第2話 絶望を希望に変えろ!! 14 ―"バケモノ"みたいな男―
14
「………」
「………」
唖然とした表情で見詰める少年。少年に抱かれた男の子もポカーンと口を開けている。
いや、このポカーンはタマゴの挙動に驚いてのポカーンでは無いかもしれない。タマゴの存在自体に驚いているのかも。いや、そのどちら共だろう。
でも、タマゴは二人の反応に全く気付かずに今度は頭を横にブルブルと振った。大粒の涙が辺りに飛び散る。
「あぁ~~~違うボズ! 違うボズぅ! 本当にごめんだボッズぅぅぅぅ! お前達を危険にさせたのは、俺のせいだボッズー! 助けたんだボッズーね………じゃあないボッズー!!」
「お……おい!!」
嘆く様に叫ぶタマゴに、少年は訳が分からないといった様子で困った顔をして聞き返した。
「ちょっと待て、落ち着けって! 何がお前のせい何だよ?」
そう少年が聞くと
「うぅぅぅ!!」
タマゴは唸り、やっと訳を話し出した。
「チョウと兄貴の二人を俺が相手するって言ったくせに、失敗してしまった事だボッズぅぅ! お前とその子を危険にさせてしまったボズぅ! 謝っても謝り切れないボズぅ……俺はお前に過信するなとか大それた事を言ったけど、結局俺も未熟者だったボズぅ! 頭で分かっていても、どこか相手を甘くみてしまっていたんだボズねぇ……馬鹿ボズ! 馬鹿ボズ! ごめんボズぅぅぅ!!!」
タマゴは早口で捲し立てる様に言うと、少年に向かって頭を下げた。
「おいおい……謝んなって! 俺はお前の『絶対に自分を過信するな!』って言葉でちょっとは成長したって思えてんだからさ! 謝られると調子が狂っちまうぜ!」
と少年が励ましてもタマゴの表情は晴れないまま。
「ううん! 反省しかないボズよ! 俺はアイツの……あの兄貴って奴の、心の中の"悪"があんなにも強かったなんて思っていなかったボズよぉ! 甘くみていたボズ! もっと慎重に、人間じゃなくて"バケモノ"の相手をする時みたいに考えるべきだったボズ!!」
「おいおい……バケモノって、それっていつもお前が俺に話してるヤツの事か?」
タマゴはコクリと頷いた。
「そうボズ! 悪に心を乗っ取られ、人間である事を捨てたバケモノだボズ!」
「バケ……モノ?」
二人の話を聞いていた男の子が呟いた。その顔には疑問符が浮かんでいる。おそらく男の子にはタマゴが言う"バケモノ"という言葉が『獣みたいに……』『幽霊の様な……』という感じの比喩表現には聞こえなかったのだろう。
きっと男の子は『タマゴも少年もそのバケモノという存在を確かに知っていて、その知っている"何か"を言っている』そう思ったに違いない。
だが、タマゴを相手にする少年は男の子が疑問符を浮かべている事に気が付かなかった。
「アイツは自分の為なら他人の命を奪っても良いと思っていたボズ……それが、仲間の命だってボズ! その考えはまさにバケモノだボズ!!」
このタマゴの言葉に、少年の眉がピクリと動いた。
「まさか……アイツ、チョウを?」
少年の問いにタマゴは再び頷く。
「殺そうとしたボズよ……アイツは部屋から出て来て、俺の事を見ると素早く事態を把握したんだボズね。懐から銃を取り出して撃ったんだ! でもそれは俺に向かってじゃなかったボズ! チョウに向かってだったんだボズ! アイツは言ってたよ『お前は何度俺の邪魔をすれば気が済むんだ!』って……」
話を聞いているうちに少年の表情は再び曇り始めた。
「じゃあ、チョウは? チョウはどうなったんだよ?」
「大丈夫ボズ。撃たれる前に俺が助けたボズよ………俺はアイツが銃を撃ってくると、またチョウと一緒に飛んだボズ。でも、アイツも俺達を追い掛けて来て……」
ここまで話すとタマゴは天井近くを見上げた。
少年と男の子もそれに合わせて視線を上げる。
「……あそこに見える梁の近くまで来た時だボズね。俺はあそこの梁の上に気絶してたボンを置いていたんだけど、俺が近くに来たら、いつの間にか目を覚ましていたボンが俺に向かってあの梁の上から跳んだボズ!」
