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作者: 山のタル
残酷な描写あり
61.それぞれの日々・クワトル&ティンク編2
「くやしいぃぃぃーー!!」
 
 ハンター組合・組合長の部屋で地団駄を踏み、頬をムスッと膨らませ、ティナは機嫌の悪さをアピールしていた。
 部屋には、ティナを含めた5人組のハンターパーティー『ティラミス』と、クワトルとティンク2人のハンターパーティー『ドラゴンテール』の計7人が集まっていた。
 
「だから言ったろ~、勝てないって」
「……ティナは現実をみるべき」
「……少しは慰めてくれてもいいじゃない……。前から思ってたけど、二人とも姉の私に厳しすぎない!? もっとさぁ、姉に対して敬いとか無いの?」
 
 辛辣なコメントを浴びせる二人の少女、“ラミア”と“スイ”にそう抗議したティナだったが、
 
「「無い」」
「ぐはぁッ!」
 
 盛大に返り討ちにされた。
 
「そもそも私達三つ子だろ? 姉とか妹とか無いに等しいじゃん」
「うっ……!」
「……便宜状ティナが長女だけど、正直言ってティナに姉の威厳なんて微塵も感じない。……三女がお似合い」
「ううっ……!」
「むしろ、いっつも冷静なスイの方が長女感あるよな~」
「……それを言うなら、器が大きいラミアが長女に相応しい」
「いやいや、スイが――」
「……いいえ、ラミアが――」
「私を置いて話を進めないでよぉぉー!」
 
 とうとうティナに泣きが入ってしまった。
 
「でも、ティナちゃんのあの攻撃すごく良かったよ! 一対一じゃなかったら、危なかったもん!」
 
 そんなティナに助け船を出したのは、意外にもティンクだった。
 
「ティンク……! ……って、それをあっさり返したティンクに言われても、ちっとも嬉しくないわよ!」
 
 しかしそれは、ティナを再びムスッとさせるだけだった。
 
「まあまあ、みんな落ち着いて。お母さんもティンクちゃんと同意見で、ティナちゃんの技はすごく良かったと思うわ」
「お母さん……!」
「ムゥの言う通りだ。あの技には圧倒的な制圧力がある。相手が一人だろうと複数だろうと、存分にその威力を発揮するのは間違いない。
 ……しかしそれは、護ってくれる仲間がいればの話だ。そうだろ?」
「うっ……、はい、そうです。お父さん……」
 
 ティナの父親、“タイラー”の言う通りである。
 ティナの技は手数の多さを利用した圧倒的制圧力を誇る反面、攻撃中は魔術のコントロールに集中しなくてはならず動けないというデメリットがあった。
 
 今まで散々ティンク相手に辛酸を嘗めさせられ続けたティナはその弱点を理解しつつも、反撃の隙さえ与えさせないほどの波状攻撃を繰り出せば、弱点をカバーしつつティンクを追い詰められると思っていた。
 しかし現実は、ティンクに一目でその弱点を見破られ、一瞬で発動させた上級攻撃魔術で防御され、あまつさえ自分の技を利用した見事なカウンターを決められてしまった。それはティンクとの実力差を実感するのに十分なほどの完璧な敗北だった。
 勝手にティンクのことをライバル視しているティナにとって、その事実は到底受け入れることが出来ないが頭では理解していた。感情と理性が自分の中でぶつかり合い、一向に勝負がつかない平行線の状態でティナできたのは、“悔しがること”だけだった。
 
「それにしても遅いですね、組合長」
 
 これ以上はティナのダメージが増えるだけだと、状況を察したクワトルが率先して話題をすり替える。
 
 そもそも闘技場にいたはずのクワトル達が、何故ハンター組合・組合長の部屋にいるのかと言うと、ティンクとティナの勝負のあと、急いだ様子で駆けつけた組合長から「話があるから俺の部屋に来てくれ!」と言われたからだ。
 だが、当の組合長はまだ用事があるらしく、部屋で待っているように言われて今に至る。
 
