第4話 王に選ばれし民 11 ―ガキセイギは笑う―
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「ケケケケケッ!!」
しかし、ピエロの演説はまだ続く。
セイギの激昂が嬉しいのか、口先だけじゃない満面の笑みをピエロは浮かべた。
「吠えるな、吠えるな!! ケケッ! こっからがお前の話だぜ! お前が聞きたくて仕方がない話だ! 良いか? 人類は俺達が滅ぼす。そう、これは決定事項!! 滅亡へのカウントダウンは王が定めた、明日から始まる365日!! 一年!! 一年でこの世界の人類は滅亡するんだよ!! 俺達の手でなぁ!!! でもな、お前だけは違うんだ……」
ピエロは舌舐りをする様にニチャリと笑った。
「お前はな、王の戯れの相手に選ばれたんだよ! だから、俺達はお前を殺さない。何故なら我等が王が、お前を殺すんだからな!! 俺達に歯向かった事を後悔しながらお前は死ぬんだよ!! ケケッ! でも、まずは生き地獄を味わってからだ!!」
ピエロはセイギを指差しながらテーブルを乗り出した。
スクリーンにはピエロの顔とセイギを指差す指先だけが映る。
ピエロは大分興奮している。ギョロリとした目の白目の中に枯れた木の枝の様な血管が浮き出ていて、白黒の映像の中でも血走っているのがよく分かる。
「お前が死ぬのは最後の最後だ!! お前以外の全ての人類が滅んだ後、最後の最後にお前は死ぬんだよ!! お前のせいで、お前が俺達に歯向かったせいで、地獄を見た人間が、お前が愛し守りたいと思った人間が、苦しみ悶え、お前を怨んで死んでいく姿を見るんだよ!! ケケケケケケケケッ!!!」
喋る度にピエロの唾が辺りに飛び散る。目の前にあるだろうカメラに付着し、スクリーンが段々と白く濁っていく。
「おぉおぉ!! 全世界の人類よ!」
ピエロは突然起き上がり、再び大きく両手を広げた。
「今の俺の話が聞こえたか!!」
裂けたかの様な巨大な口を大きく開けると、ダラリとした舌が覗く。その舌も気持ち悪いくらいにでかく、分厚い舌先からはねばねばと涎が垂れ落ちる。
「『俺の話が聞こえたか』……だとボズ?」
ボッズーはピエロの言葉が気になった。そして思い出す。ピエロはスクリーンに現れた時に『この放送は全世界の皆さんの"耳"にも届いている筈』そう言っていた事を。
― ……て事は、どういう手段を使ってるか分かんないけど、このピエロの言葉は俺達やこのスクリーンを見てる人にだけ届いてるって訳では無いのかボズ? もしかして……世界中の全ての人々に、コイツの演説は届いているのか……
ボッズーは『もしかして……』と思いながらも、この状況に生唾を飲み込んだ。
そして、ピエロの演説は続く。
「ケケケッ! 人類のみんな!!! どうだぁ? どうだったぁ? 絶望したかぁ? いやいや、楽しみだよなぁ!! 自分がどんな死に方をすんのか想像するだけでワックワックするよな!! ケケケケケケケケッ!! そのうちお前等の死を箱に詰めてプレゼントしに行くからよぉ!! 楽しみに待ってろよ!! ケケケケケケケケッ!! 怨みたいなら俺達じゃないぞ、俺達に歯向かってきたこのバカセイギを怨め!! ケケケケケッ!! 可哀想に! お前等にはもう幸せを感じるひとときなんて、一瞬も……」
「うるせぇなぁ………」
ピエロの演説に割って入る様にセイギが呟いた。
「え?! なんか言ったか? バカセイギ???」
「うるせぇって言ってんだよ……くっだらねぇ事ゴチャゴチャゴチャゴチャ言いやがって!! これ以上、命を馬鹿にするような事をほざくな!!!」
セイギは巨大スクリーンに映るピエロを指差しながら叫んだ。
「お前等がな、俺を殺さない理由も分かった!! だからもう黙れ!! いい加減理解したぜ!! 質問に答えてくれて、どうもありがとうだッ!!」
「ケケケッ! おぉ~~また馬鹿がキャンキャンキャンキャン吠えてらぁ!! アンタも好きねぇ~~!! うるさいのはどっちぃ~~!! そんなに俺に自分の声を聞いてもらいたいのか? んっ? んっ?? ケケケッ!! よぉし分かった!分かったぜ!! そんなに鳴きたいなら、お前の声も、いや、サービスだ! そこの鳥ちゃんも加えてやろう! お前等二人の声もみんなに聞いてもらおうぜ!!」
