第28話 僕とリリアの関係は
「そういう訳で、婚約が正式に決まった」
「うん、立ち会ってたから知ってる」
シリウスとエマの空間に居づらくなって自分の部屋に避難していたのだが、話が終わったのかシリウスが自室に訪ねてきた。そしてセレナが急遽用意してくれた椅子二つに向き合って座り、今に至る。
「婚約は決まったが、正式な手続きは学園を卒業してからになるだろう」
「……まあとにかく、おめでとう」
「ああ」
顔には大きく出ないが、頬が緩んでいるのがわかる。シリウスがこんな表情をする事は、ハルトのままだったら知ることも無かっただろう。そして、兄さんがエマと結ばれる事になったら、エマとリリアの一件も完全に無くなるだろう。
「これでエマさんがリリアさんを誤解していた件は完全に無くなったね」
「そんなこともあったな……まあ、そういう事になる」
「ってことは、リリアさんは僕と一緒に行動する必要が……無くなるんだね」
「……待て、何の話だ?」
「えっ?」
エマがリリアに敵意を抱いている事を察したシリウスの提案で、リリアは僕と行動を共にしてきた。随分と大胆な手を考えるなあと思っていたのだが、シリウスにはどうもこの提案に心当たりがない様子だった。
「リリアさん、兄さんの指示でわざわざ中等部にまで来てくれてたんだよ?」
「エマの件でか? ……いや、彼女には私の友人であるクロードやノエルにでも頼るといい、と言ったはずなのだが」
「……あれ?」
シリウスとリリアの言っていることが食い違っている。リリアは確かに僕の名だけを挙げていたはずだ。リリアの性格から聞き間違いやすれ違いはあまり考えられない。リリアがあえて僕を選んだ? それこそ考えられない。
「……僕が誰かに選ばれた事なんて、一度も無いのに」
「!」
いつだって、選ばれるのは僕じゃなかった。良いも悪いも無く目立つ人が選ばれるのだ。僕のしてきたことは、誰にも認められる事無く前世には終わりを告げられた。
ハルトだって、ゲームに置いては選ばれなかった存在だ。常に兄に嫉妬し続けて、どのルートになっても幸せになることはない。僕と違って目立とうとしたけれど、無駄どころか自分の首を絞めて終わってしまう。
(数少ない僕とハルトの、悲しい共通点)
不満だったわけではない、ただ……納得はいかない。けれど、納得するしかない。これが僕の人生で、宿命なのだと……。
「……だそうだが、実際はどうだったのだ? ……リリア」
「へっ?」
「……」
顔を上げると、目の前にリリアが立っていた。神妙な顔をしたまま、何も言わずにいる。またしても気づかぬうちに客がいたことに驚き、またやられたのかとシリウスをジッと見る。
「兄さん、だからさ。人を呼ぶときはさ」
「……リリアは、私が呼んだわけではないぞ」
「リリアさんは、じゃなくて」
これは自分がしたことではない、と言われても前科がありすぎるから恨めしい気持ちが抜けきらずにいる。するとリリアは自分から話を逸らされた事が不満だったのか、僕の両肩を掴んで顔を近づけてきた。
「私がハルト君に相談があったので、来てしまいました」
「そ、そうですか……」
いつも笑顔を絶やさないリリアが、今日はずっと不機嫌そうな、何か言いたいことがありそうな表情のままになっている。わざわざ僕に相談があると言っていたが、どんな内容なのだろうか。……僕の両肩はまだ離してくれそうにない。
「……次は私が席を外す番か」
「いや、多分さっきのとは全然話しが違うと思うんだけど」
「お願いいたします」
どうもリリアの相談は、思っていたよりも真剣なものらしい。ここはしっかりと聞く準備をする必要がある。……のだけれど、その前に一つやることがある。
「……お茶を出してあげたいので、続きは応接室でしませんか?」
「……わかりました」
納得して頷いたリリアは、僕を掴んでいた手を片方だけ離し、まだ掴んでいた方の手を肩から腕に移動させてまたガッチリと掴んできた。この距離感にドキドキしてしまうから一度離すために移動しようと試みたのだけれども、空振りに終わってしまった。
