キテラという魔女 3
「よく言うわ! 私とリアムを国王に密告しておいて!」
「何のことかしら?」
キテラは本当に意味が分からないと言いたげな表情を浮かべる。
「とぼけないでよ! 魔力がある者にしか分からないように隠していたのに!」
「本当になんのことだか分からないけれど、どうあれアレシア、貴女が魔女を売ったのは真実でしょ!」
キテラは、もう話すことは無いと言いたげに、両手を私に向ける。
その直後、衝撃波が私を吹き飛ばす。
「何!?」
吹き飛ばされ、宙に打ち上げられた私は、なんとか空中で体勢を整えて地面に着地する。
何かしらの魔法を使ったのでしょうけど……無詠唱で私を吹き飛ばした?
「厄介ね!」
負けじと私も右手をキテラに向けて無詠唱で魔法を行使する。
キテラもキテラで、私の無詠唱で放たれた木の槍を、私にさっき放った衝撃波で無力化する。
「舐めてるのかしら?」
「どっちがよ!」
私はキテラの態度に頭に血が昇る。
「命よ、あの者に裁きを、命の爆撃を!」
私が詠唱し終わると同時にキテラの足元、三百六十度からツタが生え、彼女の足を拘束する。
そしてキテラが足元に意識を向けたタイミングで、上空に直径三メートルほどの魔法陣が発生し、拳ほどの種子を雨のように降らせる。
「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」
私のツタが彼女の足を拘束したタイミングで、彼女も詠唱を終わらせていた。
私の種子の爆弾がキテラに当たる寸前で、キテラは彼女を中心に全方位に向けて衝撃波を繰り出す!
その衝撃波で壊された種子の爆弾たちは、全てキテラに当たる前に爆発し、上空にキノコ雲を発生させる。
「それがカルシファーと契約して手に入れた力というわけね……」
「そうよ。不可視の攻撃、不可視の守り。それがこの系統魔法よ」
私との相性で言ったら、確実にイザベラのほうが悪い。それは間違いないが、単純に見えない攻撃というのは対処がしにくい。
普通の衝撃波であればともかく、キテラクラスの魔女がこの系統を使うとなると、それだけなはずがない。
「大気よ、不可視の斥候よ、切り刻め!」
キテラは私に向かって再び両手を前に突き出す。
さっきと同じモーションだけど、込められている魔力は全然違う。
「命よ、我に従い、その名を示せ!」
私が扱う魔法の中ではかなり使用頻度が高い魔法。
木の壁を作り出し、術者を守りながら木の槍を無数に飛ばす、攻防一体の魔法だ。
しかし今回は相手が悪かった……
「無駄よ!」
キテラの放った魔法は私が飛ばした槍を全て切り刻み、その魔法は木の壁にも到達する。
流石に突破はされないでしょうけど、それでも壁を形成している木々が切り裂かれている音は聞こえる。
「命よ、罪人に罪の束縛を!」
私は連続して魔法を放つ!
キテラの周囲に木々が出現し、ツタを伸ばす。
湖で龍相手に使った、魔力を吸い取る拘束魔法。
これで捕まえてしまえば、いくらキテラでも脱出は不可能。
「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」
しかし先ほどの防御魔法で、それらのツタも木々も全て吹き飛ばしてしまう。
「くそ!」
私はボロボロになった壁から飛び出し、連続して詠唱を続ける。
「命よ、罪人に非業の死を! 血の災いを!」
アデール相手に使った、花粉による内部からの破壊……キテラと同じ見えない攻撃。
「だから無駄だって!」
キテラは詠唱もせずに指を鳴らすと、彼女を中心に突風が吹き荒れ、花粉が全て飛ばされてしまう。
「私にそういった類の魔法は通用しない」
「だったら!」
私はキテラに向かって走りながら再び詠唱する。
「命よ、その形状を変えて、参戦せよ!」
走りながら地面から生えてきた木の剣を取り出し、キテラに接近する。
「へえ……貴女が剣技なんてね」
キテラは余裕そうな仕草で、右手を上空に向けて詠唱する。
「大気よ、その形を変えて、力となれ!」
詠唱し終わった直後に、キテラは自分に向かって突進してくる私に向かって、勢いよく右手を振り下ろす。
私との距離はまだ十メートルはある。
一体なんのつもり?
