残酷な描写あり
R-15
39 「モブ、誘導する」
他の生徒達の前に姿を現した邪教信者……。
彼等は身を隠すことなく、卑怯にもこそこそと生徒達に攻撃を仕掛けようとすることなく、堂々と現れて、そして生徒に危害を加えていた。
黒いローブに黒い十字架のネックレス、それが彼等の正装と言ってもいい。
つまりこういった格好をすれば「邪教信者」の出来上がりになるんだけど、さすがにここでルークの「邪教信者のコスプレをしたエキストラさん説」をゴリ押ししようとしたところで、彼等が本物だったと生徒達にバレてしまったら結果的に私が怪しまれてしまう。
他の生徒は知らされていないのに、どうして私だけがその事実を知っていたのか。
場合によっては「モブで存在感が薄いから生徒と関わりを持てていない地味モブ」から一点して、「他の生徒を騙してハブられてる裏切りモブ」という存在になってしまう可能性だって……。
いくらクラスの中で全く目立たない存在だからって、その立ち位置は嫌だ。
私は誰とも揉めていない状態で、平穏無事な学園生活を送りたいだけなの!
つまりここはみんなの懸念している思考回路に合わせていくしか、私の平穏な生活を守る手段がない。
これはさすがに不可抗力よね?
先生達の作戦をバラしたことにはならないわよね?
私、先生のこと裏切ってませんよね!?
一人の生徒がぽつりと呟く。
「それじゃあれって……、邪教信者……?」
「でも仮にそうだとしたら、どうして私達が狙われなくちゃいけないのかな?」
だがしかし一応抗ってみせる。
もしかしたら「やっぱり考え過ぎかぁ!」ってなる可能性も!
「仮にエキストラが邪教信者の格好で演技してたとして、それは俺等のことビビらせ過ぎになんだろ。俺はビビってねぇけど!」と、エドガー。
「そうよね。邪教信者って言えば極端な話、過激なテロリスト集団みたいなものだもの。さすがにリアル犯罪者をモチーフにしてきたりは……」と、これはサラ。
そっすよね、そう上手くはいかないですよね。
どうせこの演習を強行した時点で、いつかは生徒にバレるって想定していたはずだから、そっちのパターンも用意しているはず。
大人はそこまで馬鹿じゃないと信じたい。
私は無駄な足掻きをせず、とにかく現状を打開するにはどうしたらいいか。それを話し合ったらいいかな。
邪教信者の目的がサラであることだけは伏せておいて、邪教信者から身を守りながら、先生達と合流して保護してもらう。
ここまで大々的に襲われて、邪教信者達の襲撃であることが発覚していれば、否が応でも先生達が生徒達を守ってくれる方向で動いてくれるはずだもの。
ただ、生徒達が一方的に攻撃されるのではなく、あくまで生徒達も戦力の内の一つとして行動するということだけは忘れちゃいけない。
戦意を失わせちゃいけないんだ。
「どうして邪教信者が私達を襲ってきたの? 怖いんだけど」
他の女性徒達が身を寄せ合って震え出す。
今まで平和に過ごしてきた一般人なら、この反応は当たり前よね。
「エキストラの件はともかくだ。今どうにかしねぇといけねぇのは、邪教信者の方だろ」
エドガーが不機嫌そうな顔でそう切り出した。
真っ先に攻撃されたんだから、彼の怒りと着眼点はごもっともだ。
「邪教信者は基本的に戦闘経験のない一般人で構成されてる。つまり戦闘訓練を少なからず授業で受けている私達の方が、彼等より動きはいいと思うんだけど」
エドガーに乗ってみる。
とにかく無理をしない程度に立ち向かう、という方向性で。
投げナイフを使った相手は恐らく、今回襲撃してきたメンバーの中で最も危険視すべき人物だと先生側ですでに把握しているはずだから。
予想でしかないけど、そっちの存在は先生達がすでに動いていると考えて、私達はとにかく自分達が生き残る為に少しでも多く弱い方の邪教信者を倒していく方向へ持っていかないと。
「何が言いたいんだ、E?」
ルーク、あんたも天然ばかり発動してないで、ちゃんと協力してよね。
戦力的にも期待してるんだから。
「彼等の目的がわからない以上、ここで考えていたって仕方がない。だったら私達は私達で当初の目的通り、身を隠しつつ襲撃しに来た相手を倒して行くということをして行けば、少なくとも自分達の安全は確保出来るんじゃないかってこと」
「でも危ないわ! 相手は犯罪者なのよ!」
「戦闘訓練を受けているって言っても、それはあくまで授業の一環で。実際に戦うだなんて……」
完全にヒヨってしまってる生徒に、私はどうにか安心要素も加えつつ鼓舞させる。
