残酷な描写あり
R-15
戴冠式と婚姻式
「カクトさまぁ♥ 今日は私の誕生日ですわぁ!」
玉座の間で、レクリナの甘ったるい声が響いた。カクトはデレデレとニタつきながら、レクリナに相槌を打つ。
「そっかそっかぁ。お前ももうそんな時期なんだな。レクリナ、お前何歳になったの?」
「16歳ですわぁ♥ 私もすっかりレディなんですぅ」
レクリナはカクトの腕に抱きつき、カクトはレクリナの頭を撫でる。そんな猿のようにイチャつく二人を、臣下一同はいつものように白眼視した。
「それで、お願いがあるんですカクトさまぁ……私、今日は素敵な誕生日プレゼントが欲しいですわ」
「ああ~、そうだよなぁ。誕生日つったらプレゼントだよなぁ。何が欲しい?」
「カクトさまご自身が考えてくださいましぃ♥ 私がとびっきり喜べるようなものがほしいですぅ!」
「ああ~なるほどなぁ。サプライズプレゼントって奴ね。だったらええっと……」
カクトは顎に手を添え、うんうんとしばらく考える。
「んじゃ、俺と今日結婚するってのはどうよ?」
「まあぁっ♥」
レクリナはキラキラと瞳を輝かせる。頬を紅潮させて、カクトの眼をじっと見つめた。
「素敵すぎますわカクトさまぁ♥ カクトさまと結婚できるなんて、これ以上ない幸せですぅ♥」
「だろだろ? やっぱ俺みたいな超絶優秀な男にはレクリナみたいな可愛い女が似合うんだよ。んじゃ、早速結婚するとすっか!!」
(ま、まずいっ!! またカクトがとんでもないことを言いだしたぞ!!)
ティモンは冷や汗を流しながら、一歩前に進み出る。
「お、お待ちくださいカクトさまッ!!」
「うっせぇジジイ!! 今いいところなんだからお前はすっこんでろ!!」
「そ、そういうわけには……」
「ああるせぇるせぇ。どうせまた俺に説教する気だろ? レクリナと結婚するなとか」
図星を突かれ、ティモンの心臓はギュッと縮み上がる。もはや頭の悪いカクトでもパターンを見切っているようだった。
「カクトさま、一応ティモンの話を聞いてやりましょうよ。やっぱり私たちが結婚するからには、家来の者たちにも認めさせてやりませんと」
「おっ、そうか? んじゃ、レクリナが言うんだからしょうがねぇか♪ おいティモン、そういうことだから話を聞くだけ聞いてやるよ」
何とか会話の門前払いだけは避けられた。だがそれでもティモンにはまだ勇気が持てず、おずおずと話し始める。
「……カクト様、レクリナ殿との結婚はもう少し熟考すべきです。王であるカクト様がレクリナ殿と結婚するということは、正式にレクリナ殿を王妃として迎え入れるということですから」
「んなことぐらいわかってるよ。俺はレクリナをこの国の王妃にして最高のプレゼントを送ってやるんだ」
「で、ですが、王が王妃を選ぶためには、臣下たちの信任を得て正式な儀礼というものを通過する必要がございまして……」
「ま~た国がどうこういう話かよ。お前の喋ることはいっつもそればっかだな」
カクトは気だるげに玉座の上で片足を組みながら、ティモンの方に向き直る。レクリナの手前ということもあってか、一応聞く姿勢だけは見せた。
「で、では、まず本題に入る前にこの国の成り立ちについてお話させていただきます」
「あ? んなもん必要ねぇだろ。さっさと儀礼とやらの話しろよ」
「い、いえ、これは儀礼を執り行う意義を知っていただく上でも重要なのです。どうかお聞きください!」
「ああ~うっぜぇ。俺は長ったらしい話が大嫌いなんだよ」
カクトは今度は片肘をひざ掛けについて、ぞんざいな態度を見せる。それでもティモンはミチュアプリスの歴史について話し始めた。
