残酷な描写あり
第11回 山を離れる 宮に乗り込む:1-2
「ま、心配せんでも、親父と祖父さんの血は伊達じゃない。俺に任せとけ」
トシュがいささかわざとらしく胸を叩いたのは、つまり無力な少女を元気づけようとしたのだろうけれども、
「自信たっぷりなところに水を差すのもなんだけど」
ジョイドは少々疑わしげに首を傾げた。
「偽物が王宮の外に飛び出して、外でやり合うことになったとしてね、そこの民家を叩き潰されたくなかったら武器を捨てろって言われたらどうするの」
「……」
「黙んないでよ」
「いや、だって、わかったっつったら終わっちまうし」
苦笑に対して渋面が返る。偶然近くにいただけの誰かを犠牲にするわけにはいかないだろうが、だからといってそうそう呑むわけにもいくまい。一度呑んでしまえば、要求がエスカレートするのも目に見えている。
「勿論、なるべく町の外に追い出して、一度追い出したら戻ってこさせないように、っていう方向で考えてるけど。町の中でやり合うことになりそうになったら——これは一対一の戦いであって他人を交えちゃいけない、っていう〈誓約〉を立てるのがいいのかな」
「……それは、破ったら罰が下る方じゃなくて、強制的に禁止する方だよな?」
こちらの提案の難易度はセディカにはわからないものの、提案された側が眉を顰めるのを見れば察せられた。
「そうじゃなくても、他人を〈誓約〉で縛るってのは、自分で〈誓約〉を立てるのとはレベルが段違いだろ?」
「普通はね、あんな勢い任せの言葉が〈誓約〉として成立したりしないの」
教えるジョイドはまるで諭すかたしなめるかのようだった。
「あれで無意識に〈誓約〉を立ててしまえるんだったら、他人を巻き込んだ〈誓約〉を立てることもできると思うよ」
「……そうか」
困ったように鈍く笑んで、トシュは了承を示した。
「後は、折角王様がいるから、王様にも術を試してもらうかな。我が民に手を出してはならぬ、って言えるのは君主だけだからね」
「三年間玉座から離れてた君主な」
「そう。だから過信はしないこと」
今度は巻き物を手に取ったところで、あ、とジョイドはセディカを見返った。
「この先はセディを付き合わせてもしょうがないな。一旦向こうの部屋に戻って、護符を仕込んでおいで」
「あ、うん」
セディカは指示に従った。ここにいても黙って聞いていることしかできないし、粛々と言うことを聞く他に、しばらくはどうしようもあるまい。素人が自己主張するような場面ではない。
泣いたことを引きずっているのは本人だけだなと思うと苦笑された。大一番を控えた青年たちに、そんなことに付き合っている暇はないのだ。世界はセディカを中心に回っているわけではない。
服の中に護符をしまって戻ってくれば、机の上は粗方片づいていた。
「人前でできない話、他にある?」
「いや。……調べた限りじゃ、気にしてやらなきゃいかんような事情も出てこなかったしな。もういいだろ。俺はやれるだけのことはやった」
神も照覧、と天井を仰ぐトシュは、急にそのときだけ投げやりになった気もしたが、いきなりそんな態度になる謂れもないから気のせいかもしれない。
それじゃ行こうか、とジョイドが言った。
トシュがいささかわざとらしく胸を叩いたのは、つまり無力な少女を元気づけようとしたのだろうけれども、
「自信たっぷりなところに水を差すのもなんだけど」
ジョイドは少々疑わしげに首を傾げた。
「偽物が王宮の外に飛び出して、外でやり合うことになったとしてね、そこの民家を叩き潰されたくなかったら武器を捨てろって言われたらどうするの」
「……」
「黙んないでよ」
「いや、だって、わかったっつったら終わっちまうし」
苦笑に対して渋面が返る。偶然近くにいただけの誰かを犠牲にするわけにはいかないだろうが、だからといってそうそう呑むわけにもいくまい。一度呑んでしまえば、要求がエスカレートするのも目に見えている。
「勿論、なるべく町の外に追い出して、一度追い出したら戻ってこさせないように、っていう方向で考えてるけど。町の中でやり合うことになりそうになったら——これは一対一の戦いであって他人を交えちゃいけない、っていう〈誓約〉を立てるのがいいのかな」
「……それは、破ったら罰が下る方じゃなくて、強制的に禁止する方だよな?」
こちらの提案の難易度はセディカにはわからないものの、提案された側が眉を顰めるのを見れば察せられた。
「そうじゃなくても、他人を〈誓約〉で縛るってのは、自分で〈誓約〉を立てるのとはレベルが段違いだろ?」
「普通はね、あんな勢い任せの言葉が〈誓約〉として成立したりしないの」
教えるジョイドはまるで諭すかたしなめるかのようだった。
「あれで無意識に〈誓約〉を立ててしまえるんだったら、他人を巻き込んだ〈誓約〉を立てることもできると思うよ」
「……そうか」
困ったように鈍く笑んで、トシュは了承を示した。
「後は、折角王様がいるから、王様にも術を試してもらうかな。我が民に手を出してはならぬ、って言えるのは君主だけだからね」
「三年間玉座から離れてた君主な」
「そう。だから過信はしないこと」
今度は巻き物を手に取ったところで、あ、とジョイドはセディカを見返った。
「この先はセディを付き合わせてもしょうがないな。一旦向こうの部屋に戻って、護符を仕込んでおいで」
「あ、うん」
セディカは指示に従った。ここにいても黙って聞いていることしかできないし、粛々と言うことを聞く他に、しばらくはどうしようもあるまい。素人が自己主張するような場面ではない。
泣いたことを引きずっているのは本人だけだなと思うと苦笑された。大一番を控えた青年たちに、そんなことに付き合っている暇はないのだ。世界はセディカを中心に回っているわけではない。
服の中に護符をしまって戻ってくれば、机の上は粗方片づいていた。
「人前でできない話、他にある?」
「いや。……調べた限りじゃ、気にしてやらなきゃいかんような事情も出てこなかったしな。もういいだろ。俺はやれるだけのことはやった」
神も照覧、と天井を仰ぐトシュは、急にそのときだけ投げやりになった気もしたが、いきなりそんな態度になる謂れもないから気のせいかもしれない。
それじゃ行こうか、とジョイドが言った。