残酷な描写あり
R-15
3.― JIU WEI ―
3.― JIU WEI ―
『君がサイキックで戦う事に慣れているってのは分かったけど 俺の立場でクライアントに手伝ってくれと頼むワケにはいかないよ』
『私が手伝いたいと思っていても?』
『流石にこれ以上はね クライアントを危険に曝す様な奴はプロ失格だろ? お師匠さんにバレたら叱られるよ』
CrackerImpとディスプレイ越しに会話を楽しむのは、本当に久し振りだった。出来る事なら携帯端末ではなく、部屋の中のパソコンで落ち着いてやりたかったが、残念ながら今は寒空の下、九尾の姿で待機中である。
『でも話してくれてありがとう 目的の情報を手に入れた後のフェーズで その力はきっと役に立つ筈だよ でも今は辛抱して 前も言ったけどやっと攻略の糸口を見付けたんだ こっちも慎重に無駄なくやりたいからね』
『港区で不穏な動きがあった時は?』
『港区方面の動きも監視している 何か動きがあれば教えるよ でもくれぐれも慎重にね』
『ありがとう こんな夜遅くに連絡してごめんなさい お仕事だった?』
『今は休憩中だよ まだ少しぐらいなら』
正直、サイキックである事を他人に話すのは結構な勇気がいる。サイキックであるが故に、私は家族を失っている。大きなリスクがある事は確かだったが。初めてだった。自分の本当の事を話して――ありがとう、なんて言われたのは。
CrackerImpと話していると、何故こんなにも心地良いのか。
『CrackerImp 貴方に会えて本当によかった 貴方がいなかったらここまで来れなかった』
『お礼の言葉は全てに決着を着けてから改めて頂くよ』
『何時か 貴方に会いたい 直接お礼を言う為に』
テンポの良い会話が急に止まった。迂闊だったろうか、ネットだけの関係で会いたいなんて言うのは。何となく勢いで言ってしまった。
でも会ってみたかった。とても不思議な人、知的で合理主義でありながら人情味に溢れたハッカー。その魅力は日増しに強くなっていく。
『よしなよ 君が思ってる程 俺は良い人間なんかじゃない』
『どうして そう思うの?』
『自分をそう思えた事がないから』
これも初めての事かもしれない。CrackerImpが自分の話をする事が意外に思えた。
『でもね 良い人になりたいって気持ちはあるんだよ だから君や困ってる人達の力になりたい ハッカーなんてロクでもないスキルさ でも変える力があると信じてる』
どう答えてあげるべきか、言葉を探しているとCrackerImpの方からメッセージが入る。どう見ても良い人だと思うけど。
いや、私や叔父、そして鵜飼と同じなのかもしれない。善人であっても、きっと“はぐれ者”なのだ。
綺麗事なんて通用しないのが世の真実だ。人も事柄も、こうだなんて決めて見定めれば確信が曇っていくだけ。この国に来て、その事を学んだ。
『弟を 囚われた人々を救いましょう 貴方が良い人間だと証明する為にも必ず』
『そうだね そろそろ失礼するよ 夜更かしは程々にね』
CrackerImpはそそくさと回線を切った。やっぱり気になる、どんな人なんだろうか。
どんな人でも構わない、私の心は確信している。良い人だと。
携帯をしまい、ハーフフィンガーのレザーグローブを締め直して面を被る。気持ちをしっかり切り替えて、屋上から静まり返った倉庫街を一望する。
港区の外れにある倉庫街は静まり返っている。周囲はオレンジの街灯がまばらに輝いている程度だった。
彩子さんが警察から“頂戴”した情報では、この辺の貸し倉庫を利用している連中の中に小規模な密輸業者が複数存在しているらしい。
当然、荒神会とは比べ物にならない小物ばかりだが、この港で密輸をするなら関係ゼロと言う訳にはいかない。外堀から攻めて、情報を集めようと言うのが彩子さんの作戦だった。
CrackerImpからは目立たずにと、念を押された。それもあって、同じく荒神会を狙う忍者の鵜飼には釘を刺しておいたが、果たしてどれだけの情報を手に入れられるのか。
彩子さんの話では、諸外国の軍や関連企業が横流しした武器や兵器を、海外へ輸出する為の一時保管や国内の売買に、この港区は広く利用されているそうだ。
その保管された密輸品を船に積む為に輸送するのが今夜。
今まで気にもしなかったが、密輸事業はこの街の犯罪組織にとって美味しい市場となっていた。深刻なレベルの無法状態だ。
荒神会とその背後に潜む黒幕の影響力で、本来取り締まる立場の組織も人も腐敗し切っている。警察も例外じゃない。
