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作者: 山のタル
残酷な描写あり
31.新たな来訪者3
「それでじゃセレスティアよ、いつも通り場所を借りるぞ。せっかく来たんじゃしティンクがどれほど強くなったか確かめたいからのぅ」
「え、ええ、いいわよ。……付いてきて」
 
 私の突然の叫びをスルーして、スペチオさんは私にそんなことを訊ねてきた。このやり取りはいつもの事なので、私もいつものように簡単に許可を出しスペチオさんを案内する。
 
 それにしてもミューダめ、一体どういうつもりよ!? スペチオさんにこんな手紙なんか出したら直ぐに飛んで来るに決まってるじゃない!? それが解っててどうしてこの場に居ないのよ!
 ……いや、違う。ミューダは解ってるからこそ私に丸投げして逃げたんだ!
 今思えば、あの引き籠りがいきなり用事も告げずに出かけるなんて、何かおかしいと思っていたのよ!
 ……帰って来たら必要がありそうねぇ。
 ――フフ、ウフフフフ!!!
 
 私はミューダへの報復を考えながら、アイン達やスペチオさんを引き連れて食堂を出る。食堂を出て廊下を左に進むと、その先の曲がり角にある扉を開ける。
 扉の先は部屋ではなく、下に伸びる階段があった。私達はその階段を下って地下1階に降りると、そのまま一本道の廊下を進み、その突き当りにある階段でさらに下に降りていく。二つ目の階段は一つ目よりも長く、壁にある灯りに照らされても終わりが見えないほどだった。
 しばらくひたすらに階段を下ったところでようやく終わりに辿り着いた。そこには大きく重厚な造りをした扉が目の前に立ち塞がっていた。
 高さが3メートルを越える大きな扉には、幾何学模様で複雑な図形の魔法陣がいくつも描かれており、場所によっては魔法陣同士が重なってそれが新たな模様を作り出していたりするなど、まるで扉そのものが一つの大きなアート作品の様な出で立ちになっている。
 
 私は扉に手を触れて魔力を少し込めると、「開け」と言葉を紡ぐ。
 すると扉に触れている私の手から魔法陣に魔力が流れ、それが光になって扉を走っていく。
 一瞬で魔法陣を駆け抜けた光は扉の外側に到達すると、そのまま消えてしまった。
 
 ――ガチャッ!
 
 それと同時に鍵が外れる音がして、重厚な造りをした扉が『ゴゴゴゴゴゴゴッ――』と大きな音を響かせてひとりでに開いていく。
 
「さあ、入って」
 
 そう言って私が扉を抜けると、ティンク、スペチオさん、アイン、モランが、私の後に続くように部屋に足を踏み入れた。
 あ、因みにクワトルだけは「夕食を用意しておきます」と言って厨房に残っている。
 
 扉の先には広大な空間が広がっていた。地下室なので上下左右窓の無い壁で囲われてはいるが、壁に組み込んだ魔術のお陰で壁自体が発光しており、部屋全体は適度な光量が保たれている。
 しかし、それよりも特筆したいのはこの部屋の広さだ。部屋の天井は遥か頭上にあり、そして正面と左右の壁もこれまた遥か先の方にあった。
 
「……広い、凄く広いですーー!!」
 
 部屋入ったモランはあまりの広さに驚愕の言葉を発して、部屋全体をキョロキョロと忙しなく見回していた。
 
「そういえばモランにはこの部屋をまだ案内していなかったのよね?」
「はい。この部屋はセレスティア様とミューダ様しか開けることが出来ないので、お二人のどちらかがお時間のある時に案内するつもりでした」
 
 アインの言った通り、この部屋の扉は私かミューダじゃないと開けることができない。
 モランが屋敷に来た時は私はすぐ部屋に籠ったし、ミューダも部屋に籠っていたそうなので、モランの紹介だけで終わらせたとアインは言っていた。
 その後、ミューダは屋敷を出掛けて、私はオリヴィエの元に向かったので、この部屋を案内できる時間は無かったのだそうだ。
 
「セレスティア様! この広い部屋は何ですか!?」
「この部屋は屋敷の地下深くに作った“特別実験室”よ」
「特別、実験室?」
「簡単に説明すると、自室では出来ない大規模な実験をするための専用実験室ね。
 どんな実験でも出来るように、縦横は500メートルもある正方形状の広い空間になっているわ。
 さらに、床、天井、壁には『対魔術相殺術式』と『対物理衝撃吸収術式』がそれぞれ組み込まれていて、実質破壊することは不可能になっているの」
「まあ要するに、この部屋の中ならどれだけ派手に暴れようとも周りに被害が出ることもないし、何かを壊す心配も無いと言うことじゃ!
 ワシとしては、この部屋ほど動き回るのに理想的な空間は存在せんわ!」
 
 そう言って「カッカッカッ!」と笑うスペチオさん。
 まあ、スペチオさんが本気で暴れたら屋敷やその周りが只では済まなくなる。
 だからこそ、スペチオさんが来たときはいつもこの部屋を貸しているのだ。
 
「まあ、そういうこと。
 ――それじゃあ私達は上に戻るから、二人とも気が済むまで存分にやってなさい。
 一応扉はロックしておくけど、ティンクが命じたら開けれるように設定しておくから、終わったら食堂に戻ってきなさい。夕飯を用意しておくから」
「えっ、戻るのですか? セレスティア様?」
「別にここで居ても良いけど、オススメはしないわよ? 二人の戦いに巻き込まれてどうなっても、私は知らないからね?」
 
 私の言葉に何かを思い出したようにモランはビクッと一瞬体を震わせた。そして「私も、戻ります……」と小さく呟いた。
 
「それじゃあティンク、頑張ってね! スペチオさんをギャフンと言わせなさい!」
 
 私はそう言ってティンクを応援する言葉をかける。そこに個人的感情が混ざったような気がするが、きっと気のせいだろう。
 
「ティンク頑張りなさい!」
「ティンクちゃん、頑張ってね! でも、無理はしないでね!」
 
 アインとモランにもティンクを応援する言葉をかけられて、ティンクは嬉しそうに言葉を返す。
 
「ありがとうセレスティア様、アイン、モランちゃん!」
「…………ワシには何も無いのかのぅ?」
 
 ……あると思っていたことに驚いた……。
 
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