侵略 反転 2
私は怒りに体が震えていることを自覚していた。
「ねえカルシファーにアザゼル。あなた達は、もうすでに計画が成功したかのようなはしゃぎっぷりだけど、実際この結界はまだ異界にはなっていない。喜ぶのは早すぎるんじゃないかしら?」
私の指摘に二体の悪魔はお互いの顔を見合わせ、笑いはじめた。
「「ハハハハハ」」
二体の悪魔が笑うと、それだけで周囲の空気が反響する。
おそらくこの二体が悪魔達のツートップ!
「なにがおかしいのかしら?」
私は笑い続ける悪魔達を指さす。
「なぜ笑っているかって? 簡単であろう? 確かにお前の言う通り、まだ異界化はすんでいない。しかし、それがなんだと言うのだ? 誰も邪魔立てする者はいない。時間の問題で異界化は完成する。これが笑わずにいられるか!」
アザゼルは堂々とそう言い切った。
カルシファーも彼の言葉に頷く。
そうか、確かに時間の問題で異界化は完成するだろう。
異界化が完成すれば、とりあえずこの結界内では自由に動き回れる。
そしてそのまま異界を広げて、人間が住む、この結界の外への進出も可能だろう。
だけど……
「何か忘れているようだけど、その異界化を私が黙って見ているとでも?」
そうだ。彼らは、私が障害になるとはまるで考えていない。
「お前がか? 何を言うかと思えばアレシア、確かにお前は他の魔女たちよりも実力は上かもしれない。だが、所詮人だ。魔女だ。我々”魔”そのものには敵うまい! それもたった一人で!」
アザゼルは、私一人では何も出来ないと言っている。
そう思うのも無理はないのかも知れないが、私にはその現実を押し退けてでも殺したい奴がいる!
今私の目の前で夢を語る二体の悪魔!
こいつらを殺したい!
殺したい! 殺したい! 殺したい!
憎しみが止まらない! 悲しみが止まらない! 暗い気持ちが晴れない!
この身は復讐に焦がれている。
私達魔女を死に追いやり、私の愛した者。気に入った者たちをとことん破滅に追い込んだ。
人間たちを守るためじゃない!
私は私の意思で、この二体の悪魔を消し去りたい!
私の全身から漆黒の魔力があふれ出る。
それを感じてか、アザゼルとカルシファーは嗤うのをやめた。
「アレシア……貴女本気ですか?」
カルシファーは、憐れな者を見る眼差しで私に問う。
「当然よ。まずはお前からだ、カルシファー!」
私が一歩前に出ようとした時、アザゼルが口を開く。
「そうかそうか本気か。面白い! 今ここで散らすには惜しい黒い花だ。この異界化の、良い余興になる……アレシア、この結界はまだ異界になってはいない。この結界内に、我々をはじめとした悪魔たちが無数に存在していられるのは、ゲートが開かれているからだ。そのゲートを破壊すれば異界化は止まる」
「ちょっとアザゼル様!?」
カルシファーは、驚いた顔でアザゼルに確認する。
「良いではないかカルシファー、どうせ何も出来はしない。ここで死ぬだろう。我々が手を下さなくてもな」
楽しんでいるアザゼルとは対照的に、カルシファーは少々困った表情を浮かべている。
そうか……カルシファーは私の実力を知っているが、アザゼルは知らない。
カルシファーは、私の実力は万が一を引き起こす可能性があると評価しているのだ。
「それで……どっちから殺しましょうか? 両方一緒でも構わないけど?」
私は挑発する。
今の私なら出来るのではないかという根拠のない自信が溢れてくる。
「そう焦るなアレシア。これは余興と言ったろう? ここで我々が相手をして、早々に死なれたらつまらん。我々は一度引く。後は高みの見物とさせてもらおうか!」
そう叫んだアザゼルの背後では、彼が現れた時と同じく空間が揺らぐ。
「待ちなさい! 逃げる気?」
私は、揺らいだ空間に消えていくアザゼルたちに向かって吠える。
「そう吠えるなアレシア! 貴様の相手はいずれしてやる! だから今回は別の相手を用意した!」
揺らいだ空間に、カルシファーと共に消えていくアザゼルは最後にそう言い残した。
別の相手?
