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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第24話 小悪魔と魔剣士1
 ニャンシーが旅立ってから数日後。
 フォルトは自宅から出て、レイナスの訓練をボーっと眺めている。
 剣を使って素振りをしているが、相変わらず効果のほどは不明だ。もちろん技量についても、サッパリ分からない。

「御主人様、ご飯ですよぉ!」
「レイナス! 飯だ!」
「はいっ!」

 カーミラに呼ばれたフォルトは、レイナスの訓練を止めた。
 タオルを彼女に手渡した後は、一緒に自宅に入る。するとリビングには、大量の料理が置かれていた。
 当然のように、摘まみ食いをしながら椅子に座る。

(自動狩りができなくなって、レベルが上がらなくなったようだなあ)

 レイナスのレベルは二十五になっているが、それ以上は伸びていない。現在は実践ができないので、日課の訓練だけでは駄目なのだろう。
 ともあれフォルトの視線は、テーブルに並べられた料理にくぎ付けだ。

「今日も大量だな!」
「はいっ! 裏山でも狩らせてますからねぇ」

 自宅の裏山は、獲物が豊富だった。
 魔の森は魔物との取り合いになるのだが、山には魔物が少ない。鳥系の魔物はいるが、森ほど消費量が多いわけではなかった。

「レイナスよ」
「はいっ!」
「装備をどうにかしないとなあ」
「装備ですか?」

 レイナスの使っている剣は、随分前に自宅に訪れた騎士たちの装備品だ。
 カーミラが始末したときに、戦利品としてぎ取っていた。よろいについては死体と共に森に捨てたらしいので、ゴブリンかオークが使っているかもしれない。
 そのときの話を食事の合間に聞かせたが、彼女は何とも思わなかったようだ。
 「フォルト様を怒らせた人間が悪いですわ」と言っていた。

「レベルに合った装備をするのは基本だ!」
「鉄の剣で良いと思いますわよ?」
「いや。防具だ」
「確かにそうですわね」

 レイナスの防具は、魔法学園の制服だ。
 普通の学生服なので、防具とも言えない代物である。しかも彼女は、その制服以外を持っていない。
 洗濯したときは、獣の皮から作製したボロい服を着ていた。

「レイナスの専用装備が欲しい!」
「え?」
「レイナスちゃんにはどういった装備がいいんですかぁ?」
「エロ……。いや。動きやすい装備だな!」

 フォルトは恥ずかしさのあまり、慌てて言い直した。しかしながら、カーミラやレイナスは感づいている。
 一緒に生活するようになって、趣味が分かっているのだ。

「あからさまなのは駄目でーす!」
「見えそうで見えないのがよろしいですわ!」
「なら売っているような装備じゃないですねぇ」
「カーミラちゃんのような服が良いのかしら?」
「レイナスちゃんの制服もいいと思いますよぉ」
「なななっ! 何を言っているのだ?」
「「え?」」

 二人の会話に対して、フォルトは赤面してしまう。
 いくら趣味がバレているとはいえ、性癖を言われると恥ずかしい。

「御主人様。レイナスちゃんの装備ですよねぇ?」
「そっそうだ!」
「恥ずかしいですわね」
「御主人様のために我慢でーす!」
「そうね!」
「そっその……」
「お腹を出すと防御力が落ちますわ!」
「太ももは平気かなぁ?」
「えっと……」

 フォルトは会話に入れないので、料理を食べながら聞くことにする。女性同士の会話に、おっさんが入る余地は無いのだ。
 それにしても、本当によく分かっていらっしゃる。

「フォルト様!」
「どどど、どうした?」
「残念ながら、フォルト様が望む装備は売っておりませんわ」
「だろうな」

 当たり前の話である。肌を露出した部分は弱点になるのだ。
 アニメや漫画などでは、ビキニアーマーといった露出の激しい防具があった。とはいえ現実的に考えると、それを装備して魔物と戦うなど狂気の沙汰である。
 などとフォルトは思ったが、カーミラの一言で希望が出た。

「魔法付与すれば大丈夫でーす!」
「もぐもぐ。一時的じゃなくてか?」
「色々と必要ですけどねぇ」
「ふーん。どうやるんだ?」
「御主人様ならやれますよぉ」
「ふむふむ。面倒だが引き出すか」

 目を閉じたフォルトは、アカシックレコードから情報を引き出した。
 その内容には、「ほう」と感嘆の声をらす。魔法付与さえ施してあれば、ビキニアーマーでも戦闘に耐えられそうだ。
 布製の服も同様なので、魔法が存在する世界に感謝である。
 ただし……。