タマゴの目はその時感じた驚きを再現するかの様に、カッと開かれた。
「でも、ボンの場合は兄貴とは違って、チョウを助けようとしたんだボッズー。悪党なりの仲間意識がボンにはあったんだボズね。『コノヤローッ! チョウを離せッ!』ってボンは叫んだんだボズ。でも、ボンの跳躍力じゃ飛んでる俺に届く事は出来なくて、地面に落ちてったボズ……」
タマゴの視線は一気に下がって、今度は梁の真下のコンクリートの地面を見た。
その動きに合わせて少年もその場所を見る。
「……!!」
少年の目に血溜まりが映った。
「足を挫いたボンはその場に足を抱えて倒れて、兄貴に助けを求めたんだボズ。でも、アイツはそれに応えるどころか……ボンに向かって無言で銃を撃ったボズ。そして、ボンの肩に弾が当たって……」
「うっ……」
その時の光景を想像してしまったのだろう、男の子は小さな悲鳴をあげて目を閉じた。
「………」
少年の方は表情こそ変えないが、地面に見付けた血溜まりをじっと見詰め続けている。
「それから俺は急いでボンを拾い上げて……」
タマゴは二つ目に空いた穴を見上げた。
「天井から二人を連れて逃げたボズ。片手で一人ずつ持つのはちょっとキツかったけど、そんな事も言ってられないボズ。急いでボンを病院に連れていかなくちゃ、ボンの命がどうなるか分からなかったからボッズーね」
「それで? 病院には?」
少年はやっと地面から目を離してタマゴを振り返った。
「連れていけたボズよ。この町にはデッカイ病院があるみたいだボッズーね。空に上がったらすぐに見付かったボズ。俺の姿を見られたらマズイから病院の入り口に二人を置いて、俺はすぐにこっちに戻ってきたけどなボッズー。因みにチョウの奴も精神的に限界が来たんだろうボズ。俺と飛んでる時に気絶してしまったんだボズ。でも、今頃二人は治療を受けられている筈だボッズーよ」
「そうか……」
少年は安堵の表情を浮かべた。
「なら良かった」
「うん……」
しかし、タマゴの表情は晴れない。
「……でも、本当にごめんボズ。俺の甘い考えのせいで二人を危険にしちまったボッズー」
タマゴはまた謝った。
でも、少年は首を振る。
「いや、まさか仲間を殺そうとするなんて、そんな事予想出来ねぇよ。あの野郎はマジで異常だ。お前がバケモノ級だって言うのも分かったよ。絶対このまま野放しにしちゃダメだ! 今すぐ警察に電話しよう! チョウとボンの奴もだな、二人は怪我人って言っても、それは関係ない。ちゃんと罪を償ってもらわねぇと! 二人を連れてったデカイ病院って輝ヶ丘病院の事だよな?」
この少年の問いにタマゴは一瞬考えた。
「うん! 確か、それで間違いなかった筈だボッズー」
「ヨッシャ! んじゃ……」
と少年はジーンズのポケットからスマホを取り出そうとしたが、ちょっと問題が……
「ありゃ……ありゃりゃりゃりゃ!!」
少年はジーンズの左のポケットを見詰めながらおどけた声を発した。
『何事か?』とタマゴと男の子も少年の左のポケットに視線を移すと、その理由はすぐに分かった。
少年の左のポケットに入ったスマホは、丁度少年と男の子の体の間に挟まれてしまっていたんだ。
これじゃあ取り出そうにも取り出せない。
「へへっ!」
少年は男の子に笑い掛けた。
男の子も
「へへっ!」
少年が笑い掛けた意味をすぐに分かった様子だ。
「もう大丈夫! おろして良いよ!」
男の子はぶらんと垂らした足をピョコピョコと動かした。
男の子は助け出された時からずっと少年に抱かれていたが、実はもう歩ける元気が自分に戻ってきた事を分かっていた。でも、少年の温かさから離れるのが嫌でずっと黙っていたんだ。
「へへっ!」
男の子がそう言うと少年はもう一度笑って
「そか! んじゃ、下ろすぜ!」
男の子をゆっくりと地面へと下ろした。そして、
「んじゃあ……電話でもかけますかねぇ~~」
少年はポケットからスマホを取り出した。
「110番、ひゃくとぉーばんっ……と!!」
タマゴと男の子が見守るなか、少年はスマホを右手に持ち変えて警察に電話を掛けようとした。
その時………
