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作者: 桐谷 碧
「貴様はこれに着替えろ!」
 師匠は家に着くなり海斗くんの書斎に入ると、そう言ってドンキの袋を投げ付けた。海斗くんは目を見開いて、口をパクパクしている。グッピーみたいで可愛かった。
「高梨、おま、なんで?」
「貴様は重罪を犯すところだった」
「はぁ?」
「彼女の誕生日を忘れるなど、死罪に値する。しかし、姫は寛大だ。コスプレパーティーにて、無罪放免にしてやるとの事だ。感謝しろよ童貞」
「あ……」
 海斗くんが一瞬。私を見て目を伏せた。気まずそうな、寂しそうな顔をして。
「我々は準備に取り掛かる、貴様はさっさとプレゼントでも買いに行け。姫が感動する品を用意しろよ」
「ちょ、師匠、そんな。海斗くん、大丈夫だよ。プレゼントとか要らないから、ね」
 私の言葉には反応しないけど、海斗くんはお腹に抱えたドンキの袋を床に置いて立ち上がった。私たちの横を通り過ぎる時に「ハッシーも呼んでやるか」と呟いたのが聞こえて振り返る。
「うん! ちゃんと衣装も用意してあるよ」
 その背中に答えると「そっか」とだけ言い残して海斗くんは玄関に向かった。後ろ姿で見えないけど、何となく顔が笑っているような気がした。
 私たちは早速、リビングを誕生日仕様の装飾にしていった。百円均一で揃えた色とりどりのバルーン、真っ白な壁にクラフト✖️ブラックのガーランドに、ゴールドのナンバーバルーンで1と8を並べて貼り付ける。ペーパーフラワーを天井から吊るせば、あっという間に無機質なリビングが華やいだ。
「なかなか良いじゃないか」
 料理の下拵えをしていた師匠が、満足そうに壁を見て言った。メグさんが「でしょ? 百均だけで凄いよね」と答える。
 私は1と8が並んだナンバーバルーンを見つめた。美波が迎えられなかった十八歳に私はなった。独りぼっちだった私に友達と彼氏が出来た。終わったはずの物語に続きがあったなら、こんな幸せな結末を誰もが望むだろう。
「さて、料理に取り掛かろうか」
 三人の好みはバラバラで、私は蕎麦、師匠はピザ、メグさんはちらし寿司が食べたいと言った。一応主役の私の案はすぐに採用され、どうせなら全部作ろうと、結局、買ってきたケーキとチキンの他に三品作る事になった。師匠は凄まじい包丁捌きで玉ねぎをスライスし、負けじと私も蕎麦を打った。意外だったのはメグさんが不器用な事。何でも出来るスーパーガールかと思ってたけれど、ちらし寿司の具は大きさがバラバラ、錦糸卵は糸じゃなく、うどんくらいに太くて師匠と笑うと、メグさんは頬を膨らませて怒る。その姿がまた可愛かった。楽しいなあ、永遠にこんな時間が続けば良いのに。迫り上がってくる想いに、私は急いで蓋をする。
『ピンポーン』
 インターホンが鳴り師匠が液晶モニタを覗きに行った。「不審者が来たぞ」と言うので見に行くと、ハッシーが所在無げに、辺りをキョロキョロと見渡している。「あけるねー」と言ってオートロックを解除すると、師匠が驚いた顔で私を見た。
「知り合いか?」
「あ、海斗くんの……友達? かな、すな」
 まだ、働いてないから社員じゃないし。友達で良いよね。うん、きっとその方が良い。玄関にハッシーを迎えに行くと「お嬢、誕生日おめでとうございます」と言いながら紙袋を手渡してきた。
「ハッシー、無職なのに無理しないで」
「いえいえ、そんな高い品物じゃないので」
「嬉しい、ありがとう」
 本当に嬉しい。少し前まで私を誹謗中傷していたハッシーが、今は誕生日を祝ってくれる。なんか泣きそう。
「まだ準備中だけど、もう少しだからリビングで待っててね」
