残酷な描写あり
第5回 旅路を守る 山路を越える:1-1
捨ててもよいハンカチか何かはないかと問われて荷物を漁っていると、トシュが先にミントグリーンのバンダナをジョイドへと投げつけた。
「おまえの使いさしじゃなあ」
「使ってねえよ。色が気に入らん」
「なんで持ってんのよ、じゃあ」
ジョイドはバンダナを持ち主の前に広げた。
「服に変えられるんじゃないかと思って。使い捨てで丈夫に作らなくていいとしたら、これから何着取れる?」
「——あ、そういうことか。十……六くらいじゃねえかな。おいセダ、ちょっと立て」
何なの、と返しながらセディカは従った。背丈をな、とトシュは座ったまま見上げる。
「山を越えるまで着たきり雀ってわけにもいかねえだろ、おまえは」
「……それは、嫌だけど。我慢はできるわよ」
「無理しないでいいよ。山の中だからちょっとは涼しいけど、基本的に暑いでしょ」
ジョイドがバンダナを半分に裂き、もう半分に裂き、四回繰り返して十六に分割した。バンダナの切れ端を一枚、トシュが摘み上げて息を吹きかければ、ふわりと空中を飛んでいって、床に落ちるなり服に変わる。セディカに合う大きさの、山道を行くのに相応しい上下一揃いであった。
「色そのまま? 気に入らないって言っといて?」
「俺好みの色にしても仕方ねえだろうよ」
「せめてもうちょっと淡くならない?」
「はいよ、デザイナーどの」
トシュはミントグリーンの塊を片手でつかんで一振りした。振り落とされたように色が薄くなって、それでジョイドは満足が行ったらしい。
「こんなとこかな。セディ、俺らは先に出てるから、着替えてから出てきなよ。自分の服は町に着くまでしまっておいてさ」
「あ、……うん」
いいのか、と確かめても仕方ない。バンダナはもう切り裂いてしまったのだから、今から遠慮しても無駄になるだけだ。人が着るものを髪の毛で作るのもなんだし、と付け加えるのには頷く。
そのトシュが発言権を求めるように挙手をする。
「その……あー……下着は、ないぞ」
「……うん」
「まあ、俺がそんなもん用意できたらその方が気色悪いしな」
恐らく少女は不満の表情も嫌悪の表情も浮かべなかったのだろう、青年は幾分ほっとしたようだった。少女の方は違うことが気にかかって、そちらにあまり意識を割けなかったということだったのだが。
今のは仙術なのか、それとも——妖術なのか、と。
だが、妖術であるとしたらどうなのか、と思うと——自分が何をどう感じているのかわからなくなって、結局、口には出せなかった。セディカはただ大人しく淡い緑の服に着替え、ベールは昨日から使っていたものをそのまま被り直した。
二日目から着替えにベールが追加された。
「おまえの使いさしじゃなあ」
「使ってねえよ。色が気に入らん」
「なんで持ってんのよ、じゃあ」
ジョイドはバンダナを持ち主の前に広げた。
「服に変えられるんじゃないかと思って。使い捨てで丈夫に作らなくていいとしたら、これから何着取れる?」
「——あ、そういうことか。十……六くらいじゃねえかな。おいセダ、ちょっと立て」
何なの、と返しながらセディカは従った。背丈をな、とトシュは座ったまま見上げる。
「山を越えるまで着たきり雀ってわけにもいかねえだろ、おまえは」
「……それは、嫌だけど。我慢はできるわよ」
「無理しないでいいよ。山の中だからちょっとは涼しいけど、基本的に暑いでしょ」
ジョイドがバンダナを半分に裂き、もう半分に裂き、四回繰り返して十六に分割した。バンダナの切れ端を一枚、トシュが摘み上げて息を吹きかければ、ふわりと空中を飛んでいって、床に落ちるなり服に変わる。セディカに合う大きさの、山道を行くのに相応しい上下一揃いであった。
「色そのまま? 気に入らないって言っといて?」
「俺好みの色にしても仕方ねえだろうよ」
「せめてもうちょっと淡くならない?」
「はいよ、デザイナーどの」
トシュはミントグリーンの塊を片手でつかんで一振りした。振り落とされたように色が薄くなって、それでジョイドは満足が行ったらしい。
「こんなとこかな。セディ、俺らは先に出てるから、着替えてから出てきなよ。自分の服は町に着くまでしまっておいてさ」
「あ、……うん」
いいのか、と確かめても仕方ない。バンダナはもう切り裂いてしまったのだから、今から遠慮しても無駄になるだけだ。人が着るものを髪の毛で作るのもなんだし、と付け加えるのには頷く。
そのトシュが発言権を求めるように挙手をする。
「その……あー……下着は、ないぞ」
「……うん」
「まあ、俺がそんなもん用意できたらその方が気色悪いしな」
恐らく少女は不満の表情も嫌悪の表情も浮かべなかったのだろう、青年は幾分ほっとしたようだった。少女の方は違うことが気にかかって、そちらにあまり意識を割けなかったということだったのだが。
今のは仙術なのか、それとも——妖術なのか、と。
だが、妖術であるとしたらどうなのか、と思うと——自分が何をどう感じているのかわからなくなって、結局、口には出せなかった。セディカはただ大人しく淡い緑の服に着替え、ベールは昨日から使っていたものをそのまま被り直した。
二日目から着替えにベールが追加された。