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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第6回 王者が語る 亡者が願う:3-2
作中よりも過去における死ネタが含まれます。苦手な方はご注意ください。
「〈小人の作品〉じゃないかな。不思議な仕掛けは何もないけど、何せ小人の目と手だからね。人間や妖怪にはそもそも見えないところまで見えるし、彫れるわけだ」

「〈錦鶏集う国〉なんて名前を自分の国につけた王が持ってそうな代物ではあるな」

「これが錦鶏なの?」

「だと思うよ、線画じゃよくわかんないけどね。敢えて赤い翡翠を使ってるわけだし——ああ、翡翠だと思うよ、材質は」

 錦鶏。さんらんたる錦の如き羽を持つ霊鳥。鶏に似て鶏より小さく、背の文様は赤く、胸は五しきに輝いて孔雀の如く、その羽は火伏せの効果を持つという。寝る前にジョイドから説明を聞いたばかりだ。寺院に入る前には控えた〈錦鶏集う国〉の概要と建国史を、今度こそ語ったときに。

 これが確かに〈錦鶏〉国王の持ち物であるとも、盗まれたものではないとも証明はできないものの、二人はあの亡霊を本物の国王であると認めることにしたようだった。偽物であることが判明したらそのとき思い知らせてやればいい、と不穏なことをトシュは言い添えたが。

「俺らに直接言えって話だけどな。なんでセダを通すかね」

「怪しまれて即座に調伏されたりしたら嫌だからじゃないの」

 ジョイドが苦笑する。

「で、こいつは怪しんでも何もできそうにないってか?」

 トシュはセディカを見下ろして鼻を鳴らした。

「俺らを怖がるのはわかるが、こいつなら行けるだろっつってめてかかった根性は気に入らねえな」

「俺の推測で怒んないでよ」

「従者の力を借りたいのなら、主人に許可を取るでしょう?」

 セディカは首を傾げた。

 話を早くするために、青年たちは少女の従者を装ったのである。亡霊となった国王がいつどこにいたのかはわからないけれど、もしも三人が寺院に着いた頃から見ていたとしたら、主人として振る舞っていたセディカに働きかけるのは自然なことではないか。

 意表をかれたように、トシュは目をいた。口に片手をやったジョイドも笑いを隠しているらしい。

「その通りだ、ご主人様。俺らが勝手に請けたらおかしいね」

「……陛下はそう考えられただろうっていう話よ?」

 別に二人を本当に従者扱いしているわけではないのだが。

 トシュが何だか大仰に溜め息をいた。

「ああそうだ、俺らはおまえの従者じゃないんでな。どうするかは俺らが決める。で、どうする、ジョー」

「決定権俺にあんの?」

 俺もおまえの親分じゃないよとからかうように言ってから、ジョイドは手を口に当てたまま、笑いを収めて思案顔になった。

「王様の言い分しか聞いてないし、できれば下調べはしたいけど、明日には王子様が狩りに出るのね?」

「そう仰ったわ」

「一旦、今ある情報で動くしかないか」

 少しの間があった。

「助けてやろうよ。大切な人をうしなうことの次に哀しいのは、その人をちゃんと送れないことだもの」

 国王よりも王妃や太子に寄り添った答えであった。夫が、父が、殺されたとも、死んだとすら、知らないのだ。あまつさえ、殺した張本人が故人に成り済ましているとは、——思えば、なかなか、むごい。

 トシュは一つ頷いた。

「悪いがお姫さん、おまえのことは後回しだ。先にこっちを片づける」

「それは構わないけど」

 自分が先だ、などとは思いつきもしなかったし、国王を押し退けて優先権を主張できるセディカではなかった。それに、仲介役にすぎないとはいえ、国王の願いを直接聞いたのだ。どちらかと言えば、自分も二人の仲間として、その願いに応える立場にあるような気分でいた。……つまり、そんなことはない、と気づかされてしまったわけだが。

「……わたしの夢だけで、いいの?」

「ただの夢や思い込みでこれは出現しないよ」

 ジョイドが翡翠の飾りを振った。

「それとも、そう言って俺らを騙せって夢ん中で言われたか?」

「そんなことないわよ」

 唇をとがらせる。セディカを疑ったのではなくて、亡霊を警戒したのだろうけれど。

 今はここまで、と示すように、ジョイドが両手を打ち合わせた。

「さて、じゃあ——今日のところはもう寝なよ、セディ。寝不足で王子様と対面するわけにもいかないでしょ」

 全く以て当然の提案であった。大体、セディカは寝ていたのである。二人の方から乗り込んでこなければ、国王の頼みを伝えるのも夜が明けてからになったろう。

 否やはない、のだが。

「あの……二人は、向こうの部屋に戻る?」

 思った以上に、恐る恐る、といった調子の問いかけになった。

「寝るまでここにいようか?」

 そりゃ、ついさっき亡霊が出た場所だものね、とジョイドは微笑んだ。セディカはこくんと首を縦に振る。見栄を張るには——さっきの今、でありすぎる。

 二人はそれぞれ椅子を持ってきて、ベッドの左右に陣取った。明るい方がよいかと訊かれたのは断って、灯りが消える。寝顔を見られたいわけではない。

「ま、俺らは快諾したんだからな。国王陛下も満足したろ。もう妙な夢は見ねえさ」

 暗がりからトシュが励ました。快諾だったかなあ、とジョイドが笑った。
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