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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第56話 (幕間)勇者候補チーム結成
 エウィ王国にある騎士訓練所。
 本日はシュンと他の勇者候補が、顔を合わせる日だった。待ちに待ったわけではないが、どのような人物かは興味がある。

「他の奴らってさ。ザインさんとは別の騎士が付いてるんだよな?」
「はい。その中から実力のある人たちを集めました」

 隣を歩くのは聖女ソフィアだ。
 彼女は異世界人の全員と会っており、その面倒を見るのも仕事である。他の勇者候補とも、面識は深い。
 今回はシュンと引き合わせるために、一緒に訪れていた。

(雑用をやれる奴がいねえぜ。アーシャもよお。元の顔に戻ったなら、俺のところに戻ってくりゃいいのに……。クソッ! おっさんのせいだぜ!)

 アーシャは恋人として、欲望のけ口に使える便利な従者だった。
 魔族との戦闘で顔が焼けただれ、自分に釣り合わないと一度は捨てた。しかしながら次に会ったときは、元の顔に戻っていたのだ。
 ならばと復縁を迫ったが、結果は拒否だった。
 現在はフォルトのところに身を寄せていても、彼女の帰る場所はシュンの従者しかないと思っている。だからこそ、未だに納得していない。
 あれだけ、おっさんを嫌っていたのだから……。

「なぁソフィアさん、アーシャって……」
「アーシャさんがどうかしましたか?」
「い、いや。何でもねぇ」

(まぁいい。俺はソフィアを狙ってんだ。アーシャだって、いつまでもおっさんの傍にはいねぇだろ。戻ってきたら、前以上に愛してやんぜ)

 シュンは客商売のホストとして、特定の女性を愛することは無かった。
 そして、愛とは「商品」と考えている。自身を指名した女性客に与えるもので、誰も独占できないのだ。
 女性は金や体を使って、理想の男性から愛という「商品」を買う。だからこそ一緒にいる時間を増やして、恋愛感情を満足させることが対価となる。
 この思考回路は、世界が変わっても同様だった。

「もしかしてさ。最強チーム?」
「いえ。レベル三十を超えたチームはありますよ」
「そうなのか?」
「数年前に召喚した人たちですね。シュン様より先行しています」
「ならよ。すぐに追い抜いてやるぜ!」
「頼もしいですね」
「なぁソフィアさん」
「こちらです」
「ちっ。おっさんめ!」
「はい?」

 ソフィアを口説こうとしたところで、顔合わせの場所に到着した。
 シュンは余計なことを考えて、二人きりの時間を使いきってしまった。実に残念だが、それすらもフォルトのせいにした。
 アーシャを連れていかれたせいで、もっと嫌いになったからだ。

「皆さま、お待たせしました」

 ソフィアが扉を開けて、部屋の中に入った。
 今は他の勇者候補と対面するのが先なので、シュンも続いて入室する。応接室のように立派な部屋ではなく、質素な会議室が正解か。

「聖女さん、久しぶり!」
「たまにはよお。俺らのほうにも来てくれや」
「あ、あの……。こんにちは……」

 部屋の中には、三人の日本人がいる。
 勇者が米国人だったわりに、日本人の比率が高いような気がした。しかしながら、それは勘違いである。
 同郷の者同士で組んだほうが良い結果を生むらしい。もちろん例外はあるが、必然的に日本人は、日本人と組まれることになっていた。
 単純に出会う機会が無いだけだ。

「こちらが「聖なる騎士」のシュン様です」
「元ホストだ。よろしく頼むぜ」

 真っ先にシュンが紹介されたのは年長者だからだ。
 二十六歳になったばかりだが、他の勇者候補はもっと若かった。

「ホストだあ? テメエとは気が合いそうにねぇなあ!」
「ギッシュ様!」
「安心しな。気が合わねぇだけだ。ちゃんとしてやんよ」
「そっそうですか?」
「元、夜叉やしゃ連合愚連隊の総長だ。夜露死苦!」
「称号は?」
「あん? 俺の称号は「鬼殺し」!」

 いきなりシュンに突っかかってきたのはギッシュである。
 暴走族の総長だった男性で、現在は十九歳。称号がとても似合っている。特徴的なのは、大きな体格とトサカリーゼントだ。
 顔も強面で、将来の就職先は筋者関係だろうと思われた。

(なっ何いう時代錯誤の不良だ。確かツッパリというのか? まだ絶滅してなかったんだな。召喚されるのに年代とか違ったりしないだろうな?)