その猛毒を取り払おうと立ち向かっているのが、この街の市長とそれに仕える忍者の鵜飼と言う訳か。鵜飼は強いが、この規模では心許ない。
今の日本は穴だらけだ。法律も価値観も一世紀前のものを何となく、感覚的に引き摺っているだけで、状況に全く対応できていない。
私が気にかける事ではないが、この小さな島国は真っ当に立て直す事が出来るだろうかと心配になる。このままだと数年か数十年で世界中の犯罪組織の温床となり亜細亜全域の毒となる事は間違いない。
最近、彩子さんと共に情報を集め、この街やこの国の現状に目を向けていると不意にこんな事を考えてしまう。ジャラを救った後の事を。
こんな恐ろしい事がそこら中で起きている。私達はこれから先、何も知らなかったあの頃に戻れるのだろうかと。
『ユーチェン、聞こえる? そっちの方へ向かっている。トラックと護衛のバイクが数台。自動小銃で武装している』
彩子さんの声が骨を伝って聞こえる。途方もない思考は一瞬で消えて集中力が増していく。
トラックにバイク。さて、どう“掴んで”蹴散らしてくれようか。
「了解、ここで食い止めます」
『私もすぐ向かう、無茶はしないでね』
出来る事なら彩子さんが来る前に終わらせてしまいたい。彩子さんは叩き上げの刑事だが、やはり荒事には関わって欲しくなかったし、どこまで戦えるか未知数だった。叔父も見た目は厳つかったが、喧嘩は弱いと言う前例もある。
背中のワイヤーを引いて畳んだ九本の尾を伸ばす。遠くからエンジン音と複数のヘッドライトの明かりが見える。眼下にある三車線道路を通過する。
意識を集中させて、ゆっくりと九本の尾を浮かばせる。調子は悪くない、むしろ研ぎ澄まされているぐらいだが、本格的に念動力を使うのは鵜飼との戦闘以来。衝撃波を実戦で使うのも初めて、下手に使えば七、八秒は念動力も使えない無防備が続く――慎重に。
屋上から飛び降りる。尾を四本、建物のビルに押し当てて落下速度を落として降り立つ。
歩道を超えて車道の中央で待ち構える。既に正面に向き合っている状態。トラックのヘッドライトがハイビームに変わって、こちらを捕捉した。気分が高鳴る――いよいよだ。
距離は二十メートルを切ったぐらい。トラックの前をバイクが二台。段取りは決まった。念動力を二つ残して、こちらも歩み寄って距離を縮める。バイクが加速して向かって来た。七本の尾で前方を塞いだ瞬間に響く乾いた発砲音と飛び散る火花。
ここからは一瞬だ。目の前に迫る二台のバイクに挟まれたところで前方を塞いだ尾を一気に開き、左右のバイクを弾き飛ばして、迫りくるトラックの前輪を、残していた念動力で引き千切った。
間髪入れずに尾を地面に叩き付けて飛び上がり、運転席とトラックの荷台へ尾を二本突き刺し固定して、体勢を安定させる。前輪を失ったトラックが地面を削る轟音が耳を劈く。このトラックは間もなく横転するだろう。
姿勢を整えてコンテナの上を駆け上がり、後方にいる護衛のバイクに狙いを定める。計三台。奴等にこちらを狙う余裕はなさそうだ。
コンテナから飛び降り、バイクに一台に向かって尾を振り下ろした。粉々に砕け散るバイク、放り出されるフルフェイスのヘルメット。気の毒には思うが、こっちも必死だ。
横転したトラックを背に、残り二台のバイクがUターンして向かって来る。その内の一台へ真正面に向っていく。念動力の有効範囲五メートルで乗り手とバイクを掴む。僅かだが身体に衝撃を感じる。
掴んだバイクを盾にしてバラ撒かれる弾丸を凌ぎ、そのままバイクを相手目掛けて投げ付ける。激突したバイク同士が火を噴いて転がっていった。爆音と高熱が右頬をかすめていく。
念動力で掴んだままのライダーを引き寄せて、尾で叩き潰して一丁上がりだ。大立ち回りは久し振りだったが、勘は鈍っていない、大丈夫そうだ。こういうゴチャゴチャした奴等を蹴散らす様な戦闘は、鵜飼と戦うよりよっぽど楽に思えた。
「彩子さん、終わりました。積み荷を確認します」
とりあえず、彩子さんを戦闘に巻き込まずに済んだ。これでいい。
横転したトラックへ向かう。バイクに乗っていた連中は、のたうち回っていて戦える状態ではない。用を済ませて、早いところ警察にでも連絡してやらないと。
一度、念動力を解除する。“持ち手”を失った九本の尾が地面へガシャガシャと崩れ落ちる。別に疲れたからじゃない。今まで気にしなかったが、衝撃波と同じで念動力を使う為の、ある種のスタミナの様なものが有限の可能性があるからだ。無
駄なエネルギーは使わないに越した事ない。