「もぐもぐ。材料が必要のようだ」
「付与する種類によって変わりますよぉ」
「防御力を上げるぐらいでいいと思うが?」
「駄目でーす!」
「え?」
「サイズの自動調整と自動修復、汚れ落としも必要でーす!」
「あぁ……。確かに欲しいな」

 細かい話だが仕方がないだろう。
 オーダーメイドならば良いが、普通は体型に近いサイズのものを購入する。また体型に変化があると、オーダーメイドでも寸法が合わなくなるだろう。
 自動調整が付与されていれば、完璧に体型と合わせてくれるのだ。
 他にも壊れれば修復が必要であり、手入れも必要になる。だがそれすらも、魔法付与でどうにかなるようだ。

「でも材料が無いぞ」
「基本的なのは魔界にありますよぉ」
「おっ! なら後で取ってきてくれ」
「分っかりましたあ!」

 フォルトは視線を落として、自身の服を見た。
 この吸血鬼のコスプレのような服も、カーミラの言った魔法付与が施されている。今更ながら思うが、非常に重宝していた。

「ついでに魔法学園の制服も奪っといてね」
「はあい!」

 レイナスの制服は、汚れていたり破れている個所がある。魔法付与を施すなら、さすがに新品が良い。
 そう考えたフォルトは、二人と食事を楽しむのだった。


◇◇◇◇◇


 魔法付与の話を聞いてから、一週間が経過した。
 またまたフォルトは、屋根の上からレイナスの訓練風景を眺めている。
 他にやることが無いので、はっきり言えば暇なのだ。と言っても、こういった怠惰な時間が好きなので問題は無い。
 そしてカーミラの膝枕を堪能しながら、別の人物について口にした。

「ニャンシーはどこまで行ったかな?」
「分かりませーん! 直接聞くといいですよぉ」
「まぁそうなんだが、な。すぐ呼ぶなって言われたし……」
「報告と連絡と相談は基本でーす!」
「確かにな。ではニャンシー!」

 電話など無い世界なので、結局は呼び出すしかない。ならばとフォルトは、自身から伸びている糸のようなものに意識を向ける。
 不可視なので見られないが、この糸電話のような魔力の糸が、眷属けんぞくのニャンシーにつながっているのだ。もちろんカーミラとも繋がっているし、仕事に従事させている魔物にも伸びていた。
 大量に召喚すると、結構大変なことになる。

「にゃあ!」

 暫く待っていると、フォルトの近くに澄まし顔のニャンシーが現れる。
 数分で戻れる手段があるところも、あちらの世界との相違点だ。しかしながら、多少の待ち時間が必要である。
 転移の魔法は無いようで、アカシックレコードにも情報は無い。カーミラに聞いても、残念ながら存在しない魔法との話だった。

「すまんな。ニャンシーのことが気になったもんで!」
「いや。ちょうど良かったのじゃ」
「うん? どういう意味だ?」
「旅の途中で魔族と出会ってのう」
「ほう」
「探しておったのじゃろ?」
「何で探してたんだっけ?」
「主!」

 ニャンシーが腕をバタつかせながら怒っている。
 猫が擬人化した姿なので、とても可愛らしい。だがフォルトの記憶には、魔族の件については無かった。

「レイナスちゃんに魔法を教えてもらうんでーす!」
「あ……。そうだったな」

 単純に忘れていたようだ。
 魔法の習得については、ニャンシーで事足りてしまったからだ。

「もしかして、魔族を助けたのは余計なことじゃったかのう」
「いや。確かもう一つ……。カーミラ?」
「限界突破でーす!」
「そうだった。ニャンシー、よくやったぞ!」
「調子がいいのう」
「はははっ!」

 詳しい話を聞いたフォルトは、魔族を連れてくるように頼んだ。
 知らない人と会いたくないのだが、魔族には興味がそそられる。新天地については急いでいないので、旅は後回しで良いだろう。
 それに、折角発見したのだ。
 レイナスの成長のためには、是が非でも連れてきてもらいたい。
 もちろん、客人として迎えるつもりだった。

「魔族はわらわのように魔界を通れぬ。移動に時間をもらうのじゃ」
「分かった。丁重にな」
「それと食料を多めにもらえるかの?」
「倉庫から勝手に持っていっていいぞ」
「ところで、主が迎えに来るのは……」
「面倒! 怠い! ニャンシーに任せた!」
「さすがは御主人様です!」
「はぁ……」

