残酷な描写あり
R-15
第24話 小悪魔と魔剣士1
ニャンシーが旅立ってから数日後。
フォルトは自宅から出て、レイナスの訓練をボーっと眺めている。
剣を使って素振りをしているが、相変わらず効果のほどは不明だ。もちろん技量についても、サッパリ分からない。
「御主人様、ご飯ですよぉ!」
「レイナス! 飯だ!」
「はいっ!」
カーミラに呼ばれたフォルトは、レイナスの訓練を止めた。
タオルを彼女に手渡した後は、一緒に自宅に入る。するとリビングには、大量の料理が置かれていた。
当然のように、摘まみ食いをしながら椅子に座る。
(自動狩りができなくなって、レベルが上がらなくなったようだなあ)
レイナスのレベルは二十五になっているが、それ以上は伸びていない。現在は実践ができないので、日課の訓練だけでは駄目なのだろう。
ともあれフォルトの視線は、テーブルに並べられた料理に釘付けだ。
「今日も大量だな!」
「はいっ! 裏山でも狩らせてますからねぇ」
自宅の裏山は、獲物が豊富だった。
魔の森は魔物との取り合いになるのだが、山には魔物が少ない。鳥系の魔物はいるが、森ほど消費量が多いわけではなかった。
「レイナスよ」
「はいっ!」
「装備をどうにかしないとなあ」
「装備ですか?」
レイナスの使っている剣は、随分前に自宅に訪れた騎士たちの装備品だ。
カーミラが始末したときに、戦利品として剥ぎ取っていた。鎧については死体と共に森に捨てたらしいので、ゴブリンかオークが使っているかもしれない。
そのときの話を食事の合間に聞かせたが、彼女は何とも思わなかったようだ。
「フォルト様を怒らせた人間が悪いですわ」と言っていた。
「レベルに合った装備をするのは基本だ!」
「鉄の剣で良いと思いますわよ?」
「いや。防具だ」
「確かにそうですわね」
レイナスの防具は、魔法学園の制服だ。
普通の学生服なので、防具とも言えない代物である。しかも彼女は、その制服以外を持っていない。
洗濯したときは、獣の皮から作製したボロい服を着ていた。
「レイナスの専用装備が欲しい!」
「え?」
「レイナスちゃんにはどういった装備がいいんですかぁ?」
「エロ……。いや。動きやすい装備だな!」
フォルトは恥ずかしさのあまり、慌てて言い直した。しかしながら、カーミラやレイナスは感づいている。
一緒に生活するようになって、趣味が分かっているのだ。
「あからさまなのは駄目でーす!」
「見えそうで見えないのがよろしいですわ!」
「なら売っているような装備じゃないですねぇ」
「カーミラちゃんのような服が良いのかしら?」
「レイナスちゃんの制服もいいと思いますよぉ」
「なななっ! 何を言っているのだ?」
「「え?」」
二人の会話に対して、フォルトは赤面してしまう。
いくら趣味がバレているとはいえ、性癖を言われると恥ずかしい。
「御主人様。レイナスちゃんの装備ですよねぇ?」
「そっそうだ!」
「恥ずかしいですわね」
「御主人様のために我慢でーす!」
「そうね!」
「そっその……」
「お腹を出すと防御力が落ちますわ!」
「太ももは平気かなぁ?」
「えっと……」
フォルトは会話に入れないので、料理を食べながら聞くことにする。女性同士の会話に、おっさんが入る余地は無いのだ。
それにしても、本当によく分かっていらっしゃる。
「フォルト様!」
「どどど、どうした?」
「残念ながら、フォルト様が望む装備は売っておりませんわ」
「だろうな」
当たり前の話である。肌を露出した部分は弱点になるのだ。
アニメや漫画などでは、ビキニアーマーといった露出の激しい防具があった。とはいえ現実的に考えると、それを装備して魔物と戦うなど狂気の沙汰である。
などとフォルトは思ったが、カーミラの一言で希望が出た。
「魔法付与すれば大丈夫でーす!」
「もぐもぐ。一時的じゃなくてか?」
「色々と必要ですけどねぇ」
「ふーん。どうやるんだ?」
「御主人様ならやれますよぉ」
「ふむふむ。面倒だが引き出すか」
目を閉じたフォルトは、アカシックレコードから情報を引き出した。
その内容には、「ほう」と感嘆の声を洩らす。魔法付与さえ施してあれば、ビキニアーマーでも戦闘に耐えられそうだ。