「慌てた様子でしたし、何かあったのでしょうか?」
「……勝手に勝負を始めて、他のハンター達の練習を邪魔したティナの尻拭いに奔走しているに一票」
「なるほど! じゃあ話ってのは、ティナへのお説教だな!」
「なんでよ! ……いやぁだぁぁ~」
 
 突っ込んでみたものの本当にそうなりそうな気がし、その様を想像して再び泣きが入るティナ。
 そして丁度そのタイミングで、今話題になっていた人物が扉を開けて戻ってきた。
 
「すまん、待たせたな!」
「ヒィッ!?」
 
 組合長を目にして、ティナが小さな悲鳴を漏らす。
 ハンター組合・組合長の名前は“ラセツ”。身長3メートルを越える圧倒的体格と、山のように盛り上がり全身を隙間無く重装甲のようにコーティングする鍛え上げられた筋肉を持つ、巨人族の男だ。それらが噛み合わさった風貌は、まさに『立ちはだかる威圧感』と表現する以外にない。
 
 ラセツはクワトル達の横をどかどかと通り過ぎ、自分の仕事机の椅子に腰かける。
 彼の仕事机と椅子は、彼の体格に合わせた通常の倍はある巨大な特注品なのだが、彼が座った途端、机の方が彼に座っているように見えるという摩訶不思議な錯覚が引き起こされる。
 彼は前のめりになって机の上で腕を組むと、クワトル達7人に視線を向けて、全員が揃っているのを確認する。
 
 いつもは見慣れているのでなんとも思わないが、今から彼に怒られるかもしれないと思い込んでるティナにとってその風貌と動作は凶悪以外の何者でもなく、ティナの精神年齢を実年齢の16歳から蹴落とし、幼くさせるなど造作もなかった。
 
「うっ……ううっ……」
 
 追い詰められたティナの涙腺は、既に決壊寸前だった。
 
「早速だが本題に入ろう。まず、お前達を呼び出した理由だか――」
「はいはい! 勝手に勝負を仕掛けたティナにキツい説教!」
「……体罰&奉仕活動増し増しで」
「うぇえええん、ごめんなさぁぁいいいい!!!」
 
 
 
「ううっ……ひぐっ……」
 
 ムゥに抱きつき顔を埋め、すすり泣くティナ。
 
「ごめんってティナ」
「……ちょっと悪乗りしすぎたわ」
「ほらティナちゃん、二人も反省してるからそろそろ機嫌を直してね~」
 
 それを、ムゥとラミアとスイの三人であやしていた。
 
「落ち着いたら説教する気は無いとティナに伝えてくれ。で、……話を戻すが、お前達に頼みたい依頼がある」
「……それは、“直接指名依頼”ってことでいいのか、ラセツ?」
「そうだ」
 
 直接指名依頼とは、依頼者がハンターを指名して出した依頼ではなく、ハンター組合がハンターを直接指名して出す特殊依頼である。
 そして直接指名依頼が出される時は、緊急に解決すべき案件が発生した場合に限られている。その為、依頼は確実に成功させなくてはいけないので、指名されるのは実力のあるAランク以上のハンターのみである。
 今この場にいる7人は全員がAランク以上で、その中でも実力が折り紙付きのハンター達だ。
 はっきり言って過剰戦力なのだが、ラセツが7人全員に依頼すると言っているということは、今回の依頼はそれだけの戦力が必要になる可能性があるということだ。
 それを理解したタイラーは表情を険しくする。
 
「それほど難しい依頼なんだな……?」
「……そうだ」
「……分かった。引き受けよう」
「ありがとう、タイラー。クワトルとティンクはどうだ?」
「勿論、引き受けます。戦力が多いに越したことはないのでしょう?」
「ティンクもいいよー!」
「ありがとう二人とも。……それじゃあ早速、依頼内容を伝える。
 お前達には、ディヴィデ大山脈を住処にしているワイバーンの調査をしてきてもらいたい!」
 
 
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