残酷な描写あり
R-15
14 「ゾフィという少女」
亜麻色の三つ編みを右肩に垂らし、その毛先を指で弄りながら、内股になって腰を少しだけくねらせるという癖の強い仕草をした少女。
表情は常に笑顔、照れているように頬を赤らめ、サラのような上目使いとは逆にこの娘の場合は相手を見下すような下目使いでこちらを見つめてくる。
物騒なことを考えていそうな瞳、少し赤らんでいるぷっくりとした涙袋。
まともな人間が見れば「あ、こいつやべーヤツだ」って直感で逃げていきそうな、そういう外見。
でもビジュアルは基本的に美少女だ。
サラが正統派な清らか美少女なら、この少女はその反対を行くヤンデレな感じの美少女。
この世界『ラヴィアンフルール物語』でサラと敵対関係になって問題を起こしてくる悪役令嬢……。
ゾフィ・ブラッドリー、邪教信者の一員。
私は突然の邂逅に、初対面でいきなり相手のフルネームを口走ってしまった。
だけどゾフィはそんなこと気にせず、ニチャアって笑いながら話しかけてくる。
「Eちゃんはあの先生のことが好きなんだねぇ? 強いもんねぇ? 特殊なスキル持ちだもんねぇ?」
先生は王国騎士団の第七騎士団長で、この国で大活躍しているから知名度はそれなりにある。でも先生のスキル『スキル無効化』はなかなかの強スキルだから、敵に警戒されないよう公開は控えていたはず。
そりゃ敵として合間見えたことがあるのなら、先生のスキルで無効化されたことがあるのなら、公開非公開は関係なくなるんだけど。
学園生活はスタートしたばかり。なおかつ先生は騎士団長として知名度はあれど、一般的にスキルを広く知られているわけじゃない。つまりそれをゾフィが知ってるってことは、先生と戦ったことがある邪教信者から情報を得た……って考えた方が自然ね。
「私ずっと見てたよ? さっき先生と一緒に帰ってた生徒、サラちゃんって言うんだよね? サラちゃんも先生が好きそうな感じだったんだよ?」
知ってるって。なんでわざわざそんなことを私に教えてくるわけ?
相手が敵だってわかってる以上、下手なことは喋れない。とりあえず黙ってるしかない、か?
「嫌じゃない? ねぇ、Eちゃんの恋のライバルなんだよ? 嫌だよねぇ? 邪魔だよねぇ? いなくなれって思わない?」
「思わないけど」
「でもこのままじゃサラちゃんにEちゃんの大好きな先生を取られちゃうかもしれないんだよ?」
「別に私は先生を自分の物にしようとか考えてませんし。てゆうかそんなのあなたに関係なくないですか」
現時点で戦闘になったら確実に私が不利なので、思わず同い年相手に敬語を使ってしまう。
いや、なぎこという人格からすればすでに社会人の年齢なんですけどね?
私がどうでもいいみたいな発言をしたら、ちょっとだけ興味が薄れたのかな。ゾフィの顔からニチャニチャした笑顔が消えて、虚をつかれたみたいな顔になる。だからあんたは一体何をしに来たのよ。
「あなたは誰なんですか?」
「えっ?」
真顔である意味真実を聞いてくるゾフィに、私は心の底から驚いた。
確かに、私はEであってEではない。でもそんなこと、この世界の住人にはわかるはずもないこと、のはず。
でも待てよ? 確かEのステータス画面にある親愛度で、なぜかゾフィとの親愛度は10%くらいあったけど。
それと何か関係しているとか? やっぱり本物のEはどこかですでにゾフィと会ったことがあるっていうこと?
疑わしそうな表情でゾフィは私にジリジリと近寄ってくる。問い詰めるように、今度は顔をうつむき加減にして上目使いで私を見つめてきた。
「Eちゃんは私のこと、忘れてしまったの? あんなに楽しく会話をしたのに。私、あれでEちゃんとお友達になれたって確信してたのに。Eちゃんは私のこと、お友達にしてくれたわけじゃないの?」
Eとゾフィがどんな知り合い方をして、どんな会話をしたのかわからない以上、私から何か話せるわけがない!
ここで変なことを言って怪しまれたらゾフィの標的がサラから私に移ってしまう!
ん? 別に良くない? それならサラが聖女として覚醒するまでの間は、邪教信者から狙われることがなくなるってことよね。それってゲームの本筋から逸れることになるから、それはつまり先生の幸せな未来につながることにならない? 新たなルート発見ってことにならない?
