残酷な描写あり
R-15
力に溺れた公開処刑
「は~い群衆のお前ら~! この国の王様タナカカクト様ですよ~♪ 今から俺に逆らったクソ間抜けなギラムくんを処刑しようと思いま~す♪」
カクトは処刑台の壇上に登り、広場を埋め尽くした群衆を見晴らす。集められた群衆たちは何事かと、突然現れたカクトに注目を浴びせる。警備は厳戒態勢を敷いており、アーサス率いる制圧部隊が群衆たちを監視していた。
処刑台の十字架には男が磔になっている。両手足に深々と黒い針が突き刺さっており、止血もされないまま鉄の鎖で縛り上げられていた。その屈辱の段取りを執り行ったのはアーサス。嘲笑い上機嫌なカクトの命令により、己の腹心を処刑台に立たせたのだ。
「んじゃ始めに、こういうバカが二度と現れねぇように俺の能力を見せておくか。おいアーサス! 試しに俺に攻撃してみろよ!」
処刑台で隣に立つアーサスはビクリと肩を震わせる。一瞬何を命令しているのかと正気を疑った。よもや攻撃を理由に自分を殺そうとしているのかもしれない。アーサスは表情を固まらせて沈黙する。
「いいからさっさと攻撃しろよボケ! 俺はお前の攻撃なんかじゃ絶対死なねぇから。あんまり待たせるとお前のほうをぶち殺すぞ?」
「わ、わかりました……」
やむなくアーサスは剣を抜き、カクトに刃を構える。
「では、お覚悟を!」
力強く踏み込むと、神速の剣捌きでカクトに振り下ろす。それは殺意と怨恨を漲らせた全身全霊の一撃だった。
ガキィィィン!
だがその剣撃は、瞬く間に弾かれる。アーサスの全身に反動が走り後ずさった。何とか態勢を立て直すと、カクトの周囲には半透明な魔法障壁が出現していた。
「『パーフェクトガード』。俺に危害を加えようとするあらゆる攻撃を自動で防御する! つまり俺は絶対無敵だってこと」
カクトは満悦の笑みを浮かべながら、魔法障壁の裏側を人差し指でコツコツと叩く。カクト自身にはパーフェクトガードの電流は走らない。
やがて魔法障壁が消えると、カクトは両手を左右に広げる。『ファイアボール』・『クラフトニードル』と立て続けに唱えた。右手からは黒い針が飛び出し、左手からは火の玉が浮かび上がった。
「『ファイアボール』。国一つ消し飛ばせる炎の玉を創り出す最強の魔法。まぁ、カマセなんとやらが滅んだニュースはお前らも知ってるだろうし、これはもう話さなくていいか」
続け様にカクトは右手に視線を向ける。
「『クラフトニードル』。最大100万本の鋼鉄の針を生み出し、無限に発射できる遠距離魔法。俺が出そうと思った場所に出せるから、確実に殺したい奴をいつでも殺せるってわけよ」
そしてカクトが両手を下ろすと同時に、黒い針と火の玉が忽然と消える。群衆が呆気に取られ目を奪われているのを確認すると、今度は『ワープホール』と唱えた。黒い靄が処刑台に突如現れ、魔術師はその禍々しい靄の中をくぐり抜けていった。
「『ワープホール』。俺が行きたいとイメージした場所に瞬間移動できる魔法。時計台を見てみろ! そこに俺が立ってる。人間だろうが物体だろうが、あらゆるものを瞬間移動させることができる転送魔法だ」
処刑台に浮かぶ黒い靄から、自信満々な声が響いた。群衆が声の主の命令に従って空を見上げる。ミチュアプリスで最も高い建設物である時計台の頂きに、男の人影が捉えられた。群衆たちが一斉に自分を見上げたことに満足したカクトは、再びワープホールを潜り抜け処刑台の前に戻る。
「以上が俺のチート魔法の力だ! この俺の力の前じゃ誰も逆らえない! 俺を殺そうとしても無駄だし、俺が殺したいと思った奴はいつでも殺せる! つまり俺がこの世界で最強ってわけ! 俺にこのチート能力がある限り、この世界の王は俺なんだよ!」
クヒャヒャヒャヒャヒャ!!
