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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百六話 斉西の戦い 七
 横城攻めを担当する将軍張唐は、手こずっていた。胡傷率いる本軍は、援軍として横城攻撃に加勢する。
 漢中軍の攻城兵器を管轄する蒙驁は、兵の損害が多いことに頭を悩ませていた。
「梯子を登る歩兵が城壁に登れなくなっている。まずいぞこれは……敵は臨淄周辺を除く国内の城が尽く陥落していることを知らないはずだが、袋の中の鼠のように、死ぬ気で抗ってきておる。こんなところで兵を減らすよりは……臨淄で使う予定の大型兵器を使うしかないか……!」
 蒙驁は、移動式櫓や弩で、城壁の上に立つ兵を攻撃した。更に惜しげもなく投石器を使い、城壁の脆い部分を集中して狙い、城壁を破壊していった。
「城壁の上に人が立てないようにしてやる! 投石を続けろ! 崩れてきたら、梯子での突撃と切り替えるのだ!」
 蒙驁率いる攻城兵器隊の猛攻により、東門での抵抗力が弱まった。報告を受けた張唐は、漢中軍と函谷軍を中心とした、楊摎率いる騎馬精兵を、後方から東門へ移し、待機させた。
 胡傷率いる本軍が攻める西門でも、敵の抵抗が弱まったことを感じ、騎馬兵を西門の一箇所にまとめた。
「蒙驁将軍へ報告! 蒙武殿率いる歩兵部隊が、梯子で城壁に登りました! もうじき階段を下り、城内から門を開けます!」
「うむ、継戦せよ!」
「御意!」
「さすがは我が倅だ。敵は満身創痍だろう……門が開けば心がやられ、投降兵や弱体化も望めよう。本軍が攻める北門も、張唐将軍が率いる南門も、破城槌により門が破壊され、騎馬がなだれ込むはずだ。しかし北門は本軍が攻めているから騎馬兵もおけるだろうが……。伝令!」
「は!」
「我が方の騎馬兵は少ない。胡傷将軍へ、一部の騎馬兵を南門にも配置し、城全体を囲うように、騎馬兵を広く展開させるよう伝えてくれ。張唐将軍へは事後報告でよい」
「御意!」
 ジリジリと城が陥ちかかっていく中、秦の将軍らは、その時を今か今かと待ち構えた。
 そして遂にその時が訪れた。東門が破壊され、楊摎が騎馬精兵を率いて城内へ雪崩れ込んだのである。
「倅も梯子を登り、部下の兵達も門から城に入っている。私も行くぞ!」
 戟を手にした蒙驁は乗馬し、門へ進んだ。城の中は投石器により投げ入れられた、火のついた油入りの瓶が割れたことにより発生した炎が、城壁近くの櫓や民家へ燃え広がっていた。
「民は無闇やたらに殺すな! 兵のみ狙え! 進め!」
 蒙驁は戟を振るい、敵を薙ぎ払っていった。屋根の上から弓を構える兵に戟を投げ、盾さえも鈍器として使い敵を粉砕し、そして倒れた味方の戟を拾い、向かってくる敵騎兵と一騎打ちになった。
 言葉とは呼べない雄叫びをあげ、互いに殺意を向け合う。そして敵が振りかぶった戟を交わし、胴体を鎧ごと貫いた。そしてその骸から流れる血を全身に浴びながら、天高く掲げ、雄叫びをあげた。
 その姿を見た秦兵の士気はうなぎ登りとなり、その勢いのまま、秦軍は横城を陥落させた。

 横顔城を陥落させた胡傷は、自軍の損害が予想より多くなったことで、薄姑攻めを成功させられるのか、不安に駆られていた。
「我々が薄姑を包囲し攻めることで、付近の臨淄を合従軍全体で包囲することができるのだ。やれるのか……我々は」
「弱気になるな胡傷殿。この張唐、自らが戟を振るうことになっても、最後まで戦い抜きますぞ」
 いくらか不安を拭うことができた。その直後、伝令が現れた。
「斥候より報告! 臨淄に楚軍が入城したとのことです!」
「なんだと……! 今までなんの動きもなかった楚が、もう陥したのか!」
 混乱する胡傷に、伝令は伝えた。
「いえ! 楚軍は一つの城も陥すことなく、臨淄へ入城しています!」
「楚が……裏切りおったか!」
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