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作者: konoyo
R-15
なにものでもない女子小学生の何気ない一日(午前)
 我が家の二階には部屋がふたつあってひとつはあたしの部屋。もうひとつは岳人の部屋。岳人はまだ子供だからひとりで寝つけずに八時頃にはママが寝かしつける。ときにはあたしが寝かしつけることもある。可愛いんだ。ベッドに一緒に入ると、

「今日は姉たんが一緒に寝てくれるの?」

「そうだよ。」

そう返事をすると、

「に〜。」

と言う。に〜って笑顔になるだけじゃなくて本当に声に出して、

「に〜。」

と言う。

 そうして、今日学校であったことをたくさんあたしに話してくれるのだ。とっても他愛ない話なのだけど。話をしながら自分で大声を出して笑ったり、あたしに、

「ね。おかしいでしょ。」

と語りかけてきたりする。あたしは岳人が可愛くて、可愛くてこの子の笑顔を見ているだけで心が嬉しくなる。本当に愛しいなあといつも微笑んでしまう。
 
 どうなのだろう?他の姉弟ってこんなに仲良しなものなのかな。まあ、岳人とだったら、たとえブラコンって思われてもいいや。あたしはあまり世間の常識とかは気にしない。

 可愛い岳人を寝かしつけたあと、あたしがベッドに入る前に本日最後のおつとめが待っている。

 あたしの部屋にはベランダに出るための大きな窓と、それとは別の小さなスライド式の窓が付いている。それぞれに立派な雨戸がついていているのだが、もう一度しっかりその鍵を閉めなければならない。

あたしはその雨戸の鍵をカチャカチャと手で触って鍵が閉まっていることを確認する。ただ、大きな音をたてては一階にいる両親に気付かれてしまうので、出来るだけ音をたてないように何度も繰り返す。ひとつの窓の施錠を確認したら、もうひとつの窓を。それも確認したら次は岳人の部屋のふたつの窓でも同じことを繰り返す。岳人の部屋での確認が済んだら、最後に岳人の顔の目の前まで近づいて、

「おやすみなさい。」

と小さな声で呟く。しかし、そうすると今度は自分の部屋の窓をしっかり施錠確認が出来たかどうかの記憶が定かではなくなる。不安を胸にしまい込めないあたしはもう一度自分の部屋の窓を確認し、それが終わるともう一度岳人の部屋の窓を確認しに行く。どうしても、最後には岳人の部屋を確認したかったの。 

 もしも、なにかあった場合に絶対に岳人の身を守りたいという気持ちが強かったからね。あたしは毎晩同じ行為を最低でも二往復は行ってからでないと落ち着いてベッドの中に潜れないのだった。
 
 そして、ベッドの中に入ると両手を胸の前に組んでお祈りのようなポーズをとる。

「神様。うちの家族がいつまでも仲良く幸せに暮らせますように。もしも、家族の誰かが事故にあったり、病気になったらあたしの寿命を削って他の家族に分け与えて下さい。今日も一日幸せでいられました。ありがとうございます。」

 そう心の中で呟いて眠ることにしていた。
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