「あれ? 誰か来てるんですか」
 玄関に並んだ師匠のサンダルと、メグさんのミュールを見てハッシーが聞いてきた。海斗くんは最低限の説明だけしかしなかったようだ。
「うん、私の友達だよ」
「ほう」
 一瞬、ハッシーの目が鋭く光った。気がした。キチンと靴を並べてからリビングに戻ると、メグさんとハッシーが向き合っている。挨拶をしているようだ。
「初めまして、メグミです」
 メグさんが丁寧に頭を下げて自己紹介するが、ハッシーは微動だにしない。いや、よく見ると小刻みに震えている。
「ハッシー、どうした――」
 の。を言い終える前に彼は呟いた。
「美しい……」
「へ?」
 メグさんの隣で、私が出した頓狂な声を無視して、ハッシーはメグさんの手を取った。
「結婚してください。生涯、あなたを護り続けます」
 ちょっとちょっと。と割って入れないくらい、ハッシーの目は真剣だった。師匠も動けないでいる。恐る恐るメグさんの顔を覗き見ると。頬を上気させながら目を伏せていた。
「待て待て! 何だお前は、藪からスティックに」
 ルー大柴? と思ったら金縛りから解放された師匠だ。繋がれた手を無理やり引き離して間に入ると、メグさんは少し残念そうな顔をした。
「あなたは?」
「高梨だ」
「どうも、初めまして橋本留姫亜です」
「ん、ああ。ルキア?」
「ええ」
 ハッシーが右手を差し出すと、師匠は釣られて握手した。なんだか今日のハッシーは一味違う。堂々としていて、留姫亜の方がしっくりくる。本名だけど。
「海斗の友達にしては、老けてねえか?」
 師匠は私に聞いた。本人を前に無遠慮極まりないが、これが師匠の良いところだ。その質問にはハッシーが自分で答えた。
「兄貴は友達じゃありませんよ、社長です」
「兄貴って、お前の方が年上だろ?」
「敬意を評してそう呼ばせてもらってます。尊敬する人物に年上も年下もありませんよ、違いますか?」
 ハッシーがドヤ顔を師匠に向けると、師匠は気に食わないのか「ぐぬぬ」と言ってハッシーを下から睨み付けた。
「ほら、早く準備しないと。海斗が帰って来ちゃうよ」
 メグさんが手をパンパン叩くと、二人の睨み合いは強制終了された。手際の良いハッシーが加わり、すぐにパーティーの準備は整った。後は買ってきた衣装に着替えるだけだ。協議の結果、メグさんはメイド。師匠がミニスカナース。私は師匠が高校時代に着ていた制服だ。師匠いわく、海斗くんは高校に通っていない。つまりJKに飢えている。しかも、師匠は可愛い制服で有名な高城女子に通っていたらしく、ドンキで安っぽい制服を買うくらいなら、私のを貸してやると言ってわざわざ取りに帰ってくれたのだ。
「ちょっと、これ短すぎないかなぁ」
 メグさんが寝室で着替えて出てくると、ハッシーだけでなく、師匠も目を輝かせて拍手した。メグさんは細身に見えて意外と肉感的で、端的に言えばエロい。ワンピースを着ていた時より胸が強調され、ニーハイとスカートの間に晒された絶対領域は破壊力抜群だ。
「いい! 凄くいいですよー。メグミさん」
 興奮するハッシーこと、橋本留姫亜。
「ああ、やっぱり私の見立ては正しかった」
 師匠も満足そうに頷いている。
「ほう、これは高梨氏のチョイスでしたか?」
「まあな」
 ハッシーが右手を差し出して、二人はまた握手をした。気が合うのか合わないのか分からない二人だ。次に師匠が着替えて出てくると、こんな看護師がいたら、その病院は大繁盛するだろうなと思えるほど綺麗だった。いつもジーンズで隠れていた生足は白く輝いている。メグさんみたいなエロさはないけれど、スラリとした佇まいは彫刻のように美しい。