アザゼルが用意したということは、悪魔なのでしょうけれど……
私は一人残された平原で数秒立ち尽くす。
しんとした静かな空間の全方位から、微力な魔力を感じる。
それらは徐々にその数を増やし、近づいてくるたびにその魔力の反応は大きく、強くなっていく。
これがアザゼルの言っていた相手か……
敵の数は不明だが、少ないことはないだろう。
強さはまちまちだが、冠位の悪魔はいなさそうで安心した。
流石にこれだけの軍勢、それも悪魔の軍勢だ。今まで相手してきた魔獣の軍勢とはわけが違う。
「厄介な置き土産ね……まったく」
私は独り言を発しながら笑うしかなかった。
全方位から集まってきているのでは逃げようがない。
先に到着した悪魔たちも統率が取れているのか、いきなり飛びかかっては来ない。
しっかりその場で待っている。
私を中心に囲むように、悪魔たちは一定の距離をあけながら続々と集まってくる。
これではまるで地獄ね。
私は恐怖も怒りも無く、ただ漠然とそう思った。
やってくる悪魔達は、低級の悪魔から上級の悪魔まで、強さはもちろん姿形もバラバラで、動物のような、魔獣と見分けがつかない者もいれば、人と大差ないようなフォルムの悪魔まで様々だ。
ああ……きっとこの光景をみたら、ほとんどの人が地獄だと述べるだろう。
私ですらそう思うのだから。
「結構集まって来たわね」
私は体を一回転させ、周囲に集まってきた悪魔を確認する。
「百体以上は確実か」
アザゼルめ、なにがいきなり死んだらつまらないよ……普通の魔女なら死んでるわよ?
おそらくアイツは、この周辺に闊歩していた悪魔たちをここに集めたのだろう。
強さも隊列もバラバラ。
およそ軍隊と呼んでいいレベルではないが、個々のポテンシャルの高さで戦術を補う感じだろう。
もっと油断してくれていたら良かったのに。
アザゼルは私を弱者だとは思わなかったみたい……
「これで全部かしら?」
私は、自身の正面に立つ人型の悪魔に声をかける。
正面に立つということは、コイツは話せるはずだ。
「ああ、ここにいる百体がアザゼル様に呼ばれたここらの悪魔の全てだ」
意外にも、冷静な口のききかただった。
冠位の悪魔ほどでは無いにしろ、そこそこ上級の悪魔なのだろう。
そこいらの低級悪魔など、魔獣とたいして変わらないぐらいの知性しかない。
辺りに充満した魔の香りが私の神経を尖らせる。
私は自身の怒りに火を灯す。
「それにしても……か弱い女一人殺すために、百体も悪魔が必要なのかしら? 貴方たちのボスは随分臆病なのね?」
「生意気なことをぬかすなよ魔女風情が! お前程度すぐに殺してやる!」
私の軽い挑発にまんまと引っかかり、さっきの冷静な物言いは成りをひそめた。
所詮は悪魔、品性など求めても無駄か。
「アザゼル様も、どうしてこんな女のためにここまでの数を呼んだのか分からぬ! こんな魔女一人、ここにいる数体の悪魔で十分だろうに」
「へえ……それじゃあ試してみる? 何体か選抜しなさいよ。どうせ数秒も持たないわ」
私はさらに挑発する。
それだけで、私を囲んでいる低級悪魔たちは自制心を失う。
「たいした自信だな魔女め! 他の魔女たちみたいに、殺して血祭りに上げてやる!」
目の前の人型がそう叫ぶと、彼の両脇から猿と蛇を混ぜたような独特な悪魔が現れる。
顔と胴体は猿で、尻尾が蛇。
その数およそ六体。
「そんな猿六匹で私を殺すつもり?」
「黙れ! 行けお前たち!」
人型の号令と同時に、猿型の悪魔たちは一斉に駆け出す。
六匹は馬鹿正直に私に向かって突っ込んでくる。
「愚かね……それじゃあちょっと大きいだけの猿と一緒じゃない」
私は大きなため息をついた。
「ねえカルシファーにアザゼル。あなた達は、もうすでに計画が成功したかのようなはしゃぎっぷりだけど、実際この結界はまだ異界にはなっていない。喜ぶのは早すぎるんじゃないかしら?」
私の指摘に二体の悪魔はお互いの顔を見合わせ、笑いはじめた。
「「ハハハハハ」」
二体の悪魔が笑うと、それだけで周囲の空気が反響する。
おそらくこの二体が悪魔達のツートップ!
