災厄の悪魔 5
「それってどういう事?」
私は剣を受け取り、彼女に質問で返す。
「命よ、樹海の番人よ、かの者に襲い掛かれ!」
レシファーは手早く詠唱を終わらせ、再び周囲に森を発生させ、エムレオス防衛戦でも使用した木人達を作り出し、アザゼルに向かわせる。
「そんな木偶が我に通用すると思うのか!!」
アザゼルは木人達をその剣で切り払い、さらに風の魔法を展開し、迫りくる木人たちを切り刻む。
「さあ、今のうちに! あいつには追憶魔法が効かない。だったらもう一度私と契約してください。今度は代償付きの正式な契約で! 今度こそ私の魔法の全てを貴女に!」
そうだ。効かない魔法など捨てるしかない。
レシファーの言う通り。ここで彼女と契約すれば、私は再び彼女の魔法を使用できるようになる。
そして今回の契約は代償付きの正式な契約。レシファーの同情で契約した、以前の契約とはまったく違う。
私はレシファーの剣をゆっくりと首筋に近づける。
切りすぎないように刃の先を首筋に当て、うっすらと血を滲ませる。
これが代償。魔女が悪魔に支払う代償は血液と死後の魂だ。
「レシファーが相手ならなんでも差し出すわ」
私はレシファーに体を寄せる。
レシファーも口を私の首筋に当て、血を啜る。
そして私は契約を始める。
「契約、血の条文。偉大にして高潔なる魔の化身よ、我の血と魂を代償に、その力を分け与えよ。今後いかなる時も側に仕えよ。我は追憶の魔女アレシア、汝の名は?」
私とレシファーを中心に、青と赤の六芒星が地面を這い、周囲を紫色に染めていく。
「契約、魂の条文。偉大にして高潔なる魔の使い手よ。汝の血と魂を代償に、この力を分け与えん。今後いかなる時も汝の側にありし者なり。我の名は冠位の悪魔レシファー。血と魂の条文に従い契約を受諾する!」
レシファーの返しの契約分の詠唱によって、周囲に広がった紫の光は徐々に収縮し、私達を包囲する。
これが本当の魔女と悪魔の契約。カルシファーの言葉を借りるなら正式な契約。
私(魔女)が対価を支払い、レシファー(悪魔)がそれを受け取ることで力を、魔法を、契約者に与える正式な契約。
契約が終わった瞬間から、体の中を懐かしい魔力が通っていくのが分かる。レシファーの魔力、木の魔法、命の魔法の力が流れ込んでくる。
そして懐かしさと共に、新しい発見もある。昔にレシファーと結んだ契約の時とは、この身に流れる魔力の濃度がまるで違う。
これが本当のレシファーの魔力。
「何をコソコソやっている!!」
アザゼルが巨大な剣を私達に向かって一閃すると、その衝撃波で木のドームが崩れ去り、周囲の樹海も切り飛ばす。
「そこか!」
アザゼルは一瞬で私とレシファーが身を潜めていた地点に現れ、私に向かって剣を振り被る。
「命よ、反撃の盾よ、敵を弾き貫け!」
私の詠唱と同時に高速で地面から盾が生え、アザゼルの一撃を受ける。その剣圧は凄まじく、体で受けてたら間違いなく木端微塵になっていただろう。
インパクトの瞬間、突風が吹き荒れ、盾に守られている私とレシファー以外の全てが吹き飛んでいく!
「なに!?」
アザゼルは驚愕の表情を浮かべる。
まさか私がレシファーの魔法を使えるとは思っていなかったのだ。
「吹き飛べ!」
私の盾がアザゼルの剣を受けているあいだに、レシファーの魔法が炸裂する。
彼女が生み出した巨木のハンマーが真横に振られ、アザゼルを吹き飛ばす。
「大丈夫ですか?」
レシファーは私の背中をさする。
「ええ」
普通、契約してすぐに魔法を行使すると体に負荷がかかるのだが、私の場合は存外に平気らしい。今まで散々使っていた魔法だったからだろうか?
「そうかそうか。そう来たか。追憶魔法が効かないと見て、レシファーと再び契約したか。そうでなくては面白くない!」
レシファーのハンマーで結構な距離を吹き飛ばされたはずだが、やはりそこは最強の悪魔と言われるだけあって頑丈だ。
「こちらも少々本気を出そう」
アザゼルは再び剣を構える。
今までの強さで本気では無かったということ?
