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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百五話 斉西の戦い 六
 白起が咸陽へ帰還する為軍を離れ、胡傷がその後任に着く。
 白起は将軍胡傷に後を託し、軍を離れた。国尉として戦後の斉領の統治について、丞相魏冄や秦王と論じる為、咸陽へ帰還するのだ。現地の状況を直に見た白起は、合従軍の盟主である燕が虐殺を働いた為、その統治は難しいと考えていた。その件にどのように対処するか、白起は悩んでいた。
「齕よ、このままでは我が秦は領土を得る所か、その掌握の為に骨を折り、灰塵と化した無数の城を手にする末路を辿ることになる。どうしたものか……」
「私めの知恵では、打開策は見つかりませぬ……」
「燕人の恨みが深いとはいえ、まさか将がそれを止められぬとは……。楽毅殿は戦は上手くとも、兵と心を通わせることはできていなかったということか。明日は我が身だ。一層、将兵との信頼を高めていかなくてはな」


 斉 胡傷
 将軍胡傷は、初めて全軍の将として、部隊を指揮する。その大任に彼は一抹の不安を感じてはいたが、副将の張唐を初めとした、共に死地を駆け抜けてきた仲間の存在が、彼に勇気を与えた。
 三つの城を同時に攻撃していた秦軍だったが、二つが陥落し、残るは一つのみとなっていた。胡傷は攻城戦に参加した部隊を野営地で休ませ、そして野営地で待機していた本軍を自ら指揮し、最後の城である横城(おうじょう)を陥しにかかった。
 そこは臨淄周辺の最終攻略地点から見て、西側最後の砦であった。その為一進一退の攻防戦が繰り広げられていた。
「ここを攻めているのは張唐将軍か。損耗激しく、色々な部隊を編入した混成部隊となっているが……その中には我が漢中軍からの編入部隊もある。蒙驁も前線で戦っている。臨淄を攻める為にも本軍を損耗したくはないが……私も敵を討つ為に戦い抜かなくては!」
 胡傷は軍を率い、横城を包囲した。追加の攻城兵器を使って、疲れた兵と代わる代わる、本軍の兵士で定石通りの攻撃を継続した。
「横城を抜ければ……次は臨淄一帯を包囲することになる。位置的には我が軍が次に攻めるのは旧都の薄姑(はくこ)だ。相当な抵抗が予想される故……ここで余り兵力を減らしたくはない……!」
「胡傷殿、我が方は本軍の加勢により力を士気があがったが、敵はその逆のはず。ここは一気呵成に、突撃すべきです」
「そうだな張唐将軍……。突撃だ!」
 胡傷は、横城攻撃部隊の全部隊での総攻撃を命じた。兵は破城槌を城門へぶつけ、同時に城壁に梯子を掛け、それを登っていく。内側から門を開けようとして意気揚々と梯子を登る秦兵だが、それを妨害しようと、城壁から投げられる岩や熱湯により、次々と落とされていく。
 攻城部隊に属する蒙武は、楽隊へ叫んだ。
「味方が怖気づいてるぞ! 太鼓と銅鑼を叩け! 兵も声を出して奮起させるのだ!」
 背後から味方の応援を受け、兵は倒れても立ち上がり、城を攻めた。
薄姑……斉の旧都。献公の時代に臨淄へ遷都された。
所在地は不明。
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