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作者: konoyo
R-15
大丈夫?ねえたん?
 春休みになってもなんにもする気にならなかった。今日はあたし以外の家族はみんなで動物園に行っているが、あたしは、体調が悪いと言ってひとり家に残っている。

 でも、ほんの少し後悔しているんだ。あたしは今更動物園に行きたいとも思わないけど、岳人のことが心配。岳人は今どんな顔をしているのだろう。どんな気持ちでいるのだろう。あの子はあたしのことが大好きだ。あたしと一緒じゃない動物園、ちゃんと楽しめているのかな。

 携帯電話に果歩ちゃんからの着信が毎日あったけど、放っておいた。学校という居場所を失くしてからはまたふさぎ込んでいたから。四日目にやっと電話に出ようという気持ちになった。家に閉じ籠っていても心配をかけるだけだと当たり前のことに気付いたから。

「優江、大丈夫?まだ、元気にならないの?」

 実を言うと果歩ちゃんにはつらいこともすべて話したかった。唯一心を許せる大切な友達なのだから。だけどだからこそ話せないんだよね。無駄に心配かけたくないと思うのがあたしの気質。だからなるべく気丈に振る舞わなきゃ。

「思ったより優江が元気でよかった。ずっと心配だったの。ねえ、少し元気になったら一緒にお出かけしようよ。新しい文房具買ったり、プリクラとったりしたいな。」

 返事を選ぶ権利などない。これまで心配をかけ続けたのだから。

「よかった。嬉しいよ。じゃあ明日お昼に優江のうちまで迎えに行くね。」

 果歩ちゃんが安心してくれたみたいで、あたしも胸を撫で下ろすことが出来たかもしれないが、気分がよくなるわけではない。むしろ気が重い。果歩ちゃんと会うまでにこの顔色をなんとかしないとならない。その為にはまずはベッドから抜け出さないとならないよね。

 そして、部屋から外に移らなきゃ。恐る恐るリビングに出てみた。みんな出かけているみたい。ソファに座って大きな深呼吸を繰り返し視線を少しずつ上げてみる。なにも問題ない。見慣れた景色だ。しばらくすると外から聞き慣れた声が聞こえてきた。岳人の声だ。岳人はリビング入ってあたしを見つけるなり抱きついてきた。

「姉たん。姉たん。」

 お話が大好きな岳人なのに、あたしの胸に顔を埋めてそう呼びかけるだけだった。顔色は確認しなかったけれど泣いているのではないだろうかと思える声色だった。岳人の髪型がくちゃくちゃになるくらい強く撫でまわしてから頭を抱き締めた。そうだ。果歩ちゃんだけじゃない。あたしが部屋の中に籠っていると悲しんでくれる人は他にもいるのだ。その人達の気持ちも察することの出来なかった自分が恥ずかしい。姉たん、もう元気を出すからね。
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