「なにがおかしいのかしら?」
私は笑い続ける悪魔達を指さす。
「なぜ笑っているかって? 簡単であろう? 確かにお前の言う通り、まだ異界化はすんでいない。しかし、それがなんだと言うのだ? 誰も邪魔立てする者はいない。時間の問題で異界化は完成する。これが笑わずにいられるか!」
アザゼルは堂々とそう言い切った。
カルシファーも彼の言葉に頷く。
そうか、確かに時間の問題で異界化は完成するだろう。
異界化が完成すれば、とりあえずこの結界内では自由に動き回れる。
そしてそのまま異界を広げて、人間が住む、この結界の外への進出も可能だろう。
だけど……
「何か忘れているようだけど、その異界化を私が黙って見ているとでも?」
そうだ。彼らは、私が障害になるとはまるで考えていない。
「お前がか? 何を言うかと思えばアレシア、確かにお前は他の魔女たちよりも実力は上かもしれない。だが、所詮人だ。魔女だ。我々”魔”そのものには敵うまい! それもたった一人で!」
アザゼルは、私一人では何も出来ないと言っている。
そう思うのも無理はないのかも知れないが、私にはその現実を押し退けてでも殺したい奴がいる!
今私の目の前で夢を語る二体の悪魔!
こいつらを殺したい!
殺したい! 殺したい! 殺したい!
憎しみが止まらない! 悲しみが止まらない! 暗い気持ちが晴れない!
この身は復讐に焦がれている。
私達魔女を死に追いやり、私の愛した者。気に入った者たちをとことん破滅に追い込んだ。
人間たちを守るためじゃない!
私は私の意思で、この二体の悪魔を消し去りたい!
私の全身から漆黒の魔力があふれ出る。
それを感じてか、アザゼルとカルシファーは嗤うのをやめた。
「アレシア……貴女本気ですか?」
カルシファーは、憐れな者を見る眼差しで私に問う。
「当然よ。まずはお前からだ、カルシファー!」
私が一歩前に出ようとした時、アザゼルが口を開く。
「そうかそうか本気か。面白い! 今ここで散らすには惜しい黒い花だ。この異界化の、良い余興になる……アレシア、この結界はまだ異界になってはいない。この結界内に、我々をはじめとした悪魔たちが無数に存在していられるのは、ゲートが開かれているからだ。そのゲートを破壊すれば異界化は止まる」
「ちょっとアザゼル様!?」
カルシファーは、驚いた顔でアザゼルに確認する。
「良いではないかカルシファー、どうせ何も出来はしない。ここで死ぬだろう。我々が手を下さなくてもな」
楽しんでいるアザゼルとは対照的に、カルシファーは少々困った表情を浮かべている。
そうか……カルシファーは私の実力を知っているが、アザゼルは知らない。
カルシファーは、私の実力は万が一を引き起こす可能性があると評価しているのだ。
「それで……どっちから殺しましょうか? 両方一緒でも構わないけど?」
私は挑発する。
今の私なら出来るのではないかという根拠のない自信が溢れてくる。
「そう焦るなアレシア。これは余興と言ったろう? ここで我々が相手をして、早々に死なれたらつまらん。我々は一度引く。後は高みの見物とさせてもらおうか!」
そう叫んだアザゼルの背後では、彼が現れた時と同じく空間が揺らぐ。
「待ちなさい! 逃げる気?」
私は、揺らいだ空間に消えていくアザゼルたちに向かって吠える。
「そう吠えるなアレシア! 貴様の相手はいずれしてやる! だから今回は別の相手を用意した!」
揺らいだ空間に、カルシファーと共に消えていくアザゼルは最後にそう言い残した。
別の相手?