モブである私が邪教信者から狙われようが、かなりどうでもいいっていう感じのルートになるのでは?
いや、本音で言えば本気で嫌だけど。それでも先生が幸せになれるなら、それはそれでオッケーなのでは。
「ゾフィ、私は楽しい会話をしたからといって、それでお友達認定するわけじゃないから。悪いけどあなたのこと、まだ私のお友達にしたわけじゃないので、悪しからず」
とりあえず仲間意識を持たれるのは嫌だから、お友達は拒否っておく。
煽り行為になるかもしれないけど、ゾフィはむしろこういった態度を取った方が興味を持つ。
成功したかどうかわからない。だけどゾフィはいつものニチャニチャ顔に戻った。
「Eちゃん、前に私とお話ししてくれた時とはまるで別人みたい……」
こいつ、やっぱり本物のEと会って話をしてるんだ。
Eの家族とは怪しまれないように深く関わろうとしなかったから気付かれることはなかったけど、たったこれだけの会話で私のことをEじゃないって見抜くってことは。
それなりに親しかったってことにならない?
なんでEはゾフィと関係を持ってるの?
ただの背景レベルのモブだから、こんなことゲームをプレイしていても攻略出来るわけがない。
それでもゾフィの興味が私に集中しているのは計画通りと言うべきかな。
「Eちゃん……」
「な、何よ。そんな風に見てきても、私はあなたのこと友達だなんて……」
「心の底からお慕いするねぇえ!」
「は?」
これ以上ないニチャリ顔に私は背筋が凍りそうになった。
ゾフィはうっすら赤く染めてた頬を真っ赤にして、狂気じみた大きな瞳はキラキラと輝き、犬歯の牙が見えるほど広角を上げて笑い倒す。
両手は胸の前で組んで……。
おいおい、好きな男の子に告白してオッケーもらった時みたいなリアクションやめろ?
「改めて自己紹介するねぇ? 私の名前はゾフィ・ブラッドリー! 好きな食べ物はザクロ。好きなものは可愛いもの。好きな飲み物は生き血。よろしくねぇえ!」
最後! 怖いことをさらっと言うな!
「Eちゃん、困ったことがあったらなんでも私に相談していいんだよ! Eちゃんが嫌いなものは私も嫌い! Eちゃんが邪魔なものは私が排除してあげる! 任せて、私これでもちょっとだけ強いから! だからEちゃんのこと慕わせて? お友達にしてくれなくてもいいよ、Eちゃんが嫌なことは私もしたくないから」
これ、ゾフィがちゃんとした女の子なら言われた相手は喜ぶセリフなんだろうなぁ……、と思いつつ。
なんか興味を持たせるどころか、私めっちゃ慕われてません? 何がどうなってんの。
「あー、ちょっと、その。どういうことなのか説明……」
「おーい、どこにいるんだモブディラン!」
「さっさと戻れや! メシが冷めて不味くなるだろうが!」
「そんなこと言わないでエドガー! モブディランさん、もしかしたら私のこと探しに出て行ったのかも!」
「モブディランさーん!」
メインキャラ四人の声が……。
他のクラスの生徒、特に外見がめちゃくちゃ怪しい女子と話しているところを見られたら……。
そう思って視線をゾフィがいたところに戻したら、すでに消えてる。
ゾフィは私に気遣って姿を消した? 考えていることとか物騒な人間ではあるけれど、相手の嫌がることを率先してやるタイプの人間は意外に察しがいいのか。
多分、私がゾフィと一緒にいることが都合が悪いのかもしれないと察したのか。それとも自分自身があまり目立つ行動をするわけにはいかないからか。
どちらにしろ消えてくれて助かった。
あんなのと親しいだなんて思われたら、色々と面倒臭い。
とりあえずサラが私を探しに行ってしまう前に寮へ戻る。案の定エドガーからは言いがかりに近い文句を言われ、サラとウィルは心配してくれてたのか私の姿を確認するなり安心したように胸を撫で下ろしていた。
ルークは、うん……お前は早く夕食を食べたかったんだろ? わかってるよ、この食いしん坊め。
私はへらへらしながら片手を振って軽く謝り、ぺこぺこで仕方ない空腹を満たす為に早々に夕食にありつく。
夕食の片付け、お風呂など。そして宿題を済ませてようやく就寝しようと思っていたところで、ふと思い出す。
なんかざわざわした胸の内を少しでも解消したくて、私はステータス画面の親愛度をチェックした。
【親愛度】 ゾフィ・ブラッドリー……40%
めちゃくちゃ上がってるうううう!
