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作者: 甲斐てつろう
#1
『ヒーローに、ならなきゃ。』
ゼノメサイアがルシフェルに完全敗北した。

『ギャーハハハッ!これで夢に近づいたぜ!!』

呆気に取られているTWELVEの一同は何とかここから反撃する糸口を探す。

「みんな、残弾は⁈」

「もう殆ど残ってねぇ……っ!」

しかし絶望的な状況になってしまったという確認になっただけであった。
ここから勝てる見込みは限りなくゼロに近いだろう。

「グゥルルル……」

改めて残った彼らの方へ向き直るルシフェル。
しかし彼の溶岩のような新たな身体に異変が起こった。

『ぐっ、やっぱ二つ重ねた熱線は負担かかるな……』

まるで冷えた溶岩が固まるかのようにその動きが鈍くなったのだ。

『地熱だ、地熱を寄越せぇ……』

そう言いながら悪魔のような尻尾を思い切り地面に突き刺し地熱のエネルギーを探し始めた。

「…………」

そしてそのままピクリとも動かなくなってしまう。
どうやらこの身体は燃料効率が悪いらしい。

「今だ、撤退するぞ……!」

名倉隊長はこの機を逃すまいと撤退命令を出した。

「何言ってんすか、今のうちに倒せば……」

「下手に刺激したらかえって危険だ、生きてリベンジするためにもここは退くぞ……」

いつも以上に必死さを感じた隊長の言葉に一同は少し考えてから納得する。

「隊長の言う通りだよ、残弾も少ないんだしここは帰って改めて作戦練るべきだね」

キャリー・マザーから蘭子が彼らの機体を引き上げて撤退する。
その道中、蘭子は名倉隊長にだけ無線を繋いで話しかけた。

「隊長らしくなって来たじゃん」

「っ……!!」

そう言われた名倉隊長は少し複雑な気持ちだった。

そして大阪の街にはまるで石像のようなルシフェルの巨体が聳えたまま。
異様な光景が惨劇はまだ終わりではないと告げているようだった。





『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第12界 アユミヨル







大敗北を経験した快は眠りの中で夢を見ていた。
そこはかつて両親と来たカナンの丘。
大きな木の陰にあるベンチに一人で座っている。

「俺、何でここに……?」

記憶を辿ってみると必死に瀬川たちに歩み寄ろうとしたが受け入れられず、ヒーローとしてもルシフェルに負けて完全に存在意義を失くしてしまった事を思い出した。

「俺の存在してる意味って……」

すると記憶の中からある光景がビジョンとしてスクリーンのように映し出される。
そこには快が出会って来た自分よりもっとヒーローに相応しい人々が映されていた。

『ほら、立てる?』

バビロンの災害で出会った英美。

『快っ!愛里ちゃんを解放してくれ!!』

ルシフェルに捕らえられながらも機転を効かせファインプレーを見せた純希。
そして……

『友達になろう!』

孤独だった快に手を差し伸べてくれた瀬川の姿もそこにはあった。
良くない考えがどうしても脳裏をよぎってしまう。

「(彼らの方が絶対ヒーローに相応しい……っ)」

自分が何故選ばれてしまったのか余計に分からなくなる。
以前事情を知っているらしい謎の男との電話でも言われた。

『まさか君に神の心が宿るとは、予想外だった』

"予想外"というその言葉を今になって実感してしまい感情がグチャグチャになってしまう。

「何でっ、何でこんな上手く行かないんだよ……っ!!」

すると突然、快の目の前からある言葉が聞こえる。


『君は大丈夫だからっ……!!』


何とゼノメサイアに変身する以前に何度か聞いた幻聴だった。
デモゴルゴンの時の夢の中でもそうだが精神世界に現れるのだろうか。

「……今更出てきて訳わかんないこと言って、その言葉を信じた結果がこんなに辛いんだ!!」

思わず感情的になってしまい言葉をぶつけるが返ってきた言葉は冷静だった。

『彼らの言葉、忘れてしまったかい……?』

少し残念がっているのが伝わって来る。

「ど、どういう事……?」

すると段々と意識が覚醒していく。
夢の中の空間からは遠のいていくのを感じた。

「どういう意味だよ⁈俺はっ、まだヒーローになれるのかっ⁈」

しかし幻聴はこれ以上答えてくれる事はなく、快の意識は覚醒した。



「ーーーはっ」

目を覚ますと快は何処か見知らぬ部屋のベッドにいた。