 シュンの疑問は当然だ。
 召喚される前の日本では、ギッシュのような不良はほとんどいない。
 時代的には、フォルトが学生のときだろう。表情には出さなかったが、少々意外だった。とはいえ、ハッキリ言って興味は無い。
 興味があるのは、次の人物からだ。

「こちらは「音速の貴婦人」のアルディス様です」
「ボクはアルディス。実業団の女子空手部に在籍してたわ」

 次に紹介されたアルディスは、こちらも珍しいボクっ娘だ。現在は二十二歳だが小学生の頃からの癖で、「ボク」が抜けないらしい。
 ショートカットの可愛い女性である。

(女っ気が無いと思っていたが、旨そうな女がいるじゃねぇか! でも、どこかで見た記憶があるな? えっと……)

「お前ってさ。テレビに出てなかったか?」
「取材とかは受けたね。オリンピック代表候補だったのよ」
「凄ぇな!」
「でも種目が無くなったからね。出場できなくてさあ」
「そりゃ残念だ」

 アルディスは美少女空手家として、テレビや雑誌で取り上げられていた。
 モデルの仕事も多かったようだ。オリンピックの代表候補選手に選ばれたときは、連日のように話題となっていた。
 これには、シュンも目を光らせる。
 もちろん、実績もあった。日本の大会は当然として、世界大会でも優勝しているので強さは折り紙付きだろう。
 チームの戦力としては申し分ない。

「次が「賢者の卵」のエレーヌ様です」
「そっその……。エレーヌです。女子大生でした」
「あれ? お前も見た記憶が……」
「忘れてください!」
「ああっ! ミス・キャンパス!」
「いやあ!」

 エレーヌは、某有名進学校で行われたミス・キャンパスのコンテスト優勝者だ。とはいえ本人の意思ではなく、友達の悪ふざけで出場させられた。
 とても内気な性格をしており、華やかさのある女性ではない。
 どちらかと言うと、ガリ勉で目立たない女性だった。伊達だて眼鏡をかけて空気のように存在していたが、奇麗だと知られて悪戯されたらしい。
 現在は、二十歳である。

(何だよ。当たりチームじゃねえか! この二人なら簡単に口説き落とせるぜ。運が巡ってきやがった。さぁて、どうやって落とすかな)

 アルディスとエレーヌの二人は、可愛い系に奇麗系でタイプが違う。
 シュンの狙いは変わらずにソフィアだが、つまみ食いには丁度良い。

(問題は、やはりこいつか……)

「ああん? 何ガンつけてんだ! コラッ!」

 これだ。
 ギッシュ本人が言ったように、とても気が合いそうもない。人種的に違う感じがしている。女性には興味無さそうだが、邪魔なことには変わりがない。
 そうは言っても、喧嘩けんかでは絶対に勝てない。
 武器を使った戦闘でも、今は厳しいかもしれない。体格が大きくて、オーガの一撃も簡単に受け止めそうだ。

「後はノックスさんが加わって、一つのチームになります」
「それなんだがよお。聖女さん、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
「あんたもチームに入ってくれねぇかな?」
「え?」

 ギッシュがソフィアを勧誘する。
 残念ながら狙いは分からないが、これは望むべき展開だろう。シュンと同じチームなら、いつでも口説けるのだから……。

(ナイスだぜ、ギッシュ! やっぱり気が合うかもしれねぇな。女として狙ってねぇのは分かる。まとめ役でも欲しいってことか?)

「なぜでしょう?」
「空手家の女と後方支援の女はいいんだがよお」
「はい」
「このホストがよ。足手まといにならねぇか不安なんだよ」
「何だと!」

 ギッシュの言葉は、シュンを侮辱するものだ。職業差別ではなく、男性として弱いと決めつけている。
 それには我慢ならなかった。

「ガキのくせに粋がってんじゃねぇよ!」
「こっち世界じゃ歳は関係ねえ! 強いか弱いかだぜ!」
「そんなことは分かってんだよ!」
「ならよお。俺とタイマンでも張ってみっか?」
「いいだろう。え面をかかせてやるよ!」
「駄目です! 認めません!」

 まさに、売り言葉に買い言葉だった。
 ここまで言われて引き下がれば、シュンの活動に支障が出るだろう。ギッシュから逃げたと言われては、女性を口説くのにも骨が折れる。
 負けるのは良いが、気概を捨てたらおしまいだ。しかしながら、ソフィアが冷や水を浴びせるように争いを認めない。

「なぜだ? 弱ぇ仲間なんぞ要らねぇぞ!」
「矛盾しています。私は弱いですよ?」
「聖女さんは頭がいい。下手な戦士より使えるぜ」
「ソフィアさんに向かってよ。使えるとか言ってんじゃねえ!」
「けっ! 俺はこっち世界でも、てっぺんを取るんだよ」
「はあ?」
「喧嘩も走りも負けたことがねえ! 無敵の看板を背負ってんだ!」
「だから何だってんだ!」
「その意味を教えてやろうってんだ!」

(やっぱり気が合うわけがねえ! 時代錯誤すぎてついていけねえ! だが、馬鹿にされたままで終われるか!)