軍から横流れした兵器とは言うが、拳銃やライフルの類いか、爆弾か。それぐらいの物だろうと思いながらコンテナへ近づいたが、どうやら私の予想は大きく外れた。コンテナの中で何かが蠢いている。何かエンジン音の様なものが聞こえた。
コンテナまで五メートルの位置で立ち止まり、再び念動力で九尾を持ち上げ様としたその時、コンテナのドアが突破られて飛び散った破片を九尾で防ぐ。
それは窮屈そうに屈みながら、コンテナの中から現れた。甲高いエンジン音を立てて私の前に立ちはだかる。
あんな物を横流ししようとしていたのか――戦闘型オートマタ。
警備用や、警察の暴徒鎮圧用のオートマタよりはるかに大きい。全長は四メートル以上はある。まるで巨人だ。
カーキ色のボディがいかにも軍用と言う出で立ち。無機質な飾りの様な頭部がこちら見据えていた。人の形にも見えるが、腕が長く脚が短い辺りは、むしろテナガザルの骨格に近い印象だった。両腕には機銃と長方形の弾倉。この距離で撃ってこないのなら、弾は積んでない筈だ。
トラックに人影が見える。おそらくトラックを運転していた奴だ。遠目だがサングラス型のディスプレイとタブレットを手にしていた。
アイツがオートマタを操っているのだろうか。それでも、今時AI非搭載のオートマタなんてあり得ない筈だ。あの運転手を黙らせるべきだが、オートマタが簡単には通してくれないだろう。もう、戦うしかない。
オートマタが向かって来た。自分の身長の二倍以上、凄まじい威圧感だ。
それでもやる事は変わらない。九尾を解除して、オートマタの駆動部を九ヶ所締め上げる。化物の様な機械でも人型なら大体同じだ。
オートマタの駆動部がバキバキと音を上げて動きが鈍っていくが、完全に制止させられない。こんな事は初めてだった――なんてパワーだ、念動力が押し負けそうだ。
身体が前のめりに踏ん張る姿勢になっていく。そうでもしないと止められない。自分の念動力に押されてしまうとは。
攻撃を受け止めて、隙を突いて破壊するしかなさそうだ。それとも、衝撃波を使うか。至近距離で放てば勝算はあるが、あれを粉々にするだけの衝撃波はかなり消耗する事になるだろう。
オートマタの駆動部を離して九尾に持ち変える。オートマタの豪腕を寸前でかわすが、激しい風圧によろめいてしまった。こんなの一発でも食らったら、ひとたまりもない。
巨体とは思えない程の軽快な動きで剛腕を振り回してくる。反動や遠心力を受け流す無駄のない立ち回り。一瞬たりとも油断できない攻防。
受け流し、振り払い、薙ぎ払う。扇子の様に揃えて振りかざし、左右に分かれて上下に突き上げる。オートマタの装甲が歪に変形し、その都度、激しい火花をまき散らしても、決め手にならなかった。
苛立ちを感じ始めてきた瞬間、均衡が崩れた。九尾が左右に広がり身体が無防備になったところを正確無比なオートマタは見逃さなかった。両腕を身体目掛けて振り下ろしてきた。
左右、四本の尾を絡ませて辛うじて受け止めた。三本指のアームが身体に触れるまで数十センチ。
パワーに押されている。オートマタが腕を引けば引っ張られ、押されれば踏ん張り切れずに押し出されていく。身体ごと持って行かれそうになるのを、残った一本の尾を地面へ突き刺して堪える。
あの運転手がそう動かしているのか、それともオートマタの戦闘プログラムがそうさせるのか。だんだん腹が立ってきた。――使ってしまおうか。
オートマタが両腕を開いて、頭部を振り下ろしてくる。咄嗟に尾を一本解除して頭部を直接“掴んで”食い止めた。
出し惜しみした挙句に砕かれてしまうなんて、最も馬鹿げている。まさに今が使い時だ。私の未熟な心が叫んでいる――鉄屑にしてしまえ、と。
同時に、しっかり意識を集中させて念じろと囁く心も存在していた。そう、そのどちらもサイキックユーチェンであり、九尾の黒狐なのだ。
良く分かっている。まずは集中しよう。押し出して姿勢を立て直せ。
突き刺した尾で身体をゆっくり押し上げていく、そうだゆっくりと九つ全の意識をもっと鋭く、もっと高めていく。
オートマタは関節をきしませ、不快な金属音と火花を関節部から漏らしている。
形勢は逆転された。身体を浮かしてオートマタを見下ろす。
良い経験をさせてもらった。デカブツと戦う時の勝手と言うものを。
これでまた私の力は一層研ぎ澄まされるだろう。
「砕けろっ!」
目には見えない波打つ衝撃波が身体から放たれる感覚と、脱力感が同時に襲ってくる。
オートマタの頭部は胴体までめり込み、一瞬で粉々になった。身体から念動力が抜ける様な感覚、九尾が崩れ落ちる。押し寄せる疲労感。