冗談じゃない!
「何をするつもり?」
私は体に魔力を張り巡らせ、瞬発力から耐久力から、何から何まで身体能力を強化する。
このクラスの化け物と戦う際、通常の人間の肉体では限界がある。
「獄門! 地割り!」
アザゼルが叫び、剣の柄で地面を叩くと衝撃波が私達に向って飛んでくる。
「それで本気?」
私は地面から盾を生やそうとした瞬間、左右から巨大な影が自分を覆ったのを察知した。
レシファーは私より一足先に気がついたのか、盾を発生させた私を掴んで一気に後ろに下がる。
私達が立っていた場所から離れた瞬間、左右の地面が巨大な板となって挟み込んでいた。
その規模たるや、流石は冠位の悪魔と言える威力だ。
あの一音節と地面を叩く動作だけで、正面から強烈な衝撃波と、対象者の左右からの岩壁での挟み込み。
それもあの速度と岩壁の大きさだ。
横幅四メートル以上の岩壁による挟み込み、レシファーが咄嗟に私を引っ張ってくれなかったら、今頃サンドイッチになっている。
「嘘みたいに攻撃手段が多いわね」
私とレシファーは肩で息をする。
「まだまだ!」
アザゼルの声が響いたかと思うと、真後ろに現れ剣を振るう。
私達は咄嗟に盾を生成し受けるが、あまりの威力に盾が砕け、そのまま風圧で私達を吹き飛ばす。
「獄門! 磔!」
そう声が聞こえた瞬間、吹き飛ばされる進行方向に岩の板が発生し、飛んでくる私達を待ち伏せる。
「命よ、屈強に鍛えられた大樹よ、障害物を排除せよ!」
私の魔法で岩壁を大樹でぶち壊し、ツタで私とレシファーをキャッチさせる。
それと同時にアザゼルの足元にも大樹が生え、魔力を吸い取るツタを伸ばすが、アザゼルが指を鳴らした瞬間にそのツタがはじけ飛ぶ。
「ちょっとずるくない?」
私はついつい悪態をつく。
アザゼルの攻撃パターンは多彩。しかもこちらの反撃がほとんど通らない。
まともに決まったのは、不意をついたレシファーのハンマーぐらいだ。
それでもなんとなく敵の傾向は見えてくる。
アザゼルの戦い方は思った以上に接近戦タイプだ。もしかしたら私達の魔法の系統に合わせて、相性の良い戦い方をしているだけかもしれないが……それでもあの巨体を異常なスピードで動かし、肉弾戦に突風や岩壁を織り交ぜた攻撃方法。
それに加えてあの耐久力。並の攻撃ではダメージは与えられず、視認できる遠距離の魔法は、ほとんどが風の魔法に吹き飛ばされる。
「アレシア様、ここはこちらも大型の魔法で挑むしかありません」
「でもそんな隙……」
確かに生半可な攻撃でダメなら強烈な魔法を行使するしかないが、そんな隙が無い。アザゼルは接近戦タイプ。
長ったらしい詠唱をしている時間はない。
「私が隙を作り出します」
レシファーは静かに立ち上がり、剣を構える。
「命よ、生命の奔流よ、この身に宿れ、我に続け!」
唱えた瞬間、レシファーを中心に莫大な魔力が集まってくる。
周囲の切り刻まれた樹海が姿を消し、それらが魔力の粒子となって、レシファーの元に集まってくる。緑色に発光する魔力たちがレシファーを包み込む。
やがて光が静まると、彼女の頭の上には花で出来た王冠が浮かび、頬と右の手の甲に葉っぱを模した紋章が浮かび上がる。
「なんだそれは!?」
流石のアザゼルも固まっている。
普通、魔法は外部に向けて放つもの。
それを逆に体に取り込み、自身を魔法化させるなど聞いたことがない。
「レシファー?」
私は思わず声をかける。
そうしないと彼女が彼女かどうか分からなかったから。
それだけ、彼女が纏う空気が変わっていた。
「大丈夫です。私が時間を稼いでいるあいだに決めてください」
そう言ってレシファーは私を庇うように前に出る。
「行きますよアザゼル」
そして再びアザゼルに牙を剥く。
「大地の怒りを知れ!」
私は剣を受け取り、彼女に質問で返す。
「命よ、樹海の番人よ、かの者に襲い掛かれ!」