「ミチュアプリス王国は100年前、まだ名も持たぬ商業都市でした。ですがその頃はブラカイア族の侵攻に脅かされ、早急に都市を統括する者が必要となりました。その結果当時市長だったミチュアプリス様が、人民たちの推薦により国王陛下になられました。その後は見事ブラカイア族の侵攻を他国との協力によって打ち破り、終戦後は貿易中心地として国家を繁栄させました。小国ながらも安定した治世を生涯に渡り守り続けてきたのです」
「ああ~そう? で、そこまで長々と話しといて何か俺とレクリナの結婚と関係あるの?」
「は、はい。我々ミチュアプリス王国の民たちは、今でもミチュアプリス陛下のことを忘れたことがございません。その誉れある王の功績に敬服と感謝を込め、今でもこの国を『ミチュアプリス王国』と呼んでいるのです。なので、カクト様にもこの国の王として、ミチュアプリス陛下のご遺志と国家の伝統を守るために、王位を引き継ぐ儀礼を受けてほしいのです。王妃と結婚するためには、まずはカクト様ご自身が正式な王として認められなければなりません」
「あっそう。つまり俺ってまだ王さまじゃなかったってこと? ……な~んかムカつくわ。そのミチュアプリスって奴、死んでる癖に俺より偉いみたいな扱いされてるし。死人の分際で俺より目立つんじゃねぇよ」
ティモンの伝統を重んじる姿勢に、カクトは途端に不機嫌になる。自分より高位な存在が許せないといった様子だった。その傲岸不遜な現王の態度に、(やはり、話すべきじゃなかったか……)とティモンは後悔する。
「つ~かさぁティモン。俺さぁ、前々から思ってたんだけど、この国の名前そろそろ変えた方がよくね? 『ミチュアプリス王国』とか覚えにくいし言いにくいだろ? だから俺もそいつと同じように、この国を『カクト王国』に改名してやるわ。その方が俺がこの国の王だってわかりやすいし」
カクトはさも当然の権利であるかのように主張する。ティモンは悲しみも怒りも通り越して呆れ果てるしかなかった。
(もはや歴史の凌辱でしかない。歴代王たちが築き上げた栄光ある国家の名を、王の位に在任して1年にも満たない男の名にすげ替えるなど。そんな蛮行は歴史を軽視した最大限の侮辱行為でしかない。人々が築き上げてきた歴史に敬服を持たぬ者は、平気でその尊厳を踏みにじる。いま己が享受している権利や立場の背後にある、先人たちが積み上げてきた血と汗の礎など露とも考えが及ばないのだ)
だが、そう反発すれどティモンは命が惜しかった。偉そうに歴史の偉大さなど語ったところで、目の前の暴君には何ら響かないだろうと諦めている。けっきょくティモンは保身のために、国家の名を変更する手続きについて白状した。
「……その、まず、先ほども触れましたが、カクト様はまだこの国の正式な国王ではありません。そのために、国家の名前を変更する権限を持ち合わせていないのです」
「あ~そう? じゃあどうやったらその『正式な王』とやらになれるわけぇ?」
カクトは明らかにめんどくさがった声で尋ねる。
「も、申しわけありません。そ、その、この国の王になるためには、まずは『戴冠式』という式典を開かねばなりません。前任の王が次代の王を任命して、そこで初めてこの国の王として正式に認められるのです」
「あっそ。俺、アルマ何とかって奴殺しちゃったけどぉ?」
「お、王が既に亡くなられた場合には、王の信任を得ていた代理の者が代わりに任命します」
「あ~、うざってぇなぁ。何でいちいちそんな面倒な手続きしなきゃいけねぇんだよ。国の名前変えるだけなのに戴冠式とかいらなくね?」
カクトの態度がますます荒々しくなる。このまま不機嫌が増長すれば、また魔法で暴れられるかもしれない。それこそこの国は滅んでしまう。