しかし、休んでもいられない。オートマタを操る運転手を止めないと。念動力の回復まで何秒かかるか。感覚でわかる、これは八秒以上かかると。
トラックの運転手は恐怖に歪んで引き攣っている。ああいう悪党の顔を見るのは久し振りだな。最近は鵜飼の鼻持ちならない、鋭い眼光しか見てなかったからな。
運転手の近くまで辿り着いたが、まだ念動力は使えない。そして運転手の悪足掻きもまだ終わってなかった。
トラックの影に隠れて気付かなかったが、オートマタがもう一台待機している。
回復まで少しでも時間を稼がなくては。しかしその数秒を待ってくれる程、甘くもなく、オートマタが駆け出し襲いかかってくる。この一撃さえ避けられれば、念動力が使える筈だ。身体が強張る。
オートマタが腕を振り上げようとしたその時、立て続けに鳴り響いた発砲音。
フードの付いた黒いロングコート越しに、トラックの運転手がその場に倒れてのた打ち回っていた――彩子さん。
オートマタの動きが僅かに鈍る中、彩子さんは拳銃を素早くショルダーホルスターに収め、振り向き様にオートマタに向かってソードオフのショットガンを撃ち込んだ。
「押さえ付けろ! 早く!」
怒声の様な彩子さんの声にハッとして、念動力を発動させる。オートマタの両脚を掴んですくい上げ、よろめいたところ九尾で叩き伏せる。巨体が地面に沈む。
彩子さんはショットガンの銃口をオートマタの首筋に食い込ませて内部に向かって撃ち込む。オートマタの首は支えを失い数本のパイプでぶら下がっている。
「内部の何処でもいいから、掴んで潰して!」
言われるまま、オートマタの首から先の内部に意識を集中させる。念動力をオートマタの内部に張り巡らせて、引き千切り、握り潰していく。
少しでも内部が見えて、僅かでもイメージが出来れば、精度は低いが念動力を送り込める。外見ばかりに気を取られて、外側から破壊する事に固執してしまったのは、私の未熟さが故だった。
オートマタは全身から火花を吹き出してシューンと機能停止した――助かった。
あの僅か数秒と数発の銃撃で、なんとか念動力を回復させる事ができた。やはり、衝撃波は強力だが隙が大きいし不安定だ。その後の時間稼ぎをどうするか、今後の課題になりそうだ。
「大丈夫? 怪我してない?」
彩子さんは手慣れた感じでショットガンに弾丸を詰め込み、右脚のホルスターに納めて、フードを外した。
今の容姿や髪型だけじゃない。彩子さんは初めて会った時から本当に雰囲気が変わってしまった。これが彼女の自然体なのだろうか。
なら、どうして今まで隠してきたのか。警察と言う規律ある組織に属していたからか。だとしても、そこまで真逆にならなくてはならない規律とは、一体何なのだろうか。不意にそんな考えが頭を過る。
「大丈夫です。助かりました……」
病み上がりと言う事もあり、かなり消耗してしまった。そして反省点も多いが概ね計画通りに事が運んだ。彩子さんの目も鋭さが薄れてきている。
向こうで呻いている運転手を見た。彩子さんは刑事だ、こう言う行為を必要とあれば実行できる人だと頭で理解できていても、いざ目の当たりにすると複雑な気分になるな。
「肩と太腿、死にはしない。さ、貴方はトラックの中を調べて。私はアイツを。役に立ちそうな情報を手に入れて撤収しましょう」
ほぼ予定通りに事は進んだが、時間は押している。警察も動き始めているだろうし、怪我人がいるぐらいの匿名の連絡はしておいてやらないと。
救う価値などない悪人と言えども、自分がそのレベルに堕ちる必要はない。一瞬でも慈悲を感じたなら、それに従えと言う、叔父の教えは守りたかった。
携帯端末を手に取り、コンテナの中と運転席の中の情報となりそうな物を回収しなくては。
持ち運べない物は写真と動画に収め、ナビゲーション、パソコン、携帯端末や財布の類いも回収して、分析は後日に行う。
「ユーチェン」彩子さんが呼び止めた。「やっと貴方の役に立てた。貸し一つ。よろしくね、相棒」
“相棒”は笑顔を見せると、フードを被って再び拳銃を構えて運転手の元へ向かって行った。
もう後戻りできない。私は身の丈に合わないものを相手に戦っていて、一人ではどうする事も出来ない事を、他者に委ねて、信じて、守り合っていく戦いに身を投じなくてはならないのだ。
冷え切った空気に包まれ、オレンジの街灯に照らされた燃え盛るバイクとオートマタの残骸から上がるオイルの臭いと黒煙。その場に似合わない、彩子さんの凛々しくも可愛らしい笑顔が、その現実をまざまざと私の心臓に突き付けていた。
