第3話 空が割れた日 21 ―のるかそるか―
21
ボッズーの超全速力の余力も完全に無くなって、バッサバッサのボッズーの羽ばたきの力だけで空に浮かぶセイギ、彼はクルリと体を反転させると足元を見た。
「さぁ……のるかそるか」
「え?!」
雲ひとつ無い快晴の青空に浮かぶセイギとボッズー。二人と太陽との距離は近い。ギラギラと強い光が二人を照らし、今はまだ二月なのに、真夏かと思える程に暑い。
「大分置いてけぼりにしたな、アイツら」
ボッズーのお陰だ。ガキセイギとボッズーを追い掛ける光体の群れは、まだ小指の先くらいにしか見えない。
「かなり飛んだからなボッズー。輝ヶ丘もあんなに小っちゃいボズ」
「あぁ、LEGOみたいだな」
「うん、そうだなボズ……ってそんな例えなんていらないボズよ! それより、『のるかそるか』って何なんだボッズー! さっき『逆転の切っ掛けを掴んだ』って言ってたじゃないかボッズー! ……おまっ、まさか! こんな土壇場になってまた賭けに出るつもりじゃないボズな? バグるは当たった、でもそんな何度も……」
「いや、出るぜ……」
「え?!」
あっけらかんと答えたセイギにボッズーは驚いた。
「おいおい、なんだよそれ! 賭けに出るなんてそんなの聞いてな……」
「だって、ボッズーが言っただろ。『自分自身を過信するな』……って。切っ掛けは掴んださ、でも、こっからアイツらに逆転するには、俺の腕次第なんだ。掴んだ切っ掛けを生かすも殺すも、俺次第。緊張で胸がドキドキしてるよ。この世に絶対に決まった未来は無いからな。だから賭けだ。俺は自分自身に賭ける。んで、絶対にするんだ。決まってない未来を、俺が絶対にする。勝利を掴み取ってやるんだ」
そして、ガキセイギは大剣を構えた。
「自分自身に賭ける……ボズか?」
セイギの口調はとても落ち着いていて静かだった。だけど、その声はボッズーには決して弱々しくは聞こえなかった。
いや、その反対だ。雄々しく力強く聞こえたんだ。
このセイギの力強い宣言はボッズーの慌てた心に染み渡る。
この時、ボッズーはある事を思っていた。
『やはり彼を信じていて良かった』……と。
「なるほど……先走って悪かったボズ! そういう事ボズね。分かったボズよ。だったら俺もお前に賭けるボズ!! ……でも、『賭け』って言葉よりもそれは『自分自身を信じる』って言葉の方が正しいんじゃないのかボズ?」
「ん? へへっ……そっか。まぁそうかもな」
しかし、このボッズーという生き物も調子の良い奴だ。今日、この二人のこんなやり取りを何度も見た気がする。
ボッズーは心配性なんだろう。けれど、もうそろそろセイギに対しての心配は捨てても良さそう。だって、セイギはボッズーが心配しなくても、世界を救う為の道は決して甘くない事を知っているのだから。
『この道は苦難の道だ』と、『少しでも隙を見せれば、死が待っている』と、セイギは知っているんだ。
それはボッズー自身が彼に教え込んだ事でもあった。
だが、そうは言っても希望が捕まっていた工場でセイギは動揺を見せ、取るべき行動の選択を間違えそうになった。だからボッズーが心配するのも無理もない。
しかし、セイギは成長した。今日の今日でまた一つ、セイギは英雄として成長したんだ。
だからもうボッズーが心配する必要はないのだ。セイギはもう己を過信する事はない。反対に彼は考えるんだ。『今この瞬間自分が何をするべきか、どう戦うべきか、最善の選択は何か?』……と。時にセイギは、大胆にも見える行動もするが、それも考え切った結果、考えて、考えて、彼は戦うんだ。
そして、彼はまた最善の選択を見付けた。だから彼は大剣を構え、光体を見下ろす。
「んじゃ、頑張んぜぇ、俺!!」
セイギは仮面の奥でニカッと笑った。
「ふぅ……」
でも、その笑顔はすぐにしまって、自分自身を落ち着けようと、息を一つ吐いた。
今日彼は、考えに考え抜いた末、何度も最善の選択を選んできた。
それは光体との戦いでも、希望を誘拐した男との戦いでも。失敗が許されない境地で、彼は"最善の選択"を探し求めてきた。
