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作者: 川崎俊介
再びの地球
 それから二年後。

 意図せずして俺は現世に戻ってきていた。もちろん、バツ印付きの入界カードは、未だに首から提げている。

 別に、腐った世を正すためとかじゃない。現世の復興が進んだと聞いたので、久々に快適な暮らしがしてみたいと思ったのだ。

 プライマリーアルファ社の資産(入界カード)を持ち逃げした罪で、俺は世界中のお尋ね者になっていいた。まぁ、別に逃げ切るのでどうでもよいが。

「世界樹の苗木がいくつかあったろ? あれでも売るか?」

 身分を隠して日本の近海に身を潜めていた俺はそう提案する。

「そうしてくれると助かる。この魔法維持してるとそれなりに魔力食うのよね」

 周囲を囲う水の壁を見ながら、アルハスラが言う。

 今は、水魔法で海水を押し退けてできた空洞に身を潜めていた。

 辺りを霧で覆ってもらい、衛星からも探知できないようにしている。

 いくらアルハスラの膨大な魔力があるとはいえ、現世で宿を取れないというのは困る。海底はごつごつしてて眠りにくいしな。あと磯臭い。

「仕方ない。東京に戻るか」

「おっ、トウキョウ! いいね! 大河の故郷じゃん!」

「嫌な思い出しかないがな」

 実家のある故郷であり、かつ両親が自殺し、自分も殺されかけた地。

 もう二度と、戻ることはないと思っていたが。

「来てしまった」

 もはや跡形もない東京タワーと、半分にすり減ったスカイツリーを見上げ、俺は呟く。

 テレプシコラーは人類の生み出したモンスターだが、今の人類も大概だ。

 世界市場は、WOOPsと呼ばれる巨大企業の寡占状態が続いている。

WOOPsとはすなわち、

Whispering Fairy社
Omicron社
Optical Arts社
Primary Alpha社

 の四つだ。

 それぞれ、テレプシコラーによる世界蹂躙からの復興に多大な貢献をし、テレプシコラーのデリート直後の市場にいち早く参入して巨利を得た企業だ。皆、利益のためならどんな汚い手でも使う。テレプシコラーと似たり寄ったりだ。

 俺がバックレたプライマリーアルファ社も、一応WOOPsの一角だ。

「にしても、皆さんスマホに夢中だね」

 確かに。皆歩きスマホをしている。つい4年前にはテレプシコラーに痛い目に遭わされたのに、スマホ中毒からは抜け出せないらしい。またスマホを介して情報や金を盗み取られるかもしれないというのに。

「まぁネットニュースでも見てるんだろ。最近南アで集団自殺事件が起きたらしいしな。しかも92か所で同時多発したそうだ」

「へぇ、そんな偶然、あり得るのかな」

「あり得るわけないだろ。誰かが意図して仕組んだことだ。だから色んな陰謀論がささやかれている」

 大抵は嘘だろうがな。

 と続けようとした瞬間、金属の曲がる鈍い音がした。
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