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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第17話 血濡れの令嬢3
 フォルトの怠惰が全開である。
 毎日のように堕落しきった生活を満喫中だ。二度寝、三度寝は当たり前。好きな時間に起き出して、好きなだけ食べる。
 つい先日、城塞都市ソフィアで玩具を手に入れた。
 やっている遊びは、美少女育成型の対戦ゲームである。レイナスという美少女を育成して、他の人間と戦わせるのだ。
 現在は育成段階である。

(でも……。思っていたのと違うな)

 眠気が消えたフォルトは、ベッドの上で横になっていた。
 自宅は魔の森の奥地なので、他に知らない人間がいない。なので『変化へんげ』のスキルを使って、若者の姿である。
 ふと隣を見ると、当然のようにカーミラが就寝中だ。体を密着させて、寝息を立てていた。悪戯をしたいところだが、今は控えておく。
 そして自身の体を挟んだ反対側に、レイナスも寝ている。
 従順なゲームキャラクターにするため、彼女には三日間の調教を行った。もちろん演技かどうかを確認したが、とりあえず目的は達したと思われる。
 しかし……。

「これではハーレム系アドベンチャーゲームではないか!」
「んんっ。御主人様?」
「ふぁ……。フォルト様?」
「もう起きる! 飯!」
「はあい!」
「分かりましたわ」

 思わず後頭部をかいたフォルトは、カーミラとレイナスを見送る。
 これから食事を作るのだろう。女性の人数が増えただけで、今までの自堕落生活と何も変わっていない。
 変わっていないのだが……。

(育成のやり方が分からないからか? 素振りや走り込み、魔法の練習とかはやらせているが……。俺が思っていたのと違う気がするな)

 フォルトの虜になったレイナスは、従順に指示されたことだけを行っている。とはいえ、訓練メニューは昭和の根性論からきている。
 また彼女は魔法学園の学生だったので、魔法については授業の復習だった。
 「うーん」とうなった後は、料理が並び始めたリビングに行く。

「レイナスよ」
「はい?」

 椅子に座ったフォルトは、配膳中のレイナスに問いかける。
 とりあえず、現在の状態を聞いておくのだ。

「強くなっているか?」
「まだ七日ほどですので、よく分かりませんわ」

 確かに七日程度では、結果など出ないだろう。
 それに自身についてだと、実感が無いかもしれない。

「そっそうか。カーミラ?」
「私には分かりませーん!」
「レベルはどうなのだ?」
「変わりませんわね」
「そっそうか……」

 フォルトはに落ちない感じで、ガツガツと飯を食べ始めた。カーミラやレイナスも続き、一家団欒だんらん状態になる。
 食事の間も首を傾げるが、原因は何となく分かっていた。

「やはりステータスが分からないのがいかんな」
「ステータス、ですか?」
「俺のいた世界のゲームでは、キャラの能力を数値化しているのだ」
「はぁ……?」
「レイナス、腕力はいくつだ?」
「分かりませんわよ」
「ですよね」

 レベルという概念があっても、腕力などの細かい数値は分からない。腑に落ちない理由は、成長の変化が視認できないところからきている。
 成長の確認とは、過去との比較があってこそ成り立つものだ。現在のレイナスと拉致したときの彼女を比較しても、何も変わっていないように思える。
 たった七日なので何とも言えないが、所詮はゲーム脳からの話だった。

「スキルの『状態測定じょうたいそくてい』じゃ駄目ですかぁ?」
「アレは数値と言うよりは目安だな。長い棒みたいのが横に伸びる」
「その長さで何となく差が分かるってことですねぇ」
「うむ」
「力とかは分からないんですかぁ?」
「残念ながら、な」

 スキルの『状態測定じょうたいそくてい』を使うと、視界の左上に棒のような線が現れる。
 これが対象の生命力になっており、比較することが可能だ。しかしながら数値が出るわけではないので、あくまでも目安なのだ。
 これもゲームのようだが、それなりに便利であった。

「ところでレイナスよ」
「はい?」
「人間を殺したことはあるか?」
「ありませんわよ!」
「殺せるか?」
「無理ですわ!」
「伯爵令嬢だものな」
「それ以前に殺人は犯罪ですわよ!」
「そう思ってた時期が俺にもあったなあ」

 フォルトは人間から魔人に変わった。すでに、常識や倫理観を改めている。
 その考えを伝えると、目を閉じたレイナスは黙って聞いていた。思考変化のきっかけを作ったカーミラは、ニヤニヤと口角を上げている。

「堕ちたのですわね」
「そうだ」
「戻れませんの?」
「戻る気はないし、レイナスもそうなる」

 魔人に変わってからのフォルトの行動を鑑みると、レイナスの言った表現は合っている。現代日本であれば、「無敵の人」と言われるかもしれない。
 氷河期の引き籠りの中年が人間を殺し、人間を玩具にしているのだ。しかしながら自身は、こちらの世界に順応しただけと思っている。
 それでもまだ揺れ動いているのだが……。