『君がサイキックで戦う事に慣れているってのは分かったけど 俺の立場でクライアントに手伝ってくれと頼むワケにはいかないよ』
『私が手伝いたいと思っていても?』
『流石にこれ以上はね クライアントを危険に曝す様な奴はプロ失格だろ? お師匠さんにバレたら叱られるよ』
CrackerImpとディスプレイ越しに会話を楽しむのは、本当に久し振りだった。出来る事なら携帯端末ではなく、部屋の中のパソコンで落ち着いてやりたかったが、残念ながら今は寒空の下、九尾の姿で待機中である。
『でも話してくれてありがとう 目的の情報を手に入れた後のフェーズで その力はきっと役に立つ筈だよ でも今は辛抱して 前も言ったけどやっと攻略の糸口を見付けたんだ こっちも慎重に無駄なくやりたいからね』
『港区で不穏な動きがあった時は?』
『港区方面の動きも監視している 何か動きがあれば教えるよ でもくれぐれも慎重にね』
『ありがとう こんな夜遅くに連絡してごめんなさい お仕事だった?』
『今は休憩中だよ まだ少しぐらいなら』
正直、サイキックである事を他人に話すのは結構な勇気がいる。サイキックであるが故に、私は家族を失っている。大きなリスクがある事は確かだったが。初めてだった。自分の本当の事を話して――ありがとう、なんて言われたのは。
CrackerImpと話していると、何故こんなにも心地良いのか。
『CrackerImp 貴方に会えて本当によかった 貴方がいなかったらここまで来れなかった』
『お礼の言葉は全てに決着を着けてから改めて頂くよ』
『何時か 貴方に会いたい 直接お礼を言う為に』
テンポの良い会話が急に止まった。迂闊だったろうか、ネットだけの関係で会いたいなんて言うのは。何となく勢いで言ってしまった。
でも会ってみたかった。とても不思議な人、知的で合理主義でありながら人情味に溢れたハッカー。その魅力は日増しに強くなっていく。
『よしなよ 君が思ってる程 俺は良い人間なんかじゃない』
『どうして そう思うの?』
『自分をそう思えた事がないから』
これも初めての事かもしれない。CrackerImpが自分の話をする事が意外に思えた。
『でもね 良い人になりたいって気持ちはあるんだよ だから君や困ってる人達の力になりたい ハッカーなんてロクでもないスキルさ でも変える力があると信じてる』
どう答えてあげるべきか、言葉を探しているとCrackerImpの方からメッセージが入る。どう見ても良い人だと思うけど。
いや、私や叔父、そして鵜飼と同じなのかもしれない。善人であっても、きっと“はぐれ者”なのだ。
綺麗事なんて通用しないのが世の真実だ。人も事柄も、こうだなんて決めて見定めれば確信が曇っていくだけ。この国に来て、その事を学んだ。
『弟を 囚われた人々を救いましょう 貴方が良い人間だと証明する為にも必ず』
『そうだね そろそろ失礼するよ 夜更かしは程々にね』
CrackerImpはそそくさと回線を切った。やっぱり気になる、どんな人なんだろうか。
どんな人でも構わない、私の心は確信している。良い人だと。
携帯をしまい、ハーフフィンガーのレザーグローブを締め直して面を被る。気持ちをしっかり切り替えて、屋上から静まり返った倉庫街を一望する。
港区の外れにある倉庫街は静まり返っている。周囲はオレンジの街灯がまばらに輝いている程度だった。
彩子さんが警察から“頂戴”した情報では、この辺の貸し倉庫を利用している連中の中に小規模な密輸業者が複数存在しているらしい。
当然、荒神会とは比べ物にならない小物ばかりだが、この港で密輸をするなら関係ゼロと言う訳にはいかない。外堀から攻めて、情報を集めようと言うのが彩子さんの作戦だった。
CrackerImpからは目立たずにと、念を押された。それもあって、同じく荒神会を狙う忍者の鵜飼には釘を刺しておいたが、果たしてどれだけの情報を手に入れられるのか。
彩子さんの話では、諸外国の軍や関連企業が横流しした武器や兵器を、海外へ輸出する為の一時保管や国内の売買に、この港区は広く利用されているそうだ。
その保管された密輸品を船に積む為に輸送するのが今夜。
今まで気にもしなかったが、密輸事業はこの街の犯罪組織にとって美味しい市場となっていた。深刻なレベルの無法状態だ。
荒神会とその背後に潜む黒幕の影響力で、本来取り締まる立場の組織も人も腐敗し切っている。警察も例外じゃない。