しかし、"最善の選択"は"最善"ではあるが、それが自分自身にとって安全な選択かどうかは別だ。時に"最善の選択"を取るのであれば、生と死の境目に自分自身を立たせなければならない時もある。
今が正にそれだ……
だからセイギの胸の鼓動は早くなる。でも、セイギに迷いは無い。怯えもしない。何故なら、彼の覚悟は決まっているから。例え、自分を生と死の境目に立たせなくてはならなくても、"最善"ならば彼はその選択をする。そして、彼の言葉をそのまま借りて言うならば、"自分自身に賭ける"のだ。
「さて……」
セイギは『ふぅ……』と息を吐き終えると、ボッズーにある事をお願いした。
「ボッズー、ちょっと頼みがあるんだけどさ。今から俺の体を、上手い事アイツらに向けてくれないかな」
それは、これから行う作戦の為の準備だ。今、セイギが光体と対峙する為には、足元を見下ろさなければならない。
「この格好じゃちょっとやり辛いんだ。俺をアイツらと真っ正面から討ち合える形にしてほしいんだ!」
「ん? 真っ正面から討ち合える形……ボズか? あぁ、なるほど!」
ボッズーはセイギのお願いに一瞬頭を捻ったが、その意味をすぐに理解したらしい。
「お安いご用さ! 俺に任せろボッズー!」
ボッズーはセイギに気前の良い返事をすると、セイギの肩を掴む小さな手に力を入れた。
それから、ぶらりと垂らしていた両足でセイギの背中の下の辺りを掴む。背中を掴むといっても、セイギの背中の肉を掴んだら流石のセイギも痛い。掴んだのはスーツの方だ。
「せーのっ!」
背中を掴むと、今度は肩を掴む手に力を入れて、ボッズーはセイギの体を前のめりに倒した。
「おおっと! そうそう、それそれ!」
そうすると、セイギの上半身はお辞儀をする様な形になって、セイギの要望通り、上半身は真下から迫る光体と"真っ正面"になれた。でも、これじゃあまだ戦い辛い。
ボッズーは更に背中を掴んだ足にも力を入れる。ボッズーは意外と力持ち。セイギの下半身を持ち上げて、お辞儀になっていたセイギの体を、いとも簡単に地面に向かって水平にした。
「どうだ? これで良いボズか?」
「うん! へへっ! ばっちりだぜ! 流石、ボッズーだ! これで行けるぜ!!」
セイギはニカッと笑った。それと同時に大剣を握り直す。どうやら準備万端の様だ。そして、再び
「ふぅ………」
と一息吐くと、自分に向かって飛んでくる光体の群れを睨み、彼は叫んだ。
「おーい! のんびりのんびり飛んでないで、さっさとかかってこいよこのバカヤローッ!! ほら、早くしろ! 撃ってこい!! 俺に向かって撃ってこいッ!! アレ? どうしちまったんだ?もしかしてヤル気無くしちまったか? ハハッ! そりゃそうだよな! お前ら弱ッぇ~~もんなぁ!! 悔しかったらドデカイヤツを撃ってこ~~いッ!!!」
驚くべき事に、セイギの口から飛び出したのは、なんと光体への挑発だった。
もし、少し前のボッズーがこの場に居たならば、このセイギの言動にツッコんでいただろう。『何でそんな事するんだボッズー!!』と。
だが、今のボッズーはセイギを理解している。彼が決してふざけていない事を分かっていた。
「撃ってこい……なるほどボズ。"アレ"をやるつもりなんだボズね?」
「あぁ、そうだ! その為にアイツらの弾丸が必要なんだ……ん? おっ! 始まった……へへっ!」
もしや、光体には日本語が通じるのか……ガキセイギの挑発を受けた光体の群れが一斉に震え出した。
「さぁ、早くしろッ!! ほら、撃ってこい!!!」
セイギの再びの挑発。それに応じる様に光体の震えは増していく。
「来いッ……来いッ……」
現在、セイギに向いている銃口は上から見下ろして約100いる内のその半分くらい。それ以外の光体はバグってしまった酔っ払いだ。ガキセイギに向けているつもりで他の方向を向いている。
「さぁ来い……さぁ来い……さぁ、さぁッ!!」
光体の震えと共にガキセイギの心拍数も上がっていく。
「来るか……来るかぁ!!」
ガキセイギの手にじんわりと汗が滲んだ。
そして……遂に
ドォーーーン!!