布製の服も同様なので、魔法が存在する世界に感謝である。
ただし……。
「もぐもぐ。材料が必要のようだ」
「付与する種類によって変わりますよぉ」
「防御力を上げるぐらいでいいと思うが?」
「駄目でーす!」
「え?」
「サイズの自動調整と自動修復、汚れ落としも必要でーす!」
「あぁ……。確かに欲しいな」
細かい話だが仕方がないだろう。
オーダーメイドならば良いが、普通は体型に近いサイズのものを購入する。また体型に変化があると、オーダーメイドでも寸法が合わなくなるだろう。
自動調整が付与されていれば、完璧に体型と合わせてくれるのだ。
他にも壊れれば修復が必要であり、手入れも必要になる。だがそれすらも、魔法付与でどうにかなるようだ。
「でも材料が無いぞ」
「基本的なのは魔界にありますよぉ」
「おっ! なら後で取ってきてくれ」
「分っかりましたあ!」
フォルトは視線を落として、自身の服を見た。
この吸血鬼のコスプレのような服も、カーミラの言った魔法付与が施されている。今更ながら思うが、非常に重宝していた。
「ついでに魔法学園の制服も奪っといてね」
「はあい!」
レイナスの制服は、汚れていたり破れている個所がある。魔法付与を施すなら、さすがに新品が良い。
そう考えたフォルトは、二人と食事を楽しむのだった。
◇◇◇◇◇
魔法付与の話を聞いてから、一週間が経過した。
またまたフォルトは、屋根の上からレイナスの訓練風景を眺めている。
他にやることが無いので、はっきり言えば暇なのだ。と言っても、こういった怠惰な時間が好きなので問題は無い。
そしてカーミラの膝枕を堪能しながら、別の人物について口にした。
「ニャンシーはどこまで行ったかな?」
「分かりませーん! 直接聞くといいですよぉ」
「まぁそうなんだが、な。すぐ呼ぶなって言われたし……」
「報告と連絡と相談は基本でーす!」
「確かにな。ではニャンシー!」
電話など無い世界なので、結局は呼び出すしかない。ならばとフォルトは、自身から伸びている糸のようなものに意識を向ける。
不可視なので見られないが、この糸電話のような魔力の糸が、眷属のニャンシーに繋がっているのだ。もちろんカーミラとも繋がっているし、仕事に従事させている魔物にも伸びていた。
大量に召喚すると、結構大変なことになる。
「にゃあ!」
暫く待っていると、フォルトの近くに澄まし顔のニャンシーが現れる。
数分で戻れる手段があるところも、あちらの世界との相違点だ。しかしながら、多少の待ち時間が必要である。
転移の魔法は無いようで、アカシックレコードにも情報は無い。カーミラに聞いても、残念ながら存在しない魔法との話だった。
「すまんな。ニャンシーのことが気になったもんで!」
「いや。ちょうど良かったのじゃ」
「うん? どういう意味だ?」
「旅の途中で魔族と出会ってのう」
「ほう」
「探しておったのじゃろ?」
「何で探してたんだっけ?」
「主!」
ニャンシーが腕をバタつかせながら怒っている。
猫が擬人化した姿なので、とても可愛らしい。だがフォルトの記憶には、魔族の件については無かった。
「レイナスちゃんに魔法を教えてもらうんでーす!」
「あ……。そうだったな」
単純に忘れていたようだ。
魔法の習得については、ニャンシーで事足りてしまったからだ。
「もしかして、魔族を助けたのは余計なことじゃったかのう」
「いや。確かもう一つ……。カーミラ?」
「限界突破でーす!」
「そうだった。ニャンシー、よくやったぞ!」
「調子がいいのう」
「はははっ!」
詳しい話を聞いたフォルトは、魔族を連れてくるように頼んだ。
知らない人と会いたくないのだが、魔族には興味がそそられる。新天地については急いでいないので、旅は後回しで良いだろう。
それに、折角発見したのだ。
レイナスの成長のためには、是が非でも連れてきてもらいたい。
もちろん、客人として迎えるつもりだった。
「魔族は妾のように魔界を通れぬ。移動に時間をもらうのじゃ」
「分かった。丁重にな」
「それと食料を多めにもらえるかの?」
「倉庫から勝手に持っていっていいぞ」
「ところで、主が迎えに来るのは……」