表情は常に笑顔、照れているように頬を赤らめ、サラのような上目使いとは逆にこの娘の場合は相手を見下すような下目使いでこちらを見つめてくる。
物騒なことを考えていそうな瞳、少し赤らんでいるぷっくりとした涙袋。
まともな人間が見れば「あ、こいつやべーヤツだ」って直感で逃げていきそうな、そういう外見。
でもビジュアルは基本的に美少女だ。
サラが正統派な清らか美少女なら、この少女はその反対を行くヤンデレな感じの美少女。
この世界『ラヴィアンフルール物語』でサラと敵対関係になって問題を起こしてくる悪役令嬢……。
ゾフィ・ブラッドリー、邪教信者の一員。
私は突然の邂逅に、初対面でいきなり相手のフルネームを口走ってしまった。
だけどゾフィはそんなこと気にせず、ニチャアって笑いながら話しかけてくる。
「Eちゃんはあの先生のことが好きなんだねぇ? 強いもんねぇ? 特殊なスキル持ちだもんねぇ?」
先生は王国騎士団の第七騎士団長で、この国で大活躍しているから知名度はそれなりにある。でも先生のスキル『スキル無効化』はなかなかの強スキルだから、敵に警戒されないよう公開は控えていたはず。
そりゃ敵として合間見えたことがあるのなら、先生のスキルで無効化されたことがあるのなら、公開非公開は関係なくなるんだけど。
学園生活はスタートしたばかり。なおかつ先生は騎士団長として知名度はあれど、一般的にスキルを広く知られているわけじゃない。つまりそれをゾフィが知ってるってことは、先生と戦ったことがある邪教信者から情報を得た……って考えた方が自然ね。
「私ずっと見てたよ? さっき先生と一緒に帰ってた生徒、サラちゃんって言うんだよね? サラちゃんも先生が好きそうな感じだったんだよ?」
知ってるって。なんでわざわざそんなことを私に教えてくるわけ?
相手が敵だってわかってる以上、下手なことは喋れない。とりあえず黙ってるしかない、か?
「嫌じゃない? ねぇ、Eちゃんの恋のライバルなんだよ? 嫌だよねぇ? 邪魔だよねぇ? いなくなれって思わない?」
「思わないけど」
「でもこのままじゃサラちゃんにEちゃんの大好きな先生を取られちゃうかもしれないんだよ?」
「別に私は先生を自分の物にしようとか考えてませんし。てゆうかそんなのあなたに関係なくないですか」
現時点で戦闘になったら確実に私が不利なので、思わず同い年相手に敬語を使ってしまう。
いや、なぎこという人格からすればすでに社会人の年齢なんですけどね?
私がどうでもいいみたいな発言をしたら、ちょっとだけ興味が薄れたのかな。ゾフィの顔からニチャニチャした笑顔が消えて、虚をつかれたみたいな顔になる。だからあんたは一体何をしに来たのよ。
「あなたは誰なんですか?」
「えっ?」
真顔である意味真実を聞いてくるゾフィに、私は心の底から驚いた。
確かに、私はEであってEではない。でもそんなこと、この世界の住人にはわかるはずもないこと、のはず。
でも待てよ? 確かEのステータス画面にある親愛度で、なぜかゾフィとの親愛度は10%くらいあったけど。
それと何か関係しているとか? やっぱり本物のEはどこかですでにゾフィと会ったことがあるっていうこと?
疑わしそうな表情でゾフィは私にジリジリと近寄ってくる。問い詰めるように、今度は顔をうつむき加減にして上目使いで私を見つめてきた。
「Eちゃんは私のこと、忘れてしまったの? あんなに楽しく会話をしたのに。私、あれでEちゃんとお友達になれたって確信してたのに。Eちゃんは私のこと、お友達にしてくれたわけじゃないの?」
Eとゾフィがどんな知り合い方をして、どんな会話をしたのかわからない以上、私から何か話せるわけがない!
ここで変なことを言って怪しまれたらゾフィの標的がサラから私に移ってしまう!
ん? 別に良くない? それならサラが聖女として覚醒するまでの間は、邪教信者から狙われることがなくなるってことよね。それってゲームの本筋から逸れることになるから、それはつまり先生の幸せな未来につながることにならない? 新たなルート発見ってことにならない?
モブである私が邪教信者から狙われようが、かなりどうでもいいっていう感じのルートになるのでは?
