残酷な描写あり
R-15
第12話「依頼『盗賊頭を討伐せよ』①」
■■盗賊のアジト、内部にて■■
「【アーカイブ】」
そう唱えると、僕の眼前には半透明な一冊の本が浮かび上がった。
数ページめくり、目当ての項目を見つける。
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■ステータス
ユウ・ターナカ/田中勇愛
職業:【操奇】の勇者
レベル:50★★★
基礎ステータス:
HP1790 MP315 AP242
攻撃179 防御295
魔法121 抗魔237
鋭敏5
恩恵値:
剛毅の祈り0
堅牢の祈り58
賢哲の祈り0
星詠の祈り0
魔法セット:
炎玉【イグニス】
水陣【アクア】
●●【●●●●●】(使用不可)
雲壁【ヌーベス】
回復【レフェクティオ】
治癒【クラーティオ】
堅鎧【アルマ】
守套【マンテルム】
スキルセット:
【居合斬り】【活人剣】
【白刃流し】【朴念】
【鎧打ち】、【空蝉】
【ラウンドアバウト】(蓄積42)
【河漢之言】
固有スキル:
【ラウンドアバウト】(セット済)
【河漢之言】(セット済)
【星詠み】(有効)
【孤軍敢闘】(無効)
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「蓄積は……『42』か。まだみたいだな」
呟いて、暗がりに身を隠す。
かつては魔物の棲み処だったという洞穴は、空気が嫌に湿っていた。
数時間ほど前。
以前、受注したのをすっかり忘れていた盗賊の討伐依頼について、シアさんから『期限が近いのでそろそろ取り掛かってはいかがでしょう』と連絡が入ったため、僕は装備一式を携えて、盗賊団が拠点としているこの洞穴へやってきた。
しかし、入口の見張り三名とやりあったあと、ちょうどアジトに戻ってきた盗賊の一党と鉢合わせてしまった僕は逃げるようにして、ここへに這いずり込んだのである。
思いのほか、内部の構造は入り組んでおり、現在、絶賛迷子中だった。
「極力、入口に誘き寄せて戦いたかったんだけどな……」
事前に調達していた地図を参照してみるが、恐らく盗賊の根城にされて以降、更なる改築が行われたのか――全くアテにならない。
それどころか、逃走中、周囲の気配にばかり注意を払ってしまっていたため、今となっては帰り道も分からなかった。
「――――」
不意に砂利を踏みつける音が聞こえて、僕は息を潜めた。
数は――四、五名といったところだろうか。
やりあえない数ではないが、騒ぎを起こしたらもっと人数が増えるだろう。
まだ【ラウンドアバウト】の蓄積値も足りないし、なるべく混戦は避けたい。
その足音は僕が隠れている横穴のところまで来て止まる。
そして、そのまま導かれるように僕の目の前までやってきた。
「えっ」
僕の姿を認めると、その盗賊は無精ひげの上からでも分かるくらい口の端を吊り上げた。
「こんな間抜けは初めてだ。【アーカイブ】は出したらちゃんと仕舞えよニィちゃん。丸見えだったぜ」
「あっ」
あっ。
やってしまった。
しかも【アーカイブ】はあらゆる空間に配慮した仕様なのか、暗がりでは薄ぼんやりと光る。
それはもう目立ち放題だっただろう。
「く、【クローズ】……」
そう唱え終わったころには、五名の盗賊がそれぞれに携えた剣やら斧やらを構えていた。
先頭の無精ひげが飛びかかってくるのを見て、僕は一旦剣は抜かずに対応することにした。
現在、僕は装備品として『白金の手甲』に『白金の帷子』、『神獣革のズボン』、アクセサリーで『女神の耳飾り』と『女神の外套』を着用している。