金属が破裂する様な衝撃音が工場内に響いた。
「………」
「………」
唖然とした表情で見詰める少年。少年に抱かれた男の子もポカーンと口を開けている。
いや、このポカーンはタマゴの挙動に驚いてのポカーンでは無いかもしれない。タマゴの存在自体に驚いているのかも。いや、そのどちら共だろう。
でも、タマゴは二人の反応に全く気付かずに今度は頭を横にブルブルと振った。大粒の涙が辺りに飛び散る。
「あぁ~~~違うボズ! 違うボズぅ! 本当にごめんだボッズぅぅぅぅ! お前達を危険にさせたのは、俺のせいだボッズー! 助けたんだボッズーね………じゃあないボッズー!!」
「お……おい!!」
嘆く様に叫ぶタマゴに、少年は訳が分からないといった様子で困った顔をして聞き返した。
「ちょっと待て、落ち着けって! 何がお前のせい何だよ?」
そう少年が聞くと
「うぅぅぅ!!」
タマゴは唸り、やっと訳を話し出した。
「チョウと兄貴の二人を俺が相手するって言ったくせに、失敗してしまった事だボッズぅぅ! お前とその子を危険にさせてしまったボズぅ! 謝っても謝り切れないボズぅ……俺はお前に過信するなとか大それた事を言ったけど、結局俺も未熟者だったボズぅ! 頭で分かっていても、どこか相手を甘くみてしまっていたんだボズねぇ……馬鹿ボズ! 馬鹿ボズ! ごめんボズぅぅぅ!!!」
タマゴは早口で捲し立てる様に言うと、少年に向かって頭を下げた。
「おいおい……謝んなって! 俺はお前の『絶対に自分を過信するな!』って言葉でちょっとは成長したって思えてんだからさ! 謝られると調子が狂っちまうぜ!」
と少年が励ましてもタマゴの表情は晴れないまま。
「ううん! 反省しかないボズよ! 俺はアイツの……あの兄貴って奴の、心の中の"悪"があんなにも強かったなんて思っていなかったボズよぉ! 甘くみていたボズ! もっと慎重に、人間じゃなくて"バケモノ"の相手をする時みたいに考えるべきだったボズ!!」
「おいおい……バケモノって、それっていつもお前が俺に話してるヤツの事か?」
タマゴはコクリと頷いた。
「そうボズ! 悪に心を乗っ取られ、人間である事を捨てたバケモノだボズ!」
「バケ……モノ?」
二人の話を聞いていた男の子が呟いた。その顔には疑問符が浮かんでいる。おそらく男の子にはタマゴが言う"バケモノ"という言葉が『獣みたいに……』『幽霊の様な……』という感じの比喩表現には聞こえなかったのだろう。
きっと男の子は『タマゴも少年もそのバケモノという存在を確かに知っていて、その知っている"何か"を言っている』そう思ったに違いない。
だが、タマゴを相手にする少年は男の子が疑問符を浮かべている事に気が付かなかった。
「アイツは自分の為なら他人の命を奪っても良いと思っていたボズ……それが、仲間の命だってボズ! その考えはまさにバケモノだボズ!!」
このタマゴの言葉に、少年の眉がピクリと動いた。
「まさか……アイツ、チョウを?」
少年の問いにタマゴは再び頷く。
「殺そうとしたボズよ……アイツは部屋から出て来て、俺の事を見ると素早く事態を把握したんだボズね。懐から銃を取り出して撃ったんだ! でもそれは俺に向かってじゃなかったボズ! チョウに向かってだったんだボズ! アイツは言ってたよ『お前は何度俺の邪魔をすれば気が済むんだ!』って……」
話を聞いているうちに少年の表情は再び曇り始めた。
「じゃあ、チョウは? チョウはどうなったんだよ?」
「大丈夫ボズ。撃たれる前に俺が助けたボズよ………俺はアイツが銃を撃ってくると、またチョウと一緒に飛んだボズ。でも、アイツも俺達を追い掛けて来て……」
ここまで話すとタマゴは天井近くを見上げた。
少年と男の子もそれに合わせて視線を上げる。
「……あそこに見える梁の近くまで来た時だボズね。俺はあそこの梁の上に気絶してたボンを置いていたんだけど、俺が近くに来たら、いつの間にか目を覚ましていたボンが俺に向かってあの梁の上から跳んだボズ!」
タマゴの目はその時感じた驚きを再現するかの様に、カッと開かれた。
