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作者: 星埜銀杏
レベル01 復活の呪文ってなに?
 なにを!

 総攻撃だとッ! クソう。……まだ俺達のレベルは低い。

 だがな!

 魔王の配下などには負けてられんのだ。俺には夢がある。

 魔王を倒すという夢がなッ! ソレを叶える。必ずやッ!

 僧侶。そして賢者。やるぞ。お前らのパワーを俺にくれ!

 俺たちは魔王を倒す。絶対にッ!

 いくぞ!

 チーン。

 勇者は死にました。真面目に。普通に。……パーティーも全滅。ちゃんちゃん。

 遺影ッ!

 俺は殺された。魔王に。当然なのだが、俺は勇者などではなかった。そう証明された。魔王が復活してモチ〔この世界の名前〕は闇に包まれようとしている。魔王を倒すべく勇者が生まれた。まあ、良くある異世界ものの良くある設定だ。

 そして勇者は殺された。魔王に。俺も、その時、死んだ。

 普通に。

 俺はモブ。名などいらぬ。名があってはならない。モブキングになるからこそ。

 遺影ッ!

 無論、誇れる事など何もない。むしろ、誇れるものがないというのが誇りだ。ゆえにモブキング。むしろ、俺を見て俺を除く全てのモブたちが歓喜し、それこそ僕らでも主人公を張れると胸を張れるくらいのモブキングになるのだ。

 俺はな。

 そうだ。モブキングに俺はなるッ! なのだわよ。遺影。

 それこそが俺の誇りであり、綻びなんだよ。分かるかな?

 喜びじゃないぞ。綻びだ。綻び。

 そして、

 ココに居る。ココとは謎の空間。

 バックも空も地面も、全てが真っ白だから真っ白インとでも名付けておこうか。

「ビチ、復活の呪文を入力して下さいまし。よろしこさね」

 ビチ? それは何だ? 一体、どういう意味が在るんだ?

 いやいや、それよりも復活の呪文ってなんだよ? 復活って、俺、復活すんの?

 ちょっと待て。俺は、魔王に殺され、ココに居る。であるならばだ。復活なんてしたら、また殺される。魔王に。いや、むしろ、生前の俺は、魔王の命で、勇者が育つ為、殺しておけ、という理不尽極まりなく殺されたのだよ。分かる?

 だったら、また殺されるのは目に見えてるわな? ゆっくりと眠りたいのだよ。

 俺はな。

「ビチ、復活の呪文を入力して下さいまし。よろしこさね」

 お前は、それしか言えんのか? てか、だからビチってなんなのよ。犬の名前?

 ポチみたいな? プチ、ケチってな。遺影ッ!

 というかだ。どこから聞こえてくるんだ。この声。トーンなんて洒落た言葉を使うような人間じゃないが、このハイトーンボイスを聞いていると、トーンと言いたくなる。キンキン声とは言わないがオバちゃんが電話する時に出す声だ。

「オホホ」

 と俺だ。

 笑った。

 いくらか悲しくなったので敢えて笑ってやる。

「あら、お久しぶりデスの。デスワノートの方は順調でして? あ、デスワノートなんて言っても誰も知りませんわね。でも、それでいいのですよ。ホホホ」

 なんてオバちゃんボイスで野郎を煽ってみる。

 無論、野郎とは、ハイトーンボイスの阿呆だ。

 というか、デスワノートなんての悪役令嬢が使いそうなブツだな。危険なやつ。

 遺影ッ!

 というかだな。ノリノリで、遺影ッ! なんて言っているが、実はボロロン・ハートなのだよ。俺はな。テンション高めで、ふざけてないと普通に涙が出てくんのよ。だって、思わねぇ? 理不尽に殺されれば誰だって傷心に昇進だべが?

「ビチ、復活の呪文を入力して下さいまし。よろしこさね」

 だから!

 あんさんはソレしか言えんのか? オームかよ? てか、鳩心理計の信者かよ?

 いや、まあ、いくらかヤバい発言だが、鳩心理計の信者には分からんだろう。いや、むしろ、人類が生み出した智の巨塔においても、その真相が暴露される事もなかろう。なんて安心していると、それこそ智の賢者が顕われてだな。いや。

 それはないか。大丈夫。それでも、心配なら、神に祈れ。今だけな。

 都合が悪い今だからこそ、だぞ。

 俺よ。島よ。友よ。と。意味が分からん。まあ、ノリだ。

「ビチ、復活の呪文を入力して下さいまし。よろしこさね」

 またか!

 しつこいな。いい加減、イライラだぞ。イライザだわよ。

 タマゴ運びテストで満点を獲るぞ。モブキングの俺がな。

 遺影ッ!

 つうか。

 復活の呪文って、そういえばオカルトを紹介する吟遊詩人の詩で聞いた事があるぞ。片仮名や平仮名を指定された文字数だけ入力して実行すれば勇者が復活するという太古の昔に在ったパスワード的なものだ。それを入力しろだって……。

 そだな。

 入力の仕方も気になるが、その前に、ビチとは、なんなんだ問題を解決したい。

 思うに。ビチとは、新種の餅じゃないだろうか。もちろん、餅と断定する為の百地三太夫的な閃きは無いが、ガチムチな脳が、そう叫んでいるのだ。そんなオチでも、いいのか? 本当に? な、ぼっちなツッコミは、ぶっち。と叫ぶのだ。

 脳がな。

 俺は、頭の中へと思い浮かべる。

 ビチとはなんだ? 応えろ、と。

 それしか謎のハイトーンボイスに問う手段が思いつかなかったからだ。オッケ?

 さっきのオバちゃんの電話声は普通に無視されたしな。聞こえてないんだろう。

 多分な。

「了解。妖怪ですの。無事、復活の呪文を受け付けました」

 ジョン!

 ちょっと待ってプリーズ。受け付けたの? ……今ので?

 そうか。

 入力とは頭の中に思い浮かべる事だったんだな。いやいや、今更、冷静になって状況を把握している場合じゃない。復活の呪文が受け付けられたのだ。という事はだ。モブキングである俺が復活して、また理不尽に殺されるのだ。魔王にな。

 クソう。

 筋力はなし。知能、猿。俊敏性、タコ。そして、魅力、ミジンコ。野望は……、

 信長の野望をやって満足する俺がだぞ。しかも全国統一すら出来ない俺がだぞ。

 てか、信長の野望って何だ? 全国統一って? 知らないワードが攻めてきた。

 嫌だ。復活したくない。マジで。と必死で現実逃避する、俺の、お猿の脳にだ。

 止めて。

 本当に止めて。復活なんて……。

 それこそジョンだわよ。ジョン。

 そして、

 ビチとは何なのかを放っておいたまま俺は復活する事となる。無論、例によって例の、体が光り、意識が途絶え、というヤツだ。まあ、でも思うよね。どうして、こうも同じようなシュチで復活するのかって。勇者〔俺は違うが〕は……。

 形式美?

 なのか?

 とか俺の考えなんか、どうでも良くて、ともかく、遺影ッ! な状況になった。

「私は魔王。……ビチにはキリキリと働いてもらうさね。この世が闇に包まれるのを防ぐ為。まあ、でも短期打ち切りなんて憂き目に合わぬよう頑張るさね」

 でしょ?

 魔王君。

「うむ。余も魔王。……ビチには役に立ってもらうぞ。モブキングだからこそな」

 などというファッキンな声が脳内に染み込んできて俺の意識は完全に途絶えた。

 プツン。

 遺影ッ!
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