『白金の鎧』と『白金の足甲』を選択していない分、所持している装備の中で最硬の防具セットではないが、動きやすさを重視しており、体にも馴染んだバランスセットだ。
『女神の耳飾り』のお陰でMP上限が上がるので、魔法の使用を前提とすれば、防御性能も十二分に補える。
「――堅鎧【アルマ】」
自分の体を薄い光が包んだのを確認して、僕は無精ひげの剣を右手の手甲でいなした。
そのまま余った左手で盗賊の汚れた手の上から柄を握り込み、動きを制限する。
「『43』」
「な、なに――」
流れるように右手の平を無精ひげの顔の前にかざすと、僕はすかさず魔法を放った。
「炎玉【イグニス】」
目の前で盗賊の顔面が炎に包まれ――爆発した。
勢い余って、残った首から下が吹き飛び、背後にいた盗賊たちにぶつかる。
返り血はなかった。首周りの肉組織を焼き潰したからだ。
ほんの数瞬で死体になった仲間だったものに盗賊たちが狼狽えているのを、僕は当然見逃さない。
「水陣【アクア】」
次に先頭になった盗賊を水の塊が包んだ。
彼は兜と鉄の前当てを着込んでいたが、苦悶の表情を浮かべるなり、水塊の圧力に丸ごと押しつぶされる。
水陣が中身ごと地面に崩れ落ちた頃には、僕は残りの三名に近づいて、自分の間合いの中に入れていた。
ひしゃげた肉塊を踏みつけて、僕は斧で襲いかかってくる盗賊に対応する。
剣と違って手甲だけでは受け流せないと判断し、今度はスキルを使用した。
「【白刃流し】」
手甲に触れた瞬間、その重量物が軽く弾き飛ばされた。
三人目の盗賊は握った斧に引っ張られて尻餅を突く。
「『44』」
「く、クソ―ー」
僕は踏み込んでそいつの頭部を補足する。
「【鎧打ち】」
手甲で殴りつけると、頭蓋が大きく凹んで、三人目の盗賊は力なく倒れた。
「【居合斬り】」
「うっ――?」
それからついでに迂闊に近づいてきた四人目も――剣を抜いて斬り捨てた。
なにが起こったか分からないような顔をした生首が、そのまま、ボトリと地面に落ちた。
「……ふぅ」
「あ、ああ……」
そして、五人目。
彼はもう戦意喪失しているようだった。
武器の剣を取り落とし、壁際で怯えた表情を浮かべている。
あまり見比べる余裕もなかったが、五人の中ではだいぶ若い方なのではないだろうか。
少なくとも、僕よりは年齢が下に見えた。
こんな働き盛りの人間が盗賊に身を窶しているなんて、世も末である。
いや、若いからこそ、こういう道を選んでしまうのかもしれないけど。
『大盗賊団』なんて呼ばれている連中には、城暮らしのやつもいて、身なりも盗賊には見えないほどだと聞く。
「ふ、ふざけんな。アンタ、いったい何者だ。見張りのやつらにはあんなに手こずってたじゃねえか!」
「あれは『数値』を稼いでたんだ」
「な、なんの話だよ。さっきから数えてやがる妙な数字の話か……?」
「さて、ね」
僕は剣先をその若い盗賊に向けた。
「頼む、待ってくれ!」
「君の『オカシラ』はどこだ」
「云ったら……助けてくれるのか」
「そんなわけないだろ。死に方を選ぶ権利くらいならくれてやるけど」
「そんな……」
それから盗賊は嗚咽を垂れ流し始めた。
僕は他人が感情的になっている姿を眺めているのが、あまり得意ではない。
苛立ちを覚えながら、仕方ない、と剣を振りかざす。
そのとき、彼の表情が変わった気がした。
彼は視界になにかを捉えたようだ。
「分かった、云うよ」
その指先が僕の背後に向けられたのを見て、僕は直感的に自身の危機を悟った。
「――お前の後ろだ」
――『45』。
振り返る暇さえなく、後頭部を打つ衝撃。
僕はひっくり返る視界と共に、そのまま意識を失った。
▲▲~了~▲▲