そう思ったのも束の間、空気が切れる音がしてとっさに剣を頭の上に構えると、重いハンマーで叩かれたような衝撃が右手に響く!
「今度は不可視の剣ってわけ? おまけに伸縮自在ということね……」
私は彼女の不可視の剣を弾いて、一旦距離を取る。
もうこれしかないか…………
私は自身の最大規模の魔法を放つことにした。
「命よ、災禍の誕生を見せよ!」
イザベラに向けて放った、樹海そのものを広範囲に渡って作り上げる、空間魔法……これならいくらキテラでも……
「大気よ、吹き荒れる暴風となって、一切の命を許すな!」
キテラも私に合わせて詠唱を完結させる。
私の樹海がキテラの足元全てから隙間なく大木が生え続ける。工夫も何もない、ただただ質量で押しつぶす魔法。
しかし、キテラの魔法は私の樹海を吹き飛ばし続ける。
生えたと同時に切り裂かれ吹き飛ばされる。
こうなれば持久戦だ……私もアイツも身動きは取れない。
他の魔法を行使する余裕はない!
私はちらりとレシファー達が飛んでいった方向を見る。
あっちもこちらと同様に、樹海が誕生している。
レシファーが押していると信じたい。
この木の魔法において言えば、私はレシファーの足元にも及ばない。だから大丈夫、相手が冠位の悪魔でも、実の姉でも、彼女は必ず勝利してここに戻ってきてくれる。
だから私も……ここで破れるわけにはいかない!!
「いっけーーー!!!」
私はありったけの魔力をこの攻防に込める。
正直これで勝てないなら他に手はない。
四皇の魔女達を倒してきた魔法が一切、キテラには通用しなかった。
ここで押し切る以外に勝ち目がない。
しかし、私の想いに反して、徐々にキテラの操る風の支配領域が広がっていく……私の魔力も枯れ始めている。
対照的にキテラは余裕そうな顔だ。
終焉の時が近い。
そう思った。
樹海がもう維持できない……
押し込まれる!!
「うっ!」
やがて私の魔法の効果が切れ、キテラの暴風が周りの全てを吹き飛ばしていく。
その暴風は私を飲み込み、無抵抗の私を風の檻の中に浮かべる。
かまいたちが私の体を切り刻む……
痛い! 痛い! 痛い!
切られるたび、服は切り刻まれ、血が滲み、吹き出す!
永遠にも感じられたその拷問は、まもなく終わりを迎えた。
キテラの魔法も効力を失い、私を空中に繋ぎとめていた力が無くなって地面に投げ捨てられる!
「あっ!」
私の体は叩きつけられた衝撃で、傷口から一斉に血が吹き出す。
「アレシア!!」
血だらけの私を見て、いてもたってもいられなくなったのか、ポックリの静止を聞かずにエリックが私とキテラのあいだに立つ!
「エ、リック……?」
私はぼんやりとした意識で、目の前に立った彼の名を呼ぶ。
「キテラ、お前が殺したいのは僕じゃないのか? だったら僕を殺せ! その代わり、もうアレシアを傷つけるな!」
エリックが、こんなに強い口調で誰かに向かって話すのを初めて聞いた。
「僕がリアムって人の生まれ変わりだろうと、関係ない! 僕はアレシアが好き! だから殺すな!」
エリックは必死に両手を広げて私を庇う。
言っていることは滅茶苦茶だが、その想いだけは伝わった。
ああ、ここで好きだと言われるとは思わなかった……もっと違うタイミングで聞きたかった……
「エリック待て!」
ポックリは慌てて、私とキテラのあいだに立っているエリックの、そのさらに前に立つ。
「なにかしらこの狸は?」
キテラはつまらなそうな視線をポックリに浴びせる。
「こいつらを殺らせねえ!」
「何のことかしら?」
キテラは本当に意味が分からないと言いたげな表情を浮かべる。
「とぼけないでよ! 魔力がある者にしか分からないように隠していたのに!」
「本当になんのことだか分からないけれど、どうあれアレシア、貴女が魔女を売ったのは真実でしょ!」
キテラは、もう話すことは無いと言いたげに、両手を私に向ける。
その直後、衝撃波が私を吹き飛ばす。
「何!?」
吹き飛ばされ、宙に打ち上げられた私は、なんとか空中で体勢を整えて地面に着地する。
何かしらの魔法を使ったのでしょうけど……無詠唱で私を吹き飛ばした?