いや、本音で言えば本気で嫌だけど。それでも先生が幸せになれるなら、それはそれでオッケーなのでは。
「ゾフィ、私は楽しい会話をしたからといって、それでお友達認定するわけじゃないから。悪いけどあなたのこと、まだ私のお友達にしたわけじゃないので、悪しからず」
とりあえず仲間意識を持たれるのは嫌だから、お友達は拒否っておく。
煽り行為になるかもしれないけど、ゾフィはむしろこういった態度を取った方が興味を持つ。
成功したかどうかわからない。だけどゾフィはいつものニチャニチャ顔に戻った。
「Eちゃん、前に私とお話ししてくれた時とはまるで別人みたい……」
こいつ、やっぱり本物のEと会って話をしてるんだ。
Eの家族とは怪しまれないように深く関わろうとしなかったから気付かれることはなかったけど、たったこれだけの会話で私のことをEじゃないって見抜くってことは。
それなりに親しかったってことにならない?
なんでEはゾフィと関係を持ってるの?
ただの背景レベルのモブだから、こんなことゲームをプレイしていても攻略出来るわけがない。
それでもゾフィの興味が私に集中しているのは計画通りと言うべきかな。
「Eちゃん……」
「な、何よ。そんな風に見てきても、私はあなたのこと友達だなんて……」
「心の底からお慕いするねぇえ!」
「は?」
これ以上ないニチャリ顔に私は背筋が凍りそうになった。
ゾフィはうっすら赤く染めてた頬を真っ赤にして、狂気じみた大きな瞳はキラキラと輝き、犬歯の牙が見えるほど広角を上げて笑い倒す。
両手は胸の前で組んで……。
おいおい、好きな男の子に告白してオッケーもらった時みたいなリアクションやめろ?
「改めて自己紹介するねぇ? 私の名前はゾフィ・ブラッドリー! 好きな食べ物はザクロ。好きなものは可愛いもの。好きな飲み物は生き血。よろしくねぇえ!」
最後! 怖いことをさらっと言うな!
「Eちゃん、困ったことがあったらなんでも私に相談していいんだよ! Eちゃんが嫌いなものは私も嫌い! Eちゃんが邪魔なものは私が排除してあげる! 任せて、私これでもちょっとだけ強いから! だからEちゃんのこと慕わせて? お友達にしてくれなくてもいいよ、Eちゃんが嫌なことは私もしたくないから」
これ、ゾフィがちゃんとした女の子なら言われた相手は喜ぶセリフなんだろうなぁ……、と思いつつ。
なんか興味を持たせるどころか、私めっちゃ慕われてません? 何がどうなってんの。
「あー、ちょっと、その。どういうことなのか説明……」
「おーい、どこにいるんだモブディラン!」
「さっさと戻れや! メシが冷めて不味くなるだろうが!」
「そんなこと言わないでエドガー! モブディランさん、もしかしたら私のこと探しに出て行ったのかも!」
「モブディランさーん!」
メインキャラ四人の声が……。
他のクラスの生徒、特に外見がめちゃくちゃ怪しい女子と話しているところを見られたら……。
そう思って視線をゾフィがいたところに戻したら、すでに消えてる。
ゾフィは私に気遣って姿を消した? 考えていることとか物騒な人間ではあるけれど、相手の嫌がることを率先してやるタイプの人間は意外に察しがいいのか。
多分、私がゾフィと一緒にいることが都合が悪いのかもしれないと察したのか。それとも自分自身があまり目立つ行動をするわけにはいかないからか。
どちらにしろ消えてくれて助かった。
あんなのと親しいだなんて思われたら、色々と面倒臭い。
とりあえずサラが私を探しに行ってしまう前に寮へ戻る。案の定エドガーからは言いがかりに近い文句を言われ、サラとウィルは心配してくれてたのか私の姿を確認するなり安心したように胸を撫で下ろしていた。
ルークは、うん……お前は早く夕食を食べたかったんだろ? わかってるよ、この食いしん坊め。
私はへらへらしながら片手を振って軽く謝り、ぺこぺこで仕方ない空腹を満たす為に早々に夕食にありつく。
夕食の片付け、お風呂など。そして宿題を済ませてようやく就寝しようと思っていたところで、ふと思い出す。
なんかざわざわした胸の内を少しでも解消したくて、私はステータス画面の親愛度をチェックした。
【親愛度】 ゾフィ・ブラッドリー……40%
めちゃくちゃ上がってるうううう!