その猛毒を取り払おうと立ち向かっているのが、この街の市長とそれに仕える忍者の鵜飼と言う訳か。鵜飼は強いが、この規模では心許ない。
今の日本は穴だらけだ。法律も価値観も一世紀前のものを何となく、感覚的に引き摺っているだけで、状況に全く対応できていない。
私が気にかける事ではないが、この小さな島国は真っ当に立て直す事が出来るだろうかと心配になる。このままだと数年か数十年で世界中の犯罪組織の温床となり亜細亜全域の毒となる事は間違いない。
最近、彩子さんと共に情報を集め、この街やこの国の現状に目を向けていると不意にこんな事を考えてしまう。ジャラを救った後の事を。
こんな恐ろしい事がそこら中で起きている。私達はこれから先、何も知らなかったあの頃に戻れるのだろうかと。
『ユーチェン、聞こえる? そっちの方へ向かっている。トラックと護衛のバイクが数台。自動小銃で武装している』
彩子さんの声が骨を伝って聞こえる。途方もない思考は一瞬で消えて集中力が増していく。
トラックにバイク。さて、どう“掴んで”蹴散らしてくれようか。
「了解、ここで食い止めます」
『私もすぐ向かう、無茶はしないでね』
出来る事なら彩子さんが来る前に終わらせてしまいたい。彩子さんは叩き上げの刑事だが、やはり荒事には関わって欲しくなかったし、どこまで戦えるか未知数だった。叔父も見た目は厳つかったが、喧嘩は弱いと言う前例もある。
背中のワイヤーを引いて畳んだ九本の尾を伸ばす。遠くからエンジン音と複数のヘッドライトの明かりが見える。眼下にある三車線道路を通過する。
意識を集中させて、ゆっくりと九本の尾を浮かばせる。調子は悪くない、むしろ研ぎ澄まされているぐらいだが、本格的に念動力を使うのは鵜飼との戦闘以来。衝撃波を実戦で使うのも初めて、下手に使えば七、八秒は念動力も使えない無防備が続く――慎重に。
屋上から飛び降りる。尾を四本、建物のビルに押し当てて落下速度を落として降り立つ。
歩道を超えて車道の中央で待ち構える。既に正面に向き合っている状態。トラックのヘッドライトがハイビームに変わって、こちらを捕捉した。気分が高鳴る――いよいよだ。
距離は二十メートルを切ったぐらい。トラックの前をバイクが二台。段取りは決まった。念動力を二つ残して、こちらも歩み寄って距離を縮める。バイクが加速して向かって来た。七本の尾で前方を塞いだ瞬間に響く乾いた発砲音と飛び散る火花。
ここからは一瞬だ。目の前に迫る二台のバイクに挟まれたところで前方を塞いだ尾を一気に開き、左右のバイクを弾き飛ばして、迫りくるトラックの前輪を、残していた念動力で引き千切った。
間髪入れずに尾を地面に叩き付けて飛び上がり、運転席とトラックの荷台へ尾を二本突き刺し固定して、体勢を安定させる。前輪を失ったトラックが地面を削る轟音が耳を劈く。このトラックは間もなく横転するだろう。
姿勢を整えてコンテナの上を駆け上がり、後方にいる護衛のバイクに狙いを定める。計三台。奴等にこちらを狙う余裕はなさそうだ。
コンテナから飛び降り、バイクに一台に向かって尾を振り下ろした。粉々に砕け散るバイク、放り出されるフルフェイスのヘルメット。気の毒には思うが、こっちも必死だ。
横転したトラックを背に、残り二台のバイクがUターンして向かって来る。その内の一台へ真正面に向っていく。念動力の有効範囲五メートルで乗り手とバイクを掴む。僅かだが身体に衝撃を感じる。
掴んだバイクを盾にしてバラ撒かれる弾丸を凌ぎ、そのままバイクを相手目掛けて投げ付ける。激突したバイク同士が火を噴いて転がっていった。爆音と高熱が右頬をかすめていく。
念動力で掴んだままのライダーを引き寄せて、尾で叩き潰して一丁上がりだ。大立ち回りは久し振りだったが、勘は鈍っていない、大丈夫そうだ。こういうゴチャゴチャした奴等を蹴散らす様な戦闘は、鵜飼と戦うよりよっぽど楽に思えた。
「彩子さん、終わりました。積み荷を確認します」
とりあえず、彩子さんを戦闘に巻き込まずに済んだ。これでいい。
横転したトラックへ向かう。バイクに乗っていた連中は、のたうち回っていて戦える状態ではない。用を済ませて、早いところ警察にでも連絡してやらないと。
一度、念動力を解除する。“持ち手”を失った九本の尾が地面へガシャガシャと崩れ落ちる。別に疲れたからじゃない。今まで気にしなかったが、衝撃波と同じで念動力を使う為の、ある種のスタミナの様なものが有限の可能性があるからだ。無
駄なエネルギーは使わないに越した事ない。