 ニャンシーは溜息ためいきを吐いている。
 フォルトが迎えに行けば手っ取り早いのは分かっていた。とはいえそれがやれるなら、新天地は自分で探している。
 大罪の怠惰を持つせいで、日本にいた頃よりも駄目男なのだ。

「では行ってくるのじゃ」
「行ってらっしゃーい!」

 報告が終わったニャンシーは、倉庫から食料を持って魔界に消えた。
 二人分の食料を数日分なので、結構な量になる。フォルトからすると、食料を詰めた袋を魔法で浮かせていたところが面白かった。

「魔族なんてよく発見しましたねぇ」
「お手柄だな。でも限界突破の作業はできるのか?」
「分かりませーん!」
「来てから考えればいいか。魔法の先生ぐらいはできるだろ」
「はい! それよりレイナスちゃんの装備ですねぇ」
「そうだった。材料は取ってきたか?」
「取ってきましたよぉ」
「じゃあレイナスの制服を持ってきて」
「はあい!」

 現在のレイナスは、カーミラが都市から奪ってきた新品の制服を着ている。
 指令を受けた小悪魔は、その制服を剥ぎ取ろうとするのだった。

「ちょ、ちょっと! カーミラちゃん!」
「早く脱いでくださーい!」
「嫌よ!」
「水浴びじゃいつも脱いでるでしょ!」
「それはそうだけど……。ダメエ!」
「さあさあ。早く早く!」

(これは良い眺めだ。いけ! カーミラ! あと少しだ!)

 まるで、キャットファイトのようだ。
 フォルトの応援が届いたのか、カーミラは見事に制服を剥ぎ取っていた。結果としてレイナスは、あられもない姿で地面に座り込んでいる。
 そして、制服が届けられた。

「えへへ。御主人様、持ってきましたあ!」
「でかした! さすがはカーミラだ」

 さすがに嗅いだりしない。そっち系の趣味はないのだ。
 それでも生暖かくて、まさに脱ぎたてのホヤホヤだった。

「では早速付与してみよう」
「ドキドキ」

 フォルトは受け取った制服を、屋根の上に広げた。
 これは、魔法学園の制服である。スカートが短くて、訓練の最中は見えそうで見えない一品だ。黒のニーハイソックスも、絶対領域を演出する重要なものだった。
 次にカーミラの持ってきた材料を、制服の上に置いた。
 後は付与魔法を使うだけだ。


【フィクスト・エンチャント/固定・魔法付与】


 付与魔法自体は、中級に属する。
 扱える魔法使いは多く、もちろんアカシックレコードにも入っていた。

「きゃー! 初めて見ましたぁ!」
「できたか?」
「鑑定するといいでーす!」

 続けて鑑定魔法を使うらしい。
 これにより、制服の性能が分かるとの話だ。フォルトは制服を手に取って、アカシックレコードから魔法を引っ張り出した。
 続けて、魔法を使う。


【アプレイザル・オール・マジックアイテム/鑑定・全魔法道具】


「きゃー! 上級の鑑定魔法ですよぉ!」
「ふふん! もともと俺のじゃないけどな!」
「でも今は、御主人様のものでーす!」
「まさにチート」

 カーミラが言ったように、上級に属する鑑定魔法だ。
 扱える魔法使いは、ほとんどいない。
 フォルトは魔法の仕組みを理解していないが、その一握りの人物だった。カーミラの前の主人とやらに感謝である。

「カーミラが言ってたやつとシールドの魔法が付与されたな」
「自動修復って超高級品なんですよぉ」
「なっ何っ! 基本的なものだと言ってただろ?」
「御主人様にとっては基本的なものでーす!」
「え?」
「制服が好きですよねぇ。だから自動修復でーす!」
「ぐっ!」
「えへへ」

 カーミラに趣味を知られているので、フォルトは負けを認める。
 レイナスの制服姿はそそるのだ。しかも防御力が上がるとなると、ずっと着用してもらいたい。
 目の保養のために……。

「じゃあ。返してきて」
「下着はどうしますかぁ?」
「ちょ!」
「えへへ。取ってきまーす!」
「ちょ、ちょっと! 待って!」
「きゃあ!」

 カーミラは制止を聞かず、レイナスの下着を脱がしに向かった。
 その後は言うまでもない。
 フォルトの目の前には、脱ぎたてでホヤホヤの下着が置かれた。ならばと諦めて、下着にも魔法付与を施すのだった。
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