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作者: 山のタル
残酷な描写あり
138.プアボム公国へ3
 それからクランツ公爵とウルマン伯爵が語ってくれた王都陥落の内容は、僕達に大きな衝撃を与えるものだった。
 
 堅牢な城壁が、たった一人の魔術師が放った魔術で崩壊したこと。
 その魔術に巻き込まれて、王国軍の3分の1が壊滅したこと。
 王都防衛敗北の責任を取って、父上が王位を僕に譲ったこと。
 そして、“王権派”の足止めをした後、父上とカンディ殿が自害したことを……。
 
「そうか、父上とカンディ殿が……」
「はい……」
「…………」
 
 お互いの父親の死を知り、僕とシェーンが受けた衝撃は大きかった。
 ……しかし驚くことに頭の片隅では、父達のその行動に奇妙な納得を得ている自分もいた。
 そしてそれは、シェーンも同様だった。
 
「……少し前から、父上は僕が国王になる為の教育に力をいれていた。今思えば、このような事態を想定していたからなのかもしれない……」
「私も、最近父が宰相として得た知識や経験を、よく話してくれていました……」
「そういえばカンディ殿が、ルーカス様に王位が譲られた後はムーア44世と共に隠居なさるつもりだったとおっしゃられていました」
「カンディ殿がそんなことを……」
 
 父上達が僕達に内緒でそんなことを考えていたなんて……。
 ……いや、それを考えていたからこそ、ムーア王国の未来を第一に考えていたからこそ、ムーア王国で一番影響力が高かった自分達が権力から完全に離れる道を選んでいたのだろう。
 それがサピエル法国と“王権派”が早期侵攻をして来たために、このような結末を選択せざるを得なかったのだろう。
 
 ……もしあの時、僕が無理やりにでも父上とカンディ殿も連れ出していれば……いや、これは無駄な考えか……。
 あの時の父上の意思は固かった。僕がどうこう言ったところで父上とカンディ殿は王都に残ることを選択しただろう。僕に王権を譲ることを考えていたというなら尚更だ。
 
「……それでルーカス様、これからどうなされますか?」
 
 落ち込んでいる僕を気遣いながら、クランツ公爵がそんなことを聞いてきた。
 
「どうするとは……?」
「恐れながら、ムーア44世は亡くなられ、現在ルーカス様がムーア王国の王となられました。……おそらくここまでの現状は、ムーア44世とカンディ殿が想定していたものより大きく外れてはいないはずです。
 であれば、そのお二人の意思を継いだルーカス様に我々の、今後のムーア王国の指針を示していただきたく存じます」
 
 クランツ公爵のこの言葉を聞き、マリエルが怒りを露にした。
 
「貴様ッ! ムーア44世をお助けできなかったくせによくもそんなことが――!」
「よせ、マリエル!」
 
 僕はすかさずマリエルを止めた。
 
「しかしルーカス様!?」
「マリエルの言いたいことも分かる。だが話を聞く限りでは、父上達の死を止めることは誰にも出来なかっただろう……。
 それにクランツ公爵の言う通り、新たな王となった僕が皆を導く新しい指針を示さなければ、父上の死を知った者達が不安がってしまい、王都を取り返すこと自体が難しくなるだろう」
「それは――」
 
 マリエルは一瞬否定しようとしたが、僕の言っていることの正しさを理解してしまったために言葉に詰まってしまった。
 
 ……僕は王族として、王となった以上、ムーア王国に暮らす全ての者を導かなくてはならない責任がある。
 事前に父上から教えを得ていた為か、それはすぐに自覚できたし、覚悟も受け入れられた。
 そして僕が成すべき事は、王都を出てから何一つ変わっていない!
 
「僕達は王都に戻らなくてはならない。これは絶対目標だ!
 だけとそれには悔しいことに人手が足りない。だから僕は当初の予定通り、プアボム公国に行って援軍を要請する! そしてムーア王国国王の名の下に『王都解放連合軍』を結成する!
 敵対国であるサピエル法国、そしてその侵略行為に荷担した“王権派”達を僕は断固として許さない! プアボム公国と連合軍を結成次第、これらの敵を徹底的に排除し、僕は王都に戻り“新王権”の樹立を宣言する!
 皆、どうか僕に力を貸してくれ!」
 
 僕は立ち上がり、その場にいた者全てに届くように大声でそう宣言した。
 
 一瞬の静寂が流れる。
 そして真っ先にシェーンが動いた。
 シェーンは片膝を地面に付けると僕に向かって深く頭を下げてこう言った。
 
「ルーカス様! ……いえ、ムーア45世の望みのままに!!」
 
 シェーンの言動に感化され、マリエルやクランツ公爵とウルマン伯爵、そして周囲にいた兵士全てが、シェーンと同じく膝を付き、頭を深く下げてこう言った。
 
「「「「「ムーア45世の望みのままに!!!!!」」」」」
 
 僕に対する忠誠心が、全方位から向けられた。
 それはとても大きなプレッシャーだった。だがそれは僕が今後背負わなくてはならない重しだ! 
 王国全体で見ればその重さは、今受けているものの数百倍にも上るだろう。
 
 改めて、王というものがいかに重要なものなのか痛感したことを、僕は一生忘れないだろう。
 
「皆、よろしく頼む!」
「「「「「おおおおおーーーーー!!!!!」」」」」
 
 地鳴りのような歓声が、夜の静寂を切り裂くように轟いた。
 
 
 
 それから僕は、今後の行動について命令を下した。
 まずは僕が率いている第一騎士団は、予定通りこのままプアボム公国へ一直線で急ぐ。
 そして第二騎士団はこの先にあるクレメント大公の領地へ向かい、そこで各領主軍の兵力を結成し、防衛線を展開する。そして同時に“新権派”の全ての貴族達に可及的速やかに伝令を飛ばし、事の顛末と新国王の誕生を知らせ、侵攻してくるサピエル法国軍の迎撃作戦の参加を伝える。
 
 そしてクランツ公爵とウルマン伯爵は、現在こちらに向かっている近衛兵達と合流してもらい、その護衛を任せることにした。
 二人には再び内部工作員として“王権派”の方に戻ってもらう事も考えたが、この状況になってわざわざ戻るメリットが少ないと、クランツ公爵やシェーンから打診されたので、このままこちらの陣営にいてもらうことになった。
 
 そして翌日、日の出と同時にそれぞれが一斉に行動を開始した。
 
 
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