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作者: 万吉8
残酷な描写あり
エルフの村
 冥王との戦闘を終えたアイヴァンはアステリア大陸北部の大森林の奥、妖精郷の入り口とも言えるエルフの村の前にいる。冥王の動きを伝えるためだ。
 
 アステリア王からの『ドワーフ六支族の国々と周辺4ヶ国の連合軍による黒土シュパッツェボードゥン族への侵攻を止めるよう調停せよ』という依頼については、すでに黒土国シュパッツェブルグが滅びてしまったので、その黒土シュパッツェボードゥン族の処遇についての調査をする事にした。その調査をアイヴァンはナージに託し、自身はエルフの村に赴いたのだ。
 
 『ホホホ。妖精郷に赴いて、妖精王サンと戦ってみるのも楽しそうですねえ』
 
 アイヴァンは冥王が言い放った言葉を思い出す。ハーフエルフのアイヴァンにエルフの村に良い思い出は無い。しかし、冥王が来るとなると話は別だ。エルフたちに思うところはあるが、死んでほしいとは思わない。また、あり得ないとは思うが妖精王ニヴィアンが冥王に討ち取られるという事態は避けたかった。
 
「貴様、このエルフの村に何の………、アイヴァン!」
 
「お久しぶりです。故あって参りました。長老にお取り次ぎを」
 
 見張りをしているエルフの一人の誰何にアイヴァンは取り次ぎを願い出る。
 
「………。そうか。しばし待つがいい」
 
 そう言ってそのエルフは村の中に走って行った。
 
 
 待たされている間にアイヴァンは入り口から村の様子を見る。多くは変わっていないが、以前よりも騒がしくなったように感じる。あちこちで煙が上がっており、燻製を作っていることがわかる。森に食料を探しに行っている者が多いのか、村に人気が少ない。残っている者は働いているか、弓や魔法の訓練をしている。エルフはその生の長さからのんびりした性格の者が多いが、そのような雰囲気はない。忙しない空気さえ感じる。
 
「何か異変でも……?」
 
 アイヴァンは残った見張りの一人に尋ねる。ゴンドアド大陸ではドワーフの領域で戦いがあったばかりだ。このエルフの村でも何かが起こるのではないか……。そんな想像をアイヴァンはしてしまう。
 
「ゴンドアドのドワーフたちの戦いが終わった後、戦場となった地で二種類の大きな力が感じられた。一つは闇、もう一つは光に属する力。我らは何らかの凶兆であることを危惧し、こうして備えている」
 
「それは……!」
 
「やはり、知っていたか。お前から微かに感じられる瘴気……。まさか、冥王か!」
 
「はい。黒土国の戦場跡で冥王と戦い、仲間の一人は……」
 
 アイヴァンが『時の狭間に送られてしまった』と言いかけた時、先程、村の中に走って行ったエルフともう一人のエルフが姿を現す。
 
ーーまさか、長老ティリオン? この方がわざわざ出向かれるとは……。
 
 齢2000歳を優に超え、実力、声望を備えたエルフで、妖精王ニヴィアンの言葉は彼を介して伝えられる。
 
 アイヴァンは跪き、ティリオンの言葉を待つ。
 
「“泉の貴婦人“妖精王ニヴィアンの名において、エルミアの子アイヴァンに命ずる。『湖畔の城ラコス・カスタルムに赴き、汝の知ることを奏上せよ』」
 
ーーな……。
 
 アイヴァンは固まる。目の前の長老ティリオンですら妖精王に拝謁を許されたのは数えるほどしかないというのに、齢200を超えた程度のハーフエルフである自分が簡単に許されるとは思っていなかったからである。
 
 ◇◆◇
 その頃ーー
 
ーー畜生! どうなってやがる!
 
 アイヴァンから黒土シュパッツェボードゥン族のドワーフたちの処遇についての調査を託されたナージは、あまりのことに言葉が出なかった。
 
ーー奴隷として連れ去られたドワーフ全員が奇病に罹って消えただと? そんなバカな話があるか!
 
 しかし、六支族と周辺四カ国のどこにも黒土シュパッツェボードゥン族のドワーフたちの姿は一切なかったのであった……。
故郷に危機を知らせに行くというエピソードでは、「主人公たちの話を聞いてもらえない」という事が起こります。

主人公とその仲間たち以外がバカということがなかったら……なんて事を考えながら書いてみました。

次回も読んで頂ければ嬉しいです!
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