軍から横流れした兵器とは言うが、拳銃やライフルの類いか、爆弾か。それぐらいの物だろうと思いながらコンテナへ近づいたが、どうやら私の予想は大きく外れた。コンテナの中で何かが蠢いている。何かエンジン音の様なものが聞こえた。
コンテナまで五メートルの位置で立ち止まり、再び念動力で九尾を持ち上げ様としたその時、コンテナのドアが突破られて飛び散った破片を九尾で防ぐ。
それは窮屈そうに屈みながら、コンテナの中から現れた。甲高いエンジン音を立てて私の前に立ちはだかる。
あんな物を横流ししようとしていたのか――戦闘型オートマタ。
警備用や、警察の暴徒鎮圧用のオートマタよりはるかに大きい。全長は四メートル以上はある。まるで巨人だ。
カーキ色のボディがいかにも軍用と言う出で立ち。無機質な飾りの様な頭部がこちら見据えていた。人の形にも見えるが、腕が長く脚が短い辺りは、むしろテナガザルの骨格に近い印象だった。両腕には機銃と長方形の弾倉。この距離で撃ってこないのなら、弾は積んでない筈だ。
トラックに人影が見える。おそらくトラックを運転していた奴だ。遠目だがサングラス型のディスプレイとタブレットを手にしていた。
アイツがオートマタを操っているのだろうか。それでも、今時AI非搭載のオートマタなんてあり得ない筈だ。あの運転手を黙らせるべきだが、オートマタが簡単には通してくれないだろう。もう、戦うしかない。
オートマタが向かって来た。自分の身長の二倍以上、凄まじい威圧感だ。
それでもやる事は変わらない。九尾を解除して、オートマタの駆動部を九ヶ所締め上げる。化物の様な機械でも人型なら大体同じだ。
オートマタの駆動部がバキバキと音を上げて動きが鈍っていくが、完全に制止させられない。こんな事は初めてだった――なんてパワーだ、念動力が押し負けそうだ。
身体が前のめりに踏ん張る姿勢になっていく。そうでもしないと止められない。自分の念動力に押されてしまうとは。
攻撃を受け止めて、隙を突いて破壊するしかなさそうだ。それとも、衝撃波を使うか。至近距離で放てば勝算はあるが、あれを粉々にするだけの衝撃波はかなり消耗する事になるだろう。
オートマタの駆動部を離して九尾に持ち変える。オートマタの豪腕を寸前でかわすが、激しい風圧によろめいてしまった。こんなの一発でも食らったら、ひとたまりもない。
巨体とは思えない程の軽快な動きで剛腕を振り回してくる。反動や遠心力を受け流す無駄のない立ち回り。一瞬たりとも油断できない攻防。
受け流し、振り払い、薙ぎ払う。扇子の様に揃えて振りかざし、左右に分かれて上下に突き上げる。オートマタの装甲が歪に変形し、その都度、激しい火花をまき散らしても、決め手にならなかった。
苛立ちを感じ始めてきた瞬間、均衡が崩れた。九尾が左右に広がり身体が無防備になったところを正確無比なオートマタは見逃さなかった。両腕を身体目掛けて振り下ろしてきた。
左右、四本の尾を絡ませて辛うじて受け止めた。三本指のアームが身体に触れるまで数十センチ。
パワーに押されている。オートマタが腕を引けば引っ張られ、押されれば踏ん張り切れずに押し出されていく。身体ごと持って行かれそうになるのを、残った一本の尾を地面へ突き刺して堪える。
あの運転手がそう動かしているのか、それともオートマタの戦闘プログラムがそうさせるのか。だんだん腹が立ってきた。――使ってしまおうか。
オートマタが両腕を開いて、頭部を振り下ろしてくる。咄嗟に尾を一本解除して頭部を直接“掴んで”食い止めた。
出し惜しみした挙句に砕かれてしまうなんて、最も馬鹿げている。まさに今が使い時だ。私の未熟な心が叫んでいる――鉄屑にしてしまえ、と。
同時に、しっかり意識を集中させて念じろと囁く心も存在していた。そう、そのどちらもサイキックユーチェンであり、九尾の黒狐なのだ。
良く分かっている。まずは集中しよう。押し出して姿勢を立て直せ。
突き刺した尾で身体をゆっくり押し上げていく、そうだゆっくりと九つ全の意識をもっと鋭く、もっと高めていく。
オートマタは関節をきしませ、不快な金属音と火花を関節部から漏らしている。
形勢は逆転された。身体を浮かしてオートマタを見下ろす。
良い経験をさせてもらった。デカブツと戦う時の勝手と言うものを。
これでまた私の力は一層研ぎ澄まされるだろう。
「砕けろっ!」
目には見えない波打つ衝撃波が身体から放たれる感覚と、脱力感が同時に襲ってくる。
オートマタの頭部は胴体までめり込み、一瞬で粉々になった。身体から念動力が抜ける様な感覚、九尾が崩れ落ちる。押し寄せる疲労感。