レシファーは手早く詠唱を終わらせ、再び周囲に森を発生させ、エムレオス防衛戦でも使用した木人達を作り出し、アザゼルに向かわせる。
「そんな木偶が我に通用すると思うのか!!」
アザゼルは木人達をその剣で切り払い、さらに風の魔法を展開し、迫りくる木人たちを切り刻む。
「さあ、今のうちに! あいつには追憶魔法が効かない。だったらもう一度私と契約してください。今度は代償付きの正式な契約で! 今度こそ私の魔法の全てを貴女に!」
そうだ。効かない魔法など捨てるしかない。
レシファーの言う通り。ここで彼女と契約すれば、私は再び彼女の魔法を使用できるようになる。
そして今回の契約は代償付きの正式な契約。レシファーの同情で契約した、以前の契約とはまったく違う。
私はレシファーの剣をゆっくりと首筋に近づける。
切りすぎないように刃の先を首筋に当て、うっすらと血を滲ませる。
これが代償。魔女が悪魔に支払う代償は血液と死後の魂だ。
「レシファーが相手ならなんでも差し出すわ」
私はレシファーに体を寄せる。
レシファーも口を私の首筋に当て、血を啜る。
そして私は契約を始める。
「契約、血の条文。偉大にして高潔なる魔の化身よ、我の血と魂を代償に、その力を分け与えよ。今後いかなる時も側に仕えよ。我は追憶の魔女アレシア、汝の名は?」
私とレシファーを中心に、青と赤の六芒星が地面を這い、周囲を紫色に染めていく。
「契約、魂の条文。偉大にして高潔なる魔の使い手よ。汝の血と魂を代償に、この力を分け与えん。今後いかなる時も汝の側にありし者なり。我の名は冠位の悪魔レシファー。血と魂の条文に従い契約を受諾する!」
レシファーの返しの契約分の詠唱によって、周囲に広がった紫の光は徐々に収縮し、私達を包囲する。
これが本当の魔女と悪魔の契約。カルシファーの言葉を借りるなら正式な契約。
私(魔女)が対価を支払い、レシファー(悪魔)がそれを受け取ることで力を、魔法を、契約者に与える正式な契約。
契約が終わった瞬間から、体の中を懐かしい魔力が通っていくのが分かる。レシファーの魔力、木の魔法、命の魔法の力が流れ込んでくる。
そして懐かしさと共に、新しい発見もある。昔にレシファーと結んだ契約の時とは、この身に流れる魔力の濃度がまるで違う。
これが本当のレシファーの魔力。
「何をコソコソやっている!!」
アザゼルが巨大な剣を私達に向かって一閃すると、その衝撃波で木のドームが崩れ去り、周囲の樹海も切り飛ばす。
「そこか!」
アザゼルは一瞬で私とレシファーが身を潜めていた地点に現れ、私に向かって剣を振り被る。
「命よ、反撃の盾よ、敵を弾き貫け!」
私の詠唱と同時に高速で地面から盾が生え、アザゼルの一撃を受ける。その剣圧は凄まじく、体で受けてたら間違いなく木端微塵になっていただろう。
インパクトの瞬間、突風が吹き荒れ、盾に守られている私とレシファー以外の全てが吹き飛んでいく!
「なに!?」
アザゼルは驚愕の表情を浮かべる。
まさか私がレシファーの魔法を使えるとは思っていなかったのだ。
「吹き飛べ!」
私の盾がアザゼルの剣を受けているあいだに、レシファーの魔法が炸裂する。
彼女が生み出した巨木のハンマーが真横に振られ、アザゼルを吹き飛ばす。
「大丈夫ですか?」
レシファーは私の背中をさする。
「ええ」
普通、契約してすぐに魔法を行使すると体に負荷がかかるのだが、私の場合は存外に平気らしい。今まで散々使っていた魔法だったからだろうか?
「そうかそうか。そう来たか。追憶魔法が効かないと見て、レシファーと再び契約したか。そうでなくては面白くない!」
レシファーのハンマーで結構な距離を吹き飛ばされたはずだが、やはりそこは最強の悪魔と言われるだけあって頑丈だ。
「こちらも少々本気を出そう」
アザゼルは再び剣を構える。
今までの強さで本気では無かったということ?