 シュンとて勇者候補としての訓練を乗り越えて、魔物との実践も経験してきた。すでに一般兵より強く、限界突破も近い。
 成人式も迎えていない子供に、大人がめられるわけにはいかないのだ。

「駄目です! もし続けるならチームを解散します!」
「上等だ! コラッ!」
「………………。じゃあよ。別の方法ならどうだ?」

 チームを解散されては困る。
 まだ出会ったばかりで、アルディスとエレーヌを味わっていない。再び二人と組まれるとは限らないのだ。
 ギッシュはどうでも良いのだが、ここまで言うからには強いのだろう。シュンは感情的になったが、実際は物事を冷静に見ていた。
 これも、ホストとしての経験である。
 同業者で言いがかりを付けてくる奴など無数におり、客の奪い合いなどは日常茶飯事だった。時には言葉で、時には暴力でねじ伏せたものだ。
 そこで、ソフィアに提案する。

「え?」
「例えばよ。チームで魔物退治はどうだ?」
「馬鹿かテメエ。俺との勝負にならねぇだろ!」
「考えてもみろ。チームとは一つの生き物だぜ!」
「はあ? なに言ってっか分かんねぇよ!」
「個人の優劣ではなく、チームでの強さを求めるべきだ!」
「シュン様の言ったとおりです」

 ソフィアから肯定されて、シュンはニヤけそうになる。だが表情に出すと、今まで見せていたイメージが崩れてしまう。
 好青年を演じるために、ポーカーフェイスを貫いた。

「ギッシュが強いのは分かってる」
「あん?」
「俺の強さを見られればいいんだろ?」
「そっそうなんだがよ!」
「ならよ。オーガ退治でもやろうぜ」
「ちっ。いいぜ。その提案に乗ってやんよ!」

(チョロいな。いくら暴走族の総長と言っても所詮はガキか)

 シュンの口車に勝てる者は少ない。
 ギッシュが知りたい内容は物理的な強さだが、別に喧嘩で教える必要は無い。魔物との戦いで見せつければ良い。
 ソフィアを味方に付けたので、提案を受け入れるしかないだろう。
 政治家と同じで、ホストも言葉が武器である。
 売れっ子ホストは伊達ではなく、男性でも女性でもかわすのは得意だった。

「だけどよ。ソフィアさんが入ってくれると助かるな」
「聖女としての仕事がありますので……」
「その何だ。考えといてくれ」
「はっはい!」

 女性を口説き落とす条件。
 それは、押し過ぎないことだ。ソフィアの立場を尊重して、自分には必要な女性だとアピールしておく。
 がっつく男性は嫌われるのだ。

「あれ? やらないんだ」
「け、喧嘩は良くないですよ?」
「ふっ」

 アルディスとエレーヌの言葉で、シュンは性格を把握した。
 女性の口説き落とす方法は、三者三様である。最も適したものを選ぶのが、ホストとしての腕の見せ所だった。

「そうと決まればよ。オーガを退治しにいくぜ!」
「でしたら魔の森の討伐隊に、配属の申請を出しておきますね」
「ソフィアさんに任せるよ」
「テメエ。ビビッて逃げ出すんじゃねえぞ?」
「その挑発には乗ってやる。お前の眼鏡にかなうようにするさ」
「けっ。口だけじゃねぇことを祈るぜ」
「今回はノックスさんの代わりに、私が同行します」

 ノックスの合流には、まだもう少し時間が必要だった。
 ともあれシュンは、新たなステージに立った。チームとして行動するならば、今までとは違った世界が開けるだろう。
 そして期待感を覚えながら、自己紹介の続きをするのだった。


◇◇◇◇◇


 オーガ退治も良いのだが、シュンにはやるべきことがあった。
 それは、チームのリーダー権を奪っておくことだ。年長者だからではなく、全員から信頼されて掌握する。
 そうしないと、アルディスやエレーヌとの時間を作ることが難しい。

(オーガよりも難題だが……。アルディスとエレーヌは問題無い。やはり、ギッシュが問題だ。暴走族の総長だったなら、人の下には付きたくないだろう)

 やることは立派なのだが、目的が捻じ曲がっている。今のシュンを、アーシャが見たらどう思うだろうか。
 それは、彼女にしか分からない。

「よし! 行くぞ!」
「おおっ!」
「はっはい!」
「んだよテメエ、仕切ってんじゃねぇよ!」
「ギッシュ様……」
「お、おう。すまねえ」

 どうやらギッシュは、ソフィアの言葉なら聞くらしい。
 面倒見の良い女教師に、頭が上がらない不良といった構図である。

「ギッシュはよ。どういった戦い方をするんだ?」
「俺か? 俺はタンクだぜ!」
「タンク?」
「盾職戦士だ。俺が魔物を抑えるから、オメエが倒せってことだ」
「なるほど」

