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作者: 甲斐てつろう
#2
『ヒーローに、ならなきゃ。』
一方ここはConnect ONE本部。
TWELVEの隊員たちが帰投し新たな作戦を練ろうとしていた。
しかし当然歓迎はされるはずもなくいつも以上にピリついた空気が漂っていたのだ。

「……っ」

格納庫から参謀室に向かう道中、突き刺さるような視線が痛かった。
休憩中だったのか楽しそうに談笑していた職員たちも表情を一気に変えてTWELVEを睨んだ。
ヒソヒソと不満を言う声が聞こえてくる。

「コイツらまだ懲りてねぇ、どんだけ失望させりゃ気が済むんだ……?」

「この間もよく分からん調査とかで勝手に留守にしてよ、罪獣出たらどうする気だったんだ……」

一言溢れると止まらない不満をぶつけられる彼ら。
とうとう蘭子は我慢の限界が来てしまった。

「言わせておけば……っ!」

しかし名倉隊長が彼女の肩を強く掴み静止する。

「隊長、あんたそれで良いの⁈言われっぱなしで腹立つとかさぁ!」

蘭子はデモゴルゴンの件で成長したというのにそれが伝わらないのが悔しかった。

「あたしは嫌だよ、せっかく過去を乗り越えて成長できるって所なのに……」

するとその発言を聞いていた職員の一人が痺れを切らしたように直接文句を言いに来た。

「自分たちの都合が最優先みたいな言い方だな、そんな奴らに頼るしかない市民が気の毒だよ」

一度言い出してしまえば文句は止まらない。

「しかも自分たちだけじゃ何も出来ずゼノメサイアとか言う訳分からん奴の協力が前提と来た」

今回の火力不足についても指摘してくる。

「俺らがパイロットだったらそんなヘマはしねぇ、しっかり自分たちの力だけで市民を安心させてやる」

そこまで言われて蘭子は更に腹が立ち反論をしようとした。

「誰が好きで選ばれたと……っ」

しかしそこまで言いかけた時、名倉隊長が遮って話を始めたのだ。

「す、すまない……っ、俺たちの力不足は事実だ……」

普段無口の彼がわざわざ割り込んで来た事に一同は驚きを隠せない。

「だがしかしっ……それは隊長の俺の責任だ、仲間を蔑まないでもらいたい……っ」

すると職員は少し黙ってから一言だけ残した。

「自分勝手に仲間を死なせたお前の口からそんな言葉が出るとはな……」

そう言ってその場を離れていく。
自衛官時代の名倉隊長を見下すような言葉だった。

「……行くぞ、参謀たちが待っている」

静まり返る空間の中で名倉隊長は振り返り本来の目的地へ向かうのだった。





参謀室に到着したTWELVEたち。
宗教チックな部屋で待っていた参謀たちも先ほどの職員たちと同様かなりピリついていた。
その中で新生長官と時止主任だけはTWELVEの彼らを心配するような目で見ていた。

