第3話 完璧な兄
ハルト・ユークリウッドとして目覚めてから自分は何をしていけばいいのかが全く浮かばないまま、一日が始まってしまった。そんな朝から、僕はいきなり針の筵に立たされているような気分に襲われていた。
「……」
「……」
原因は僕と向かい合って食事をする人物、兄のシリウス・ユークリウッドの放つ威圧感によるものだった。但し端から見れば彼は普通に食事をしているだけで、僕が勝手に萎縮しているという様にも思える。
(空気重っ……料理は全部美味しそうなんだけど、全然それどころじゃない……)
ひたすらに重い空気の中、僕とシリウスは食事を続ける。正面に座っている兄はずっと無表情で淡々と食事を進めている。僕が手を進めていない事も一切気にしていない様子だ。
(何もするなと言わんばかりの無言のプレッシャー……まあ、仕方ないことだよね)
そもそもこの空気はハルトのこれまでの行いが原因で引き起こされているのである。ハルトは兄と顔を会わせる度に暴言を吐き続けていた。それは食事の時も同じである。
「見下してんじゃねぇよクソ兄貴!」
「あんたと一緒にいるとせっかくの飯が不味くなるよ!」
(はぁー……思い出すだけでゾッとするような言葉を発してたんだああぁー……)
……等々、使用人に窘められたりつまみ出されてもずっとこんな調子だった。今思うとなんてひどいことをしていたのだと申し訳なさで胸が苦しくなる。昨日までとは一転、小心者に変わったハルトでもシリウスに対して不満に思うところがあった。
(どれだけ声を上げてきても、返事が返ってきた事が一度も無いんだよね)
ハルトがどれだけ言葉をぶつけても、シリウスは何も返してこない。この食事の時間と同じように僕から目を背けて無言を突き通し続けてきたのだ。ハルトにとっては、そんな彼の態度がより一層苛立ちを膨れ上がらせていた。
兄は、何事においても完璧な存在だ。勉学、運動神経、王としての資質……どれをとっても欠点が見当たらないのである。メインヒーローという役割の名に恥じぬ理想の人物像と言える。
その一方でハルトは常に周囲からシリウスと比べられてばかりだった。ハルトもそれなりに優秀な部類なのだが、兄の完璧さにはどうしても劣ってしまっていた。
「シリウスは次期の王として実に申し分がありませんな。……弟君の方は、まぁ優秀ではありますが兄とは天と地の差に感じられますねぇ」
「ハルト様も駄目って訳ではありませんが、やはりシリウス様を見てしまうと……はぁ」
いつ何時も周囲から失望の声と眼差しを受け続けるうちに、胸中の黒い感情が膨れ上がる。
(俺は、いくら努力しても兄さんの影から抜け出せないの……?)
物心がついた頃はまだ純朴で人を恨むようなことは無かった。けれどだんだんハルトに対しての評価を知ってしまう旅に心は磨耗していった。何をやっても全てを上回る兄という存在がいたために認めてもらえなかったのだ。
――あいつがいるから、僕は認めてもらえないんだ。
そんな兄の存在を、ハルトは心底憎んでいた。これが、ハルトが我が儘で周囲に当たりが強くなってしまった理由である。自分を認めてもらえない苦しさから、彼の性格は歪んでしまったのだった。
(ハルトも辛かったんだろうな……でも、もうそんな気持ちを引きずる必要はない、よね)
ただし、これらはゲームの設定のまま進んだ場合のハルトの話だ。ここに前世の記憶が介入するという完全にイレギュラーな出来事が発生したのである。そのおかげか、ここからハルトは今までと異なる行動を取っていくこととなる。
「……」
「……」
原因は僕と向かい合って食事をする人物、兄のシリウス・ユークリウッドの放つ威圧感によるものだった。但し端から見れば彼は普通に食事をしているだけで、僕が勝手に萎縮しているという様にも思える。
(空気重っ……料理は全部美味しそうなんだけど、全然それどころじゃない……)
ひたすらに重い空気の中、僕とシリウスは食事を続ける。正面に座っている兄はずっと無表情で淡々と食事を進めている。僕が手を進めていない事も一切気にしていない様子だ。
(何もするなと言わんばかりの無言のプレッシャー……まあ、仕方ないことだよね)
そもそもこの空気はハルトのこれまでの行いが原因で引き起こされているのである。ハルトは兄と顔を会わせる度に暴言を吐き続けていた。それは食事の時も同じである。
「見下してんじゃねぇよクソ兄貴!」
「あんたと一緒にいるとせっかくの飯が不味くなるよ!」
(はぁー……思い出すだけでゾッとするような言葉を発してたんだああぁー……)
……等々、使用人に窘められたりつまみ出されてもずっとこんな調子だった。今思うとなんてひどいことをしていたのだと申し訳なさで胸が苦しくなる。昨日までとは一転、小心者に変わったハルトでもシリウスに対して不満に思うところがあった。
(どれだけ声を上げてきても、返事が返ってきた事が一度も無いんだよね)
ハルトがどれだけ言葉をぶつけても、シリウスは何も返してこない。この食事の時間と同じように僕から目を背けて無言を突き通し続けてきたのだ。ハルトにとっては、そんな彼の態度がより一層苛立ちを膨れ上がらせていた。
兄は、何事においても完璧な存在だ。勉学、運動神経、王としての資質……どれをとっても欠点が見当たらないのである。メインヒーローという役割の名に恥じぬ理想の人物像と言える。
その一方でハルトは常に周囲からシリウスと比べられてばかりだった。ハルトもそれなりに優秀な部類なのだが、兄の完璧さにはどうしても劣ってしまっていた。
「シリウスは次期の王として実に申し分がありませんな。……弟君の方は、まぁ優秀ではありますが兄とは天と地の差に感じられますねぇ」
「ハルト様も駄目って訳ではありませんが、やはりシリウス様を見てしまうと……はぁ」
いつ何時も周囲から失望の声と眼差しを受け続けるうちに、胸中の黒い感情が膨れ上がる。
(俺は、いくら努力しても兄さんの影から抜け出せないの……?)
物心がついた頃はまだ純朴で人を恨むようなことは無かった。けれどだんだんハルトに対しての評価を知ってしまう旅に心は磨耗していった。何をやっても全てを上回る兄という存在がいたために認めてもらえなかったのだ。
――あいつがいるから、僕は認めてもらえないんだ。
そんな兄の存在を、ハルトは心底憎んでいた。これが、ハルトが我が儘で周囲に当たりが強くなってしまった理由である。自分を認めてもらえない苦しさから、彼の性格は歪んでしまったのだった。
(ハルトも辛かったんだろうな……でも、もうそんな気持ちを引きずる必要はない、よね)
ただし、これらはゲームの設定のまま進んだ場合のハルトの話だ。ここに前世の記憶が介入するという完全にイレギュラーな出来事が発生したのである。そのおかげか、ここからハルトは今までと異なる行動を取っていくこととなる。