「面倒! 怠い! ニャンシーに任せた!」
「さすがは御主人様です!」
「はぁ……」
ニャンシーは溜息を吐いている。
フォルトが迎えに行けば手っ取り早いのは分かっていた。とはいえそれがやれるなら、新天地は自分で探している。
大罪の怠惰を持つせいで、日本にいた頃よりも駄目男なのだ。
「では行ってくるのじゃ」
「行ってらっしゃーい!」
報告が終わったニャンシーは、倉庫から食料を持って魔界に消えた。
二人分の食料を数日分なので、結構な量になる。フォルトからすると、食料を詰めた袋を魔法で浮かせていたところが面白かった。
「魔族なんてよく発見しましたねぇ」
「お手柄だな。でも限界突破の作業はできるのか?」
「分かりませーん!」
「来てから考えればいいか。魔法の先生ぐらいはできるだろ」
「はい! それよりレイナスちゃんの装備ですねぇ」
「そうだった。材料は取ってきたか?」
「取ってきましたよぉ」
「じゃあレイナスの制服を持ってきて」
「はあい!」
現在のレイナスは、カーミラが都市から奪ってきた新品の制服を着ている。
指令を受けた小悪魔は、その制服を剥ぎ取ろうとするのだった。
「ちょ、ちょっと! カーミラちゃん!」
「早く脱いでくださーい!」
「嫌よ!」
「水浴びじゃいつも脱いでるでしょ!」
「それはそうだけど……。ダメエ!」
「さあさあ。早く早く!」
(これは良い眺めだ。いけ! カーミラ! あと少しだ!)
まるで、キャットファイトのようだ。
フォルトの応援が届いたのか、カーミラは見事に制服を剥ぎ取っていた。結果としてレイナスは、あられもない姿で地面に座り込んでいる。
そして、制服が届けられた。
「えへへ。御主人様、持ってきましたあ!」
「でかした! さすがはカーミラだ」
さすがに嗅いだりしない。そっち系の趣味はないのだ。
それでも生暖かくて、まさに脱ぎたてのホヤホヤだった。
「では早速付与してみよう」
「ドキドキ」
フォルトは受け取った制服を、屋根の上に広げた。
これは、魔法学園の制服である。スカートが短くて、訓練の最中は見えそうで見えない一品だ。黒のニーハイソックスも、絶対領域を演出する重要なものだった。
次にカーミラの持ってきた材料を、制服の上に置いた。
後は付与魔法を使うだけだ。
【フィクスト・エンチャント/固定・魔法付与】
付与魔法自体は、中級に属する。
扱える魔法使いは多く、もちろんアカシックレコードにも入っていた。
「きゃー! 初めて見ましたぁ!」
「できたか?」
「鑑定するといいでーす!」
続けて鑑定魔法を使うらしい。
これにより、制服の性能が分かるとの話だ。フォルトは制服を手に取って、アカシックレコードから魔法を引っ張り出した。
続けて、魔法を使う。
【アプレイザル・オール・マジックアイテム/鑑定・全魔法道具】
「きゃー! 上級の鑑定魔法ですよぉ!」
「ふふん! もともと俺のじゃないけどな!」
「でも今は、御主人様のものでーす!」
「まさにチート」
カーミラが言ったように、上級に属する鑑定魔法だ。
扱える魔法使いは、ほとんどいない。
フォルトは魔法の仕組みを理解していないが、その一握りの人物だった。カーミラの前の主人とやらに感謝である。
「カーミラが言ってたやつとシールドの魔法が付与されたな」
「自動修復って超高級品なんですよぉ」
「なっ何っ! 基本的なものだと言ってただろ?」
「御主人様にとっては基本的なものでーす!」
「え?」
「制服が好きですよねぇ。だから自動修復でーす!」
「ぐっ!」
「えへへ」
カーミラに趣味を知られているので、フォルトは負けを認める。
レイナスの制服姿はそそるのだ。しかも防御力が上がるとなると、ずっと着用してもらいたい。
目の保養のために……。
「じゃあ。返してきて」
「下着はどうしますかぁ?」
「ちょ!」
「えへへ。取ってきまーす!」
「ちょ、ちょっと! 待って!」
「きゃあ!」
カーミラは制止を聞かず、レイナスの下着を脱がしに向かった。
その後は言うまでもない。
フォルトの目の前には、脱ぎたてでホヤホヤの下着が置かれた。ならばと諦めて、下着にも魔法付与を施すのだった。