「私はフォルト様がいなければ生きていけませんわ」
「そういうわけで、次の訓練を決めた」
「何をやれば?」
「準備ができるまでは、いつものメニューと剣の訓練をしていろ」
「分かりましたわ」

 食事を終えたレイナスは、自宅から出て訓練を始める。
 彼女は魔法も使えるが、フォルトが欲しいのは魔法剣士である。魔法は後回しにして、まず剣技を磨くところからだ。
 そしてカーミラに、とある依頼をする。

「カーミラ、頼みがあるんだが……」
「はあい! カーミラちゃんにお任せでーす!」
「用意して欲しいものがあるんだが……」
「何ですかぁ?」
「ボソボソ」
「きゃー! さすがは御主人様です! ちゅ!」

 内緒話に喜んだカーミラは、フォルトのほほに口付けして自宅を出た。
 一人だと難しいかもしれないが、彼女の能力があれば可能だろう。まるで香辛料を奪いに向かうかのように、軽やかな足取りである。
 そしてレイナスの訓練を、欠伸をしながら眺めるのだった。


◇◇◇◇◇


 カーミラに頼み事をしてから、数日が経過した。
 フォルトは両手に華で、寝室のベッドから起き出す。

「ふぁあ。カーミラ、準備はできているか?」
「はあい! 御主人様の希望通りでーす!」
「何の話かしら?」
「ははっ。後のお楽しみだ」

 レイナスには何も伝えていない。
 そして彼女は、深く聞いてこない。完全にフォルトの虜になっているので、従順に言われたことだけをやる玩具だった。
 以降はリビングに出て、いつものように食事を始める。
 その最中に、本日の訓練内容を伝えた。

「今日の訓練は水浴びだ」
「水浴び、ですか?」
「うむ。川でな」
「いつも一緒に浴びていますけど?」

 フォルトの自宅に無いものがある。
 それは、風呂とトイレだ。
 風呂はレイナスが言ったように、近くの川で済ませている。飲み水になるほど水質が良いので、何の問題も無く体を洗えていた。
 ちなみにトイレが必要なのは、人間の彼女だけである。女性のトイレ事情は趣味から完全に外れるので、カーミラに任せて何も聞いていない。
 ともあれ……。

「趣向が違うぞ。これをクリアしたら褒美をやる」
「ほっ褒美……。頑張りますわ!」
「二人とも行くぞ!」
「はあい!」
「はいっ!」

 三人は手をつなぎながら、近くの川に向かう。
 フォルトの自宅周辺は、魔物が出ないので安全だった。何かにおびえているようで近寄ってこないのだ。

(俺の召喚した魔物は強いし、あのときのオークは俺たちを襲わないとか言っていたような気がする。もしかしたら、カーミラが何かしたか?)

 魔物が寄ってこない理由は、何となく理解している。
 フォルトの考えが正しければ、魔人や悪魔の縄張りとして認知されたのだろう。魔物は本能に忠実なので、力量差を察知して避けられているのだ。
 そんなことを考えていると、目的の川に到着した。

「おっと。これは面白いな」

 いつもと風景が違った。
 木で作製した十字架が、河原に何本も刺さっているのだ。この異様な光景にレイナスは驚いて、カーミラはニヤリと口角を上げる。
 やはりレベル百五十の悪魔には、簡単なお仕事だったようだ。

「フォルト様?」
「レイナスのために準備したものだ」
「訓練ですか?」
「そうだ」
「十字架、ですわよね?」
「まぁ作りは最低だけどな」
「何の意味があるのかしら?」
「こちら側では分からないな。反対側に行くぞ!」

 三人は川を渡って、十字架を見る。
 そこには、数人の男性が十字架にはりつけにされている。口に猿轡さるぐつわをはめられて、声が出せない状態だった。
 体は強く固定されて動けないようだ。

「なっ!」
「驚いたか? 盗賊だ」
「とっ盗賊ですか?」
「城塞都市ソフィアの近くに盗賊団がいてな」
「聞いたことがありますわね」
「そうなのか?」

 都市や町の外は無法地帯と言っても過言ではない。
 魔物に襲われる危険があり、盗賊団も吐いて腐るほどいる。といった事情は誰でも知っているので、フォルトの答えは納得できるだろう。

「なぜ盗賊が磔にされているのかしら?」
「先日の話を覚えているか?」
「……。まっまさか!」
「そのまさかだ。殺せ」
「できませんわよ!」
「やれ!」
「嫌ですわ!」

