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作者: 山のタル
残酷な描写あり
181.報告会2
「……あっ、そう言えばミューダ、あなた浮遊島で一体何をしていたの?」
 
 忙しくて聞き出すタイミングが無かったけど、進化の件でミューダに相談した時、ミューダはプアボム公国の方を監視すると言っていた。
 だけど当のミューダは監視をアインに任せると、当時プアボム公国の近くを飛んでいた浮遊島にさっさと行ってしまったらしい。
 その後アインはミューダから「浮遊島の勢力が援軍として向かう」と連絡を受け、それを聞いた私は「援軍の到着をサポートするように」とアインに言い付けた。
 しかしその後、ミューダからは何の連絡も来ることはなかった。私にもアインにもだ。
 
「成功したら話すって言ってたし、そろそろ聞かせてもらおうかしら?」
「そうだな、実験も一応成功と言えるものだったし、話すとしよう」
 
 ミューダは自分の紅茶を一口飲み、自分が戦争中に何をしていたのかを話し始めた。
 
「セレスティアには話したことだが、我はしばしばお前達に内緒で浮遊島の様子を見に出掛けていた。あの島が空中に浮いていられるのは、我の開発した『大規模浮遊魔術』が施されているからだ。我はその様子を定期的に確認しに行っていたのだ」
 
 これはミューダがモランの家族を連れて帰って来た時にミューダから聞き出したことだ。
 浮遊島が浮き続けるためには『大規模浮遊魔術』の維持が必要らしい。
 だけどミューダ曰く、『大規模浮遊魔術』の実験が成功したのは運が良かったとのことで、ミューダ本人はこの魔術術式の完成度に納得していなかったらしい。
 だから定期的に浮遊島に行って、魔術術式の確認と調整をしていたそうだ。
 
「それと同時に、我は浮遊島で“ある研究”も同時に進めていたのだ」
「ある研究?」
「そうだ。あの時はその研究の実験準備が丁度整っていたからな、ついでに試してみることにしたのだ」
 
 だからミューダはプアボム公国の監視をアインに任せて浮遊島に行ったのか。研究していた実験を進めるために。
 
「それで、その研究って一体何だったの?」
「新しい魔術、『砲撃魔術』の開発だ」
「砲撃魔術……?」
「その名の通り、魔力を砲撃の砲弾の様にして打ち出す魔術だ。原理としては魔力弾と同じと思ってくれていい」
 
 魔力弾は自身の魔力を塊にして打ち出す魔術だ。
 魔術師なら誰でも使える初級的な魔術だが、汎用性と応用性が非常に高くて術者の好きなようにアレンジ出来る為、上級者でも多用する魔術師がいるほどだ。
 
「砲撃魔術は魔力弾の規模を更に発展させたものだ。一つの魔法陣に多人数が魔力を込めて、それを一つの大きな魔術として打ち出す。魔力弾は個人で扱う魔術、砲撃魔術は多人数で扱う魔術と想像すれば違いが分かり易いだろう」
「それでは、浮遊島から放たれたあの魔術攻撃が?」
「そうだ、あれこそが我の開発した『砲撃魔術』だ。その威力と実用性は実際に目にしたアインが理解しておるだろう」
 
 そう言われてアインは黙ってしまう。それが何よりの答えだ。
 浮遊島から謎の魔術攻撃があったことは、アインからの報告で聞いていた。
 予想はしていたけど、やっぱりミューダの仕業だったのね。
 
「ただ、この魔術もまだまだ改良の余地があるな。たった3発撃っただけで魔力を込めていた翼人族が全員魔力切れで倒れてしまった。予想以上に燃費が悪すぎる……」
 
 ミューダはぶつぶつと砲撃魔術の改善点を呟いているが、それは自室に戻ってから一人でやってほしいものだ。
 
「それにしても、どうしてそんな魔術を浮遊島で実験したの?」
「ん? ああそれはな、この研究の発端がエールフィングに相談されたことから始まっているからだ」
「エールフィングさんから?」
 
 エールフィングさんはモランの祖父で、浮遊島全体を取り仕切っている“島長”と呼ばれる人物だ。
 
「セレスティアも翼人族の過去を知っておるだろう? いくら浮遊島で空に逃れたと言っても、それで翼人族自体が強さを得たわけではない。だからエールフィングはこの先の事を考え、が必要だとずっと言っていたのだ」
 
 確かに、翼人族はミューダのお陰で空に生存権を移すことに成功した。でもそれはミューダの言う通り翼人族自体の強さにはならない。
 今はいいかもしれないが、将来再び翼人族が危機を迎えるかもしれない。
 もしまた本当に危機が迫った時の為に、何かしらの手段を用意しておこうと思うのはある意味当然のことだ。
 
「そこで我は思いついた。折角浮遊島で空に浮いているのだから、その利点を活かした魔術を作ればいいと」
「そして思いついたのが砲撃魔術だった、ということね」
「その通りだ。今現在に限って言えば、空中に浮いている浮遊島に対抗する手段はこの世にほぼ無いと言っていい。そのような手の出しようのない上空から魔術が降ってくることを想像してみよ」
 
 ミューダに言われて軽く想像してみるが、地上が地獄絵図になる情景しか見えなかった。
 
「……少なくともそんな場所には居合わせたくないわね」
 
 まあとりあえず、これでミューダが何をしていたのかは分かった。
 結果として、浮遊島の参戦が戦いの早期決着の切っ掛けになったのは、アインからの報告でも間違いはない。
 私としてはこれ以上ミューダに何か言うこともないので、この話題はこれで終わらせることにした。
 
 その後は、ブロキュオン帝国軍別動隊に同行していたクワトルとティンク、『ミーティアの工房』や貿易都市全体の動きを見張っていたサムス、屋敷の留守を任せていたニーナ達の話を聞いて、これで一通りの情報を全員で共有する事が出来た。
 そうなると次の問題は、これから私達はどうするべきなのかであるが……これの答えはもう出ている。
 
「とりあえず私達は戦争の話題が落ち着くまで、あまり出歩かない方が良いと思うわ。その間に私達が今回の戦争に関わったことを、オリヴィエやエヴァイア達が何とか誤魔化してくれるはずよ」
 
 オリヴィエは私達の事を最も考えてくれている理解者の一人だし、エヴァイアも私との関係を維持するために手を尽くしてくれるだろう。
 勿論二人の力を持ってしても、私達の存在全てを隠すことが不可能なのは分かっている。
 だからこそ世界の情勢が落ち着くまで、大人しくこの屋敷に引き籠っているのが賢明なのだ。
 
「多分、落ち着いたタイミングを見計らってオリヴィエがここに来るはずだから、それまでは余計な行動はしないようにしましょう」
 
 私の提案に全員が頷いて同意する。
 それからは今後の事をみんなで少しだけ話し合って、その場は解散となった。
 それからオリヴィエがここに来るまでの間、私達は各々時間を潰しながら屋敷で過ごすのだった。
 
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