甲高い笑い声がミチュアプリス全土を震撼させる。群衆はそんな新たな暴君の出現に誰も口を開くことができない。胸の底から恐怖が湧き上がり、ピクリとも身体を動かせず放心した。
「んじゃ、俺のチート魔法のお披露目も済んだことだし、そろそろ今日のメインディッシュに行くか!」
カクトは高笑いを止め、ゆっくりと磔台に近づく。目の前の無様で血塗れな十字姿の男をニタニタと眺め、肩にポン、と気兼ねない仕草で手を置いた。
「なぁギラムくぅん。なんか言い残す言葉とかある? 命乞いでもする? それとももう一度俺を殺してみる? 何か面白いことでも言ってみろよ!」
そしてカクトは残虐な笑顔で見せしめに呼びかける。どんな惨めな反応が返ってくるか、心の底からワクワクした。
ペッ
だが返ってきた答えは唾だった。汚濁した粘液はカクトのパーフェクトガードによって阻まれ、ガラスにべったりとこびりついて垂れ落ちた。
「あれ? それが遺言で言い訳?」
カクトは興味を失って不機嫌となる。だがすぐに満面の笑みを浮かべ直した。
「まいっか。んじゃそろそろ死ねよ♪ ファイアボール」
十字の男の足元から大きな火柱が上がった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ギラムは全身に身を焼かれ絶叫する。杭が突き刺さった手足をバタバタと暴れさせた。だがきつく鉄鎖で縛られた身体は火焔から逃れることができない。身を引き裂かれそうな激痛に何度も気絶を繰り返す。だが体中に蔓延る神経に安息の瞬間など訪れない。何度も強制的に意識が遡っては、灼熱の苦しみが現実の悪夢となって襲い掛かった。
「ああ、こいつが死んでる間にちょっとした豆知識を披露しておくとさぁ、焼死って人間の死に方の中で一番苦しいらしいよ? 自殺サイトで読んだから知ってんだよ俺。だから男の癖にこんなキィキィうるせぇんだなぁ」
クヒャヒャヒャ! とカクトは愉快そうに笑い声を上げる。群衆たちは口元を手で抑え、胃液とともに込み上げてくる吐瀉物を必死で堪えた。耳を突き破られそうなほどの悲痛な叫びが、遥か上空まで狼煙となって轟く。
やがて火柱が甚振りの限りを尽くして鎮まると、ギラムの首がぐったりと項垂れた。焼け爛れた顔の皮膚からは赤黒い髑髏が露出する。眼窩や口腔からは黒い煙が幾筋も吐き出され、焦げた肉塊はもはや悲鳴すら上げなくなった。
「くっせぇ! 人間って焼いたらこんなに臭ぇんだ! あ~あ、気分悪ぃ。昼飯時だってのに食う気もなくなっちまったわ」
嬲り殺した張本人は鼻を覆って顔をしかめるが、さっさと『ワープホール』の呪文を唱えた。
「んじゃ、俺はちょっと昼寝でもしてくるわ。アーサス、お前はこのクセェ消し炭片付けとけよ」
そしてカクトは黒い靄へと消えていく。
絶句して地面に足が張り付いた者たちだけが、処刑台の広場に残された。
(ギラム……あいつは元々は盗賊だった。素行が悪く野蛮な男で、ミチュアプリスでも悪名を轟かせたほどどうしようもないごろつきだった。
……だがそれでも、あいつの国への忠義心は誰よりも厚かった。あいつが改心して「あんたの家来にしてくれ!」って額を地面に擦りつけられた時は、私も心から信用できる男だと確信できた。
共に戦場を駆け、共に忠義を尽くし、そして共に酒を酌み交わした。そんなかけがえのない友を私は……私はっ……処刑台に送って見殺しにしたのだ!!)
