世界樹の麓
『西方へ向かう冒険者・盗賊、急増中』
そんな見出しが躍る新聞に目を通しながら、俺たちは東方へ向かっていた。海図が偽物だとバレる前に逃げようというのもある。だが本命は、東方にある世界樹ユグドラシルだ。
聖地ルーラオムの聖水同様、樹液を採取することが認められている。どうやら病気・怪我に効く万病薬らしい。環境に作用し、放射能を除去する聖水とは、また違った意味で資産価値を持つわけだ。
「樹液採取の許可は、現地民にしか下りていない。地球企業ですら環境保護のために採取は控えているって聞いたわよ。どうやって樹液を手に入れるの?」
アルハスラは当然の疑問をぶつけてくる。
「今回の狙いは樹液じゃない。世界樹の苗木だ。現世で栽培させて大儲けするんだ」
「なるほどね、地球人に売りつけようってわけね」
「そうだ。なんだかんだその方が手っ取り早いからな」
「でも、難易度は樹液採取どころじゃないわよ?」
「そこに関しては行ってから考えるさ」
馬車を下りると、既に天空が世界樹の枝葉に覆われているのが分かった。恐るべき大きさだ。とても一個の植物とは思えない。
麓の売店では、樹液の瓶詰めも売っているようだったが、俺はそんなものに興味はない。
ずんずんと進み、試しに樹皮でも削りとろうとすると、普通に衛兵に捕まった。
「アヴァロン様、不届き者が!」
そう言って衛兵は、アヴァロンとかいう奴の前に俺を放り捨てた。
「なんだい? 泥棒かい? ただの泥棒ではなさそうだが。ま、世界樹は地球で言う世界遺産みたいなものなんでね? 触らないように頼むよ」
「いや、世界樹の薬効は是非とも広く役立てるべきだ。株分けを許可してほしい」
俺は図々しくもそう口にしていた。なんだか、詐欺師稼業を始めてからどんどん横柄な態度を取れるようになっている気がする。気が大きくなっているのか?
ま、旅の恥はかき捨てだし、いいだろう。
「君が私に勝ったら株分けを許可しよう」
アヴァロンはそんな提案をしてきた。よほど腕に自信があるのだろうか。体格はそんな風に見えないんだがな。
「いいだろう。さっさとあんたをぶちのめして、株分けさせてもらうよ」
俺は誘いに乗ってみることにした。裏がありそうだが、それは試してみれば分かることだ。今心配することではない。
闘技場のような舞台の上に案内され、俺はアヴァロンと向き合った。
「風魔法【風砕波】」
格闘家相手に魔法は卑怯かもしれないが、俺は初手で初級攻撃魔法を放った。
だが。
「なんだいそれは? 扇いでくれたのかい?」
おかしい。人一人くらいは吹っ飛ばせる威力だと、研修で習ったはずなのだが。あのクソ会社のことだから、嘘を教えていたこともあり得る。だが、メリットのない嘘だ。それだけ社員が危険に晒されるんだからな。ということは、アヴァロンの耐久力が、滅茶苦茶に高いということか。
「ぶっ飛べ!」
俺は右ストレートを叩き込むが、当たらない。足払いも、フェイントを織り交ぜた攻撃魔法も、その後のどんな攻撃も、悉く紙一重で避けられてしまった。
「ハァ……ハァ」
さすがに息切れしてきた。どうすれば攻撃が当たる? いや、当たっても、あの様子じゃあ効くとは思えない。
「どうした? その程度かい? 困ったなぁ。私からは君を傷つけられないんだ。そして、この決闘はどちらかが倒れるまで終わらない」
「は? そんなの聞いてないぞ」
「聞いたら受けてくれなかったろう」
アヴァロンは愉快そうに笑った。
こいつ、何が狙いだ? 俺なんかとリタイア不可の決闘までするメリットが分からない。
「時間かかりそうなら、私観光してくるからー」
アルハスラはそんな呑気なことを言って出かけてしまった。全く。人の苦労に関心のない奴だな。しかも、サングラスに帽子まで被って、完全お忍びモードだ。ムカつく。
仕方なく俺は休憩し、策を練ることにした。