「カクトさまぁ♥ 戴冠式を開きましょうよ。国王に任命する代理人ならティモンにやらせればいいのですわぁ」
レクリナがカクトに腕を絡ませながら猫撫で声を上げる。助け船を出されているが、そもそもこの女はまだ王妃でも何でもない。ティモンは内心ブラカイア族の奴隷ごときに顎で使われて腹を立てた。
「それから私たちの婚姻式を開けばいいのですわぁ。王と王妃が同時に誕生するなんて、魅力的じゃないですかぁ。そうすれば晴れてこの国はカクトさまのもの。『カクト王国』の誕生でございますわぁ!」
「そっかぁ! まぁそういうのもロマンがあっていいよなぁ! やっぱ俺も『正式な王』って奴になりたくなってきたわ!」
カクトは絡みつくレクリナの頭を撫で回し、同調を示す。もはやこの国を築き上げてきた歴代王の栄光は消え失せ、今では狂人の愚かな男と、媚びへつらいしか取柄のない奴隷女に支配された国に成り果ててしまった。
「んじゃ、さっそく戴冠式と婚姻式を開くとすっか! ティモン、さっさと用意しろよ」
そして性急に玉座の間は召使いたちによって飾り付けられ、二つの式典の準備が整った。
1時間ほど経った後、戴冠式と婚姻式が開かれた。国中の臣下が玉座の間に集められ、アーサスも投獄中だったがカクトの気まぐれで釈放された。ティモンの取り仕切りにより式典は粛々と進められる。だが、場に居合わせた軍官たちは全員抜剣したくてたまらなかった。文官たちは今すぐカクトを罵倒するスピーチをしたくて仕方なかった。それでもカクトはそんな臣下たちの憎しみなど露とも知らない。
ティモンは戴冠式の締めくくりに、王冠をカクトの頭に被せる。だがカクトはすぐに「重くて邪魔だわコレ」と言ってレクリナの頭に乗せた。
「まぁ素敵! 一生の思い出の品にしますわカクトさまぁ♥」
レクリナははしゃいでカクトに嬌声を上げる。それからすぐに婚姻式も執り行われ、新たに誕生した王と王妃は誓いのキスをしあった。ベロベロとねばっこく、真っ昼間から夜の営みでもするように熱く舌を絡ませ合う。
(……ああ、この国はもうお終いだぁ)
ティモンは、そんな愚かな王と下賤な王妃の戯れを見て絶望の顔色に染まる。それはこの玉座の間にいる臣下たち全員が同様であった。
玉座の間で、レクリナの甘ったるい声が響いた。カクトはデレデレとニタつきながら、レクリナに相槌を打つ。
「そっかそっかぁ。お前ももうそんな時期なんだな。レクリナ、お前何歳になったの?」
「16歳ですわぁ♥ 私もすっかりレディなんですぅ」
レクリナはカクトの腕に抱きつき、カクトはレクリナの頭を撫でる。そんな猿のようにイチャつく二人を、臣下一同はいつものように白眼視した。
「それで、お願いがあるんですカクトさまぁ……私、今日は素敵な誕生日プレゼントが欲しいですわ」
「ああ~、そうだよなぁ。誕生日つったらプレゼントだよなぁ。何が欲しい?」
「カクトさまご自身が考えてくださいましぃ♥ 私がとびっきり喜べるようなものがほしいですぅ!」
「ああ~なるほどなぁ。サプライズプレゼントって奴ね。だったらええっと……」
カクトは顎に手を添え、うんうんとしばらく考える。
「んじゃ、俺と今日結婚するってのはどうよ?」
「まあぁっ♥」
レクリナはキラキラと瞳を輝かせる。頬を紅潮させて、カクトの眼をじっと見つめた。
「素敵すぎますわカクトさまぁ♥ カクトさまと結婚できるなんて、これ以上ない幸せですぅ♥」
「だろだろ? やっぱ俺みたいな超絶優秀な男にはレクリナみたいな可愛い女が似合うんだよ。んじゃ、早速結婚するとすっか!!」
(ま、まずいっ!! またカクトがとんでもないことを言いだしたぞ!!)
