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作者: ビーグル
第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 19 ―バケモノッッッッッ!!!!!―
 19

 ………

 …………。

 セイギと勇気が再会したのは、それからすぐの事だった。

 ポツポツと雨が降り出し、雨粒の大きさがこれからの大降りを予見させた時、勇気はセイギの前に現れた。

「勇気!!」

 ボッズーと別れたあの場所では踵にも至らない程の長さだった野草が、膝を隠すまで伸びたこの場所。木々の間隔も、隠れるには丁度良く密集していた。

「へへっ……ビックリしたぜ。バケモノの野郎が現れたのかと思ったぜ」

 ガサガサ……と草木が擦れる音が聞こえ、その場所に視線を向けると、勇気はそこにいた。

 セイギは咄嗟に構えた大剣をゆっくりと降ろし、木の陰から現れた勇気に向かって歩いていく。

「心配したぜ……全然連絡取れねぇから、もしかしてって思っちまったぜ」

 勇気はセイギが話し掛けても、しがみ付く様に片手を木に添えて、ただセイギを見ているだけ。厚い雨雲と、木に繁る葉によって、勇気の顔には光が当たらず、その表情は全く見えない。

「なぁ、何があったんだ? 俺に詳しく教えてくれよ」

 だけど、セイギはいつもと同じ様に勇気に話し掛けた。だってセイギは、勇気が"いつもの勇気"と信じて疑わなかったから……

「おい、何か言えって!」

 セイギは仮面の奥で笑顔を浮かべながら、勇気の肩に手を置いた。


「………!!」


 でも、そうじゃなかった……

 勇気の顔を見たセイギは思わず言葉を失った。セイギの瞳に映った勇気の顔は、とても虚ろで、その瞳には一切の光が無かったんだ……

「勇気……おい! 勇気、どうしたんだよ!!」

 セイギは片手で持っていた大剣を取り落とした。

 そして、両手で勇気の肩を掴み、強く揺さぶる。

 この時までセイギは、勇気は自分を見ていると思っていた。でも、そうじゃなかった。勇気はセイギを見てはいなかった。ただ光を失った瞳で虚空を見ているだけ。いや、視線をそこに置いているだけだ……


「……さないで……こ……さないで……」


「え?」

 勇気が何かを呟いた。

「何? なんて?」

 セイギは勇気の口元に耳を寄せた。

「ころさないで……ころさないで……」

「え……?」

 セイギはその言葉に耳を疑った。

「殺さないで……? 何言ってんだ、そんな事する訳無いだろ? 俺だよ、勇気、誰だと思ってんだ……俺だ! 正義だよ!!」

 セイギがもう一度勇気の肩を揺すろうとした時、

「撃つなぁぁぁ!!!!」

 勇気のこの世の終わりを見たかの様な叫喚さけびが……セイギの鼓膜を揺さぶった。

「なっ!! ゆ……勇気、撃つなって、何………うわっ!!」

 勇気はセイギの手を振り払い、突然駆け出した。

「撃たないで! 撃たないで!! 嫌だよ!!」

「何言って………勇気、待て!!」

 セイギは落とした大剣を拾い上げ、勇気を追い掛けた。

「待て!! 待てよ勇気!! どうしちまったんだよ!!!」

「嫌だ!! 嫌だよ!! 撃たないで!! やめて……殺さないで!!!!」

「待てよ、勇気! 行くな!! 勇気ぃぃぃ!!!」


「バンッ!!!」


「えっ……?!」


 突然……


 勇気でもない、勿論自分でもない、何者かの声が聞こえたかと思うと、セイギの体は強い衝撃を受けて真横に吹き飛んだ。

「グワァアッ!!!!」

 衝撃に体を吹き飛ばされながらもセイギは、自分を襲った衝撃が火球の様なものだった事、その火球は自分の体にぶつかると弾ける様に爆発した事、そして、その火球の向こうに"真っ白な体をした、銃を構える異形の者"が存在していた事……その全てを取り逃さなかった。

「………ッ!!!」

 木にぶつかったセイギは再び大剣を取り落としそうになった。だが、今回はそんな事を自分には許さない。咄嗟に大剣を握り直すと、すぐにセイギは立ち上がった。

「誰だ!!!」

 攻撃を喰らった右肩がビリビリと痛む。

 ― こんなもん昨日の痛みに比べたら屁みたいなもんだぜ……

 奴はまだそこにいた。セイギから目測3m、さっきと同じ場所だ。木と木に挟まれる形で、片手を上げて銃をこちらに向けている。
 さっきの勇気と同じで、光が当たらず姿形はハッキリとは見えない。攻撃を受けた時は火球が放つ光が敵の姿を照らしていたのだろう、その時は真っ白な体をしているのが分かったが、今は灰色、淀んだ灰色に見える。

 そいつに向かってセイギは大剣を構えた。

「やっと会えたな……バケモノッッッッッ!!!!!」


第2話「バケモノッッッッッ!!!!!」 完
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