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作者: こむらまこと
第9話 妖コンサートin横浜大さん橋〈四〉
 ビアンカの雰囲気が一変した。さっきまでの高飛車な態度は影を潜め、その佇まいからは荘厳さすら感じることができる。
 それに呼応するかのように、ほのかに揺らいでいた8つの鬼火が完全に動きを止めた。辺りは、耳が痛くなるくらいの張り詰めた静寂に支配される。
 ビアンカが優雅に顎を上げた。その青く鋭い目
は、遠い夜空に投げかけられる。
 細く青白い喉が上下に動くと、艶めいた赤い唇から、飴細工を想わせる繊細で美しい歌声が滑り出てきた。

 星空映す 凪の海
 静かな世界に 船がひとつ
 あのの顔を 思い浮かべて
 今夜もあなたは 舵を取る

 甘酸っぱいラブストーリーを想わせる出だしだが、それをセイレーンが歌うことにより、そこはかとない不吉さを漂わせている。

 あなたに歌を 贈りましょう
 健気なあなたに プレゼント
 あたしの歌を 聴いたのならば
 ほうら あなたは岩礁の上 

 水飴のようにとろりと甘いビアンカの声が、耳穴じけつから頭蓋の中へ触手を伸ばすように侵入し、脳の表面をずるずると這い回る。

 星空映した あなたのまなこ
 今や虚ろな ガラス玉
 赤い月が あなたを照らして
 あなたの血潮が 海を染める

 ビアンカが恍惚とした表情で両翼を広げた。雨あられと降る血飛沫を一身に受けようとするかのようなその姿に、まりかは正真正銘の魔性を見出す。

 なんて素敵なのかしら
 天にも昇る この気持ち
 あなたの破滅が あたしの幸い
 あの娘の涙が あたしの甘露

(う、上手い!)
 ビアンカのあまりにも高い歌唱力に、まりかは思わず息を呑む。彼女に太刀打ちできる人間の歌手など、数えるほどしか存在しないに違いない。
 加えて、ビアンカは自らの歌声に妖力を上乗せしている。聴く者を魅了する効果が込められたそれは、元々の美声や純粋な歌唱力の高さと相まって、何倍もの効力を発揮していた。
 その証拠に、猩々や人魚、海河童などの小さな妖たちは、軒並みビアンカの歌に聞き惚れている。冷静に聴けばあまりにも悪辣な内容であることに気が付きそうなものだが、やっかいなことにビアンカは妖力もそれなりに強い。それゆえ、力の弱い妖たちは簡単に魅了の効果と歌の美しさに惑わされてしまうのだろう。
 ビアンカはその後も、血みどろの情景と自己陶酔のことばを、飽くことなく執拗に繰り返した。
 そして、悪女の独白モノローグは、酷く薄情な詞で締めくくられる。