「厄介ね!」
負けじと私も右手をキテラに向けて無詠唱で魔法を行使する。
キテラもキテラで、私の無詠唱で放たれた木の槍を、私にさっき放った衝撃波で無力化する。
「舐めてるのかしら?」
「どっちがよ!」
私はキテラの態度に頭に血が昇る。
「命よ、あの者に裁きを、命の爆撃を!」
私が詠唱し終わると同時にキテラの足元、三百六十度からツタが生え、彼女の足を拘束する。
そしてキテラが足元に意識を向けたタイミングで、上空に直径三メートルほどの魔法陣が発生し、拳ほどの種子を雨のように降らせる。
「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」
私のツタが彼女の足を拘束したタイミングで、彼女も詠唱を終わらせていた。
私の種子の爆弾がキテラに当たる寸前で、キテラは彼女を中心に全方位に向けて衝撃波を繰り出す!
その衝撃波で壊された種子の爆弾たちは、全てキテラに当たる前に爆発し、上空にキノコ雲を発生させる。
「それがカルシファーと契約して手に入れた力というわけね……」
「そうよ。不可視の攻撃、不可視の守り。それがこの系統魔法よ」
私との相性で言ったら、確実にイザベラのほうが悪い。それは間違いないが、単純に見えない攻撃というのは対処がしにくい。
普通の衝撃波であればともかく、キテラクラスの魔女がこの系統を使うとなると、それだけなはずがない。
「大気よ、不可視の斥候よ、切り刻め!」
キテラは私に向かって再び両手を前に突き出す。
さっきと同じモーションだけど、込められている魔力は全然違う。
「命よ、我に従い、その名を示せ!」
私が扱う魔法の中ではかなり使用頻度が高い魔法。
木の壁を作り出し、術者を守りながら木の槍を無数に飛ばす、攻防一体の魔法だ。
しかし今回は相手が悪かった……
「無駄よ!」
キテラの放った魔法は私が飛ばした槍を全て切り刻み、その魔法は木の壁にも到達する。
流石に突破はされないでしょうけど、それでも壁を形成している木々が切り裂かれている音は聞こえる。
「命よ、罪人に罪の束縛を!」
私は連続して魔法を放つ!
キテラの周囲に木々が出現し、ツタを伸ばす。
湖で龍相手に使った、魔力を吸い取る拘束魔法。
これで捕まえてしまえば、いくらキテラでも脱出は不可能。
「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」
しかし先ほどの防御魔法で、それらのツタも木々も全て吹き飛ばしてしまう。
「くそ!」
私はボロボロになった壁から飛び出し、連続して詠唱を続ける。
「命よ、罪人に非業の死を! 血の災いを!」
アデール相手に使った、花粉による内部からの破壊……キテラと同じ見えない攻撃。
「だから無駄だって!」
キテラは詠唱もせずに指を鳴らすと、彼女を中心に突風が吹き荒れ、花粉が全て飛ばされてしまう。
「私にそういった類の魔法は通用しない」
「だったら!」
私はキテラに向かって走りながら再び詠唱する。
「命よ、その形状を変えて、参戦せよ!」
走りながら地面から生えてきた木の剣を取り出し、キテラに接近する。
「へえ……貴女が剣技なんてね」
キテラは余裕そうな仕草で、右手を上空に向けて詠唱する。
「大気よ、その形を変えて、力となれ!」
詠唱し終わった直後に、キテラは自分に向かって突進してくる私に向かって、勢いよく右手を振り下ろす。
私との距離はまだ十メートルはある。
一体なんのつもり?