「ほう、高梨氏もなかなか……」
 ハッシーは師匠をつま先から頭まで舐めるように見ているが、満更でもなさそうにポーズを決めている。私はセーラー服をお腹に抱えて寝室へ入るとそのまま閉めた扉に背中を預けて座り込んだ。
「出ずらいわぁ……」
 制服が可愛いという理由だけで入学する女子がいるほど人気のセーラー服。かくゆう私も、実はこの制服を着たくて志望校に書いたけれど、担任からは「冗談だよな?」と一蹴された。しかし、二人のインパクトには到底敵わないだろう。だって、いくら可愛くてもこれは学校指定の制服なのだから。
 いやいや。と、被りを振った。あの二人と比べたら何を着ても見劣りするに決まってる。幼児体形の私に似合うコスプレなんて存在しない。自分の外見なんて、今まであまり気にしてこなかった。ましてや他人と比べて落ち込むなんて事は初めてだ。理由は簡単、好きな人が出来たから。海斗くんに可愛いと思われたい、それも一番可愛いと思われたい。図々しい願いは、形を変えて他人への嫉妬に変わる。人を羨んで妬むなんて性格悪いな、私。と心の中では分かっていても、もっと奥、根本的な部分から湧き上がってくる感情が、黒く内側を染めていく。
「よし!」
 いくら羨んでも、胸が膨らむわけじゃない。手足が伸びる事もない。私は私、そう自分に言い聞かせてから気合いを入れて着替えると、師匠の制服は私にピッタリだった。白の夏用セーラー服は、薄いグレーのセーラー襟に白いラインが二本入っている。リボンは紺で、グレーのスカートからは小さな膝が少しだけ見えていた。
「あれ、結構良いかも……」
 膝を左右に振ると、スカートが波のように舞い踊る。私は鏡に向かって微笑んだ。
「うーむ。悪くないぞ」
 流石、人気の制服は伊達じゃない。私は学ランを着た海斗くんを想像して、すぐブレザーに変換した。気怠そうにネクタイを緩めて佇む、彼の隣にいる私。やばい、顔がニヤける。私は顔を引き締めてから寝室を出た。
「おー! ピッタリだな、入学した頃は美波くらいの身長だったから、大丈夫だとは思ったが、うん。似合ってる」
 師匠は私の周りをぐるぐる回りながら観察した。
「すごく可愛いよ、美波ちゃん」
「お嬢、いっすね。ギャルゲーの主人公みたいっす」
 メグさんとハッシーも絶賛してくれて、私の心に渦巻いていた黒い霧が晴れていく。我ながら単純だ。
 料理を並べていると玄関の扉が開く音がした。海斗くんが帰って来たようだ。毎日、一緒にいるのに僅かな緊張が走る。胸の鼓動が早まって呼吸が苦しくなる。
「ただいま」
 リビングに入って来た海斗くんは、私たちを見て一瞬ギョッとしたけれど、すぐに元の表情に戻り寝室に消えた。しかし、直ぐに戻って来て「コレを俺が着るのか?」と、ドンキの袋を差し出した。
「当たり前だろ、お前以外に誰がいる」
 師匠が仁王立ちで答えると、やれやれと観念したように踵を返した。そして五分後、グレーのパンツに紺のブレザーを着た海斗くんが登場した。やっぱりネクタイはゆるゆるで、シャツは第二ボタンまで開いている。
「ブハハ! いいぞ、高校生みたいだ。美波、隣に並べよ」
 師匠に言われて、私はおずおずと海斗くんの横に並んだ。海斗くんは私の格好を見て、「可愛いね」と褒める事も、「似合わないな」と貶す事もなかったけれど、照れたようにそっぽを向いたその態度が、素直になれないピュアな男子みたいで私は満足した。並んだ私たちにみんながスマートフォンを向ける。ハッシーは連写でもしているのか「カシャシャシャシャ」と激しいシャッター音を鳴らしていて、どさくさに紛れてメグさんにもスマホを向けていた。
「誕生日おめでとー!」