「うん、立ち会ってたから知ってる」
シリウスとエマの空間に居づらくなって自分の部屋に避難していたのだが、話が終わったのかシリウスが自室に訪ねてきた。そしてセレナが急遽用意してくれた椅子二つに向き合って座り、今に至る。
「婚約は決まったが、正式な手続きは学園を卒業してからになるだろう」
「……まあとにかく、おめでとう」
「ああ」
顔には大きく出ないが、頬が緩んでいるのがわかる。シリウスがこんな表情をする事は、ハルトのままだったら知ることも無かっただろう。そして、兄さんがエマと結ばれる事になったら、エマとリリアの一件も完全に無くなるだろう。
「これでエマさんがリリアさんを誤解していた件は完全に無くなったね」
「そんなこともあったな……まあ、そういう事になる」
「ってことは、リリアさんは僕と一緒に行動する必要が……無くなるんだね」
「……待て、何の話だ?」
「えっ?」
エマがリリアに敵意を抱いている事を察したシリウスの提案で、リリアは僕と行動を共にしてきた。随分と大胆な手を考えるなあと思っていたのだが、シリウスにはどうもこの提案に心当たりがない様子だった。
「リリアさん、兄さんの指示でわざわざ中等部にまで来てくれてたんだよ?」
「エマの件でか? ……いや、彼女には私の友人であるクロードやノエルにでも頼るといい、と言ったはずなのだが」
「……あれ?」
シリウスとリリアの言っていることが食い違っている。リリアは確かに僕の名だけを挙げていたはずだ。リリアの性格から聞き間違いやすれ違いはあまり考えられない。リリアがあえて僕を選んだ? それこそ考えられない。
「……僕が誰かに選ばれた事なんて、一度も無いのに」
「!」
いつだって、選ばれるのは僕じゃなかった。良いも悪いも無く目立つ人が選ばれるのだ。僕のしてきたことは、誰にも認められる事無く前世には終わりを告げられた。
ハルトだって、ゲームに置いては選ばれなかった存在だ。常に兄に嫉妬し続けて、どのルートになっても幸せになることはない。僕と違って目立とうとしたけれど、無駄どころか自分の首を絞めて終わってしまう。
(数少ない僕とハルトの、悲しい共通点)
不満だったわけではない、ただ……納得はいかない。けれど、納得するしかない。これが僕の人生で、宿命なのだと……。
「……だそうだが、実際はどうだったのだ? ……リリア」
「へっ?」
「……」
顔を上げると、目の前にリリアが立っていた。神妙な顔をしたまま、何も言わずにいる。またしても気づかぬうちに客がいたことに驚き、またやられたのかとシリウスをジッと見る。
「兄さん、だからさ。人を呼ぶときはさ」
「……リリアは、私が呼んだわけではないぞ」
「リリアさんは、じゃなくて」
これは自分がしたことではない、と言われても前科がありすぎるから恨めしい気持ちが抜けきらずにいる。するとリリアは自分から話を逸らされた事が不満だったのか、僕の両肩を掴んで顔を近づけてきた。
「私がハルト君に相談があったので、来てしまいました」
「そ、そうですか……」
いつも笑顔を絶やさないリリアが、今日はずっと不機嫌そうな、何か言いたいことがありそうな表情のままになっている。わざわざ僕に相談があると言っていたが、どんな内容なのだろうか。……僕の両肩はまだ離してくれそうにない。
「……次は私が席を外す番か」
「いや、多分さっきのとは全然話しが違うと思うんだけど」
「お願いいたします」
どうもリリアの相談は、思っていたよりも真剣なものらしい。ここはしっかりと聞く準備をする必要がある。……のだけれど、その前に一つやることがある。
「……お茶を出してあげたいので、続きは応接室でしませんか?」
「……わかりました」
納得して頷いたリリアは、僕を掴んでいた手を片方だけ離し、まだ掴んでいた方の手を肩から腕に移動させてまたガッチリと掴んできた。この距離感にドキドキしてしまうから一度離すために移動しようと試みたのだけれども、空振りに終わってしまった。