 波間に揺れる されこうべ
 サヨナラ あたしのお慰み

 こうして、凄惨で美しいセイレーンの歌は幕を閉じた。
 ビアンカが歌い終わっても、誰ひとりとして言葉を発さない。誰も彼もが、夢見心地に歌の余韻に浸っている。
 最初に沈黙を破ったのは、ビアンカだった。
「まあ、ざっとこんなもんね」
 事も無げにそう言い放ち、呆けたように突っ立っている聴衆を満足げに眺め渡す。
「やっぱり、ビアンカ様のお歌は素敵だわ」
 ユウナが、うっとりと呟いた。
「本当に、お歌は素晴らしいわね」
 ネモフィラが、感慨深げに頷いて同意する。
 従者ふたりの言葉にますます自尊心を満たしたのだろう、ビアンカは豊かな胸を大きく膨らませると、あざけりながらまりかを見下ろした。
「さあ、次はあんたの番よ。もっとも、不戦敗ということにしてあげても良いけど?」
「いいえ。当初の予定通り、フルートを演奏させていただきます」
 まりかはニッコリと笑って、きっぱりと宣言する。
「あっそう。好きにすれば? どうせ、このあたしには及ばないでしょうけど」
 ビアンカが鼻白はなじろんだ表情で吐き捨てた。大方、まりかが歌に魅了されなかったことを、つまらなく感じているのだろう。
「それでは、準備がありますので少々お待ちください」
 まりかはあくまで慇懃な態度でビアンカに断りを入れると、さっさととんびコートを脱ぎ、ざっくりと折りたたんでデッキ上に置いてから、ハードケースを開いてフルートを組み立て始めた。
 ジョイント部をクロスでそっと拭って、キイの向きに気をつけながら、主管と足部管、それから頭部管と主管という順番で、ゆっくりと丁寧に組み立てていく。時間稼ぎをしている訳ではなく、まりかにとっては、いつも通りの手順を踏んでいるというだけのことだ。ビアンカたちもこの作業を邪魔するつもりは無いらしく、むしろ興味深そうにフルートが組み立てられる様子を観察している。
 それはそれとして、まりかは平静を装いつつも、ビアンカに確実に勝利するための策を見出すため、その頭脳をフル回転させていた。
 演奏する曲は、既に決めている。悪辣極まりない悪女の歌には、新たな世界への夢と希望に満ち溢れた恋人たちの、輝かしい純愛の調べで対抗するのがふさわしい。
『A Whole New World』――今更説明するまでもない、人類の名曲である。これを、この性悪なセイレーンにぶつける。
(でも、普通に演奏しただけでは、まず負ける)
 勝つためには、ビアンカがしたのと同じように、フルートの音色に霊力を上乗せしながら演奏する必要がある。
 問題は、これまでただの一度も、霊力を乗せての演奏をしたことが無いことだった。理由は単純で、する必要が無かったからである。それはつまり、自分の霊力を乗せた演奏が、聴く者に対してどのような影響を与えるのかが未知数であるということを意味する。
 何が起こるか分からない高リスクな手段など取りたくないというのが、まりかの本音だ。しかし、このリスクを取らなければ、間違いなくビアンカに敗北する。
(だったら、やるしかない)
 まりかの心は決まった。組み立て終わったフルートを両手で持って、自然体でビアンカに向き合う。
(まずは、体内を霊力で満たさないと)
 軽く目を瞑って深呼吸をすると、正中線に沿って存在する7つのチャクラを知覚し、車輪を回すようなイメージで順番に回転させていく。
 基底部から始まり、丹田、みぞおち、心臓、喉、そして眉間。頭頂部を除く6つのチャクラをフル回転させることにより、幽世かくりよともまた違う存在である「霊的次元」から霊力を取り込み、身体の隅々まで満たしていく。
 まりかはもう一度、今度は肺に霊力を満たすようなイメージで深く息を吸い込み、フルートを構えてリッププレートに下唇を当てた。
 ほんのりと暖かい呼気が、今か今かと唇の間でたゆたうのを感じる。
(これなら、いけそうね)
 まりかがフルートに息を吹き込もうとした、その時だった。
「待てい」
 これまで一切の口出しをしてこなかったカナが、袂を強く引っ張って演奏を阻止した。
「きゃ!?」
 全く予想だにしなかったカナの行動に、まりかは危うくフルートを落としそうになる。
「い、いきなり何を」
「この勝負、わしも乗らせてもらうぞ」
「なっ!?」
 続くカナの発言に、まりかは目を白黒させる。そんなまりかを尻目に、カナはビアンカとの交渉を勝手に進める。
「ビアンカというたか。ここ50年で1、2を争うくらいの見事な歌であったぞ」
「あらあ。お褒めいただき光栄よ、小さな人魚さん」
「というわけでな。ひとつ、わしにも歌わせてはくれぬかの」
 カナの申し出に、ビアンカが不機嫌そうに眉を寄せる。