ピエロはそう言うと、鼻の頭に付いた灰色の玉をクルクルと回した。
「ケケッ! ほらほら、これで良いぞ! 喋れ、喋れ! 怒鳴れ、怒鳴れぇ!!! 世界中にお前等の声を轟かせろ!! ケケッ!! でもなぁ、お前の怒りはなぁ、怒りじゃない! 『狼狽』って言うんだよ!! 焦ってる事の表れッ!! 『怖ぁ~~い! 怖ぁ~~~い!』って言ってんだよ!! ほらほら、サッサと世界中のみんなにお前の情けない声を聞かせてやれ!! ケケケケケッ!!」
どういう理屈でかは分からない。だが、鼻の頭の玉を回しただけで、今度はセイギ達の声も世界中の人間に聞こえるようになったらしい。
これがピエロの嘘で無ければの話になるが……
「ケケケッ! どうした?? 何故叫ばない! 怖じ気づくなよ! ほら、相方が喋らないなら鳥ちゃんでも良いぜ! ほぉ~らほら、みぃ~~んなにッ! お前等の声を聞かせてやれッ!! 『怖いよぉ~~! 嫌だよぉ~~! 死にたくないよぉ~~! この野郎ぉ~~!!』ってな! ケケケケケケケケッ!!」
これみよがしにピエロはセイギ達を煽る。
煽れば煽る程、セイギの感情は乱れていく……ピエロはそう考えていた。
「セイギ……」
ボッズーが心配して声をかける。ボッズーもピエロと同じ様に考えていた。
『セイギの怒りがまた爆発しようとしている……』と。
しかし、そうじゃない。
「大丈夫……」
セイギはそうボッズーの耳元で囁いた。
その口調はボッズーの予想に反して、とっても穏やかな口調。
「へへっ!」
そして笑った。いつもの笑い声で。セイギは笑った。
笑い声と共に、セイギは自分の左の肩に止まったボッズーの頭に右手を伸ばし、その頭を優しく撫でる。
「大丈夫!!」
頭を撫でる時、セイギの顔は自然とボッズーの方へ向けられた。セイギはそのまま、耳打ちする様にボッズーに向かってこう言った。
「大丈夫、アイツの口車に乗ってたまるかよ!」
そう言うセイギの声はとっても明るい。
そして、そのままこう続ける。
「愛、勇気、優しさ、夢見る心。その4つの心を大切にしろって言うんだろ。分かってるよ! 俺の中にもう怒りは無い。あるのは、勇気! いや、愛か?それとも、優しさ? へへっ! 世界の平和を夢見る心なのかも知れない。へへっ! 自分じゃよく分かんねぇわ!」
そう言うセイギの顔は、今は割れた場所から見える右目以外は仮面に隠されて見えない。
でも、
「セイギ………」
ボッズーは思った。
きっと今の彼はいつも通りに真っ白な歯を見せて、ニカッとした笑顔を浮かべているに違いないと。
「へへっ……そっかぁボッズー!!」
だからボッズーも笑う。セイギと同じニカッとした笑顔で。
「おいおぃ~~何を二人だけでボソボソ喋ってんだよぉ!! もっとデカイ声で喋んないとみんなに聞こえないだろ!!! ほらほら早くぅ~~!! お前の恐怖の声を聞かせろよぉ~~~!!!」
ピエロは再び煽った。しかし、ピエロがどんなに煽ろうが、セイギには効きやしない。
「うるせぇな!! しつけぇって言ってんだろ!! 俺はお前の思い通りにはならないっての!! ハハハハハハハハハッ!!」
セイギは大きな声で笑った。腰に手を当てて、多少わざとらしいくらいに。
そして、またピエロを指差す。
「んでな、お前の思い通りにならないのは俺だけじゃないぜ! この世に生きるみんながそうだ! みんなお前等の思う通りにはならねぇ!! 何が『楽しい』だ! そんな楽しみ俺が全部奪ってやるぜ!!」
「な……なにぃ!! 奪うぅぅ~~~??」
この時、セイギの言葉を聞いたピエロの顔は驚きで満ちた。
「どういうつもりで言ってるんだ、お前!!」
そして、その言葉を理解した時、ピエロの人を小馬鹿にした嫌味な笑顔が消えた。ピエロの眉間には深い皺が寄る。
「つか、何笑ってやがる! もっと絶望しろ!! お前の絶望した顔を見せろ!!お前の笑顔なんか何にも面白くないぞ!!」
再びピエロはセイギに詰め寄るようにカメラに近付き、スクリーンにはピエロの邪悪な顔だけが映る。
しかし、セイギは動じない。
逆に彼はまた笑った。