「みんな忘れたの? これは実戦演習なんだよ。確かに相手が違うって言うのはみんなが怖がる要因だけど、やってることは変わりない。それに考えてもみて? 本来なら戦闘経験があったであろうエキストラが、戦闘経験がない一般人に変わったのよ? 邪教信者と言っても全員が手練れの犯罪者じゃない。今ここにいるのは、黒いローブを着て首から黒い十字架を提げたただの一般人。さっきルークも言ってたように、邪教信者のコスプレをしたただの一般人だって思えばいいの」
「E、俺が言ったのは邪教信者のコスプレをしたエキスト」
「黙れ」
いらんことはシャットアウト。
「相手が犯罪者だって思うから怖いの。相手はただのコスプレ集団。みんなで力を合わせれば、決して勝てない相手じゃない。騎士団が邪教信者撲滅に苦労しているのだって、邪教信者で唯一戦闘経験がある幹部を相手にしていたからよ。それ以外はただの群れを成した一般人。数で攻めて来てるだけ。それに私達にはレイス先生、ソレイユ先生、それにライラ先生だっているんだから!」
キラキラチームだけではなく、他の生徒達の目にも光が宿ってきた。
少なからず「やれるかもしれない」という自信のこもった光が。
だけどクラスの中で絶対にいる、気弱な生徒。こればかりは仕方ない。私もその内の一人になるだろうから。
「でも……っ! 私のスキルは戦闘向きだと言えないわ。攻撃力も何もない、身体能力も高くないのに! 戦うのは怖い」
委員長のチームにいた、大人しそうな女生徒が泣き出した。
確かに見た感じ運動が得意そうなタイプには見えない。どちらかといえばお菓子作りや裁縫が得意なザ・女子って感じの女の子。
でもこんな女の子がA組に入れたっていうことだけは、忘れちゃいけない。
A組は卒業後に王国騎士団へ率先して配属されるような、そんな優秀な生徒しか入れないクラスなんだから。
「あなたのスキルを教えてくれる?」
「私のは、探知系のスキルよ。意識を集中させれば半径10キロ以内なら、どこに誰がいるのか探知出来るけど。でもそれだけよ? 戦う力なんてないんだから!」
十分じゃん! めっちゃ有能じゃん! むしろ今の状況に最適なスキルじゃん!
何それ、モブスキルしか持たない私がこれだけ偉そうに講釈垂れてるのが恥ずかしくなってくるわ!
優しい微笑みで話しかけた私がさ、もうさ、ただのピエロじゃん!
すげぇ恥ずかしいんだけど!
でも考えてみればそうよね。ここにいる全員が私なんかより、よっぽど優秀なスキルとか能力とか持ってるってことになるのよね!
何それ! 私こそいらなくないですか!?
などと心の中で悲しくなりつつ、私は気を取り直して話を続けた。
この間、一秒にも満たない!
「今のこの状況で一番頼りになるスキルじゃない!」
「え?」
「だってそうでしょ? 今、敵がどこから私達を狙っているかわからない状況で、敵の居場所がわかるってことでしょ? だったら先生達がどこにいるのかもわかるってことじゃない?」
「そうだよ! Eさんの言う通りだ! 敵の居場所さえ把握出来れば、こっちから不意打ちだって出来るし。敵から身を守る為に、隠れながら離れることも出来る。先生の居場所がわかれば、そこへ向かえばいいんだし。すごいスキルじゃないか!」
ウィルが瞳をキラキラと輝かせながら、更に探知系スキル少女を元気付ける。
男子に言われてその気になったのか、女生徒は「え、そうかな」と頬を染めながら自信を持って来た様子。
結局女子は男子がいいんですね! はいはい。
私は少しアホらしくなりながら、この場にいる全員のスキルと、何が得意で何が苦手か。
エドガーや委員長が中心になって作戦を立てて行く。
「よし、そんじゃあ反逆開始だゴラァ! その名も『モブ共のスキルを駆使しつつ、成績優秀な俺様とその下僕共がクソ腹立つ雑魚を一掃作戦』だ!」
生徒全員の顔が引きつる。
エドガー、あんたってネーミングセンス壊滅的だったんですね……。
彼等は身を隠すことなく、卑怯にもこそこそと生徒達に攻撃を仕掛けようとすることなく、堂々と現れて、そして生徒に危害を加えていた。
黒いローブに黒い十字架のネックレス、それが彼等の正装と言ってもいい。
つまりこういった格好をすれば「邪教信者」の出来上がりになるんだけど、さすがにここでルークの「邪教信者のコスプレをしたエキストラさん説」をゴリ押ししようとしたところで、彼等が本物だったと生徒達にバレてしまったら結果的に私が怪しまれてしまう。
他の生徒は知らされていないのに、どうして私だけがその事実を知っていたのか。
場合によっては「モブで存在感が薄いから生徒と関わりを持てていない地味モブ」から一点して、「他の生徒を騙してハブられてる裏切りモブ」という存在になってしまう可能性だって……。
いくらクラスの中で全く目立たない存在だからって、その立ち位置は嫌だ。
私は誰とも揉めていない状態で、平穏無事な学園生活を送りたいだけなの!