「あなた、いきなりしゃしゃり出てきたかと思えば、何様のつもりかしら? あたしは、そこの小娘と勝負してるんだけど」
「こやつのフルートじゃが、はっきり言ってお前さんの歌より格段に劣るぞ」
 カナがとんでもないことを言い出した。当然、まりかは異議を挟もうとする。
「ちょっと! 何を勝手に」
「まあ待て」
 カナは小声でまりかを制すと、再びビアンカに向き合う。
「そこでじゃ。こやつの演奏に、わしの歌声を添えてはどうかと考えてな。なかなかいい勝負になると思うんじゃが」
「それ、あたしには何のメリットも無いと思うんだけど」
 ビアンカが、イラついた様子で指摘した。
 それに対して、カナが挑発するように笑いかける。
「なるほど。わしに負けるのが怖いときたか。やたら威勢が良いかと思えば、所詮は虚仮威しじゃったか。残念、残念」
「なんですって」
 ビアンカが額に青筋を浮かべた。
 ネモフィラとユウナが、そっと後ずさりしてビアンカから距離を置く。
「雑魚の人魚が、随分と言ってくれるじゃなあい?」
「わしが本当に雑魚かどうか、その曇った目と耳で確かめれば良かろう」
「――っ!」
 ビアンカが、頬を引き攣らせ、刺さんばかりの殺気をカナに向ける。怒り心頭のあまり言葉も出ないらしい。こうなってしまうと下手に手出しをする訳にもいかず、まりかは固唾を呑んで見守るしかない。
「分かったわ」
 しばらくして、ビアンカが怒りを収めた。代わりに、何やら悪巧みをするかのような嫌らしい笑みを浮かべる。
人魚マーメイドごときが愚かにもセイレーンに挑んだこと、後悔させてあげる。せいぜい悪あがきをすることね」
 ビアンカにしてみれば、人魚の歌などセイレーンの足元にも及ばないという認識だった。人間界でいうところのプロとアマ以上の隔絶があり、自身の敗北など有り得ないと確信している。
(確かに、あまり見ない感じの人魚だけど。まあ、この勝負には関係ないわね)
 それでも、確かに感じてはいたのだ。
 目の前の人魚の、金色こんじきに輝く瞳の奥に、異質な何かが潜むことを。
 しかし、ビアンカはその違和感を無視した。この人魚の正体がなんであれ、何としてでも自分を侮辱したことへの制裁を下してやりたいという執念に駆られていたからだ。そして彼女には、自身の高い実力に対する、致命的なまでの慢心があった。
「うむ! 決まりじゃな」
 カナは元気良く返事をすると、やっとのことでまりかに目を向けた。
「というわけじゃ、まりか」
「というわけじゃ、じゃないでしょ! こんなの、上手くいくはずがないじゃない!」
 まりかは片手を額に当てて天を仰いだ。カナの歌に合わせてフルートを吹いた経験が無いのはもちろん、そもそもカナの歌を聴いたことすらないのだ。
 ぶっつけ本番にも程があると、まりかは絶望的な気持ちになる。
「そもそも、あなたがどんな歌を知っているのかさえ、私は知らないというのに!」
「まりかよ。昼間、最後に演奏していた曲を吹け」
「へっ?」
「ほれ、お前さんが作曲したというあれじゃ。あれを吹くんじゃ」
「は?」
 まりかの頭の中が、疑問符でいっぱいになる。
「えっと、カナさん? そもそもあれは、歌詞が無いんですけど」
「歌詞なら、さっき考えたわい。もう、いつでも歌えるぞ」
「はあ!?」
 あまりにも想像を超えるカナの回答に、まりかの思考回路がパンク寸前まで追い詰められる。
 カナが、動揺するまりかを気遣うように華奢な腕を伸ばし、紅葉のような小さな手でまりかの肩を軽く叩いた。
「わしを信じろ。お前さんは、下手な小細工は何もせず、いつもと同じように演奏すれば良い。あとは、わしが何とかする」
 まりかを見つめるその顔に浮かぶのは、幼子のような見た目にそぐわない、包み込むような暖かさに溢れた柔らかな笑み。その顔を見ていると、突拍子もないカナの作戦が本当に成功するかのように思えてきてしまう。
 まりかの思考回路は、ついに弾け飛んだ。
(もう、どうにでもなりなさい) 
 そして、普段のまりかなら絶対にしないことだが、ここに来て完全に思考を放棄する。まりかは、達観した笑みを浮かべて再び天を仰いだ。
「ちょっとお、やるなら早くやりなさいよ!」
 痺れを切らしたビアンカが、大声でまりかとカナを急き立ててくる。
 まりかは正面を向いて、表情を引き締めた。
「負けたら、あなたも一緒に下僕になりなさいよ」
 フルートを構えながら、小声でカナに話しかける。
「無論じゃ。もっとも、わしとお主が負けるなど、有り得ぬことじゃがの」
 頭の後ろで腕を組んで、呑気に答えるカナ。
「だといいけど」
 まりかはそれだけ言い捨てると、下唇をリッププレートに当てて、躊躇いなくその息吹を吹き込んだ。