そう思ったのも束の間、空気が切れる音がしてとっさに剣を頭の上に構えると、重いハンマーで叩かれたような衝撃が右手に響く!
「今度は不可視の剣ってわけ? おまけに伸縮自在ということね……」
私は彼女の不可視の剣を弾いて、一旦距離を取る。
もうこれしかないか…………
私は自身の最大規模の魔法を放つことにした。
「命よ、災禍の誕生を見せよ!」
イザベラに向けて放った、樹海そのものを広範囲に渡って作り上げる、空間魔法……これならいくらキテラでも……
「大気よ、吹き荒れる暴風となって、一切の命を許すな!」
キテラも私に合わせて詠唱を完結させる。
私の樹海がキテラの足元全てから隙間なく大木が生え続ける。工夫も何もない、ただただ質量で押しつぶす魔法。
しかし、キテラの魔法は私の樹海を吹き飛ばし続ける。
生えたと同時に切り裂かれ吹き飛ばされる。
こうなれば持久戦だ……私もアイツも身動きは取れない。
他の魔法を行使する余裕はない!
私はちらりとレシファー達が飛んでいった方向を見る。
あっちもこちらと同様に、樹海が誕生している。
レシファーが押していると信じたい。
この木の魔法において言えば、私はレシファーの足元にも及ばない。だから大丈夫、相手が冠位の悪魔でも、実の姉でも、彼女は必ず勝利してここに戻ってきてくれる。
だから私も……ここで破れるわけにはいかない!!
「いっけーーー!!!」
私はありったけの魔力をこの攻防に込める。
正直これで勝てないなら他に手はない。
四皇の魔女達を倒してきた魔法が一切、キテラには通用しなかった。
ここで押し切る以外に勝ち目がない。
しかし、私の想いに反して、徐々にキテラの操る風の支配領域が広がっていく……私の魔力も枯れ始めている。
対照的にキテラは余裕そうな顔だ。
終焉の時が近い。
そう思った。
樹海がもう維持できない……
押し込まれる!!
「うっ!」
やがて私の魔法の効果が切れ、キテラの暴風が周りの全てを吹き飛ばしていく。
その暴風は私を飲み込み、無抵抗の私を風の檻の中に浮かべる。
かまいたちが私の体を切り刻む……
痛い! 痛い! 痛い!
切られるたび、服は切り刻まれ、血が滲み、吹き出す!
永遠にも感じられたその拷問は、まもなく終わりを迎えた。
キテラの魔法も効力を失い、私を空中に繋ぎとめていた力が無くなって地面に投げ捨てられる!
「あっ!」
私の体は叩きつけられた衝撃で、傷口から一斉に血が吹き出す。
「アレシア!!」
血だらけの私を見て、いてもたってもいられなくなったのか、ポックリの静止を聞かずにエリックが私とキテラのあいだに立つ!
「エ、リック……?」
私はぼんやりとした意識で、目の前に立った彼の名を呼ぶ。
「キテラ、お前が殺したいのは僕じゃないのか? だったら僕を殺せ! その代わり、もうアレシアを傷つけるな!」
エリックが、こんなに強い口調で誰かに向かって話すのを初めて聞いた。
「僕がリアムって人の生まれ変わりだろうと、関係ない! 僕はアレシアが好き! だから殺すな!」
エリックは必死に両手を広げて私を庇う。
言っていることは滅茶苦茶だが、その想いだけは伝わった。
ああ、ここで好きだと言われるとは思わなかった……もっと違うタイミングで聞きたかった……
「エリック待て!」
ポックリは慌てて、私とキテラのあいだに立っているエリックの、そのさらに前に立つ。
「なにかしらこの狸は?」
キテラはつまらなそうな視線をポックリに浴びせる。
「こいつらを殺らせねえ!」