銃火器の類も持ってきていないし、打つ手なしだな。
そんな見出しが躍る新聞に目を通しながら、俺たちは東方へ向かっていた。海図が偽物だとバレる前に逃げようというのもある。だが本命は、東方にある世界樹ユグドラシルだ。
聖地ルーラオムの聖水同様、樹液を採取することが認められている。どうやら病気・怪我に効く万病薬らしい。環境に作用し、放射能を除去する聖水とは、また違った意味で資産価値を持つわけだ。
「樹液採取の許可は、現地民にしか下りていない。地球企業ですら環境保護のために採取は控えているって聞いたわよ。どうやって樹液を手に入れるの?」
アルハスラは当然の疑問をぶつけてくる。
「今回の狙いは樹液じゃない。世界樹の苗木だ。現世で栽培させて大儲けするんだ」
「なるほどね、地球人に売りつけようってわけね」
「そうだ。なんだかんだその方が手っ取り早いからな」
「でも、難易度は樹液採取どころじゃないわよ?」
「そこに関しては行ってから考えるさ」
馬車を下りると、既に天空が世界樹の枝葉に覆われているのが分かった。恐るべき大きさだ。とても一個の植物とは思えない。
麓の売店では、樹液の瓶詰めも売っているようだったが、俺はそんなものに興味はない。
ずんずんと進み、試しに樹皮でも削りとろうとすると、普通に衛兵に捕まった。
「アヴァロン様、不届き者が!」
そう言って衛兵は、アヴァロンとかいう奴の前に俺を放り捨てた。
「なんだい? 泥棒かい? ただの泥棒ではなさそうだが。ま、世界樹は地球で言う世界遺産みたいなものなんでね? 触らないように頼むよ」
「いや、世界樹の薬効は是非とも広く役立てるべきだ。株分けを許可してほしい」
俺は図々しくもそう口にしていた。なんだか、詐欺師稼業を始めてからどんどん横柄な態度を取れるようになっている気がする。気が大きくなっているのか?
ま、旅の恥はかき捨てだし、いいだろう。
「君が私に勝ったら株分けを許可しよう」
アヴァロンはそんな提案をしてきた。よほど腕に自信があるのだろうか。体格はそんな風に見えないんだがな。
「いいだろう。さっさとあんたをぶちのめして、株分けさせてもらうよ」
俺は誘いに乗ってみることにした。裏がありそうだが、それは試してみれば分かることだ。今心配することではない。
闘技場のような舞台の上に案内され、俺はアヴァロンと向き合った。
「風魔法【風砕波】」
格闘家相手に魔法は卑怯かもしれないが、俺は初手で初級攻撃魔法を放った。
だが。
「なんだいそれは? 扇いでくれたのかい?」
おかしい。人一人くらいは吹っ飛ばせる威力だと、研修で習ったはずなのだが。あのクソ会社のことだから、嘘を教えていたこともあり得る。だが、メリットのない嘘だ。それだけ社員が危険に晒されるんだからな。ということは、アヴァロンの耐久力が、滅茶苦茶に高いということか。
「ぶっ飛べ!」
俺は右ストレートを叩き込むが、当たらない。足払いも、フェイントを織り交ぜた攻撃魔法も、その後のどんな攻撃も、悉く紙一重で避けられてしまった。
「ハァ……ハァ」
さすがに息切れしてきた。どうすれば攻撃が当たる? いや、当たっても、あの様子じゃあ効くとは思えない。
「どうした? その程度かい? 困ったなぁ。私からは君を傷つけられないんだ。そして、この決闘はどちらかが倒れるまで終わらない」
「は? そんなの聞いてないぞ」
「聞いたら受けてくれなかったろう」
アヴァロンは愉快そうに笑った。
こいつ、何が狙いだ? 俺なんかとリタイア不可の決闘までするメリットが分からない。
「時間かかりそうなら、私観光してくるからー」
アルハスラはそんな呑気なことを言って出かけてしまった。全く。人の苦労に関心のない奴だな。しかも、サングラスに帽子まで被って、完全お忍びモードだ。ムカつく。
仕方なく俺は休憩し、策を練ることにした。
銃火器の類も持ってきていないし、打つ手なしだな。