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作者: 山のタル
残酷な描写あり
130.王都防衛戦2
 ダレンは兵を率いず単騎で駆けた。馬で行動したこともあり、使者と思われる人物のもとにはすぐに到着することが出来た。
 
「そこのお前、その場で止まれ!」
 
 ダレンの言葉にその人物は素直に足を止める。
 ダレンはその人物と一定の距離を置き、馬から降りてその人物を観察した。すると遠くからでは見ることが出来なかった素顔を窺うことが出来た。
 
 その人物は若い男性だった。40歳手前になるダレンよりも若そうな顔で、身長はダレンとそれほど大差がない。
 ローブで全身を包んでいるが不自然な膨らみはなく、一見する限りでは武装らしきものは無さそうだった。勿論小型の武器を所持している可能性は捨てきれないが、もし所持していたとしても、距離を十分に取った上に鎧でしっかり武装しているダレンを小型の武器で仕留めることは難しいだろう。
 となれば残る可能性は、武器を必要としない魔術師か、本当にただの使者か、はたまたその両方か、もしくはどちらでもないか……。
 外見だけではこれ以上の判断は難しいと結論付け、ダレンは警戒態勢を崩さずにいつでも腰の剣を引き抜ける心構えをしつつ、男に質問を飛ばした。
 
「おいお前、目的はなんだ? 使者か? それともそれ以外か? 答えてもらうぜ」
「…………」
 
 ダレンの質問に男は答えない。それどころか、男は真顔でダレンのことを瞳に捉えて離そうとしていなかった。
 
 そんな男の態度を見て、ダレンは言いようのない悪寒に襲われていた。
 物言わず動じていない男の不気味な態度に不安を感じたのか?
 それとも男の瞳の中に映る自分の姿を見て畏怖したのか?
 
 いずれにしても男が纏う異様な雰囲気が、ダレンの直感を刺激しているのは間違いなかった。
 
「おい、答えろ! 返答が無ければ、容赦はしないぞ!!」
 
 ダレンは剣を抜き、威嚇の意味を込めて男に剣を向けた。
 しかし男は剣を向けられても、変わらず動じる様子はなかった。
 
 ……少しの時間、二人の間に沈黙が流れる。
 そして先にその沈黙を破ったのは、意外なことに男の方だった。
 
「……ふふふ、ははははははは!!」
 
 突然男は笑い出した。男のこの突然の行動はダレンも予想外だったようで、ダレンは只々呆気ただただあっけに取られてしまった。
 しかしそれと同時に、ダレンの直感が感じていた悪寒は更に激しさを増していく。その警報がダレンの思考を無理やりに呼び戻した。
 
「な、何がおかしい!!」
「はははは、いやなに、その様に震えた剣先を向けられても全く説得力がなくてな。つい笑ってしまったわ!」
「なんだと……?」
 
 男に言われ、ダレンは自分が抜いた剣を見た。
 その時初めて、ダレンは剣を握る自分の腕が小刻みに震えていたことに気付いた。
 
「な、何故……!?」
 
 よく見れば、腕だけではなく体全体が震えていた。しかも無意識のうちにであった。
 その事実にダレンは混乱していた。直感型で感覚が鋭いダレンだが、このように体が震えるほどの反応をすることなんて今までになかった。
 止まる気配なく激しさを増す悪寒と、無意識に震える体。初めて感じる感覚がダレンの思考能力を阻害する。
 
 そんなダレンの状況を知ってか知らずか、男は先程のダレンの質問に答えた。
 
「そう言えばお前はワシの目的を知りたがっていたな? 元々お前達に教えてやるつもりだったから答えてやろう」
 
 男はそう言うとダレンを指さした。
 
「――ガハッ!?」
 
 次の瞬間、ダレンは激しい痛みに襲われその場に膝をついて崩れ落ちた。
 
「ゲホォ――、な、なにが……!?」
 
 何が起きたのか、何をされたのか、あまりにも突然の事で分からなかった。
 男との距離は十分にあった。男の動作の隅々まで目を凝らして見ていた。男は指を向けてきた以外で何かをした様子はなかった。
 ……だが、ダレンは確かに攻撃を受けた。その事実を証明するかのように、痛みは腹部を中心に強さを増し、地面には赤いシミが広がっていくのが目に入った。
 この時ダレンはようやく、腹部を攻撃され重傷を負ったことをハッキリと認識した。
 
「ワシの目的はただ一つ。神の威光に逆らう者どもへの断罪だ! そして神の威光に逆らえばどうなるか、それをお前達に見せに来た。ワシを出迎えてくれたお前には、特等席でそれを見せてやろう!」
 
 男はそう言うと両手を高く天に掲げる。そして男を中心に巨大な魔法陣が出現した。
 膨大な魔力が男の掲げた手の上に次々集まり、次第に巨大な塊へと変化していく。
 
 その様を見ていたダレンは持ち前の直感で感じた。アレはマズイと……。
 出現した魔法陣は、ダレンが今まで見たことが無いほど巨大で幾何学的な複雑さをしたものだった。そして集められていく身の毛もよだつ程の膨大な魔力。
 素人目で見ても、男が放とうとしている魔術が規格外であるのは疑いようがなかった。しかしダレンの直感は、目の前の魔術が「それ以上の危険なもの」であると告げていた。
 
 男の視線の先を追うと、そこには部隊を引き連れてダレンの方に駆けて向かってくるローソンの姿があった。
 
「や、やめ……ろ……。逃げろ……、ローソンッ!!」
 
 ダレンはこの先に起こるであろう事態を、何とかしようとした。
 しかし腹部に負った傷は重傷で、あまりの痛みにダレンはその場から動くことが出来なかった。そして辛うじて絞り出した声も、ローソン達の駆けてくる大きな足音にかき消され届くことはなかった。
 
「これが、神の力だッ!」
 
 男が両手を振り下ろすと、巨大な魔力の塊は前方に向かって直進し始めた。
 人の歩く速さだったものが次第に馬並みになり、馬並みだったものが弓矢以上の速度に達して更に加速する。その勢いは衰えを知らず、むしろどんどんと加速度を上昇させていた。
 巨大な魔力の塊は回避行動を取っていたローソン達を素通りし、無尽蔵の推進力を維持したまま城門前に整列していたムーア王国軍中央部隊の陣地を削り取り、城門に直撃して爆散した。
 
 ドゴオォォォォォォォォォォォォォォンンンッ!!!!!!
 
 耳を突き破るような轟音が大地と空気を激しく揺らし、遅れて発生した超高温の爆風が周囲の全てを焼き尽くし焼失させていく。
 その無差別で容赦のない破壊力の前では、巨大で頑強な城壁でさえも跡形を残すことは出来ず、爆風の範囲内の地形は綺麗にくぼんだ円形の焦土と変わり果てた。
 
「さあ、道は開けた! け、我が信徒達よ!! 神の威光に逆らう者どもに神罰を下すのだ!!!」
 
 男の号令を合図に、サピエル法国軍は焼失した城門に向かって突撃を開始した。
 
 
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