 ローテーブルの周りをぐるりと囲んで、私たちは乾杯をした。中央に鎮座するホールケーキには『Happy birthday 美波 十八歳』と書かれたメッセージプレートが乗っている。美波が生きていたなら二十五歳、今年十八歳を迎えるのは凪沙の方だ。
「ありざーっす!」
 私はオレンジジュースが注がれたグラスを傾けた。みんなはビールで乾杯している。羨ましいとは思わない、あの苦い液体が美味しく感じるのはまだ先のようだ。
「あのー、なんで僕は囚人なんですか?」
 白と黒のボーダー上下に、黒い手鎖を片手に装着したハッシーが不満そうに聞いてきた。選んだのは私だ。
「それ見た瞬間にハッシーだなって。似合ってるよ。でも手鎖なんてどうしたの?」
 買ってきたのは囚人服だけで、手錠は用意していない。ハッシーは「たまたま持ってました、ハハハ」と誤魔化したけれど、なにか怪しい。
「美波、十八歳の抱負はないのか?」
 師匠はスカートが短いのに、構わず胡座をかこうとするから、私は慌ててブランケットを掛けた。
「抱負っすな? うーん……」
 抱負、計画、決意。私は決断しなくてはならない。残された時間も長くない。このままじゃ駄目、最初から分かっていた事。夏休みしか会えない彼女に、いつまで海斗くんを突き合わせるの? いつまで凪沙を苦しめるの?

 星野美波はもういない。いない筈なのに――。
 
「どうした、美波」
 美波と呼んでくれる人がここにいる。
「美波ちゃん?」
 優しくしてくれる人がここにいる。
「お嬢、感動の涙っすね」
 笑わせてくれる人がここにいる。
「美波?」
 愛する人がここにいる。
「ごめんなさい、最近涙腺が弱くて……年っすな」
 なんとか誤魔化せたかは分からない。けど少しでも残された時間を楽しもう。後悔しないように、忘れないように。心の深くに焼き付けよう。
 テーブルに乗り切らないほど並んだ料理は、跡形もなく私たちの胃袋に消えた。師匠は顔を真っ赤にしてワインを飲んでいて、ハッシーにあれこれ説教をしている。海斗くんはビールを飲みながら難しい顔をしているけど、屍からは少し復活したみたいで安心した。
「ねえ海斗、禁煙だよね?」
 メグさんが海斗くんに質問する。
「ん? ああ、ベランダならいいよ。灰皿ないけど」
 海斗くんが答えて、質問の意味を私は理解した。
「大丈夫、携帯灰皿持ってるから、ベランダどこ?」
「ああ、こっち」
 海斗くんは立ち上がり、メグさんを寝室にあるベランダへと案内した。
「メグさん、タバコ吸うんだ……」
 ポツリと呟いたけど、師匠とハッシーには聞こえなかったみたいだ。あのフワフワの外見からは、タバコを吸う姿が想像できない。でも、なんだか少し大人に見えて、なんとなく距離を感じた。
 それから五分過ぎても海斗くんは戻って来なかった。ベランダを案内するだけなのに、トイレにでも行っているのだろうか。ベランダは寝室、寝室にはベッド、セクシーメイドの衣装に包まれたメグさんに、お酒の入った海斗くん。
 心臓が急速に鼓動を速める、血液を全身に送り込むはずなのに、逆に血の気が引いていく。私は立ち上がってリビングを出た。すぐに寝室はあって、扉は開いたままだ。気配を消すように近づいて行き、そっと中を覗いた。暗い室内には誰もいない、けれど中途半端に閉められたカーテンがゆらゆらと風で揺れている。気配を消したまま私はベランダに近づくと、二人の話し声が聞こえて来た。
 
「怖いんだよ、醜い自分の正体がいつかバレるんじゃないかって……」
 海斗くんの声は震えていた。
「海斗は海斗でしょ? 本当の自分ってなに? 太ってた頃? 痩せてた時? どっちも海斗だし、その片方だけを好きになる人もいるよ。自分の全てを愛して欲しいなんて図々しいと思うな、海斗は今のわたし、嫌い?」