 ギッシュの装備は、ハーフプレートにグレートソードである。盾を使わないのは性格で、見た目どおりに攻撃的なのだ。
 それで盾職戦士とは恐れ入る。

「シュンさんが倒せなかったらさ。ボクが倒すよ!」
「呼び捨てで構わないさ」
「そう? なら、シュンって呼ぶね」
「アルディスは攻撃が速そうだし、牽制けんせいを頼めるかな?」
「いいよ。危なかったら手を出すけどね!」
「そのときはよろしくな」

(アルディスは自分の戦闘力に自信があるな。年長者への礼儀も心得てる。なら後は簡単だ。ボクっ娘の部分がわなだから、そこを気を付ければいいな)

 まるで恋愛シミュレーションのように、クリアを目指す。
 シュンの頭の中をのぞけるなら、ピンク色のお花畑が咲き乱れてるだろう。

「エレーヌさんは魔法使いだよね?」
「わっ私も呼び捨てでいいですよ」
「そうか」
「補助と治療ができます」
「ならさ。怪我をしたときは頼むな」
「はっはい! 大丈夫です」

(エレーヌを口説き落とすにはタイミングが重要だな。本人が内気だから、グイグイと引っ張るのが正解だが……。それは罠だ! もう少し様子見だな)

 シュンはホストとしての経験則から、答えを導きだす。もちろん、それが正解かは分からない。百発百中ではないが、自信満々だ。
 そんなことを考えている間に、オーガが出没する場所まで歩を進めた。

「そろそろオーガの縄張りだぜ」
「グオオオオッ!」
「早速だな。タンクってことは、最初は任せるぜ?」
「誰にモノを言ってやがる! 後ろで見てな!」

 威嚇のつもりか。はたまた、餌を見つけた歓喜か。
 大声とともに、オーガが一体現れる。群れていないのは幸いだが、これはソフィアが他の兵士に陽動を頼んでいたからだ。
 ともあれシュンたちは、武器を抜いて迎撃する。

「グオオオオッ!」
「ああん? テメエ、誰に向かって吠えてやがる!」
「グオッ?」

 ギッシュが前方に飛び出し、背負っていたグレートソードを抜き放つ。しかもオーガへ対して、顎を上げながらガンを飛ばした。
 その効果のほどは分からないが、立ち止まって首を傾げている。
 思わずあきれそうになるが、臆することはないようだ。シュンが知らないだけで、このツッパリは勇者候補として戦ってきたのだろう。
 これなら安心して、最前線を任せられる。


【ストレングス/筋力増加】


 エレーヌはギッシュに対して、身体強化系魔法を使った。
 魔物との戦闘は心得ているようで、文句も言わずに受け入れている。シュンの想像では、支援魔法を拒否すると思っていた。
 そして迫ってきたオーガは、棍棒こんぼうを振り下ろしてくる。
 体格はオーガのほうが上でも、筋力増加魔法のおかげで一撃を受け止めた。

「舐めんじゃねえぞ! コラッ!」
「グオオオオッ!」
「けっ! 今だぜ!」
「アルディスは左から攻撃してくれ!」
「はいよ! とりゃああっ!」
「エレーヌは俺にも強化魔法を!」
「はっはいっ!」

 シュンの指示通りに、アルディスがギッシュの左側から飛び出した。次にオーガの脇腹に強烈な蹴りを入れて、すぐさま正拳突きを放つ。
 見事な二段攻撃だった。

「後ろに下がって! 俺は右から行くぜ!」


【ストレングス/筋力増加】


「とっ、とと……。任せたよ!」

 シュンがアルディスが下がったことを確認して、ギッシュの右側から飛び出す。と同時にエレーヌからは、筋力増加魔法を受ける。
 オーガの注意は左に向いているため、右側が死角になった。

「おりゃあ!」
「グオオオオッ!」

 シュンの気合が乗った一撃は、オーガの脇腹をえぐった。
 その痛みで棍棒を落とし、ギッシュから離れて脇腹を押さえている。

「アルディス、足を狙え!」
「任せて! たあっ!」
「グアッ!」

 チャンスと見たシュンは、再びアルディスを突っ込ませた。
 彼女はオーガの足に、強烈なローキックを放つ。狙いすました一撃は、膝の関節に当たっている。
 その攻撃で片膝を折ると、丁度良い高さに頭が降りてきた。

「やれよ。総長!」
「もらったぜ!」
「グオオオオッ!」

 自由になっていたギッシュが、最後の一撃を振り下ろした。筋力が増加されているので、その一撃からは圧倒的なパワーを感じる。
 そして脳天をかち割られたオーガは、地面に倒れるのだった。
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