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作者: 川崎俊介
詐欺商材
「聖地シグニフィカティウムに向かう海図?」

 一週間後。俺が持ってきた羊皮紙を見て、アルハスラは怪訝そうな顔をした。
「そんな都市伝説、今さら信じる奴誰もいないわよ?」

「え、宝の地図みたいなもんじゃないのか?」

「詐欺師がそんな与太話に引っ掛かってどうするのよ! おとぎ話にもならない話よ」

 俺が嬉々として鉄貨60枚で買い取った海図は、無知な地球人向けの詐欺商材だった。西の果てにある聖地シグニフィカティウムには、来るべき聖戦に備えて数多くの資産が眠っていると聞かされた。それで買ってみたのだが、普通に嘘だったようだ。

「っていうか俺、もう立派な詐欺師なのか?」

「そうでしょ、あのファルグスとかいうジジィに唆されて、盗賊団騙したんだから。立派な犯罪者よ」

 まぁそうなるか。とはいえ、旅の恥はかき捨てというし、異世界で犯罪者扱いされるくらい大したことではないだろう。殺人を犯したわけでもないしな。

「それより稼げる話を探したいわね。私ももうルーラオムには戻れないし。生活費を確保しないと」

「そうだな。じゃあこれを別の地球人に売って来るよ」

「働くという選択肢はないの?」

「組織で働くのはもうトラウマなんだ。勘弁してくれ」

 アルハスラは呆れたようにため息をついたが、仕方がないだろう。また上司とそりが合わなかったら嫌だしな。俺は街へと繰り出した。

 すると、港の方でなにかあったらしく、皆が口々に騒ぎ立てていた。

「ヒュドラの頭が水揚げされたってさ」

「ヒュドラって、伝説のドラゴンだろ?」

「シグニフィカティウムに住んでいるっていう?」

 シグニフィカティウムというワードに反応した俺は、噂の詳細を知るため新聞を買った。

【巨大獣の頭骨発見。9つの頭を持つ竜、ヒュドラのものと思われる】

 そんな見出しが記載されていた。なんでも、貨物船に衝突した謎の物体を引き上げてみたら、竜骨だったらしい。同じものが9つ出てきたので、ヒュドラと判断されたそうだ。

 途端に、俺は自分の持っている海図が貴重なものかのように思えてきた。偽物なんだろうが、本物の可能性に賭けてみるのも悪くはない気がする。

「盗賊の次は海賊かな」

 ふと、そんな言葉が口を突いて出た。無法者どもなら、騙しても心は痛まない。うまいこと利用してやろう。
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