「いや、別に……」
「気を使わないで、私は私、今も昔も変わらない。どんなに外見や中身を変えてみても、芯の部分は変わらない。そこを愛せないなら終わり。私はね、海斗の一番深い所にある綺麗な部分。そこを好きになったの、だから身勝手だけどずっと好き。彼女が出来ても、結婚しても、たとえ海斗が誰かを殺しても。あなたへの想いは変わらない。ごめんね」
「俺に綺麗な部分なんかねえよ、そこら辺にいるクズ共となにも変わらねえ」
「残念、それを判断するのは私なの。みんなそうでしょ? こう思われたい、ああ思われたい。でもうまくいかない、評価するのはいつも他人、他人の思想はコントロールできないわ」
「俺は……どうしたら良いんだ?」
「なにが?」
「美波と一緒にいても良いのか分からないんだ、あいつは普通の奴とは違うから」
「普通と違う?」
「あ、いや」
「言えない事情があるなら無理しないで、でも二人はすごく似合ってると思うな、なんだろ、本当なら嫉妬しなきゃなんだけど。全然悔しくないんだよね、美波ちゃんなら」
「そっか……」
「悩んでる時は一つずつ解決していきなよ、海斗を苦しめてる根源はアイツでしょ? だったらウジウジ悩んでないで会いに行けばいいじゃん。会って自分の気持ちに決着つけて来なよ。美波ちゃんの事はそれからでしょ?」
「さすが、メグミは男らしいな」
「まあねー、美波ちゃんには私の秘密、言ってないの?」
「わざわざ、言う事もないだろ」
「こらこら、恋人同士に隠し事は厳禁だよ。そもそも海斗は――」

 私は音もなく寝室を後にした。二人が笑い合う声が脳裏に焼き付いて離れない。海斗くんは私には相談してくれないんだね。恋人なのに、毎日のように一緒にいるのに、こんなに海斗くんを想っているのに。心配しているのに。悩みを打ち明けるのは可愛い同級生。どうして?
 涙が溢れて目の前が滲む。視界がぼやけても自由に歩けるくらい通い慣れた家。海斗くんの書斎に入って扉を閉めた。窓から差し込む月明かりに照らされた部屋で、私は膝を抱えて座った。
「メグさんと付き合えば良いのに……」
 薄く呟くと、その言葉は力無くフローリングに落ちて消えた。それなのに心の中ではムクムクとその考えが形を成して肥大していく。良案、妙案、ナイスアイデア。二人の間にどんな秘密があるか知らないけれど、私の秘密ほど困難な障害があるとは思えない。
 この先に待つ運命に、海斗くんを巻き込む必要はない。ずっと考えていて、考える度に胸の奥に押し込んできた想いを、そろそろ決断する時が来たのかもしれない。私は涙を拭い立ち上がった。窓を開けて細い月を眺める。
「海斗くん。ありがとう」
 言葉にすると、また涙が溢れた。でも、もう拭わなかった。これは感謝の涙だから、拭わなかった。
 残された時間はあと少し。最後に海斗くんに恩返し出来るかな。不思議と自分のやるべき事は分かっていた。その為に。私は海斗くんと出会ったのかも知れない。私は上を向いて、今度は月に向かって呟いた。
「海斗くん、好きだよ」と。

 ねえ海斗くん。
 人を好きになるって素敵な事だね。悲しくて、辛くて、苦しくて、愛しい。君が幸せになるのなら、私はなんだって出来る気がするよ。
 
 ねえ海斗くん。
 美波を選んでくれてありがとう。私の想いが届かなくても、たとえそれが偽りの愛だとしても。私はすごく幸せでした。

 だから、私は消えます。
 
 それが海斗くんの幸せに違いないから――。
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