 静まり返った送迎デッキに、鈴の音のようなフルートの、しんしんとした哀しみを感じさせる旋律が流れる。
 真夜中の浜辺を想わせるその序奏が終わると同時に、カナが秘めやかな声で歌い出した。

 星辰の煌めきに
 数多の巡る生命いのちを想う
 我は生々流転のことわりの外
 不変なるはこの天空そらのみ

 たおやかで、それでいてしっかりとした芯のある歌声が、優美なフルートの音色と交わり、溶けて、ゆるやかに拡散していく。
 まりかの演奏技術もさることながら、何よりもカナの卓越した歌唱力がフルートの音色を引き立て、同時に、自身の歌声をフルートの調べで装飾し、更なる技巧の高みへと引き上げている。
 この時点で、ビアンカは自身の失策を悟った。
 
 誰も我を顧みない
 誰も我を抱き締めない

 内なる激情を抑えようとするかのように震える歌声が、激しさを増すフルートの曲調と相まって聴衆の脳髄を揺さぶり、そして浸透していく。
 
 今日も明日も明後日も
 この蒼海に我は独り

 束の間、カナの歌声が途切れて、フルートの独奏が流れる。
 切なさと苦しさに溢れたフルートの旋律が、幽世のもったりとした大気を振動させて、8つの鬼火を仄かに揺らす。
 そして。
「っ!?」
 突然、空が弾け飛んだ。
 鬼火は全て消し飛び、薄らぼんやりとしていた幽世の夜空が、あっという間に黄金色をしたオーロラのような光に支配される。
 同時に、躍動感溢れるフルートの旋律に乗せた朗々とした歌声が、暴力的なまでの圧力でもってビアンカの顔面を叩いた。

 カンカン照りの青海原
 その明朗なるは傍若無人

 小さな身体から出ているとは思えない程の圧倒的な声量でもって、海の青く美しいことを高らかに歌い上げる。

 見渡す限りの水天一碧すいてんいっぺき
 我が暗澹たるは跡形もなし

 カナの顔が、歓喜に溢れる。
 ふたりの演奏に合わせて、オーロラがその色を海の青に変化させた。うっすらと網目模様が入ったそれを見て、真夏の光を受けた海面のようだとビアンカは思う。
 唖然と上空を見上げる一同をよそに、演奏は2番へと突入する。

 幾星霜の想い出が
 我がはらわたを食い散らかす
 我の生命いのちは無尽蔵
 永遠とわの責め苦に耐え忍ぶ

 僅かに怒りが滲む、胸を締め付けるような歌声が、紫色に変化したオーロラをぐにゃぐにゃと歪ませる。

 誰も我を愛さない
 誰も彼もが我を忘れる
 今日も明日も明後日も
 この絶海に我は独り

 ビアンカはなんとかオーロラから目を離すと、必死の思いでカナから流れ出る妖力の流れを観察した。莫大な量の妖力が全身から迸り、上空へと伸びてオーロラのような光を形成している。そして、まりかの身体からも、オーロラに誘引されるかのように霊力が漏出している。
 人魚の妖力と人間の霊力が混じり合ったそれは、曲調の転換と同時に再び弾けて、眩いばかりの蒼海を空に映し出した。