体を起こそうとするが痛みが走って上手く起きれない。

「いっつ……」

体の数箇所に包帯が巻かれている。
ルシフェル戦で受けたダメージが生身にまで影響を与えていた。

「……ん?」

ふと自分が寝ているベッドの横を見ると瀬川がこちらに向けた椅子に座ったまま眠っていた。

「すぅ……すぅ……んぁ?」

視線を向けられると同時に目を覚まし快と目がバッチリ合う。
すると瀬川は一瞬だけ安堵するような素振りを見せた後すぐに目を逸らした。

「めっ、目が覚めたなら良かった。先生、快が目を覚ましましたー!」

そう言って去って行ってしまう。
部屋から出て行く扉の音が聞こえた。
入れ替わるように同行していた保健室の先生が入って来る。

「よかった元気そうで。ダメじゃない、班から出て行っちゃ」

「……だってアイツらが」

「今の彼、すっごく心配してたわよ?今までずっと側を離れなかったし」

「瀬川が……?」

保健室の先生が言うには瀬川は快が眠っている間ずっと側で心配そうに見守っていたらしい。

「良いお友達を持ったわね」

手当てを受けながらもどかしい気持ちが募っていた快はその言葉を受けて決意する。

「手当てありがとうございました、もう大丈夫そうです」

そう言って立ち上がり部屋を出たのだった。

「あー待って、まだ万全じゃないのに……」

その声も虚空に響くだけだった。
快は出て行ってしまった瀬川の所へ一直線に向かった。





瀬川を追って部屋を出るとここが何処なのか理解できた。
どうやらなるべくルシフェルから離れたビジネスホテルらしくテーマパーク方面から逃げてきた人々はここに集められているらしい。

「っ……⁈」

近くの窓を見ると外には動かないままのルシフェルが聳え立っていた。
夕陽に照らされて少し美しいとも思える光景であった。

「何とか手配できませんか?え、欠航?そこを何とか……っ!」

廊下では快たちの担任もおり電話でやり取りをしている。
内容からして恐らく東京へ引き返すための飛行機を探しているのだろう。

「あ……」

すると廊下に立つ瀬川と他の班員たちを見つける。
何やら彼らは揉めているようだった。

「何で快を置いて逃げたんだよ、危うく死ぬ所だったぞ……⁈」

委員長に向かって猛抗議している。
話を聞いていると快を助けようとした瀬川を委員長が無理やり引っ張って避難したというのだ。

「いくらお前でも状況変わんねーだろ!怪我人が増えただけだって!!」

「だからってなぁ……っ」

反論する委員長に鬼気迫りながら猛抗する瀬川の腕を快は止めた。

「いいよ瀬川、委員長の言う通りだ」

首を横に振って瀬川を自制する。

「お前みたいな凄い奴が俺なんかのために危険を冒す必要はないよ」

そう言ってその場を離れようとする。
今の快は瀬川が自分を想ってくれたという事実で満足だったのだ。
それプラス、卑屈な想いも。

「おい待てよ!」

今度は逆に瀬川が快を追いかけるという構図になった。
追い付いた瀬川が快の肩を掴んで止める。
必死の形相で想いを伝えた。

「マジでごめんっ……喧嘩した後考えてくれたんだろ、歩み寄るって意味」

すると快は振り返らぬまま答える。

「うん、自分なりの解釈でこっちからも歩み寄ったつもりだったよ」

先ほどのテーマパークでのやり取りを思い出す。

「でもあんなこと言っときながら無視されたらどっちなんだってなっちゃうよ、せっかく歩み寄ったのに……!」

そこまで言ってある事に気付く。

「そうか、お前もそんな気持ちだったんだな……」

それと今の自分の気持ちを照らし合わせた。

「裏切られた気持ちが強かったから今更歩み寄られてもどう関われば良いのか分からなかったんだ、今の俺も同じ……」

そう、今の二人はずっとその繰り返しをしてしまっている状態にある。

「そうだよ、だからお前が怪我して運ばれて来たとき後悔したんだ。このまま死んじまったらどうしても俺のせいだって考えちまう……」

そして瀬川は快の正面に立ちお願いをした。

「お互い後悔する前にもっかいちゃんと話さないか?しっかり歩み寄れるように……」

その悲しくも決意に満ちた表情を見て断る事は出来なかった。

「うん、そうしよう」

そのまま二人は場所を移動した。
今まで見せられなかった本心で語り合うために。





つづく
つづきます
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