「へへっ! お前を面白がらせて何になる!! 笑ってやるぜ、悪いけどなぁ俺は絶望なんてしない! 俺は希望を見ているからな!!」
「ケケケケケッ!!」
しかし、ピエロの演説はまだ続く。
セイギの激昂が嬉しいのか、口先だけじゃない満面の笑みをピエロは浮かべた。
「吠えるな、吠えるな!! ケケッ! こっからがお前の話だぜ! お前が聞きたくて仕方がない話だ! 良いか? 人類は俺達が滅ぼす。そう、これは決定事項!! 滅亡へのカウントダウンは王が定めた、明日から始まる365日!! 一年!! 一年でこの世界の人類は滅亡するんだよ!! 俺達の手でなぁ!!! でもな、お前だけは違うんだ……」
ピエロは舌舐りをする様にニチャリと笑った。
「お前はな、王の戯れの相手に選ばれたんだよ! だから、俺達はお前を殺さない。何故なら我等が王が、お前を殺すんだからな!! 俺達に歯向かった事を後悔しながらお前は死ぬんだよ!! ケケッ! でも、まずは生き地獄を味わってからだ!!」
ピエロはセイギを指差しながらテーブルを乗り出した。
スクリーンにはピエロの顔とセイギを指差す指先だけが映る。
ピエロは大分興奮している。ギョロリとした目の白目の中に枯れた木の枝の様な血管が浮き出ていて、白黒の映像の中でも血走っているのがよく分かる。
「お前が死ぬのは最後の最後だ!! お前以外の全ての人類が滅んだ後、最後の最後にお前は死ぬんだよ!! お前のせいで、お前が俺達に歯向かったせいで、地獄を見た人間が、お前が愛し守りたいと思った人間が、苦しみ悶え、お前を怨んで死んでいく姿を見るんだよ!! ケケケケケケケケッ!!!」
喋る度にピエロの唾が辺りに飛び散る。目の前にあるだろうカメラに付着し、スクリーンが段々と白く濁っていく。
「おぉおぉ!! 全世界の人類よ!」
ピエロは突然起き上がり、再び大きく両手を広げた。
「今の俺の話が聞こえたか!!」
裂けたかの様な巨大な口を大きく開けると、ダラリとした舌が覗く。その舌も気持ち悪いくらいにでかく、分厚い舌先からはねばねばと涎が垂れ落ちる。
「『俺の話が聞こえたか』……だとボズ?」
ボッズーはピエロの言葉が気になった。そして思い出す。ピエロはスクリーンに現れた時に『この放送は全世界の皆さんの"耳"にも届いている筈』そう言っていた事を。
― ……て事は、どういう手段を使ってるか分かんないけど、このピエロの言葉は俺達やこのスクリーンを見てる人にだけ届いてるって訳では無いのかボズ? もしかして……世界中の全ての人々に、コイツの演説は届いているのか……
ボッズーは『もしかして……』と思いながらも、この状況に生唾を飲み込んだ。
そして、ピエロの演説は続く。
「ケケケッ! 人類のみんな!!! どうだぁ? どうだったぁ? 絶望したかぁ? いやいや、楽しみだよなぁ!! 自分がどんな死に方をすんのか想像するだけでワックワックするよな!! ケケケケケケケケッ!! そのうちお前等の死を箱に詰めてプレゼントしに行くからよぉ!! 楽しみに待ってろよ!! ケケケケケケケケッ!! 怨みたいなら俺達じゃないぞ、俺達に歯向かってきたこのバカセイギを怨め!! ケケケケケッ!! 可哀想に! お前等にはもう幸せを感じるひとときなんて、一瞬も……」
「うるせぇなぁ………」
ピエロの演説に割って入る様にセイギが呟いた。
「え?! なんか言ったか? バカセイギ???」
「うるせぇって言ってんだよ……くっだらねぇ事ゴチャゴチャゴチャゴチャ言いやがって!! これ以上、命を馬鹿にするような事をほざくな!!!」
セイギは巨大スクリーンに映るピエロを指差しながら叫んだ。
「お前等がな、俺を殺さない理由も分かった!! だからもう黙れ!! いい加減理解したぜ!! 質問に答えてくれて、どうもありがとうだッ!!」
「ケケケッ! おぉ~~また馬鹿がキャンキャンキャンキャン吠えてらぁ!! アンタも好きねぇ~~!! うるさいのはどっちぃ~~!! そんなに俺に自分の声を聞いてもらいたいのか? んっ? んっ?? ケケケッ!! よぉし分かった!分かったぜ!! そんなに鳴きたいなら、お前の声も、いや、サービスだ! そこの鳥ちゃんも加えてやろう! お前等二人の声もみんなに聞いてもらおうぜ!!」