冗談じゃない!
「何をするつもり?」
私は体に魔力を張り巡らせ、瞬発力から耐久力から、何から何まで身体能力を強化する。
このクラスの化け物と戦う際、通常の人間の肉体では限界がある。
「獄門! 地割り!」
アザゼルが叫び、剣の柄で地面を叩くと衝撃波が私達に向って飛んでくる。
「それで本気?」
私は地面から盾を生やそうとした瞬間、左右から巨大な影が自分を覆ったのを察知した。
レシファーは私より一足先に気がついたのか、盾を発生させた私を掴んで一気に後ろに下がる。
私達が立っていた場所から離れた瞬間、左右の地面が巨大な板となって挟み込んでいた。
その規模たるや、流石は冠位の悪魔と言える威力だ。
あの一音節と地面を叩く動作だけで、正面から強烈な衝撃波と、対象者の左右からの岩壁での挟み込み。
それもあの速度と岩壁の大きさだ。
横幅四メートル以上の岩壁による挟み込み、レシファーが咄嗟に私を引っ張ってくれなかったら、今頃サンドイッチになっている。
「嘘みたいに攻撃手段が多いわね」
私とレシファーは肩で息をする。
「まだまだ!」
アザゼルの声が響いたかと思うと、真後ろに現れ剣を振るう。
私達は咄嗟に盾を生成し受けるが、あまりの威力に盾が砕け、そのまま風圧で私達を吹き飛ばす。
「獄門! 磔!」
そう声が聞こえた瞬間、吹き飛ばされる進行方向に岩の板が発生し、飛んでくる私達を待ち伏せる。
「命よ、屈強に鍛えられた大樹よ、障害物を排除せよ!」
私の魔法で岩壁を大樹でぶち壊し、ツタで私とレシファーをキャッチさせる。
それと同時にアザゼルの足元にも大樹が生え、魔力を吸い取るツタを伸ばすが、アザゼルが指を鳴らした瞬間にそのツタがはじけ飛ぶ。
「ちょっとずるくない?」
私はついつい悪態をつく。
アザゼルの攻撃パターンは多彩。しかもこちらの反撃がほとんど通らない。
まともに決まったのは、不意をついたレシファーのハンマーぐらいだ。
それでもなんとなく敵の傾向は見えてくる。
アザゼルの戦い方は思った以上に接近戦タイプだ。もしかしたら私達の魔法の系統に合わせて、相性の良い戦い方をしているだけかもしれないが……それでもあの巨体を異常なスピードで動かし、肉弾戦に突風や岩壁を織り交ぜた攻撃方法。
それに加えてあの耐久力。並の攻撃ではダメージは与えられず、視認できる遠距離の魔法は、ほとんどが風の魔法に吹き飛ばされる。
「アレシア様、ここはこちらも大型の魔法で挑むしかありません」
「でもそんな隙……」
確かに生半可な攻撃でダメなら強烈な魔法を行使するしかないが、そんな隙が無い。アザゼルは接近戦タイプ。
長ったらしい詠唱をしている時間はない。
「私が隙を作り出します」
レシファーは静かに立ち上がり、剣を構える。
「命よ、生命の奔流よ、この身に宿れ、我に続け!」
唱えた瞬間、レシファーを中心に莫大な魔力が集まってくる。
周囲の切り刻まれた樹海が姿を消し、それらが魔力の粒子となって、レシファーの元に集まってくる。緑色に発光する魔力たちがレシファーを包み込む。
やがて光が静まると、彼女の頭の上には花で出来た王冠が浮かび、頬と右の手の甲に葉っぱを模した紋章が浮かび上がる。
「なんだそれは!?」
流石のアザゼルも固まっている。
普通、魔法は外部に向けて放つもの。
それを逆に体に取り込み、自身を魔法化させるなど聞いたことがない。
「レシファー?」
私は思わず声をかける。
そうしないと彼女が彼女かどうか分からなかったから。
それだけ、彼女が纏う空気が変わっていた。
「大丈夫です。私が時間を稼いでいるあいだに決めてください」
そう言ってレシファーは私を庇うように前に出る。
「行きますよアザゼル」
そして再びアザゼルに牙を剥く。
「大地の怒りを知れ!」