アザゼルが用意したということは、悪魔なのでしょうけれど……
私は一人残された平原で数秒立ち尽くす。
しんとした静かな空間の全方位から、微力な魔力を感じる。
それらは徐々にその数を増やし、近づいてくるたびにその魔力の反応は大きく、強くなっていく。
これがアザゼルの言っていた相手か……
敵の数は不明だが、少ないことはないだろう。
強さはまちまちだが、冠位の悪魔はいなさそうで安心した。
流石にこれだけの軍勢、それも悪魔の軍勢だ。今まで相手してきた魔獣の軍勢とはわけが違う。
「厄介な置き土産ね……まったく」
私は独り言を発しながら笑うしかなかった。
全方位から集まってきているのでは逃げようがない。
先に到着した悪魔たちも統率が取れているのか、いきなり飛びかかっては来ない。
しっかりその場で待っている。
私を中心に囲むように、悪魔たちは一定の距離をあけながら続々と集まってくる。
これではまるで地獄ね。
私は恐怖も怒りも無く、ただ漠然とそう思った。
やってくる悪魔達は、低級の悪魔から上級の悪魔まで、強さはもちろん姿形もバラバラで、動物のような、魔獣と見分けがつかない者もいれば、人と大差ないようなフォルムの悪魔まで様々だ。
ああ……きっとこの光景をみたら、ほとんどの人が地獄だと述べるだろう。
私ですらそう思うのだから。
「結構集まって来たわね」
私は体を一回転させ、周囲に集まってきた悪魔を確認する。
「百体以上は確実か」
アザゼルめ、なにがいきなり死んだらつまらないよ……普通の魔女なら死んでるわよ?
おそらくアイツは、この周辺に闊歩していた悪魔たちをここに集めたのだろう。
強さも隊列もバラバラ。
およそ軍隊と呼んでいいレベルではないが、個々のポテンシャルの高さで戦術を補う感じだろう。
もっと油断してくれていたら良かったのに。
アザゼルは私を弱者だとは思わなかったみたい……
「これで全部かしら?」
私は、自身の正面に立つ人型の悪魔に声をかける。
正面に立つということは、コイツは話せるはずだ。
「ああ、ここにいる百体がアザゼル様に呼ばれたここらの悪魔の全てだ」
意外にも、冷静な口のききかただった。
冠位の悪魔ほどでは無いにしろ、そこそこ上級の悪魔なのだろう。
そこいらの低級悪魔など、魔獣とたいして変わらないぐらいの知性しかない。
辺りに充満した魔の香りが私の神経を尖らせる。
私は自身の怒りに火を灯す。
「それにしても……か弱い女一人殺すために、百体も悪魔が必要なのかしら? 貴方たちのボスは随分臆病なのね?」
「生意気なことをぬかすなよ魔女風情が! お前程度すぐに殺してやる!」
私の軽い挑発にまんまと引っかかり、さっきの冷静な物言いは成りをひそめた。
所詮は悪魔、品性など求めても無駄か。
「アザゼル様も、どうしてこんな女のためにここまでの数を呼んだのか分からぬ! こんな魔女一人、ここにいる数体の悪魔で十分だろうに」
「へえ……それじゃあ試してみる? 何体か選抜しなさいよ。どうせ数秒も持たないわ」
私はさらに挑発する。
それだけで、私を囲んでいる低級悪魔たちは自制心を失う。
「たいした自信だな魔女め! 他の魔女たちみたいに、殺して血祭りに上げてやる!」
目の前の人型がそう叫ぶと、彼の両脇から猿と蛇を混ぜたような独特な悪魔が現れる。
顔と胴体は猿で、尻尾が蛇。
その数およそ六体。
「そんな猿六匹で私を殺すつもり?」
「黙れ! 行けお前たち!」
人型の号令と同時に、猿型の悪魔たちは一斉に駆け出す。
六匹は馬鹿正直に私に向かって突っ込んでくる。
「愚かね……それじゃあちょっと大きいだけの猿と一緒じゃない」
私は大きなため息をついた。