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作者: 川崎俊介
気に入らない強者
 東京湾に面した埠頭は、案外人気がなかった。

 まだテレプシコラーの【世界蹂躙】から四年。

 テレプシコラーは軍事施設やクラウドサーバーだけでなく、流通の拠点も徹底的に潰していった。まだ東京港も復興が間に合っていないのだ。

 かつてこの地にあった巨大クレーターを埋め立てただけでも、よくやったと言えるだろう。

「さて、アルハスラ。適当に海を割ってくれ。海底に降りて俺が苗木を植える」

「はいはい」

 アルハスラが魔力を練り始めたその時、突如として銃声が鳴り響いた。

「ホワイトリスト入りは私が買った権利だ! 返せ! 約束が違う!」

「黙れ! 抜け駆けは許さんぞ!」

「自分だけ生き残るつもりか!」

 そんな怒号が、近くの倉庫の中から聞こえてくる。

「何かもめてるな」

「関わらないほうが良いって。さっさと植樹しよ」

「いや、何かおかしい。アルハスラ、水の結界を!」

「え? りょうかい」

 アルハスラが水をドーム状に展開し、俺たちを覆った。その次の瞬間、倉庫は爆炎に包まれた。

 炎は当然防げる。そして飛んでくる破片も、凄まじい水圧のかかっているアルハスラの水の前では、弾かれる。

 ほんとチートだよな。

「いきなり爆発事故? っていうか、ホワイトリスト絡み?」

「ホワイトリストと聞こえたのが、ウィスパリングフェアリー社絡みだとしたら、面倒なことになっているな」

「どういうこと? 勝手に潰し合う分には構わないじゃん」

「いや、違う」

 俺は周囲を警戒しながら声を潜める。

「ウィスパリングフェアリー社の手の者が、近くにいる!」

 そう気づいた瞬間、銃声が轟いた。

 苗木を入れていた水槽が割れ、中身の水が零れる。

「ほら来た! 逃げるぞ」

「いや、あれくらい問題ないでしょ」

 迫りくる黒ずくめの男たち5人を相手に、アルハスラは余裕の表情を見せる。
「ひれ伏せ」

 男たちは突然、強大な重力に呑まれたかのように、地面にうずくまった。

 敵の体内の水分すらも支配下に置く、【水の大聖女】だからこそなせる業だ。

「尋問する? しないなら頭吹っ飛ばす」

 物騒な物言いだな。だが、こんな性格になってしまったのは8割方俺の所為だ。異世界放浪生活で純朴な少女を連れまわしてしまったことが、申し訳なく思えた。

「尋問する。もっとも、口を割らなければ捨て置いて構わない。殺すなよ?」

「つまんな」

 そう言いつつも、アルハスラは魔法を解いた。

 その瞬間、男たちの頭は爆散した。またしても血しぶきが飛び散る。

「おい、殺すなと言ったろ」

「私じゃないから! こいつらが勝手に吹っ飛んだの!」

 そうなのか。なんかデジャヴを感じるな。

 俺を包丁で刺そうとしてきた男も、そういえば頭が破裂して死んでいたな。

【別天鏡】絡みと、ホワイトリスト絡み。

 敵の狙いこそ違うが、同じ技術で口封じをされた。裏にいるのは、同じ技術提供者というわけか。

 だが今はそんなことはどうでもいい。ウィスパリングフェアリー社が、大規模集団自殺を計画している。さらに、それを免れるための権利を高値で取引している。

 これほど気に入らない事実はない。
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