つまりここはみんなの懸念している思考回路に合わせていくしか、私の平穏な生活を守る手段がない。
これはさすがに不可抗力よね?
先生達の作戦をバラしたことにはならないわよね?
私、先生のこと裏切ってませんよね!?
一人の生徒がぽつりと呟く。
「それじゃあれって……、邪教信者……?」
「でも仮にそうだとしたら、どうして私達が狙われなくちゃいけないのかな?」
だがしかし一応抗ってみせる。
もしかしたら「やっぱり考え過ぎかぁ!」ってなる可能性も!
「仮にエキストラが邪教信者の格好で演技してたとして、それは俺等のことビビらせ過ぎになんだろ。俺はビビってねぇけど!」と、エドガー。
「そうよね。邪教信者って言えば極端な話、過激なテロリスト集団みたいなものだもの。さすがにリアル犯罪者をモチーフにしてきたりは……」と、これはサラ。
そっすよね、そう上手くはいかないですよね。
どうせこの演習を強行した時点で、いつかは生徒にバレるって想定していたはずだから、そっちのパターンも用意しているはず。
大人はそこまで馬鹿じゃないと信じたい。
私は無駄な足掻きをせず、とにかく現状を打開するにはどうしたらいいか。それを話し合ったらいいかな。
邪教信者の目的がサラであることだけは伏せておいて、邪教信者から身を守りながら、先生達と合流して保護してもらう。
ここまで大々的に襲われて、邪教信者達の襲撃であることが発覚していれば、否が応でも先生達が生徒達を守ってくれる方向で動いてくれるはずだもの。
ただ、生徒達が一方的に攻撃されるのではなく、あくまで生徒達も戦力の内の一つとして行動するということだけは忘れちゃいけない。
戦意を失わせちゃいけないんだ。
「どうして邪教信者が私達を襲ってきたの? 怖いんだけど」
他の女性徒達が身を寄せ合って震え出す。
今まで平和に過ごしてきた一般人なら、この反応は当たり前よね。
「エキストラの件はともかくだ。今どうにかしねぇといけねぇのは、邪教信者の方だろ」
エドガーが不機嫌そうな顔でそう切り出した。
真っ先に攻撃されたんだから、彼の怒りと着眼点はごもっともだ。
「邪教信者は基本的に戦闘経験のない一般人で構成されてる。つまり戦闘訓練を少なからず授業で受けている私達の方が、彼等より動きはいいと思うんだけど」
エドガーに乗ってみる。
とにかく無理をしない程度に立ち向かう、という方向性で。
投げナイフを使った相手は恐らく、今回襲撃してきたメンバーの中で最も危険視すべき人物だと先生側ですでに把握しているはずだから。
予想でしかないけど、そっちの存在は先生達がすでに動いていると考えて、私達はとにかく自分達が生き残る為に少しでも多く弱い方の邪教信者を倒していく方向へ持っていかないと。
「何が言いたいんだ、E?」
ルーク、あんたも天然ばかり発動してないで、ちゃんと協力してよね。
戦力的にも期待してるんだから。
「彼等の目的がわからない以上、ここで考えていたって仕方がない。だったら私達は私達で当初の目的通り、身を隠しつつ襲撃しに来た相手を倒して行くということをして行けば、少なくとも自分達の安全は確保出来るんじゃないかってこと」
「でも危ないわ! 相手は犯罪者なのよ!」
「戦闘訓練を受けているって言っても、それはあくまで授業の一環で。実際に戦うだなんて……」
完全にヒヨってしまってる生徒に、私はどうにか安心要素も加えつつ鼓舞させる。