光体は光弾を発射した。
「ヨシッ!! 来たぜぇ!!」
「来たボズぅ!!」
始まった……
さぁ、ガキセイギの一発逆転、起死回生の一手を見届けようではないか。
ボッズーの超全速力の余力も完全に無くなって、バッサバッサのボッズーの羽ばたきの力だけで空に浮かぶセイギ、彼はクルリと体を反転させると足元を見た。
「さぁ……のるかそるか」
「え?!」
雲ひとつ無い快晴の青空に浮かぶセイギとボッズー。二人と太陽との距離は近い。ギラギラと強い光が二人を照らし、今はまだ二月なのに、真夏かと思える程に暑い。
「大分置いてけぼりにしたな、アイツら」
ボッズーのお陰だ。ガキセイギとボッズーを追い掛ける光体の群れは、まだ小指の先くらいにしか見えない。
「かなり飛んだからなボッズー。輝ヶ丘もあんなに小っちゃいボズ」
「あぁ、LEGOみたいだな」
「うん、そうだなボズ……ってそんな例えなんていらないボズよ! それより、『のるかそるか』って何なんだボッズー! さっき『逆転の切っ掛けを掴んだ』って言ってたじゃないかボッズー! ……おまっ、まさか! こんな土壇場になってまた賭けに出るつもりじゃないボズな? バグるは当たった、でもそんな何度も……」
「いや、出るぜ……」
「え?!」
あっけらかんと答えたセイギにボッズーは驚いた。
「おいおい、なんだよそれ! 賭けに出るなんてそんなの聞いてな……」
「だって、ボッズーが言っただろ。『自分自身を過信するな』……って。切っ掛けは掴んださ、でも、こっからアイツらに逆転するには、俺の腕次第なんだ。掴んだ切っ掛けを生かすも殺すも、俺次第。緊張で胸がドキドキしてるよ。この世に絶対に決まった未来は無いからな。だから賭けだ。俺は自分自身に賭ける。んで、絶対にするんだ。決まってない未来を、俺が絶対にする。勝利を掴み取ってやるんだ」
そして、ガキセイギは大剣を構えた。
「自分自身に賭ける……ボズか?」
セイギの口調はとても落ち着いていて静かだった。だけど、その声はボッズーには決して弱々しくは聞こえなかった。
いや、その反対だ。雄々しく力強く聞こえたんだ。
このセイギの力強い宣言はボッズーの慌てた心に染み渡る。
この時、ボッズーはある事を思っていた。
『やはり彼を信じていて良かった』……と。
「なるほど……先走って悪かったボズ! そういう事ボズね。分かったボズよ。だったら俺もお前に賭けるボズ!! ……でも、『賭け』って言葉よりもそれは『自分自身を信じる』って言葉の方が正しいんじゃないのかボズ?」
「ん? へへっ……そっか。まぁそうかもな」
しかし、このボッズーという生き物も調子の良い奴だ。今日、この二人のこんなやり取りを何度も見た気がする。
ボッズーは心配性なんだろう。けれど、もうそろそろセイギに対しての心配は捨てても良さそう。だって、セイギはボッズーが心配しなくても、世界を救う為の道は決して甘くない事を知っているのだから。
『この道は苦難の道だ』と、『少しでも隙を見せれば、死が待っている』と、セイギは知っているんだ。
それはボッズー自身が彼に教え込んだ事でもあった。
だが、そうは言っても希望が捕まっていた工場でセイギは動揺を見せ、取るべき行動の選択を間違えそうになった。だからボッズーが心配するのも無理もない。
しかし、セイギは成長した。今日の今日でまた一つ、セイギは英雄として成長したんだ。
だからもうボッズーが心配する必要はないのだ。セイギはもう己を過信する事はない。反対に彼は考えるんだ。『今この瞬間自分が何をするべきか、どう戦うべきか、最善の選択は何か?』……と。時にセイギは、大胆にも見える行動もするが、それも考え切った結果、考えて、考えて、彼は戦うんだ。
そして、彼はまた最善の選択を見付けた。だから彼は大剣を構え、光体を見下ろす。
「んじゃ、頑張んぜぇ、俺!!」
セイギは仮面の奥でニカッと笑った。
「ふぅ……」
でも、その笑顔はすぐにしまって、自分自身を落ち着けようと、息を一つ吐いた。
今日彼は、考えに考え抜いた末、何度も最善の選択を選んできた。
それは光体との戦いでも、希望を誘拐した男との戦いでも。失敗が許されない境地で、彼は"最善の選択"を探し求めてきた。