 レイナスは頑なに嫌がる。
 調教されたとしても、さすがに人殺しはやれない。人間である彼女は、常識と倫理観を捨てていないのだ。
 フォルトの人殺しは、騎士エジムで終わっている。ジェシカとアイナについては興味を失っており、今も生きているかは分からない。
 仮に彼女と同じ立場なら、何の躊躇ちゅうちょもせずに殺せるだろう。

「できなければレイナスを捨てるしかないな」
「そっそんなのは嫌ですわ!」
「こいつらは犯罪者だ! レイナスが裁いてやれ」
「国法では裁判ですわ!」
「知らん! やらなければレイナスを盗賊にくれてやる」
「え?」
「俺の相手と盗賊の相手。どっちがいい?」
「決まってますわ!」
「コレを使え」

 問答は終わりと言いたげに、フォルトは懐からナイフを取り出した。
 それを恐る恐る受け取ったレイナスは、震えながら盗賊に近づいていく。
 猿轡をされている盗賊は、目を見開きながら体を動かそうとしている。しかしながら、磔にされているので動けない。

「んー! んー!」
「やっぱり無理ですわ!」
「そうか? ならば手伝ってやろう」
「え?」

 冷めた表情を浮かべたフォルトは、ナイフを持ったレイナスの手を力強く握る。続けて盗賊の胸に、深く突き入れた。
 最後は下半身に向かって、一気に切り裂く。

「がはっ!」

 盗賊の体からは、大量の血が噴き出した。
 その血で全身を赤く染めたレイナスは、ガタガタと震えている。

「やったな。人間を殺した気分はどうだ?」
「はっ、はっ……」
「レイナスにもナイフを突き入れた感触があるだろう?」
「はっ、はっ……」
「これが人間を殺した感触だ!」
「いっいやあ!」

 レイナスは悲鳴を上げて、地面に崩れ落ちる。
 それを見たフォルトは、観察するかのような視線を彼女に向けた。いま止めたらカーミラの苦労が報われないので、無理やりに立ちあがらせる。

「まだいるぞ? こいつらは盗賊だ。何の遠慮がいるものか」
「はっ、はっ……」
「どうした? 俺の熱い褒美は欲しくないのか?」
「っ!」

 レイナスの目前には、十字架に磔にされた盗賊が絶命していた。
 それを彼女は、息を切らしながら眺めている。だがそれも束の間、フォルトの一言で立ち直ったようだ。
 調教が完全に終わっているので、甘い誘惑に勝てなかったか。

「………………」
「んー! んー!」
「やあああああああああっ!」
「ごはっ!」

 レイナスの惨殺が始まった。
 ここからは、彼女次第である。なのでフォルトは、カーミラと一緒に近くの大きな岩に腰かけた。
 それからは何を話すでもなく、鮮血で赤く染まっていく彼女を眺めている。周囲には血生臭いにおいが立ち込め始めて、盗賊のうめき声も消えていった。
 そして、数十分後。
 すべてを終わらせた血れの令嬢が近づいてくる。

「フォルト様、終わりましたわ」
「ははっ。真っ赤ではないか」
「…………。はい」
「川で自分の顔を見てこい」
「…………。はい」

 フォルトはレイナスを連れて、一番近い川辺に移動する。
 座った彼女の頭をでると、自身の顔を下に向けた。川は透き通っていて、水面に映った顔が揺れている。
 彼女の美しい顔は、鮮血で染まっていた。
 そして驚くべきことに、口角を上げて笑ってる。無抵抗の盗賊たちを惨殺したにもかかわらず、だ。

「御主人様?」
「どうした?」

 カーミラが近づいてきた。
 それでもレイナスは、ずっと自分の顔を見ている。混乱しているのか、彼女が来たことに気付いていないようだ。
 おそらくは、声も届いていないだろう。

「調教と同じで堕ちるのが早くないですかぁ?」
「人それぞれなんだろ」
「あの盗賊たち……」
「ははっ。後で伝えてやれ」
「でもでも」
「まぁいいじゃないか。カーミラにも褒美はやるぞ」
「やったあ!」

 悪魔のカーミラには、簡単な仕事だったかもしれない。とはいえフォルトからすると、大変な作業だったように思える。
 労う意味も込めて、彼女にも熱い褒美をあげるつもりだ。

「ふむ。ちょっと早いが風呂にするか」
「はあい!」
「レイナス! 風呂だ。風呂!」
「はいっ!」

 フォルトの一言で、レイナスは正気に戻ったようだ。
 磔にされた盗賊たちは、そのままの状態だ。さすがに絵面が悪すぎるので、死体が視界に入らない位置まで移動する。
 そして暫く歩いたところで、彼女の肩に手を置いた。すぐに振り返った表情は、瞳に光が無い満面の笑みだった。
 壊れたかと思ったが、水浴びをするために服を脱ぐのだった。
Copyright©2021-特攻君
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