ピエロはそう言うと、鼻の頭に付いた灰色の玉をクルクルと回した。
「ケケッ! ほらほら、これで良いぞ! 喋れ、喋れ! 怒鳴れ、怒鳴れぇ!!! 世界中にお前等の声を轟かせろ!! ケケッ!! でもなぁ、お前の怒りはなぁ、怒りじゃない! 『狼狽』って言うんだよ!! 焦ってる事の表れッ!! 『怖ぁ~~い! 怖ぁ~~~い!』って言ってんだよ!! ほらほら、サッサと世界中のみんなにお前の情けない声を聞かせてやれ!! ケケケケケッ!!」
どういう理屈でかは分からない。だが、鼻の頭の玉を回しただけで、今度はセイギ達の声も世界中の人間に聞こえるようになったらしい。
これがピエロの嘘で無ければの話になるが……
「ケケケッ! どうした?? 何故叫ばない! 怖じ気づくなよ! ほら、相方が喋らないなら鳥ちゃんでも良いぜ! ほぉ~らほら、みぃ~~んなにッ! お前等の声を聞かせてやれッ!! 『怖いよぉ~~! 嫌だよぉ~~! 死にたくないよぉ~~! この野郎ぉ~~!!』ってな! ケケケケケケケケッ!!」
これみよがしにピエロはセイギ達を煽る。
煽れば煽る程、セイギの感情は乱れていく……ピエロはそう考えていた。
「セイギ……」
ボッズーが心配して声をかける。ボッズーもピエロと同じ様に考えていた。
『セイギの怒りがまた爆発しようとしている……』と。
しかし、そうじゃない。
「大丈夫……」
セイギはそうボッズーの耳元で囁いた。
その口調はボッズーの予想に反して、とっても穏やかな口調。
「へへっ!」
そして笑った。いつもの笑い声で。セイギは笑った。
笑い声と共に、セイギは自分の左の肩に止まったボッズーの頭に右手を伸ばし、その頭を優しく撫でる。
「大丈夫!!」
頭を撫でる時、セイギの顔は自然とボッズーの方へ向けられた。セイギはそのまま、耳打ちする様にボッズーに向かってこう言った。
「大丈夫、アイツの口車に乗ってたまるかよ!」
そう言うセイギの声はとっても明るい。
そして、そのままこう続ける。
「愛、勇気、優しさ、夢見る心。その4つの心を大切にしろって言うんだろ。分かってるよ! 俺の中にもう怒りは無い。あるのは、勇気! いや、愛か?それとも、優しさ? へへっ! 世界の平和を夢見る心なのかも知れない。へへっ! 自分じゃよく分かんねぇわ!」
そう言うセイギの顔は、今は割れた場所から見える右目以外は仮面に隠されて見えない。
でも、
「セイギ………」
ボッズーは思った。
きっと今の彼はいつも通りに真っ白な歯を見せて、ニカッとした笑顔を浮かべているに違いないと。
「へへっ……そっかぁボッズー!!」
だからボッズーも笑う。セイギと同じニカッとした笑顔で。
「おいおぃ~~何を二人だけでボソボソ喋ってんだよぉ!! もっとデカイ声で喋んないとみんなに聞こえないだろ!!! ほらほら早くぅ~~!! お前の恐怖の声を聞かせろよぉ~~~!!!」
ピエロは再び煽った。しかし、ピエロがどんなに煽ろうが、セイギには効きやしない。
「うるせぇな!! しつけぇって言ってんだろ!! 俺はお前の思い通りにはならないっての!! ハハハハハハハハハッ!!」
セイギは大きな声で笑った。腰に手を当てて、多少わざとらしいくらいに。
そして、またピエロを指差す。
「んでな、お前の思い通りにならないのは俺だけじゃないぜ! この世に生きるみんながそうだ! みんなお前等の思う通りにはならねぇ!! 何が『楽しい』だ! そんな楽しみ俺が全部奪ってやるぜ!!」
「な……なにぃ!! 奪うぅぅ~~~??」
この時、セイギの言葉を聞いたピエロの顔は驚きで満ちた。
「どういうつもりで言ってるんだ、お前!!」
そして、その言葉を理解した時、ピエロの人を小馬鹿にした嫌味な笑顔が消えた。ピエロの眉間には深い皺が寄る。
「つか、何笑ってやがる! もっと絶望しろ!! お前の絶望した顔を見せろ!!お前の笑顔なんか何にも面白くないぞ!!」
再びピエロはセイギに詰め寄るようにカメラに近付き、スクリーンにはピエロの邪悪な顔だけが映る。
しかし、セイギは動じない。
逆に彼はまた笑った。
「へへっ! お前を面白がらせて何になる!! 笑ってやるぜ、悪いけどなぁ俺は絶望なんてしない! 俺は希望を見ているからな!!」