ティモンは冷や汗を流しながら、一歩前に進み出る。
「お、お待ちくださいカクトさまッ!!」
「うっせぇジジイ!! 今いいところなんだからお前はすっこんでろ!!」
「そ、そういうわけには……」
「ああるせぇるせぇ。どうせまた俺に説教する気だろ? レクリナと結婚するなとか」
図星を突かれ、ティモンの心臓はギュッと縮み上がる。もはや頭の悪いカクトでもパターンを見切っているようだった。
「カクトさま、一応ティモンの話を聞いてやりましょうよ。やっぱり私たちが結婚するからには、家来の者たちにも認めさせてやりませんと」
「おっ、そうか? んじゃ、レクリナが言うんだからしょうがねぇか♪ おいティモン、そういうことだから話を聞くだけ聞いてやるよ」
何とか会話の門前払いだけは避けられた。だがそれでもティモンにはまだ勇気が持てず、おずおずと話し始める。
「……カクト様、レクリナ殿との結婚はもう少し熟考すべきです。王であるカクト様がレクリナ殿と結婚するということは、正式にレクリナ殿を王妃として迎え入れるということですから」
「んなことぐらいわかってるよ。俺はレクリナをこの国の王妃にして最高のプレゼントを送ってやるんだ」
「で、ですが、王が王妃を選ぶためには、臣下たちの信任を得て正式な儀礼というものを通過する必要がございまして……」
「ま~た国がどうこういう話かよ。お前の喋ることはいっつもそればっかだな」
カクトは気だるげに玉座の上で片足を組みながら、ティモンの方に向き直る。レクリナの手前ということもあってか、一応聞く姿勢だけは見せた。
「で、では、まず本題に入る前にこの国の成り立ちについてお話させていただきます」
「あ? んなもん必要ねぇだろ。さっさと儀礼とやらの話しろよ」
「い、いえ、これは儀礼を執り行う意義を知っていただく上でも重要なのです。どうかお聞きください!」
「ああ~うっぜぇ。俺は長ったらしい話が大嫌いなんだよ」
カクトは今度は片肘をひざ掛けについて、ぞんざいな態度を見せる。それでもティモンはミチュアプリスの歴史について話し始めた。
「ミチュアプリス王国は100年前、まだ名も持たぬ商業都市でした。ですがその頃はブラカイア族の侵攻に脅かされ、早急に都市を統括する者が必要となりました。その結果当時市長だったミチュアプリス様が、人民たちの推薦により国王陛下になられました。その後は見事ブラカイア族の侵攻を他国との協力によって打ち破り、終戦後は貿易中心地として国家を繁栄させました。小国ながらも安定した治世を生涯に渡り守り続けてきたのです」
「ああ~そう? で、そこまで長々と話しといて何か俺とレクリナの結婚と関係あるの?」
「は、はい。我々ミチュアプリス王国の民たちは、今でもミチュアプリス陛下のことを忘れたことがございません。その誉れある王の功績に敬服と感謝を込め、今でもこの国を『ミチュアプリス王国』と呼んでいるのです。なので、カクト様にもこの国の王として、ミチュアプリス陛下のご遺志と国家の伝統を守るために、王位を引き継ぐ儀礼を受けてほしいのです。王妃と結婚するためには、まずはカクト様ご自身が正式な王として認められなければなりません」
「あっそう。つまり俺ってまだ王さまじゃなかったってこと? ……な~んかムカつくわ。そのミチュアプリスって奴、死んでる癖に俺より偉いみたいな扱いされてるし。死人の分際で俺より目立つんじゃねぇよ」
ティモンの伝統を重んじる姿勢に、カクトは途端に不機嫌になる。自分より高位な存在が許せないといった様子だった。その傲岸不遜な現王の態度に、(やはり、話すべきじゃなかったか……)とティモンは後悔する。
「つ~かさぁティモン。俺さぁ、前々から思ってたんだけど、この国の名前そろそろ変えた方がよくね? 『ミチュアプリス王国』とか覚えにくいし言いにくいだろ? だから俺もそいつと同じように、この国を『カクト王国』に改名してやるわ。その方が俺がこの国の王だってわかりやすいし」