アーサスは抜き身のまま手に持った剣を、何度カクトに振り下ろそうとしたかわからなかった。
カクトは処刑台の壇上に登り、広場を埋め尽くした群衆を見晴らす。集められた群衆たちは何事かと、突然現れたカクトに注目を浴びせる。警備は厳戒態勢を敷いており、アーサス率いる制圧部隊が群衆たちを監視していた。
処刑台の十字架には男が磔になっている。両手足に深々と黒い針が突き刺さっており、止血もされないまま鉄の鎖で縛り上げられていた。その屈辱の段取りを執り行ったのはアーサス。嘲笑い上機嫌なカクトの命令により、己の腹心を処刑台に立たせたのだ。
「んじゃ始めに、こういうバカが二度と現れねぇように俺の能力を見せておくか。おいアーサス! 試しに俺に攻撃してみろよ!」
処刑台で隣に立つアーサスはビクリと肩を震わせる。一瞬何を命令しているのかと正気を疑った。よもや攻撃を理由に自分を殺そうとしているのかもしれない。アーサスは表情を固まらせて沈黙する。
「いいからさっさと攻撃しろよボケ! 俺はお前の攻撃なんかじゃ絶対死なねぇから。あんまり待たせるとお前のほうをぶち殺すぞ?」
「わ、わかりました……」
やむなくアーサスは剣を抜き、カクトに刃を構える。
「では、お覚悟を!」
力強く踏み込むと、神速の剣捌きでカクトに振り下ろす。それは殺意と怨恨を漲らせた全身全霊の一撃だった。
ガキィィィン!
だがその剣撃は、瞬く間に弾かれる。アーサスの全身に反動が走り後ずさった。何とか態勢を立て直すと、カクトの周囲には半透明な魔法障壁が出現していた。
「『パーフェクトガード』。俺に危害を加えようとするあらゆる攻撃を自動で防御する! つまり俺は絶対無敵だってこと」
カクトは満悦の笑みを浮かべながら、魔法障壁の裏側を人差し指でコツコツと叩く。カクト自身にはパーフェクトガードの電流は走らない。
やがて魔法障壁が消えると、カクトは両手を左右に広げる。『ファイアボール』・『クラフトニードル』と立て続けに唱えた。右手からは黒い針が飛び出し、左手からは火の玉が浮かび上がった。
「『ファイアボール』。国一つ消し飛ばせる炎の玉を創り出す最強の魔法。まぁ、カマセなんとやらが滅んだニュースはお前らも知ってるだろうし、これはもう話さなくていいか」
続け様にカクトは右手に視線を向ける。
「『クラフトニードル』。最大100万本の鋼鉄の針を生み出し、無限に発射できる遠距離魔法。俺が出そうと思った場所に出せるから、確実に殺したい奴をいつでも殺せるってわけよ」
そしてカクトが両手を下ろすと同時に、黒い針と火の玉が忽然と消える。群衆が呆気に取られ目を奪われているのを確認すると、今度は『ワープホール』と唱えた。黒い靄が処刑台に突如現れ、魔術師はその禍々しい靄の中をくぐり抜けていった。
「『ワープホール』。俺が行きたいとイメージした場所に瞬間移動できる魔法。時計台を見てみろ! そこに俺が立ってる。人間だろうが物体だろうが、あらゆるものを瞬間移動させることができる転送魔法だ」
処刑台に浮かぶ黒い靄から、自信満々な声が響いた。群衆が声の主の命令に従って空を見上げる。ミチュアプリスで最も高い建設物である時計台の頂きに、男の人影が捉えられた。群衆たちが一斉に自分を見上げたことに満足したカクトは、再びワープホールを潜り抜け処刑台の前に戻る。
「以上が俺のチート魔法の力だ! この俺の力の前じゃ誰も逆らえない! 俺を殺そうとしても無駄だし、俺が殺したいと思った奴はいつでも殺せる! つまり俺がこの世界で最強ってわけ! 俺にこのチート能力がある限り、この世界の王は俺なんだよ!」
クヒャヒャヒャヒャヒャ!!