フォルトは自宅から出て、レイナスの訓練をボーっと眺めている。
剣を使って素振りをしているが、相変わらず効果のほどは不明だ。もちろん技量についても、サッパリ分からない。
「御主人様、ご飯ですよぉ!」
「レイナス! 飯だ!」
「はいっ!」
カーミラに呼ばれたフォルトは、レイナスの訓練を止めた。
タオルを彼女に手渡した後は、一緒に自宅に入る。するとリビングには、大量の料理が置かれていた。
当然のように、摘まみ食いをしながら椅子に座る。
(自動狩りができなくなって、レベルが上がらなくなったようだなあ)
レイナスのレベルは二十五になっているが、それ以上は伸びていない。現在は実践ができないので、日課の訓練だけでは駄目なのだろう。
ともあれフォルトの視線は、テーブルに並べられた料理に釘付けだ。
「今日も大量だな!」
「はいっ! 裏山でも狩らせてますからねぇ」
自宅の裏山は、獲物が豊富だった。
魔の森は魔物との取り合いになるのだが、山には魔物が少ない。鳥系の魔物はいるが、森ほど消費量が多いわけではなかった。
「レイナスよ」
「はいっ!」
「装備をどうにかしないとなあ」
「装備ですか?」
レイナスの使っている剣は、随分前に自宅に訪れた騎士たちの装備品だ。
カーミラが始末したときに、戦利品として剥ぎ取っていた。鎧については死体と共に森に捨てたらしいので、ゴブリンかオークが使っているかもしれない。
そのときの話を食事の合間に聞かせたが、彼女は何とも思わなかったようだ。
「フォルト様を怒らせた人間が悪いですわ」と言っていた。
「レベルに合った装備をするのは基本だ!」
「鉄の剣で良いと思いますわよ?」
「いや。防具だ」
「確かにそうですわね」
レイナスの防具は、魔法学園の制服だ。
普通の学生服なので、防具とも言えない代物である。しかも彼女は、その制服以外を持っていない。
洗濯したときは、獣の皮から作製したボロい服を着ていた。
「レイナスの専用装備が欲しい!」
「え?」
「レイナスちゃんにはどういった装備がいいんですかぁ?」
「エロ……。いや。動きやすい装備だな!」
フォルトは恥ずかしさのあまり、慌てて言い直した。しかしながら、カーミラやレイナスは感づいている。
一緒に生活するようになって、趣味が分かっているのだ。
「あからさまなのは駄目でーす!」
「見えそうで見えないのがよろしいですわ!」
「なら売っているような装備じゃないですねぇ」
「カーミラちゃんのような服が良いのかしら?」
「レイナスちゃんの制服もいいと思いますよぉ」
「なななっ! 何を言っているのだ?」
「「え?」」
二人の会話に対して、フォルトは赤面してしまう。
いくら趣味がバレているとはいえ、性癖を言われると恥ずかしい。
「御主人様。レイナスちゃんの装備ですよねぇ?」
「そっそうだ!」
「恥ずかしいですわね」
「御主人様のために我慢でーす!」
「そうね!」
「そっその……」
「お腹を出すと防御力が落ちますわ!」
「太ももは平気かなぁ?」
「えっと……」
フォルトは会話に入れないので、料理を食べながら聞くことにする。女性同士の会話に、おっさんが入る余地は無いのだ。
それにしても、本当によく分かっていらっしゃる。
「フォルト様!」
「どどど、どうした?」
「残念ながら、フォルト様が望む装備は売っておりませんわ」
「だろうな」
当たり前の話である。肌を露出した部分は弱点になるのだ。
アニメや漫画などでは、ビキニアーマーといった露出の激しい防具があった。とはいえ現実的に考えると、それを装備して魔物と戦うなど狂気の沙汰である。
などとフォルトは思ったが、カーミラの一言で希望が出た。
「魔法付与すれば大丈夫でーす!」
「もぐもぐ。一時的じゃなくてか?」
「色々と必要ですけどねぇ」
「ふーん。どうやるんだ?」
「御主人様ならやれますよぉ」
「ふむふむ。面倒だが引き出すか」
目を閉じたフォルトは、アカシックレコードから情報を引き出した。
その内容には、「ほう」と感嘆の声を洩らす。魔法付与さえ施してあれば、ビキニアーマーでも戦闘に耐えられそうだ。
布製の服も同様なので、魔法が存在する世界に感謝である。
ただし……。