カクトはさも当然の権利であるかのように主張する。ティモンは悲しみも怒りも通り越して呆れ果てるしかなかった。
(もはや歴史の凌辱でしかない。歴代王たちが築き上げた栄光ある国家の名を、王の位に在任して1年にも満たない男の名にすげ替えるなど。そんな蛮行は歴史を軽視した最大限の侮辱行為でしかない。人々が築き上げてきた歴史に敬服を持たぬ者は、平気でその尊厳を踏みにじる。いま己が享受している権利や立場の背後にある、先人たちが積み上げてきた血と汗の礎など露とも考えが及ばないのだ)
だが、そう反発すれどティモンは命が惜しかった。偉そうに歴史の偉大さなど語ったところで、目の前の暴君には何ら響かないだろうと諦めている。けっきょくティモンは保身のために、国家の名を変更する手続きについて白状した。
「……その、まず、先ほども触れましたが、カクト様はまだこの国の正式な国王ではありません。そのために、国家の名前を変更する権限を持ち合わせていないのです」
「あ~そう? じゃあどうやったらその『正式な王』とやらになれるわけぇ?」
カクトは明らかにめんどくさがった声で尋ねる。
「も、申しわけありません。そ、その、この国の王になるためには、まずは『戴冠式』という式典を開かねばなりません。前任の王が次代の王を任命して、そこで初めてこの国の王として正式に認められるのです」
「あっそ。俺、アルマ何とかって奴殺しちゃったけどぉ?」
「お、王が既に亡くなられた場合には、王の信任を得ていた代理の者が代わりに任命します」
「あ~、うざってぇなぁ。何でいちいちそんな面倒な手続きしなきゃいけねぇんだよ。国の名前変えるだけなのに戴冠式とかいらなくね?」
カクトの態度がますます荒々しくなる。このまま不機嫌が増長すれば、また魔法で暴れられるかもしれない。それこそこの国は滅んでしまう。
「カクトさまぁ♥ 戴冠式を開きましょうよ。国王に任命する代理人ならティモンにやらせればいいのですわぁ」
レクリナがカクトに腕を絡ませながら猫撫で声を上げる。助け船を出されているが、そもそもこの女はまだ王妃でも何でもない。ティモンは内心ブラカイア族の奴隷ごときに顎で使われて腹を立てた。
「それから私たちの婚姻式を開けばいいのですわぁ。王と王妃が同時に誕生するなんて、魅力的じゃないですかぁ。そうすれば晴れてこの国はカクトさまのもの。『カクト王国』の誕生でございますわぁ!」
「そっかぁ! まぁそういうのもロマンがあっていいよなぁ! やっぱ俺も『正式な王』って奴になりたくなってきたわ!」
カクトは絡みつくレクリナの頭を撫で回し、同調を示す。もはやこの国を築き上げてきた歴代王の栄光は消え失せ、今では狂人の愚かな男と、媚びへつらいしか取柄のない奴隷女に支配された国に成り果ててしまった。
「んじゃ、さっそく戴冠式と婚姻式を開くとすっか! ティモン、さっさと用意しろよ」
そして性急に玉座の間は召使いたちによって飾り付けられ、二つの式典の準備が整った。
1時間ほど経った後、戴冠式と婚姻式が開かれた。国中の臣下が玉座の間に集められ、アーサスも投獄中だったがカクトの気まぐれで釈放された。ティモンの取り仕切りにより式典は粛々と進められる。だが、場に居合わせた軍官たちは全員抜剣したくてたまらなかった。文官たちは今すぐカクトを罵倒するスピーチをしたくて仕方なかった。それでもカクトはそんな臣下たちの憎しみなど露とも知らない。
ティモンは戴冠式の締めくくりに、王冠をカクトの頭に被せる。だがカクトはすぐに「重くて邪魔だわコレ」と言ってレクリナの頭に乗せた。
「まぁ素敵! 一生の思い出の品にしますわカクトさまぁ♥」
レクリナははしゃいでカクトに嬌声を上げる。それからすぐに婚姻式も執り行われ、新たに誕生した王と王妃は誓いのキスをしあった。ベロベロとねばっこく、真っ昼間から夜の営みでもするように熱く舌を絡ませ合う。
(……ああ、この国はもうお終いだぁ)
ティモンは、そんな愚かな王と下賤な王妃の戯れを見て絶望の顔色に染まる。それはこの玉座の間にいる臣下たち全員が同様であった。