「でも、ボンの場合は兄貴とは違って、チョウを助けようとしたんだボッズー。悪党なりの仲間意識がボンにはあったんだボズね。『コノヤローッ! チョウを離せッ!』ってボンは叫んだんだボズ。でも、ボンの跳躍力じゃ飛んでる俺に届く事は出来なくて、地面に落ちてったボズ……」
タマゴの視線は一気に下がって、今度は梁の真下のコンクリートの地面を見た。
その動きに合わせて少年もその場所を見る。
「……!!」
少年の目に血溜まりが映った。
「足を挫いたボンはその場に足を抱えて倒れて、兄貴に助けを求めたんだボズ。でも、アイツはそれに応えるどころか……ボンに向かって無言で銃を撃ったボズ。そして、ボンの肩に弾が当たって……」
「うっ……」
その時の光景を想像してしまったのだろう、男の子は小さな悲鳴をあげて目を閉じた。
「………」
少年の方は表情こそ変えないが、地面に見付けた血溜まりをじっと見詰め続けている。
「それから俺は急いでボンを拾い上げて……」
タマゴは二つ目に空いた穴を見上げた。
「天井から二人を連れて逃げたボズ。片手で一人ずつ持つのはちょっとキツかったけど、そんな事も言ってられないボズ。急いでボンを病院に連れていかなくちゃ、ボンの命がどうなるか分からなかったからボッズーね」
「それで? 病院には?」
少年はやっと地面から目を離してタマゴを振り返った。
「連れていけたボズよ。この町にはデッカイ病院があるみたいだボッズーね。空に上がったらすぐに見付かったボズ。俺の姿を見られたらマズイから病院の入り口に二人を置いて、俺はすぐにこっちに戻ってきたけどなボッズー。因みにチョウの奴も精神的に限界が来たんだろうボズ。俺と飛んでる時に気絶してしまったんだボズ。でも、今頃二人は治療を受けられている筈だボッズーよ」
「そうか……」
少年は安堵の表情を浮かべた。
「なら良かった」
「うん……」
しかし、タマゴの表情は晴れない。
「……でも、本当にごめんボズ。俺の甘い考えのせいで二人を危険にしちまったボッズー」
タマゴはまた謝った。
でも、少年は首を振る。
「いや、まさか仲間を殺そうとするなんて、そんな事予想出来ねぇよ。あの野郎はマジで異常だ。お前がバケモノ級だって言うのも分かったよ。絶対このまま野放しにしちゃダメだ! 今すぐ警察に電話しよう! チョウとボンの奴もだな、二人は怪我人って言っても、それは関係ない。ちゃんと罪を償ってもらわねぇと! 二人を連れてったデカイ病院って輝ヶ丘病院の事だよな?」
この少年の問いにタマゴは一瞬考えた。
「うん! 確か、それで間違いなかった筈だボッズー」
「ヨッシャ! んじゃ……」
と少年はジーンズのポケットからスマホを取り出そうとしたが、ちょっと問題が……
「ありゃ……ありゃりゃりゃりゃ!!」
少年はジーンズの左のポケットを見詰めながらおどけた声を発した。
『何事か?』とタマゴと男の子も少年の左のポケットに視線を移すと、その理由はすぐに分かった。
少年の左のポケットに入ったスマホは、丁度少年と男の子の体の間に挟まれてしまっていたんだ。
これじゃあ取り出そうにも取り出せない。
「へへっ!」
少年は男の子に笑い掛けた。
男の子も
「へへっ!」
少年が笑い掛けた意味をすぐに分かった様子だ。
「もう大丈夫! おろして良いよ!」
男の子はぶらんと垂らした足をピョコピョコと動かした。
男の子は助け出された時からずっと少年に抱かれていたが、実はもう歩ける元気が自分に戻ってきた事を分かっていた。でも、少年の温かさから離れるのが嫌でずっと黙っていたんだ。
「へへっ!」
男の子がそう言うと少年はもう一度笑って
「そか! んじゃ、下ろすぜ!」
男の子をゆっくりと地面へと下ろした。そして、
「んじゃあ……電話でもかけますかねぇ~~」
少年はポケットからスマホを取り出した。
「110番、ひゃくとぉーばんっ……と!!」
タマゴと男の子が見守るなか、少年はスマホを右手に持ち変えて警察に電話を掛けようとした。
その時………
金属が破裂する様な衝撃音が工場内に響いた。