「もぐもぐ。材料が必要のようだ」
「付与する種類によって変わりますよぉ」
「防御力を上げるぐらいでいいと思うが?」
「駄目でーす!」
「え?」
「サイズの自動調整と自動修復、汚れ落としも必要でーす!」
「あぁ……。確かに欲しいな」
細かい話だが仕方がないだろう。
オーダーメイドならば良いが、普通は体型に近いサイズのものを購入する。また体型に変化があると、オーダーメイドでも寸法が合わなくなるだろう。
自動調整が付与されていれば、完璧に体型と合わせてくれるのだ。
他にも壊れれば修復が必要であり、手入れも必要になる。だがそれすらも、魔法付与でどうにかなるようだ。
「でも材料が無いぞ」
「基本的なのは魔界にありますよぉ」
「おっ! なら後で取ってきてくれ」
「分っかりましたあ!」
フォルトは視線を落として、自身の服を見た。
この吸血鬼のコスプレのような服も、カーミラの言った魔法付与が施されている。今更ながら思うが、非常に重宝していた。
「ついでに魔法学園の制服も奪っといてね」
「はあい!」
レイナスの制服は、汚れていたり破れている個所がある。魔法付与を施すなら、さすがに新品が良い。
そう考えたフォルトは、二人と食事を楽しむのだった。
◇◇◇◇◇
魔法付与の話を聞いてから、一週間が経過した。
またまたフォルトは、屋根の上からレイナスの訓練風景を眺めている。
他にやることが無いので、はっきり言えば暇なのだ。と言っても、こういった怠惰な時間が好きなので問題は無い。
そしてカーミラの膝枕を堪能しながら、別の人物について口にした。
「ニャンシーはどこまで行ったかな?」
「分かりませーん! 直接聞くといいですよぉ」
「まぁそうなんだが、な。すぐ呼ぶなって言われたし……」
「報告と連絡と相談は基本でーす!」
「確かにな。ではニャンシー!」
電話など無い世界なので、結局は呼び出すしかない。ならばとフォルトは、自身から伸びている糸のようなものに意識を向ける。
不可視なので見られないが、この糸電話のような魔力の糸が、眷属のニャンシーに繋がっているのだ。もちろんカーミラとも繋がっているし、仕事に従事させている魔物にも伸びていた。
大量に召喚すると、結構大変なことになる。
「にゃあ!」
暫く待っていると、フォルトの近くに澄まし顔のニャンシーが現れる。
数分で戻れる手段があるところも、あちらの世界との相違点だ。しかしながら、多少の待ち時間が必要である。
転移の魔法は無いようで、アカシックレコードにも情報は無い。カーミラに聞いても、残念ながら存在しない魔法との話だった。
「すまんな。ニャンシーのことが気になったもんで!」
「いや。ちょうど良かったのじゃ」
「うん? どういう意味だ?」
「旅の途中で魔族と出会ってのう」
「ほう」
「探しておったのじゃろ?」
「何で探してたんだっけ?」
「主!」
ニャンシーが腕をバタつかせながら怒っている。
猫が擬人化した姿なので、とても可愛らしい。だがフォルトの記憶には、魔族の件については無かった。
「レイナスちゃんに魔法を教えてもらうんでーす!」
「あ……。そうだったな」
単純に忘れていたようだ。
魔法の習得については、ニャンシーで事足りてしまったからだ。
「もしかして、魔族を助けたのは余計なことじゃったかのう」
「いや。確かもう一つ……。カーミラ?」
「限界突破でーす!」
「そうだった。ニャンシー、よくやったぞ!」
「調子がいいのう」
「はははっ!」
詳しい話を聞いたフォルトは、魔族を連れてくるように頼んだ。
知らない人と会いたくないのだが、魔族には興味がそそられる。新天地については急いでいないので、旅は後回しで良いだろう。
それに、折角発見したのだ。
レイナスの成長のためには、是が非でも連れてきてもらいたい。
もちろん、客人として迎えるつもりだった。
「魔族は妾のように魔界を通れぬ。移動に時間をもらうのじゃ」
「分かった。丁重にな」
「それと食料を多めにもらえるかの?」
「倉庫から勝手に持っていっていいぞ」
「ところで、主が迎えに来るのは……」
「面倒! 怠い! ニャンシーに任せた!」
「さすがは御主人様です!」
「はぁ……」