「みんな忘れたの? これは実戦演習なんだよ。確かに相手が違うって言うのはみんなが怖がる要因だけど、やってることは変わりない。それに考えてもみて? 本来なら戦闘経験があったであろうエキストラが、戦闘経験がない一般人に変わったのよ? 邪教信者と言っても全員が手練れの犯罪者じゃない。今ここにいるのは、黒いローブを着て首から黒い十字架を提げたただの一般人。さっきルークも言ってたように、邪教信者のコスプレをしたただの一般人だって思えばいいの」
「E、俺が言ったのは邪教信者のコスプレをしたエキスト」
「黙れ」
いらんことはシャットアウト。
「相手が犯罪者だって思うから怖いの。相手はただのコスプレ集団。みんなで力を合わせれば、決して勝てない相手じゃない。騎士団が邪教信者撲滅に苦労しているのだって、邪教信者で唯一戦闘経験がある幹部を相手にしていたからよ。それ以外はただの群れを成した一般人。数で攻めて来てるだけ。それに私達にはレイス先生、ソレイユ先生、それにライラ先生だっているんだから!」
キラキラチームだけではなく、他の生徒達の目にも光が宿ってきた。
少なからず「やれるかもしれない」という自信のこもった光が。
だけどクラスの中で絶対にいる、気弱な生徒。こればかりは仕方ない。私もその内の一人になるだろうから。
「でも……っ! 私のスキルは戦闘向きだと言えないわ。攻撃力も何もない、身体能力も高くないのに! 戦うのは怖い」
委員長のチームにいた、大人しそうな女生徒が泣き出した。
確かに見た感じ運動が得意そうなタイプには見えない。どちらかといえばお菓子作りや裁縫が得意なザ・女子って感じの女の子。
でもこんな女の子がA組に入れたっていうことだけは、忘れちゃいけない。
A組は卒業後に王国騎士団へ率先して配属されるような、そんな優秀な生徒しか入れないクラスなんだから。
「あなたのスキルを教えてくれる?」
「私のは、探知系のスキルよ。意識を集中させれば半径10キロ以内なら、どこに誰がいるのか探知出来るけど。でもそれだけよ? 戦う力なんてないんだから!」
十分じゃん! めっちゃ有能じゃん! むしろ今の状況に最適なスキルじゃん!
何それ、モブスキルしか持たない私がこれだけ偉そうに講釈垂れてるのが恥ずかしくなってくるわ!
優しい微笑みで話しかけた私がさ、もうさ、ただのピエロじゃん!
すげぇ恥ずかしいんだけど!
でも考えてみればそうよね。ここにいる全員が私なんかより、よっぽど優秀なスキルとか能力とか持ってるってことになるのよね!
何それ! 私こそいらなくないですか!?
などと心の中で悲しくなりつつ、私は気を取り直して話を続けた。
この間、一秒にも満たない!
「今のこの状況で一番頼りになるスキルじゃない!」
「え?」
「だってそうでしょ? 今、敵がどこから私達を狙っているかわからない状況で、敵の居場所がわかるってことでしょ? だったら先生達がどこにいるのかもわかるってことじゃない?」
「そうだよ! Eさんの言う通りだ! 敵の居場所さえ把握出来れば、こっちから不意打ちだって出来るし。敵から身を守る為に、隠れながら離れることも出来る。先生の居場所がわかれば、そこへ向かえばいいんだし。すごいスキルじゃないか!」
ウィルが瞳をキラキラと輝かせながら、更に探知系スキル少女を元気付ける。
男子に言われてその気になったのか、女生徒は「え、そうかな」と頬を染めながら自信を持って来た様子。
結局女子は男子がいいんですね! はいはい。
私は少しアホらしくなりながら、この場にいる全員のスキルと、何が得意で何が苦手か。
エドガーや委員長が中心になって作戦を立てて行く。
「よし、そんじゃあ反逆開始だゴラァ! その名も『モブ共のスキルを駆使しつつ、成績優秀な俺様とその下僕共がクソ腹立つ雑魚を一掃作戦』だ!」
生徒全員の顔が引きつる。
エドガー、あんたってネーミングセンス壊滅的だったんですね……。