甲高い笑い声がミチュアプリス全土を震撼させる。群衆はそんな新たな暴君の出現に誰も口を開くことができない。胸の底から恐怖が湧き上がり、ピクリとも身体を動かせず放心した。
「んじゃ、俺のチート魔法のお披露目も済んだことだし、そろそろ今日のメインディッシュに行くか!」
カクトは高笑いを止め、ゆっくりと磔台に近づく。目の前の無様で血塗れな十字姿の男をニタニタと眺め、肩にポン、と気兼ねない仕草で手を置いた。
「なぁギラムくぅん。なんか言い残す言葉とかある? 命乞いでもする? それとももう一度俺を殺してみる? 何か面白いことでも言ってみろよ!」
そしてカクトは残虐な笑顔で見せしめに呼びかける。どんな惨めな反応が返ってくるか、心の底からワクワクした。
ペッ
だが返ってきた答えは唾だった。汚濁した粘液はカクトのパーフェクトガードによって阻まれ、ガラスにべったりとこびりついて垂れ落ちた。
「あれ? それが遺言で言い訳?」
カクトは興味を失って不機嫌となる。だがすぐに満面の笑みを浮かべ直した。
「まいっか。んじゃそろそろ死ねよ♪ ファイアボール」
十字の男の足元から大きな火柱が上がった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ギラムは全身に身を焼かれ絶叫する。杭が突き刺さった手足をバタバタと暴れさせた。だがきつく鉄鎖で縛られた身体は火焔から逃れることができない。身を引き裂かれそうな激痛に何度も気絶を繰り返す。だが体中に蔓延る神経に安息の瞬間など訪れない。何度も強制的に意識が遡っては、灼熱の苦しみが現実の悪夢となって襲い掛かった。
「ああ、こいつが死んでる間にちょっとした豆知識を披露しておくとさぁ、焼死って人間の死に方の中で一番苦しいらしいよ? 自殺サイトで読んだから知ってんだよ俺。だから男の癖にこんなキィキィうるせぇんだなぁ」
クヒャヒャヒャ! とカクトは愉快そうに笑い声を上げる。群衆たちは口元を手で抑え、胃液とともに込み上げてくる吐瀉物を必死で堪えた。耳を突き破られそうなほどの悲痛な叫びが、遥か上空まで狼煙となって轟く。
やがて火柱が甚振りの限りを尽くして鎮まると、ギラムの首がぐったりと項垂れた。焼け爛れた顔の皮膚からは赤黒い髑髏が露出する。眼窩や口腔からは黒い煙が幾筋も吐き出され、焦げた肉塊はもはや悲鳴すら上げなくなった。
「くっせぇ! 人間って焼いたらこんなに臭ぇんだ! あ~あ、気分悪ぃ。昼飯時だってのに食う気もなくなっちまったわ」
嬲り殺した張本人は鼻を覆って顔をしかめるが、さっさと『ワープホール』の呪文を唱えた。
「んじゃ、俺はちょっと昼寝でもしてくるわ。アーサス、お前はこのクセェ消し炭片付けとけよ」
そしてカクトは黒い靄へと消えていく。
絶句して地面に足が張り付いた者たちだけが、処刑台の広場に残された。
(ギラム……あいつは元々は盗賊だった。素行が悪く野蛮な男で、ミチュアプリスでも悪名を轟かせたほどどうしようもないごろつきだった。
……だがそれでも、あいつの国への忠義心は誰よりも厚かった。あいつが改心して「あんたの家来にしてくれ!」って額を地面に擦りつけられた時は、私も心から信用できる男だと確信できた。
共に戦場を駆け、共に忠義を尽くし、そして共に酒を酌み交わした。そんなかけがえのない友を私は……私はっ……処刑台に送って見殺しにしたのだ!!)
アーサスは抜き身のまま手に持った剣を、何度カクトに振り下ろそうとしたかわからなかった。