ニャンシーは溜息を吐いている。
フォルトが迎えに行けば手っ取り早いのは分かっていた。とはいえそれがやれるなら、新天地は自分で探している。
大罪の怠惰を持つせいで、日本にいた頃よりも駄目男なのだ。
「では行ってくるのじゃ」
「行ってらっしゃーい!」
報告が終わったニャンシーは、倉庫から食料を持って魔界に消えた。
二人分の食料を数日分なので、結構な量になる。フォルトからすると、食料を詰めた袋を魔法で浮かせていたところが面白かった。
「魔族なんてよく発見しましたねぇ」
「お手柄だな。でも限界突破の作業はできるのか?」
「分かりませーん!」
「来てから考えればいいか。魔法の先生ぐらいはできるだろ」
「はい! それよりレイナスちゃんの装備ですねぇ」
「そうだった。材料は取ってきたか?」
「取ってきましたよぉ」
「じゃあレイナスの制服を持ってきて」
「はあい!」
現在のレイナスは、カーミラが都市から奪ってきた新品の制服を着ている。
指令を受けた小悪魔は、その制服を剥ぎ取ろうとするのだった。
「ちょ、ちょっと! カーミラちゃん!」
「早く脱いでくださーい!」
「嫌よ!」
「水浴びじゃいつも脱いでるでしょ!」
「それはそうだけど……。ダメエ!」
「さあさあ。早く早く!」
(これは良い眺めだ。いけ! カーミラ! あと少しだ!)
まるで、キャットファイトのようだ。
フォルトの応援が届いたのか、カーミラは見事に制服を剥ぎ取っていた。結果としてレイナスは、あられもない姿で地面に座り込んでいる。
そして、制服が届けられた。
「えへへ。御主人様、持ってきましたあ!」
「でかした! さすがはカーミラだ」
さすがに嗅いだりしない。そっち系の趣味はないのだ。
それでも生暖かくて、まさに脱ぎたてのホヤホヤだった。
「では早速付与してみよう」
「ドキドキ」
フォルトは受け取った制服を、屋根の上に広げた。
これは、魔法学園の制服である。スカートが短くて、訓練の最中は見えそうで見えない一品だ。黒のニーハイソックスも、絶対領域を演出する重要なものだった。
次にカーミラの持ってきた材料を、制服の上に置いた。
後は付与魔法を使うだけだ。
【フィクスト・エンチャント/固定・魔法付与】
付与魔法自体は、中級に属する。
扱える魔法使いは多く、もちろんアカシックレコードにも入っていた。
「きゃー! 初めて見ましたぁ!」
「できたか?」
「鑑定するといいでーす!」
続けて鑑定魔法を使うらしい。
これにより、制服の性能が分かるとの話だ。フォルトは制服を手に取って、アカシックレコードから魔法を引っ張り出した。
続けて、魔法を使う。
【アプレイザル・オール・マジックアイテム/鑑定・全魔法道具】
「きゃー! 上級の鑑定魔法ですよぉ!」
「ふふん! もともと俺のじゃないけどな!」
「でも今は、御主人様のものでーす!」
「まさにチート」
カーミラが言ったように、上級に属する鑑定魔法だ。
扱える魔法使いは、ほとんどいない。
フォルトは魔法の仕組みを理解していないが、その一握りの人物だった。カーミラの前の主人とやらに感謝である。
「カーミラが言ってたやつとシールドの魔法が付与されたな」
「自動修復って超高級品なんですよぉ」
「なっ何っ! 基本的なものだと言ってただろ?」
「御主人様にとっては基本的なものでーす!」
「え?」
「制服が好きですよねぇ。だから自動修復でーす!」
「ぐっ!」
「えへへ」
カーミラに趣味を知られているので、フォルトは負けを認める。
レイナスの制服姿はそそるのだ。しかも防御力が上がるとなると、ずっと着用してもらいたい。
目の保養のために……。
「じゃあ。返してきて」
「下着はどうしますかぁ?」
「ちょ!」
「えへへ。取ってきまーす!」
「ちょ、ちょっと! 待って!」
「きゃあ!」
カーミラは制止を聞かず、レイナスの下着を脱がしに向かった。
その後は言うまでもない。
フォルトの目の前には、脱ぎたてでホヤホヤの下着が置かれた。ならばと諦めて、下着にも魔法付与を施すのだった。
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