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作者: 遠堂沙弥
残酷な描写あり R-15
22 「初めてのお使い」
 先生に頼まれ事をされたら断るわけにはいかない。
 それ以前に、これは重要任務なんてどころの騒ぎじゃないのは確か。
 なんたってこの実戦演習の場所が記されたメモ、ゲーム内でのストーリーでは生徒に持って行かせるような展開はなかった。あくまで私がモブディランとして、たまたま警備中だった先生達と鉢合わせて、仕事で抜けられない先生がたまたま私に頼んだお使いってだけ。

 本当ならこの後、先生は警備の続きをソレイユ先生だけに任せて自分は学園に戻るはずだった。でもその途中で襲撃に遭ってしまう。邪教集団に襲われて、市民を庇いつつ戦闘するけど防戦一方な上に多勢に無勢。
 そんな時、学園関係者と居合わせることになる。
 ヒューイ・コンラートという理系の先生だ。彼は騎士団関係者ではなく、ただの教職員。戦闘経験はほとんどない為、巻き込まれる形となってしまう。
 そこへ遅れて駆けつけたソレイユ先生が合流して、ソレイユ先生のスキル『痺れる棘(パラライネイル)』で邪教集団を次々と戦闘不能にさせていく。
 このスキルは先生の研ぎ澄まされた爪で相手を引っ掻くと、引っ掻かれた相手は全身が麻痺して動けなくなるというもの。拘束系のスキルで、レイス先生とのコンビネーションは抜群。
 レイス先生が敵のスキルを封じて、ソレイユ先生のスキルで敵を麻痺、動けなくなった敵をレイス先生の剣戟でトドメを刺すっていうもの。
 そうやって敵の数を減らしている間に、レイス先生は残りの敵を一掃させる為にメモ帳をヒューイという先生に渡してしまう。一刻も早くこのメモをA組の委員長に渡す為に。
 門限が来れば、校則として先生という立場を持ってしても生徒の寮に入ることは禁じられている。
 それに実戦演習の場所を邪教宗派に知られるわけにはいかないということもあった。
 まぁこの辺はゲームだから色々とこじつけることは出来るんだけど、とにかく先生達は邪教集団に襲われて、メモ帳をヒューイ先生に渡す。
 でもこの理系の先生が邪教信者の一人で、学園内の裏切り者だった。
 だから月曜日に行われる実戦演習場所でA組は邪教集団に襲撃される。

 このメモ帳が邪教集団に思い切り狙われていることを、先生は知らない。
 ある程度予測はしているけれど、学園の生徒が襲われる理由を先生は知らない。
 聖女として覚醒する可能性があるサラの命を狙っての襲撃……。
 邪教集団は魔王の宿敵である聖女の存在を抹消する為に存在しているようなもの。
 学園内にいたらむやみにサラに近付くことは出来ないけれど、学園の敷地外である演習場所なら……。
 だから奴らは実戦演習があること、そしてその場所を割り出す為に邪教信者であるヒューイを利用しているんだ。

 これはひょっとしなくても、超重要任務……なのでは?

「任せても平気か?」
「うぇえいっ! は、はい! 任されます! 大丈夫です!」
「何かあったら、わかってるな?」

 そう言って、先生は自分の耳に付けているイヤーカフを指差した。
 先生からもらった警笛、何かあったらこれを吹いて先生のイヤーカフで危険を知らせる。
 私はこくんと頷いたけどきっとそれを使用することはないですよ。
 なんたって私には強力なモブスキルがあるんですからね!
 大船に乗ったつもりでいてください! その為にあるようなもの! 私向きの特別任務!
 先生の信用を得るチャンス!

「気をつけて帰るんだぞ」
「わかりました、先生。さようなら」

 普通に返事が出来るようになってる! 気持ち悪い感じにさえなってなければ合格点といったところね!
 私はステータス画面を表示させてモブスキルをオンにする。
 私自身は何かが変わった感触などは全くないけど、これによって私はもうすでに先生達からはただの薄ぼんやりとした通行人としか認識出来ていないはず。
 何これ、モブスキル最高じゃない?
 このメモが邪教信者にさえ渡らなければ、いくらヒューイという先生でも極秘で実戦演習に向かうA組の跡を追うことは出来ない、はず。
 どこから来るかわからないから、一応細心の注意を払って寮まで行かないと……!

 私はメモ帳を無くさないように、ある意味お約束かもしれないけれどブラの中に隠しておいた。
 ショルダーバッグだと落とすかもしれないし、奪われるかもしれない。
 ポケットも落とす可能性が高い。
 ブラの中ならその名の通り、肌身離さず持っているようなものだから。ブラを剥がされたりしない限り大丈夫だと信じたいところ!
 人混みに紛れながら、それでもその人混みの中に邪教信者が紛れ込んでいるかもしれないという可能性も忘れないように、一定の距離を保ちながら学園へと向かう。これが結構難しい。
 誰も私のことを気にかけないから、何度ぶつかりそうになったことか。
 ようやく目の前に学園の大きな門が見えてきたところだ。
 突然パァンと、大きな音が鳴り響いて、周囲が一瞬だけ強い光に包まれた。

ーー敵襲?

 私は立ちくらみしたようになって、慌ててすぐそばにあったお店の壁に手をかけてもたれる。
 壁を背にして、背後を取られないように。
 
「何? 今のは花火?」

 見れば周囲の人間も驚いている様子で動揺している。
 今日はお祭りなんてやってない。

「おい、向こうで戦闘が! 騎士団が誰かと戦ってる!」
「早く近くのお店に入って避難を!」
「落ち着いて行動してください! 我々騎士団の指示に従えば大丈夫ですから!」

 だんだんと混乱してくる。
 戸惑っていた人々が慌て始め、走り出す者や悲鳴をあげる者が現れて、どんどんパニック状態になっていく。
 私も早く避難を……っ!

「大丈夫かい? アンフルール学園の生徒さん」

 私はドキリとした。
 突然声をかけられて、逃げようとしていた私の足が動かなくなる。
 ゆっくりと振り向く。いや、逃げるべきだ。だって絶対におかしいもの。
 私は学園の制服を着ていない……。
 しかもモブスキルを絶賛発動中の私に声をかける人なんて、絶対に普通じゃない……っ!
 それにこの声、落ち着いていて、それでいて透き通るような声。
 男性版の天使の声、と表現するべきか。

ーーこんなタイミングで現れるはずがない。

 私はこの声をゲーム内で何度も聞いたことがある。
 振り向いて、その顔を確認する。

ーーこの場所に、現れるはずがない。

 だって彼は、物語の終盤で登場するはずなんだから。
 本来のラスボス……。

ーーここにいて、いいはずがない。

 魔王信仰、邪教宗派の……教主にして、元ラヴィアンフルール騎士団……。

ーーあなたは今、ここにいてはいけない。

 第七騎士団の、元隊長……。
 レオンハルト・ベルセリウス……。
 
 レイス・シュレディンガーの親友だった男……。

「随分と探したよ? E・モブディラン嬢。いや、今は……なぎこ・モブディラン嬢と呼ぶべきか……」

 最悪だった。
 先生が悪堕ちするもう一つの理由になる男が、先生がすぐ近くにいるこの場所で会うことになるなんて。
 彼が相手ならば、そりゃ私のモブスキルなんてすぐさま見破られても当然の結果だ。
 レオンハルトのスキルは、全てを見通す神の目を持っているのだから……。 
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