から血の気が引く。

「参謀、その話は……っ!」

慌てて止めようとする時止主任だが新生長官はそれを静止した。

「僕の母が何だというのです?言ってみてください」

微笑は崩さないままだが異様に圧を感じる。
沸々と何かが煮えたぎるような感覚が冷えた空気の中から感じられた。
流石に不味いと悟った参謀はここで引き下がる。

「いえ何でも……」

そしてしばらく沈黙が訪れた後、新生長官は気を取り直して場を仕切る。

「よし、今は抗矢くんのケアを優先するという方向で進めようか」

対立した意見を持つ参謀もいたが反論はもう出来ない。

「っ……!」

そして瀬川の父親も新生長官に賛成した。

「抗矢は今のままではいけない、他の隊員と同じように未熟者からの成長が求められる」

時止主任はと言うとピリピリした空気を察知して少し怯えていた。
そのまま退席する一同。
参謀は一人悩んでいた。

「(なぜ未熟者ばかりっ、もっと優秀な人材がいるというのに……)」

他の軍人たちの事を思い浮かべながらもどかしさを覚えるのだった。



一方、会議を終えた新生長官はある場所へ向かっていた。
そこへ時止主任が駆け寄る。

「継一っ、大丈夫か?あの話されて……」

あの話とは参謀に言われた母親の件だろう。
明らかに心配そうな時止主任の顔をゆっくり振り返った新生長官が見つめる。

「……大丈夫さ、僕はもう乗り越えてる」

いつものように微笑む新生長官だが時止主任は付き合いが長いためその違いが分かった。

「無理してるだろ」

ほんの少しだけ引き攣った笑顔を見て親友である彼は心配する。

「一人で背負い込むなよ、俺たち親友なんだから」

すると新生長官は笑顔を崩さぬまま言う。

「……そうだね、一人で背負い込む必要なんてないんだ」

意味深にそう言う彼を時止主任は更に心配してしまう。
しかし新生長官はまた振り返り一人で歩いて行った。

「伝えに行こう、君も一緒に来るかい?」

「え、どこに……?」

「抗矢くんの所だよ、彼も一人で背負い込んでしまっている」

そう言って歩いていく新生長官に時止主任は無言で着いて行った。





落ち込む瀬川の部屋の扉がノックされた。
初め瀬川はTWELVEの誰かかと思い反応しなかった。
しかし扉越しに声が聞こえて顔を上げる事となる。

「抗矢くん、いるかい?」

それは新生長官の優しい声だった。
父親と同じ創世教の信者という事で怪しんではいるが父親のような威圧感はない。

「……親父もいますか?」

恐る恐る父親の存在を確認する。
すると別の人物の声が聞こえて来た。

「俺なら居るよ、時止だ」

確かに聞こえて来た声は時止主任のものだ。
一瞬いつもよりトーンが低かったため疑ったが彼で間違いがない。
他に気配は感じなかったので父親はこの場にいないと判断した。

「……入って下さい」

そして立ち上がり扉を開ける。
そこには言われた通り新生長官と時止主任の二人だけが立っていた。
念のため辺りを見渡すが確かに他の誰もいない。

「そんなに警戒しなくて良いよ、僕たちは君の嫌がる事をするつもりはない」

「……分かってます、どうぞ」

特に今はデリケートな瀬川の事を気遣う。
彼に案内され部屋に入り椅子に腰掛けた。

「…………」

そのまましばらく沈黙が訪れる。
まるでお互いの出方を探っているかのようだった。

「……あの、俺を慰めようったって無駄ですよ」

誰にも今の自分の辛さは分かるはずがないと思う。
何故なら快がゼノメサイアだと知った上での悩みなのだから。

「俺の悩みはきっと分からない……」

そう言う瀬川の顔を見て少し考えるような素振りを見せる新生長官。
そしてある言葉を口にした。

「もしかしてゼノメサイアと関係あるかい?」

「……っ⁈」

まさかの言葉が口から飛び出し思わず瀬川は顔を上げてしまう。

「図星みたいだね」

少し誇らしげな表情を見せる新生長官。
瀬川の気持ちはお見通しとでも言いたいのだろうか。

「何でっ……いや、違います……」

「誤魔化そうったって無駄だよ」

そして新生長官は"歩み寄る"ために自分の知っている情報を話した。

「我々は既にゼノメサイアの正体を突き止めている、君も知ってるんだろう?」

優しい表情をしているが底知れぬ圧を感じる。
ジッと自分を見つめる新生長官に思わず瀬川は後退りしそうになった。

「……そっちは誰だと思ってるんですかっ?」

後手に回ろうとする瀬川。
快の身に危険が迫る事を考慮したのだ。

「自分から話したくはないようだね……」

「……はい」

今の瀬川の感情に緊迫感が更にプラスされた。
とてつもなく冷たい汗が額に滲む。
しかしその緊張とは裏腹に新生長官はその圧を無くした。

「……ははっ、負けたよ」

「……え?」

笑っている新生長官に瀬川は唖然としてしまう。

「例え自分の存在意義を見失おうとも親友も守ろうとする心意気、素晴らしい!」

なんと彼は親友と口にした。
本当に突き止めていたと言うのか。

「え、そんな……っ」

このままでは快の身に危険が迫ってしまう。
初めてゼノメサイアが出現した時のニュースで言っていた"正体を突き止め次第確保"という言葉が脳裏をよぎった。

「大丈夫だよ、以前ニュースで言ってもらった事は世間を落ち着かせるためのハッタリだ」

優しく瀬川の肩を叩く新生長官。

「我々は決して創 快くんを脅かすような事はしない、だから安心して君も悩みを打ち明けて欲しい」

遂に快の名前が出て来るがその優しい言い方も相待って少しだけ安心できた。
それは話せる相手が出来たという事、それだけで救いになるのだ。

「うん、継一の言う通りだ」

時止主任も頷いてくれている。
こうして瀬川は二人に胸の内を話す事を決意したのだった。





つづく
つづきます。
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