「職員たちは不満が溜まっているようだな」

「この間の身勝手な外出で信頼は地に堕ちたと思っていましたがまだ下げられたのですねぇ、その所はどうお考えですかな長官?」

嫌味を言うように新生長官を見る。

「彼らは立派な行いをしました、でなければ今頃ゼノメサイアは罪獣に取り込まれていたでしょう」

笑顔を見せて答える新生長官だが参謀の不満はそれでは収まらない。

「我々は良いのだ、問題は一般職員の不満をどうすべきかであろう!」

「彼らは無知です、今一度罪獣について説明するのはいかがですかな?」

その提案に対し新生長官は少し強張った笑顔を見せながら小声で答えた。

「……君たちのような者を増やす訳にはいかないでしょう」

しかし小声だったため参謀たちには聞き取れなかった。

「何と……?」

「混乱を招くだけですよ?」

聞き返されたら今度はニッコリとした笑顔で別の答えを口にした。

「ってか俺たちも事情知らないんですが」

手を挙げて竜司が言った。
すると参謀は鬱陶しそうに回答した。

「君らが知る必要はない」

その発言に余計に現場の空気が冷たくなったが場を変えたのは時止主任だった。

「まぁそれは良いとして、今はルシフェルの対策しましょうよ?」

明るく穏やかに言った事で話はようやく本題に移る。
議題は現在停止しているルシフェルをどうすべきかだ。

「作戦案はあるのか?」

「ええ、蘭子が送ってくれたヤツのエネルギーデータから推測すると活動再開は明日の午前三時と思われます」

壁の巨大なモニターにデータを映し出して説明する。

「そんなヤツの性質は溶岩とほぼ同一、つまり冷えてればバカ硬いけど熱すれば柔らかくなる。そして目視ですがヤツは自在に体温を調節できるみたいですね」

「何が言いたい?」

「思いついたんですよ!わざとカチコチに凍らせてそれを溶かすための熱を誘発、それで柔らかくなった所を一気にズドン!どうです、クールにアツいでしょう?」

それが強化されたルシフェル・ペイモンを撃破するための作戦だった。

「それには専用の装備が必要だと思うが時間までに準備できるか?」

すると時止主任はニヤリと笑って答えた。

「ウチら技術チームを舐めないでくださいよ!」

サムズアップして絶対的な信頼を得る。
そのまま彼は新生長官を見て笑顔になった。





時止率いる技術班が新兵器の準備を急いでいた。

「大阪の明日は俺らにかかってる、気合入れるぞ!!」

TWELVEの三機にすぐ搭載可能な凍結用の兵器を作って行く。
時止主任の知識と技術が相まって驚異的なスピードで兵器は作られて行った。

「すげぇ……」

その様子をTWELVE隊員たちは眺めている。
現場に出て戦う以外にやる事がないため今は待機だ。

「僕らが戦えるのも彼らのお陰なんだね……」

陽がそう言うと名倉隊長が背後から現れその発言を肯定した。

「そ、その通りだ……自分に出来る事をやる、出来ない所はそれが出来る人に支えてもらう。こうして関係は完成されるんだ……」

口下手ながらも一生懸命に語ってくれる名倉隊長の言葉に陽と竜司の二人は頷く。
一方で時止主任の様子を見に新生長官がやって来た。

「どうだい調子は?」

「おう継一、この調子なら余裕で装填終わるぞ」

余裕な表情を誇らしげに見せてくる時止主任に新生長官も安心していた。

「君ほどの人が我々のために動いてくれて助かるよ」

優しい笑顔で言うと時止主任も笑顔で返した。

「親友の頼みを断る訳ないだろ?」

その発言を聞いた新生長官は少し考えるような間を作ってから言ったのだ。

「……そうだね」

何か意味深な間のように感じられたがその場の誰も特に気にしなかった。
そんな二人の様子もTWELVEは見ている。

「彼らも互いの出来る事で支え合っている……」

「あの二人ってどんな関係?」

「時止さんが新生さんのお母さんの教え子だったって話聞いた事あるよ」

「じゃあ昔からの付き合いなんだな」

そのようなやり取りをして少し気分が良くなった所にまた職員たちがやって来る。
彼らもルシフェルの対応で忙しい時だと言うのに暇そうにしているTWELVEに腹が立ったのだろう。

「暇なら訓練でもしたらどうだ?」

荷物を運びながら言ってくる職員に少しもどかしさを感じながらも竜司が答えた。

「新生さんからも十分休息を取れって言われてんだよ」

だがそれがまた気に障ったらしい。

「ハッ、俺らが働いてる間いつも暇してんのにか?」

そう言われた竜司はまたキレそうになったが先ほどの蘭子と同様に名倉隊長が静止した。

「俺たちに出来ない事をいつも任せ切りですまない、感謝している」

冷静に大人な対応をされた事で職員も少し焦る。
いつもなら言い返して来たというのに。

「そして俺たちも自分に出来る事を精一杯やるつもりだ、信じてサポートして欲しい」

その名倉隊長の言葉には純粋さが隠れていた。

「……あぁ、分かってるよ」

不服そうにしながら職員は去って行く。
残されたTWELVE隊員は隊長の成長に唖然としていた。

「隊長、変わった?」

不思議そうに竜司が問う。

「あの夢の中で俺は変わると誓った、お前らもそうだろう」

決意に満ちた目でそう語る。

「今の環境が気に入らないなら自分が変われば良い。少なからず成長は必要だからな、それに応じて環境も変わって見える」

そして以前のデモゴルゴンの件を思い出して続けた。

「あの時ゼノメサイアから聞こえた気がしたんだ、"歩み寄る"という言葉が……」

その目は遥か未来を見ていた。
他二人は一度目を見合わせた。

「だからアイツらにも歩み寄ってみたんですか?」

職員たちの事を思い浮かべて陽が問う。

「自分から変われば何かが分かる気がしてな、陽の言葉を使わせてもらった」

自分に出来る事をするという言葉の事だろう。

「俺は変わるぞ、あの頃のまま讃えられようと思う傲慢な自分とはおさらばだ」

そして準備が整い次第、彼らは再び戦場に赴くのだった。





つづく
つづきます
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