しかし、休んでもいられない。オートマタを操る運転手を止めないと。念動力の回復まで何秒かかるか。感覚でわかる、これは八秒以上かかると。
トラックの運転手は恐怖に歪んで引き攣っている。ああいう悪党の顔を見るのは久し振りだな。最近は鵜飼の鼻持ちならない、鋭い眼光しか見てなかったからな。
運転手の近くまで辿り着いたが、まだ念動力は使えない。そして運転手の悪足掻きもまだ終わってなかった。
トラックの影に隠れて気付かなかったが、オートマタがもう一台待機している。
回復まで少しでも時間を稼がなくては。しかしその数秒を待ってくれる程、甘くもなく、オートマタが駆け出し襲いかかってくる。この一撃さえ避けられれば、念動力が使える筈だ。身体が強張る。
オートマタが腕を振り上げようとしたその時、立て続けに鳴り響いた発砲音。
フードの付いた黒いロングコート越しに、トラックの運転手がその場に倒れてのた打ち回っていた――彩子さん。
オートマタの動きが僅かに鈍る中、彩子さんは拳銃を素早くショルダーホルスターに収め、振り向き様にオートマタに向かってソードオフのショットガンを撃ち込んだ。
「押さえ付けろ! 早く!」
怒声の様な彩子さんの声にハッとして、念動力を発動させる。オートマタの両脚を掴んですくい上げ、よろめいたところ九尾で叩き伏せる。巨体が地面に沈む。
彩子さんはショットガンの銃口をオートマタの首筋に食い込ませて内部に向かって撃ち込む。オートマタの首は支えを失い数本のパイプでぶら下がっている。
「内部の何処でもいいから、掴んで潰して!」
言われるまま、オートマタの首から先の内部に意識を集中させる。念動力をオートマタの内部に張り巡らせて、引き千切り、握り潰していく。
少しでも内部が見えて、僅かでもイメージが出来れば、精度は低いが念動力を送り込める。外見ばかりに気を取られて、外側から破壊する事に固執してしまったのは、私の未熟さが故だった。
オートマタは全身から火花を吹き出してシューンと機能停止した――助かった。
あの僅か数秒と数発の銃撃で、なんとか念動力を回復させる事ができた。やはり、衝撃波は強力だが隙が大きいし不安定だ。その後の時間稼ぎをどうするか、今後の課題になりそうだ。
「大丈夫? 怪我してない?」
彩子さんは手慣れた感じでショットガンに弾丸を詰め込み、右脚のホルスターに納めて、フードを外した。
今の容姿や髪型だけじゃない。彩子さんは初めて会った時から本当に雰囲気が変わってしまった。これが彼女の自然体なのだろうか。
なら、どうして今まで隠してきたのか。警察と言う規律ある組織に属していたからか。だとしても、そこまで真逆にならなくてはならない規律とは、一体何なのだろうか。不意にそんな考えが頭を過る。
「大丈夫です。助かりました……」
病み上がりと言う事もあり、かなり消耗してしまった。そして反省点も多いが概ね計画通りに事が運んだ。彩子さんの目も鋭さが薄れてきている。
向こうで呻いている運転手を見た。彩子さんは刑事だ、こう言う行為を必要とあれば実行できる人だと頭で理解できていても、いざ目の当たりにすると複雑な気分になるな。
「肩と太腿、死にはしない。さ、貴方はトラックの中を調べて。私はアイツを。役に立ちそうな情報を手に入れて撤収しましょう」
ほぼ予定通りに事は進んだが、時間は押している。警察も動き始めているだろうし、怪我人がいるぐらいの匿名の連絡はしておいてやらないと。
救う価値などない悪人と言えども、自分がそのレベルに堕ちる必要はない。一瞬でも慈悲を感じたなら、それに従えと言う、叔父の教えは守りたかった。
携帯端末を手に取り、コンテナの中と運転席の中の情報となりそうな物を回収しなくては。
持ち運べない物は写真と動画に収め、ナビゲーション、パソコン、携帯端末や財布の類いも回収して、分析は後日に行う。
「ユーチェン」彩子さんが呼び止めた。「やっと貴方の役に立てた。貸し一つ。よろしくね、相棒」
“相棒”は笑顔を見せると、フードを被って再び拳銃を構えて運転手の元へ向かって行った。
もう後戻りできない。私は身の丈に合わないものを相手に戦っていて、一人ではどうする事も出来ない事を、他者に委ねて、信じて、守り合っていく戦いに身を投じなくてはならないのだ。
冷え切った空気に包まれ、オレンジの街灯に照らされた燃え盛るバイクとオートマタの残骸から上がるオイルの臭いと黒煙。その場に似合わない、彩子さんの凛々しくも可愛らしい笑顔が、その現実をまざまざと私の心臓に突き付けていた。