しかし、"最善の選択"は"最善"ではあるが、それが自分自身にとって安全な選択かどうかは別だ。時に"最善の選択"を取るのであれば、生と死の境目に自分自身を立たせなければならない時もある。
今が正にそれだ……
だからセイギの胸の鼓動は早くなる。でも、セイギに迷いは無い。怯えもしない。何故なら、彼の覚悟は決まっているから。例え、自分を生と死の境目に立たせなくてはならなくても、"最善"ならば彼はその選択をする。そして、彼の言葉をそのまま借りて言うならば、"自分自身に賭ける"のだ。
「さて……」
セイギは『ふぅ……』と息を吐き終えると、ボッズーにある事をお願いした。
「ボッズー、ちょっと頼みがあるんだけどさ。今から俺の体を、上手い事アイツらに向けてくれないかな」
それは、これから行う作戦の為の準備だ。今、セイギが光体と対峙する為には、足元を見下ろさなければならない。
「この格好じゃちょっとやり辛いんだ。俺をアイツらと真っ正面から討ち合える形にしてほしいんだ!」
「ん? 真っ正面から討ち合える形……ボズか? あぁ、なるほど!」
ボッズーはセイギのお願いに一瞬頭を捻ったが、その意味をすぐに理解したらしい。
「お安いご用さ! 俺に任せろボッズー!」
ボッズーはセイギに気前の良い返事をすると、セイギの肩を掴む小さな手に力を入れた。
それから、ぶらりと垂らしていた両足でセイギの背中の下の辺りを掴む。背中を掴むといっても、セイギの背中の肉を掴んだら流石のセイギも痛い。掴んだのはスーツの方だ。
「せーのっ!」
背中を掴むと、今度は肩を掴む手に力を入れて、ボッズーはセイギの体を前のめりに倒した。
「おおっと! そうそう、それそれ!」
そうすると、セイギの上半身はお辞儀をする様な形になって、セイギの要望通り、上半身は真下から迫る光体と"真っ正面"になれた。でも、これじゃあまだ戦い辛い。
ボッズーは更に背中を掴んだ足にも力を入れる。ボッズーは意外と力持ち。セイギの下半身を持ち上げて、お辞儀になっていたセイギの体を、いとも簡単に地面に向かって水平にした。
「どうだ? これで良いボズか?」
「うん! へへっ! ばっちりだぜ! 流石、ボッズーだ! これで行けるぜ!!」
セイギはニカッと笑った。それと同時に大剣を握り直す。どうやら準備万端の様だ。そして、再び
「ふぅ………」
と一息吐くと、自分に向かって飛んでくる光体の群れを睨み、彼は叫んだ。
「おーい! のんびりのんびり飛んでないで、さっさとかかってこいよこのバカヤローッ!! ほら、早くしろ! 撃ってこい!! 俺に向かって撃ってこいッ!! アレ? どうしちまったんだ?もしかしてヤル気無くしちまったか? ハハッ! そりゃそうだよな! お前ら弱ッぇ~~もんなぁ!! 悔しかったらドデカイヤツを撃ってこ~~いッ!!!」
驚くべき事に、セイギの口から飛び出したのは、なんと光体への挑発だった。
もし、少し前のボッズーがこの場に居たならば、このセイギの言動にツッコんでいただろう。『何でそんな事するんだボッズー!!』と。
だが、今のボッズーはセイギを理解している。彼が決してふざけていない事を分かっていた。
「撃ってこい……なるほどボズ。"アレ"をやるつもりなんだボズね?」
「あぁ、そうだ! その為にアイツらの弾丸が必要なんだ……ん? おっ! 始まった……へへっ!」
もしや、光体には日本語が通じるのか……ガキセイギの挑発を受けた光体の群れが一斉に震え出した。
「さぁ、早くしろッ!! ほら、撃ってこい!!!」
セイギの再びの挑発。それに応じる様に光体の震えは増していく。
「来いッ……来いッ……」
現在、セイギに向いている銃口は上から見下ろして約100いる内のその半分くらい。それ以外の光体はバグってしまった酔っ払いだ。ガキセイギに向けているつもりで他の方向を向いている。
「さぁ来い……さぁ来い……さぁ、さぁッ!!」
光体の震えと共にガキセイギの心拍数も上がっていく。
「来るか……来るかぁ!!」
ガキセイギの手にじんわりと汗が滲んだ。
そして……遂に
ドォーーーン!!
光体は光弾を発射した。
「ヨシッ!! 来たぜぇ!!」
「来たボズぅ!!」
始まった……
さぁ、ガキセイギの一発逆転、起死回生の一手を見届けようではないか。