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作者: konoyo
R-15
あたしからふうわへ
 しばらくするとお母さんが看護師に呼ばれて部屋を出た。あたしの容体について医者からなにか説明があるのかなと思った。しかし十分程で戻ったときにはあたしは声が出そうになるくらい驚嘆もしたし、感激もした。お母さんは腕の中にふうわを抱いて戻ってきたのだ。あたしは大きな喜びの声をあげたつもり。ふうわにも、他の誰かにも届きはしなかったけどさ。

「優江。ふうわちゃんが逢いに来てくれたわよ。ママに逢いたかったんだって。ママを応援したいんだって。」

お母さんに抱かれたふうわは眠っているように見えた。だけど、ふうわは眠っているわけではなくまだ目が開けられないのだ。当たり前だろう。まだ生まれて間もないのだから。だけどあたしは確かにふうわの視線を感じた。あたしを呼ぶ声も聞こえた。ママ元気出してねって言う声がはっきりと聞こえた。
 
あたしの愛おしいふうわ。ママに逢いに来てくれてどうもありがとう。ごめんね。ママはあなたと一緒に暮らすことは出来ないみたいなの。とても残念で悲しいね。ママはおなかの中にあなたが来てくれたときからずっと幸せだったのよ。それまで悲しいことの多いママの生活だったけど、あなたのお蔭で希望が持てたの。生きることは辛いことばかりじゃないんだってね。百の辛いことや悲しいことがあっても、ただひとつあなたがあたしの赤ちゃんだっていうことだけであたしは幸せな人間だって思えたよ。

不思議ね。まだ産まれたばかりのあなたは目を開けないはずだし、当然お話しすることだって許されるわけがないのに、あたしの声にならない声を聞いてくれている気がするわ。

ママはかなうならばもう少し長生きしてあなたを思いっきり抱き締めたかった。色んなところにお散歩に行ったり、綺麗な景色を見に行ったり、色んなお話をしてあげたかった。あなたはあたしの全てだもの。

ふうわ。あなたの周りにいる人はみんな素敵でいい人よ。おじいちゃん、おばあちゃんは優しいし色んなことを知っているからきっとたくさんの素敵なことを教えてくれるわ。

あなたのパパはとても格好いい人よ。普段はおとなしくて静かな人だけど、中身はとっても情熱的で強い心の持ち主なの。だからあなたのことをきっと守ってくれるわ。感受性も豊かだから美しいものや綺麗なものをたくさん見せてくれるわ。困ったときにはなんでも相談に乗ってくれるし、あなたになにかがあれば、いつでも助けてくれる頼りになるパパよ。

お願いだからあなたは長生きしてね。あたしのようになっちゃ駄目よ。みんながあなたに希望を寄せているの。あたしには弟がいてね、とても可愛い子だったのだけど幼い頃に死んでしまったの。ママももうあなたとお話しすることも望めやしないわ。だからママとママの弟の分まであなたはこの世界で十分に幸せになってね。たくさん笑ってね。それがみんなの望みだから。あなたの幸せがみんなの幸せだから。

どうか仲の良い友達をたくさん作ってね。困ったことでも、可笑しいことでもなんでも話し合えて笑い合える友達を。友達とはとても素晴らしいものよ。友達と一緒にいるだけで毎日というものは明るく光り輝くの。そしてあなたの心を優しく照らしてくれるものよ。ママにも大切で素敵な友達がいたわ。あなたにも見えるでしょう。ママはそこにいるふたりの友達のお蔭でここまで生きて来られたの。大袈裟じゃないのよ。ママが苦しいときにはいつもふたりが支えてくれたの。あたしは何度もふたりに助けられたわ。ふたりはママのために努力もしてくれた。辛いときには心底心配してくれたし、いっぱい笑わせてもくれた。友達というものはなにものにも代えがたい大切なものよ。

そしてもうひとつ。あなたには夢を持って生きて欲しいの。ママにはずっとそれが無かった。だけどね。元気なあなたを生みたいという夢を持ってからはとても幸せだった。どんなことでもいいの。些細なことでも。夢というものを持てば毎日ドキドキ、ワクワクすることがいくつも増えるわ。

ママは死んでもあなたのことをお空で見守っているからね。神様、どうかこの子だけは幸せな一生を送れますように。それがあたしの最後で最大の願いです。あたしの短かった人生の代わりにこの子を長生きさせて下さい。

 あたしの頬に熱いなにかが流れた。もう自分では感覚もたいしてないのだけれど、あたしは泣いているのだろう
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