 クジラは飛び跳ねクラゲはたゆたう
 珊瑚はわななきジュゴンは眠る
 汲めども尽きぬ生命いのちの営み
 久遠に続く来世を想う

 カナが、ビアンカを見た。
 そこにあるのは、嫌味でもなく嘲りでもない、純粋な喜びに満ちた笑顔。
 ふいに、ビアンカは悟った。これは、ビアンカの歌への返答なのだと。
 悪辣なセイレーンですら、その偉大な愛を受けるに値する存在なのだと。
(な、何様のつもりよ!)
 カナの笑顔に耐えきれず、再び上空を見上げたビアンカは、オーロラを目にして戦慄する。

 我は数多を愛すのみ
 我は幾多を胸に抱く
 今日も明日も明後日も
 我が孤高はとこしえに

 オーロラが渦を巻き、巨大な人影のような虹色の像を形成する。しかし、それはすぐさま解けて、元通りの美しい海色のオーロラへと戻ってしまう。
 まだ不完全なのだと、ビアンカは直感する。
 そして、確かそれは正しかったのだ。もしも、まりかとカナが入念に練習を重ねた上で勝負に挑んでいたのならば、ふたりの妖力と霊力は完璧に同調し、この程度では済まなかっただろう。
 それでも、このままここに居てはいけないと、ビアンカの自己防衛本能が警鐘を鳴らした。最後まで聞きたいという誘惑をなんとか振り払い、ふたりの従者に向かって必死に叫ぶ。
「ネモフィラ! ユウナ! 撤退するわよ!」
「し、しかし」
「つべこべ言わずに命令通りになさい!」
「は、はいっ!」
 ユウナとネモフィラが後ろ髪を引かれるようにオーロラを振り返りつつも、主人の命令に従い鳥たちを指揮して、速やかに大さん橋から飛び去っていった。

 見よ 我が心の晴朗なるを
 我を汚濁で染めようと
 肉を引き裂き焦がそうと
 我は何度も蘇る
 お前たちを送るため
 かの深淵に送るため

「ひいっ」
「うわあ」
 ビアンカたちが逃走するのを見て、我に返った小さな妖たちも、次から次へと送迎デッキの欄干から海に飛び込んでいく。
 そして、妖たちがすっかり退散した頃、ふたりの演奏はしめやかに終局を迎える。

 夕焼け映す凪の海
 緑閃残して宵に沈む
 潮風そよぐ椰子の入り江
 我の心は満ち足りたり

 カナの歌声が途切れ、まりかの穏やかな終奏が流れると、次第にオーロラも薄くなり、曲が終わると共に完全に消滅した。
 まりかはリッププレートから唇を離すと、夢の余韻から抜け出るときのように、ゆっくりと目を見開く。
「あれ?」
 ここで初めて、ビアンカや妖たちが送迎デッキからいなくなっていることに気がついた。いつの間にか鬼火も消えて、辺りは完全に闇に沈んでいる。
 まりかは、少し離れたところに「おじさん」が立っているのを見つけると、そっと小さく声をかけた。
「みんな、どうしちゃったの?」
 まりかの質問に、「おじさん」は小さく首を振った。
「恐れをなして、逃げてしもうたわい」
 それっきり、黙りこくってしまう。
 まりかはそれ以上は追求せず、今度はカナの姿を探した。
「カナさん?」
 カナは、ウッドデッキの上で仰向けになっていた。両腕と尾ひれを投げ出して、暗い夜空を眺めている。
「まあ、ざっとこんなもんじゃな」
 上を向いたまま、カナが満ち足りた顔で呟いた。
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